ウロ『ぱわーおぶすまいる。』4巻 進級する虎道環

 

 

ぱわーおぶすまいる。

 

作者:ウロ

掲載誌:『まんがタイムきららキャラット』(芳文社)2011年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

ためし読み/以前の記事→1巻/2巻/3巻

 

 

 

ゆるゆるだけど、たしかな時の流れを感じるのがきらら系コミックで、

基本的に「進級」とゆうイベントを無視しない。

たとえば『けいおん!』みたく、「クラス替え」により物語の鮮度をたもとうとする。

 

しかし作者ウロはあえて手品をもちい、シャッフル効果をOFFに。

代わり映えしない面子に毒づく「環」のツンデレ効果はMAX!

 

 

 

 

『ぱわーおぶすまいる。』は、「きらら」らしい百合成分高めのハーレムラブコメ。

たしかに「宗馬」はモテすぎだし、殺意をおぼえもするが、

男女関係がテーマじゃないので許容できる。

読者としては女子を愛でるのにいそがしく、それどころじゃない。

 

だが4巻は大々的にセックスが導入される。

雨宿りする「まゆ」の、下着の透けたブラウス。

 

 

 

 

鍵をなくしたので隣の宗馬の家で着がえる。

いろいろ段階すっ飛ばし、レイプ寸前のレアカードを引く。

シャッフルしなくてもバランス崩壊。

 

 

 

 

「うつくしすぎる脇役」の環が、本作の看板。

いかにも絵になるヒロイン風にみせかけ、実は男ぎらいで百合趣味で、

あくまで引き立て役だったのに、こちらにも変化が。

 

 

 

 

水着回の、チラチラ視線を交わしてからのツンデレ攻撃。

「友情・努力・勝利」が週刊少年ジャンプなら、「女子・女子・女子」がきららだが、

そんな掲載誌のフィロソフィーに見直しをせまる勢い。

 

 

 

 

ウォータースライダーでの抱きつき。

男ぎらいの属性を脱ぎすて、裸の自分をみせている。

まっさかさまに堕ちてゆく。

 

 

 

 

ついに本気をだしたバランスブレイカー。

プールサイドで焼きそばを食べてたら、「庶民姫」なる新たな愛称が。

語呂がいいし、ギャップ萌えをみごとに三文字であらわしている。

本作は日本語の語彙を増強するのに貢献した。

 

虎道環……彼女がそこにいるだけで、文化全体までアップデート。






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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: きらら系コミック  萌え4コマ 

ユエミチタカ『超日常の少女群』

『げきおこシュリケン』(2013年10月)

 

 

ユエミチタカ作品集 超日常の少女群

 

作者:ユエミチタカ

発行:イースト・プレス 2015年

[ためし読みはこちら

 

 

 

そのイライラマークは、ストレスがたまると皮膚にでる。

吹き出物みたいに。

思春期女子の悩みの種で、出れば出るほどますますイラつく。

 

『超日常の少女群』は、個人誌で発表したものを編んだ作品集であり、

コミティア的な「わかる人にわかりゃいい」素振りを感じなくもないが、

冒頭の『げきおこシュリケン』は、漫画のクリシェを逆手にとっててキャッチー。

 

 

 

 

「ミナズミ」が帰宅。

ためこんだ悪感情で自家中毒をおこし、ハリネズミみたいに。

妹を無視して自室にこもる。

 

 

 

 

でも夕飯食べて、ひと風呂浴びたらスッキリ。

女の子のメカニズムがすこしわかった気になる短篇だ。

 

 

 

 

「思春期女子のめんどくささ」をゲーム風に誇張した作品として、

『げきおこシュリケン』は、関谷あさみ『千と万』を髣髴させる。

 

 

 

 

ただ短篇ならではの美点として、悩みなんかなさそうな気のいい妹が、

実はイライラマークが「内側に出るタイプ」だと教えるオチが愉快。

 

わかったつもりになっちゃいけない。

女の子はどんな爆弾を抱えてるか知れたものじゃない。

 

 

『メシアローン』(2014年2月)

 

 

「便所飯」に最適化した食生活をおくるため、

ウイダーinゼリーにこだわる女子の昼休みとか。

 

 

『青春レコンキスタ』(描き下ろし)

 

 

「セイシュン」とゆうお宝をもとめ、遺跡の「ガッコー」を探索する話とか。

 

登場人物が飛んだり跳ねたりしないけど、さりげなく読者を非日常へいざなう。

 

 

『逆ギレシュリケン』(2014年11月)

 

 

女子とゆう華やかなアイコンがならぶタイムラインを追ってたら、

退屈な日常がいつのまに炎上してた。

 

ユエミチタカ、気になる作家だ。






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小説8 「バルバロッサ作戦」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


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 明くる2041年6月。

 陸奥国に聳える中世以来の政治権力の象徴「クレムリン」の廊下を、十七歳のヤーコフ・スターリンが闊歩する。軍服の襟章の黒いパイピングは、彼が政治委員なのを示す。

 書記長の執務室から激しい物音が響く。「姉さん、またやってるな」とヤーコフはほくそ笑んだ。

「ヤーシャ、いいところへ来たわね」

 グレーの軍服を着たユリアが大量の汗を流している。我が姉ながら凛々しい軍装だ。手にした光の鞭がバチバチと火花を散らす。

「それは新しく開発された……」

「『T-34』よ。使い勝手はイマイチだけど、アイゼンの【パンツァー】より遥かに優秀なの。実戦で試せなくて残念だわ。どう、振ってみる?」

「ええ、またの機会にぜひ」

 破壊されつくした部屋を見渡しつつヤーコフは答えた。

 ユリアは四年前に〈マネージャー〉に就任。下水道の整備も不十分な辺境のサスーリカに、強引にガイスト技術を導入した。農業の荒廃などの代償を払ったにせよ、純国産の【パンツァー】の生産まで漕ぎつけ、喜びもひとしお。

 ユリアが目を細める。「ところでヤーシャ、なにか用事があるのではなくて?」

「はい、トゥハチェフスキー元帥が面会を求めています」

 姉の眉間に皺がよる。犬猿の仲なのだ。苛立だしげに顎をしゃくり、元帥の入室を促す。

「同志スターリン」トゥハチェフスキーが堅苦しく挨拶。「御多忙のなか、時間を割いていただいたことを小官は……」

「手短にお願いするわ。弟と旅行の打ち合わせをしたいの」

「本日報告に参上したのは、国境でのアイゼンの動静についてです」

「またその話!?」ユリアは声を荒げる。「アイゼンの子猫ちゃんが深手を負うのを、あたしはこの目で見たの。それがなくても、二正面作戦を始めるほどあのコもバカじゃないでしょ」

「御説はごもっとも。しかし現在赤軍の配置はひどく分散しており、いざとゆうとき十分な作戦行動を取れません」

「〈トレーダー〉はありもしない危機を煽り、権力を拡充したがる。その手には乗らないわ。いまは政治と経済の季節なの」

「発言を撤回していただきたい。小官の軍歴のどこにも、利己主義的行動などありませぬ」

「それ以上の口答えは反革命罪とみなすわ。ヤーシャ、元帥はお帰りになりたいそうよ」

 美形の姉弟は、彼らにしか分からない微かな目くばせを交わした。




 ヤーコフは、憤慨する国家的英雄を取り成しながら階段を下りる。

「わざわざ御足労お掛けしたのに済みません。姉は強情な人なので」

「ダー!」トゥハチェフスキーは憤懣やるかたない。「彼女は軍事を知らない。サスーリカ存亡の危機だと、同志からも伝えてくれないか」

「努力します。ところで元帥、いいウォッカが入ったんです。気分直しに一杯いかが?」

 酒の誘いを断るサスーリカ人はいない。「ハラショー!」

 上機嫌のトゥハチェフスキーが通された部屋は殺風景で、飲食物の類はない。高級軍人となって鈍った戦場の勘は、警告を発するのが遅すぎた。

 ヤーコフは顔色を変えず、後頭部に突きつけたヤリギン拳銃を発砲。六十八万人と言われる大粛清の対象者をひとり増やした。

「姉さんは神じゃない。しかし神に最も近い人間がいるとしたら、それはユリア・スターリンだ」

 瞳を紅く光らせ、最高権力者の弟はつぶやく。




 六月二十二日は、サスーリカにとり悪夢だった。なにもかも最悪だった。赤軍がもっとも弱体化した瞬間に、もっとも戦力充実した状態でアイゼン軍は猛攻を仕掛けた。

 フライパンの上のアイスクリームみたいに、サスーリカの軍隊が溶けてゆく。たとえばその日の朝だけで、千二百機の軍用機が失われた。エイダとエーリッヒが操る剣と魔法は、死神が振るう鎌の様に、母なる大地を屍体の山で埋め、大河を血の色で染めた。

「にゃはは、楽勝だぜ!」エイダがスキップする。「サスーリカの民よ、エイダ・ヒトラーが邪悪な体制から解放しに来たぞ!」

 住民が侵攻を歓迎しているのか、その無表情からは分からない。雑草を食べて生きる様な境遇から抜け出せるなら、国旗の色はなんでもいい。願うのは「早く終わってくれ」の一点のみ。

 調子に乗ったエイダが、あたりかまわず火球を発射する。

「おらおら、出てこいスターリン!」

「無駄遣いはよすんだ」慎重居士のエーリッヒが諭す。「スターリンは狡猾な牝狐だ。おそらくまた罠がある」

「そういや兄者は、あのビッチとイチャついてたらしいな。競馬場でデートしたってカナリスから聞いたぞ」

「に、任務の一環だ!」

 頬をつねる妹分の攻撃は【パンツァー】で防げない。

「うふふ」後方で和装の姫君が笑う。「あんなに仲良しさんだと、見てるこっちが照れちゃう」

 首都防空戦での的確な指揮をエーリッヒに評価され、ヒロヒトは予備兵力としてこの「バルバロッサ作戦」に参加した。彼女がアイゼンで第三位のガイスト適性をもつ貴重な戦力なのは、保護者ぶるエイダも否定できない。

「そんなに前へ出るな!」エイダがヒロヒトに叫ぶ。「あたいはまだ、ヒロが従軍するのに納得してないんだ」

「ピロシキ……じゃない、〈トレード〉を生で見るのも留学の目的のひとつですから。それに、ナデシコへ帰る日が迫ってきました。すこしでもエイダちゃんと一緒にいたいんです」

「チクショー、甘え上手なやつめ。そんなこと言われたら断れないだろ!」

 エイダが小突く。少女の身で国家を支えるふたりは深く共感しあい、親友となった。でも重責を担うがゆえ、近いうちに離れ離れになる。じゃれあっているが、本当は泣きたい気分。

 二重反転ローターをはためかせ、攻撃ヘリ「Ka-50ブラックシャーク」が奇襲をかける。間髪いれずエイダは「Ⅲ号」を起動、対戦車ミサイルを防壁で食い止める。魔法でヘリを撃墜。

 さらに稜線に「T-90」戦車の平べったい砲塔を発見し、絶叫とともに突進、瞬く間に四両破壊した。脇目もふらず、そのまま北へ疾走。

「なんて勇ましいんでしょう」ヒロヒトはうっとり。「ついてくだけで精一杯!」

 エーリッヒが耳打ちする。「君に授けたい策があるんだ」

 緒戦の勝利は確実だが、ガイスト技術による〈トレード〉は賭け金の莫大な総力戦。戦略家が全身全霊を尽くしてはじめて、大国サスーリカを屈服させられる。




 ユリアとヤーコフの姉弟は、力を合わせてスーツケースを閉じようとしている。黒海に面したリゾート地のソチへきょう旅立つ予定。

 弟が悲鳴を上げる。「服が多すぎです! ふたりだけの旅行なのに、スーツケース四個なんて」

「でもヤーシャ、あなただって着飾った姉さんを見たいでしょう?」

「それは……そうですけど」

 突然、いかめしい顔立ちのゲオルギー・ジューコフ上級大将が執務室へ飛び込んできた。ユリアお気にいりの猛将だ。

「同志スターリン、アイゼン軍の侵攻がはじまりました!」

 スーツケースが開き、ドレスがベッドに散乱する。

「ひどい誤報ね」ユリアは鼻を鳴らす。「それとも敵の欺瞞工作かしら。報告した人間をスパイとして処分なさい」

「聡明な同志らしくもない! 我が軍のあらゆる情報源が一斉に伝えているのです」

 ユリアはよろけて尻餅をついた。ヤーコフが引き摺ってソファに座らせる。

「ありえない……子猫ちゃんがあたしに歯向かうなんて……そうよ、一部の人間の暴走のはず」

「そんな次元の話ではありません。動員されたのは三個軍集団、およそ百五十個師団と見積もられます。はやく正気に戻ってくだされ!」

 弟に支えられないと、ユリアは背もたれに身を預けることもできない。だらしなく口を開け、天を仰ぐ。頬が濡れている。

「ヤーシャ、旅行はキャンセルだわ……ああ、こんなに待ち焦がれてたのに」




 鳥海山の麓の岩肌から、伏流水が湧き出ている。エイダは両手ですくい喉を潤した。

「兄者は罠があると言ってたが、サスーリカのやつら普通に弱いな。年内に青森を落とせそうだ」

 猪突猛進が身上のエイダだが、休憩がてら相手の立場から考えてみた。勢いづく敵にどう反撃すべきか?

 戦線を分断されたので包囲は不可能。各個撃破するしかない。前衛が突出したところを、危地に誘いこんで叩く。

 そう、いまみたいに。

 夕闇に沈みかけた森のなかで、かすかな閃光が走る。それは【パンツァー】だった。一瞬で間合いを詰めたユリアが光の鞭を振るう。

 必死に剣で受けるエイダ。「スターリン!」

「お初にお目にかかるわ、子猫ちゃん。マンシュタイン君とはもう会ったけど」

「その節は歓迎してくれたらしいな」

「ええ、ステキな時間をすごしたわ。もうちょっとで暗殺できたのに、惜しかったなあ」

「うにゃあああ、殺す!」

 だがⅢ号の斬撃は通じない。信じがたいことに、T-34の性能は攻撃・防禦・機動力すべてに優っていた。振り上げた腕を打たれ、そのたび剣筋が逸れてしまう。

「たわいないわあ」ユリアが余裕の笑みを浮かべる。「お子ちゃまはネンネの時間よ」

 灰色のジャケットはボタンが外され、ふくよかな胸が露わになっていた。

 エイダは劣等感にとらわれる。「うるさい、ビッチ!」

「まづ口の利き方を教えてあげる」

 【シュトック】を絡め取り、丸腰のエイダを容赦なく打ち据えた。

「ぎゃん!」エイダが泣き叫ぶ。

「ふふ、あなたの野望もおしまいね。マンシュタイン君はあたしの部下にする。ベッドの中でも。オトナの女の方が彼にふさわしいもの」

 エイダは果敢に組みつき、ユリアの手の甲に八重歯を突き刺す。「あっ」と怯んだ隙に【シュトック】を拾い逃走。ユリアは手を擦りつつ追う。

 視線の先に、見覚えある人影が。エーリッヒが電光の弓を構えている。対パンツァー兵器の「PaK36」だ。

「兄者、撃てッ!」

 エイダの指示にあわせ光弾がほとばしる。

「きゃあああ!」

 直撃を受け、小柄なユリアが吹き飛ぶ。それでもT-34の防壁は破れない。続けて両手剣のエイダと、サーベルのエーリッヒが挟撃。息のあった動きで一方的に打ちのめす。

 二年にわたる連戦で、ふたりはどんな状況にも対応できる戦術を練り上げた。たとえ強力な新兵器に遭遇しても、恐れず受けて立つ。

 彼らは無敵のコンビだった。




 撤退するユリア・スターリンの視界には、味方の死傷者の群れしか存在しない。生者は彼女に助けを求め、死者は彼女を呪う。

 ナポレオンさえ撃退した母国サスーリカが、小娘ごときに征服されるのか? あたしの代で?

 どうでもいい。勝とうが負けようがどうでもいい。でもあたしは生きないといけない。あたしが死んだらヤーコフはどうなる。同胞から真っ先に報復されるだろう。死ぬより辛い拷問を受け、屈辱的な殺され方をする。あたしたちが同胞にしてきた様に。

 だから生きないといけない。

 ユリアはジャケットを捨て、シャツを引き裂く。下着を脱ぎ、血だまりからすくった液体を下半身になすりつける。木の根を枕にして横たわった。

 追撃するエーリッヒが、その無慚な姿を見つけた。「ジュリア!」

「いや……見ないで……」

「まさか、アイゼン国防軍がこんなことを!?」

「お願い、いますぐ殺して……」

 銀髪の青年は自分のジャケットをユリアに着せた。肩を抱くと震えているのが分かる。騎士道精神を忘れた自軍の兵に絶望した。規律こそがアイゼンのモットーではないか。

「安心しろ」エーリッヒが囁く。「すぐ軍医を呼ぶ。捕虜としても粗末にはしない」

 ブーンとゆうⅢ号の振動音が響いた。先ほど鞭打たれ傷ついたエイダが愕然としている。

「兄者、そいつと何してる!?」

 ユリアは薄笑いを浮かべた。その肌は異様に青白く、血管が透けて見える。吸血鬼の伝説もあながち偏見と言い切れない。

 盗み取ったワルサーPPKを至近距離から全弾発射した。




「兄者のバカバカバカバカバカ!」

 エイダは一万回めの「バカ」をエーリッヒにぶつける。銃撃による被害はないにせよ、大将首をを取り損ねたのは大失態。

「一度自分を殺そうとした女に」エイダの糾弾は止まらない。「また情けを掛けるとか、どんだけお花畑なんだよ! ミリオタ! どスケベ!」

「お前だって判断ミスはあるだろ」

「一緒にすんな! そ、そんなにエッチなことがしたいんなら、あ、あたいだっているじゃんか。胸はないけど……」

 いつも喧嘩ばかりの二人だが、本気で敵意を持ったことはない。むしろエイダは「恋人ごっこ」をできる様になったのが嬉しい。

 『我が闘争』に書いた、彼女の計画の完成が近づいた。東北地方に「生存圏」を獲得し、アイゼンの千年王国を打ち立てる。戦争は終わり、みんなが幸福になる。

 あたいと兄者にもハッピーエンドが訪れる。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コバヤシ少年の背中と腋とお尻

3話

 

 

『乱歩奇譚 Game of Laplace』1話/2話は探偵モノだから、「変装」がウリ。

囮捜査を志願したコバヤシ少年が着替える。

 

 

 

 

衣ずれ、ベルトのバックルの金属音。

白い靴のかわいらしさ。

あまりに細い足に驚嘆。

 

 

 

 

おそらくアニメ史上もっともセクシーな、男の脱衣シーンのひとつだろう。

皮下脂肪のない背中にそっと触れ、肩甲骨のうごきを感じたい。

 

 

 

 

ミイラ取りを取るためミイラになる。

コバヤシ少年の女装は変態趣味でなく、合目的々なもの。

ただ見るものを倒錯へみちびくだけ。

 

 

 

 

1話につづき薬で眠らされた少年。

その瞳はうつくしすぎ、目をつぶってくれないと仕事にならない。

 

目覚めたとき、わざわざ腋をみせるのは意識的か。

どんな匂いが、味がするんだろう。

 

 

 

 

つまらなく、うらぶれたものとして描かれる、囚われの少女たち。

あくまで少年愛の尊さの引き立て役でしかない。

 

 

 

 

4話でも得意のお尻ふりふり。

誘ってるのか。

それとも仔犬の様に無邪気なだけか。

 

わからない。

たしかめたい。

 

 

 

 

『乱歩奇譚 Game of Laplace』は知性でなく、本能にうったえる。

悪魔的で犯罪的なアニメだ。






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テーマ : 乱歩奇譚
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 男の娘 

市川ヒロシ『どんぶり委員長』

 

 

どんぶり委員長

 

作者:市川ヒロシ

掲載サイト:『WEBコミックアクション』(双葉社)2014年-

単行本:アクションコミックス

 

 

 

「委員長」をキライな男子はいない。

どれほど彼女がカタブツで、高慢ちきだとしても。

 

 

 

 

家庭科の時間。

先生が席をはづした隙に、意識低い系男子「吉田」が調理をすすめる。

課題はチキンソテーだったのに、勝手に親子丼にした。

 

委員長とドンブリ、その邂逅の瞬間。

 

 

 

 

下品で、チープで、高カロリーで、労働者むきで……。

これまでの自分と正反対のカルチャーに溺れる委員長。

「つゆだく」だって恥づかしくないもん!

 

 

 

 

市川ヒロシは手料理の著作もあるほどで、食にうるさい作家。

たとえば学食で、定番のナポリタンをいただくとする。

 

 

 

 

委員長にせがまれ、吉田は「ナポリタン丼」をレパートリーにくわえた。

どちらも炭水化物だから、合わないはずない。

チーズマシマシにすると絶品!

 

 

 

 

「体型維持」とゆう乙女の至上命令がたちふさがり、

どんぶり断ちを決意するも、委員長はアレなしで生きられない体となっていた。

 

女は胃袋からつかめ。

 

 

 

 

本作は、各話ごとにレシピの載ったグルメ漫画だが、

思春期の男女が次第に関係をふかめるラブコメでもある。

ふたりは、ご飯と肉汁みたく相性バツグン。

 

料理も、物語も、かざらないのが一番!






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ジャンル : アニメ・コミック

内田静枝編『森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター』

パリ秋冬コレクションのレポート(『ヴォーグ・ニッポン』2005年8月号)

 

 

森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター

 

編者:内田静枝

発行:河出書房新社 2015年

レーベル:らんぷの本

 

 

 

森本美由紀は21歳でイラストレーターとしてデビュー。

アルバイト感覚だったらしい。

 

1980年当時、ファッションイラストはファッショナブルじゃなかった。

「ファッション」とゆう女の子のリアルな夢を、

絵描きのフィルターをとおして見るなんて、まだるっこしい。

 

それでも長沢節直伝の画業が歓迎されたのは、

女たちのイキイキした表情が、共感をあつめたから。

 

 

 

 

森本はブリジット・バルドーの熱烈なファン。

可愛らしさをのこすセクシーさ、女らしさ。

作風への影響をみてとれる。

 

「物語」を感じさせるイラストは映画的。

 

 

『週刊アサヒグラフ』(1994年9月9日号)

 

 

おフランスに憧れる娘なんて、かつて日本には掃いて捨てるほどいた。

森本の血肉になったのは、「セツ・モードセミナー」で学んだこと。

あまりに居心地よくて、プロになってからも入り浸り、

師匠のいれたコーヒーと会話をたのしんだ。

 

「下品な缶ジュースは持ち込まないで下さい」といった張り紙のある、

長沢節の美意識が隅々までゆきとどく空間。

そこは新宿のパリだった。

 

 

 

 

「アートとイラストの違い」は、むつかしくて僕の手にあまる問題だが、

セツ時代の教えに忠実に、モデルをつかっていた森本の仕事は、

狭義の「イラスト」の枠におさまりそうにない。

墨汁の使用も師匠譲り。

 

歌手のNickeyは、2002-13年にクロッキーモデルを頻繁につとめた。

「理想のモデル」と称されて。

森本は女の子が心底好きな人だったんだろう。

でないと11年もつづかない。

 

 

シャネルの香水を描いた作品(『mc Sister』1989年2月号)

 

 

するどい観察眼にもとづく、女の身づくろいの様子。

リアルだが、貧乏臭い生活感はない。

ここにあるのはライフスタイル。

 

 

『groovy book review』表紙(1999年)

 

 

なつかしい。

結構売れたはずの書評集で、立ち読みしたことがあると思う。

中身はまったく記憶にないが、表紙は脳に刻みこまれている。

 

森本は一枚の絵で、本を読む女の子がオシャレだっておしえてくれた。

 

 

ファッションブランド「Spuntino」のための作品

 

 

森本は2007年、故郷の岡山県津山市にアトリエをうつした。

海外からの発注がふえたことが、東京にしがみつく意味を薄れさせ、

帰郷をうながした理由のひとつと言われる。

 

センスの塊みたいな人が、スタイルのない世界に住むのは苦痛だろう。

ヘイト本が平積みされた書店をみれば嘆くだろうし、

女の子のリアルな夢から遠ざかり、

オタクの妄想に寄り添うネット上のイラスト群も、森本にとっては退屈だろう。

2013年10月の、54歳での早すぎる死は、100%不幸な出来事とおもえない。

 

それでもタイムレスでボーダーレスな女子たちはいまも、

「わたしについてきなさい」と後続ランナーを不敵に、そしてやさしく挑発する。






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小説7 「バトル・オブ・ビッグベン」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


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 七月十日の朝、下関基地でエイダとエーリッヒが密着。頬を染めた妹分に指輪をはめる。

 指先から炎を放射する力をもつ「メッサーシュミットBf109」だ。

「兄者」エイダの心臓は張り裂けそう。「チャーチルを逃がしたこと、まだ怒ってるか? あたいのせいで結局〈トレード〉は終わらなかった。あのとき言うことを聞いてれば……」

「お前なりに国を思っての判断だろう」エーリッヒは間近から見返す。「私は最終的にそれに従う。我々の意志がひとつなら、決して負けない」

「思ってるのは国だけじゃないにゃあ」

 エイダは細身をエーリッヒの胸に預ける。ぎこちなく両手が彼女の背にまわされた。軍事以外はからっきしの朴念仁だが、さすがに妹分の好意に気づいてるはずだった。平和が戻ればきっと、自分たちは結ばれるとエイダは信じていた。

 指をのばし暗赤色の魔法のリングをながめる。彼女のほしい指輪とちがうが、それでもうれしい。

 あたいは欲しい物を全部手に入れてきた。不可能を可能に変えてきた。この恋だって、かなえてみせる。




 長野の総統官邸でお留守番のヒロヒトの部屋に、軍刀をさげた東條英機が立ち寄る。

 姫君はベッドで『我が闘争』を読んでいる。「計算ドリルは午後にやる予定です」

「爺の顔を見るたび怯えるのはやめなされ。ところで姫様、爺は今から観戦武官としてビッグベンへ参ります。一緒に行きますか?」

「うーん……今回はやめておきます」

「これは珍しい。いつもなら爺の目を盗んででも出掛けるのに」

「ドリルもたまってますしね」

 ヒロヒトの腰が重いのは、ビッグベンの料理に魅力を感じないから。フィッシュ・アンド・チップスのため海を渡るのは億劫。

 敵は大国だが、エイダとマンシュタインなら楽勝だろう。

「いってらっしゃい。観戦とはいえ、用心するのですよ」

 自分は鬼のいぬ間に、たっぷり羽根をのばすとしよう。




 エイダとエーリッヒは大唐櫃山から関門海峡を一望。エイダの短い金髪が潮風になびく。

 銀髪の青年が囁く。「レディファーストだ」

 エイダが右手を突き出す。

「フォイアー!」

 ジャケットの下のパーカーのフードが揺れる。よく手入れしたネイルから迸る火球が、つぎつぎと護送船団を襲う。

 爆散する船、重油を流出させて沈む船、操艦不能となり迷走する船……。

 海面で救助をもとめる者、重油を飲みながら溺れる者、死体となって漂う者、バラバラの肉片と化した者……。

 十四歳の少女は、自分の強すぎる力がもたらす結果の苦さを噛みしめる。




「スピットファイアを持ってくるワン!」

 ウィンストン・チャーチルが、博多の基地で怒鳴り散らす。被害の報告をうけ激昂、はやくもブルドッグに変貌した。

 背後で女が嘆息。「やれやれ」

 ビッグベンの軍服を着たユリア・スターリンが壁際で腕組みする。彼女がサスーリカの〈マネージャー〉だと知るのはチャーチルだけ。見るからに不審者だが、軍人たちは短気な最高司令官の怒りを恐れ、あえて問い質さない。

「サスーリカは」チャーチルが牙を剥く。「土人が住む後進国だから分からんだろう。我がビッグベン帝国は、海運を保護せねば成り立たんのだ!」

「豊かだからこそ」ユリアが言う。「ちょっとお舟が沈んだくらいでオタオタしてる場合じゃないでしょ。ほっときなさい」




 アイゼンの義兄妹の快進撃は止まらない。次なる目標は沿岸部にある「小倉城」。内部はモンスターが棲息する迷宮で、ガイスト鉱を産出する〔ラビリーント〕と呼ばれる施設だ。

 敵の工業力は約二倍。物資面で干上がらせないかぎり、ビッグベンが和を請うことはない。

 堀の水面から、いくつもの巨大な蛇があらわれる。野面積みの石垣をつたい地上へのぼった。九つの頭をもつ「ヒュドラ」だ。

 エイダの声が震える。「兄者、気をつけろ。あいつは猛毒をもってる。息だけで人を殺す」

「ブリッツ!」

 エーリッヒはためらわず突進。天空を引き裂く雷光がヒュドラに直撃する。海岸一帯が揺れる。断末魔の叫びが轟く。永禄以来の平城が炎上。

 城周辺を走るトラックに「ユンカースJu87シュトゥーカ」をむけた銀髪の青年を、エイダが羽交い締めにする。

「ダメだ!」エイダが言う。「あれは民間人だ。余計な犠牲者を出しちゃいけない」




 長野市街をぶらぶらするヒロヒトは、回転する肉の塊を店頭で焼く、インビスとゆう軽食店をみつけた。

「おひとつくださいな」

 削いだ羊肉と野菜を挟むピタパンを、カウンターで立ち食い。アイゼンだけでも食べ尽くせないほどのグルメがある。〈トレード〉の行方は気になるが、留守番でよかった。

 天気予報の降水確率は0%だったのに、急に暗雲がたちこめ豪雨となる。ヒロヒトはつねに折りたたみ傘を持ち歩くので支障ないが、どうも様子がおかしい。

 通行人がもがき苦しみ、悲鳴をあげる。倒れる者もいる。まるで空から硫酸でも浴びせられた様に。

「わたしは外国人なのですが、御主人は何が起きてるか分かりますか?」

 店主は首を横に振る。そこへ盛大にクラクションを鳴らしてエアカーが到着、ボサボサ頭の少女がインビスに転がり込む。理論物理学者のアリース・アインシュタインだ。

「姫さん」アリースの息が荒い。「こんなところで道草ッスか!」

「アリースさんもデナーケバプ食べます?」

「それどころじゃないッスよ! この雨は敵の【ルフトヴァッフェ】による攻撃ッス。姫さんの力を借りないと激ヤバなんスよ」

 アリースは有無を言わさずヒロヒトを引きずる。黒縁メガネの下の紅い瞳がうつくしいと、和装の姫君は思った。




 制圧した小倉城の指揮所で、エイダは椅子を蹴飛ばし、壁を殴りつける。

「アディ、落ち着け」エーリッヒがたしなめる。

「落ち着いていられるか!」エイダが叫ぶ。「民間人に手を出さないのが〈トレード〉の不文律のはずだ。なのにチャーチルは毒雲で遠隔攻撃をしやがる。しかも一週間連続で!」

「だから頭を冷やして作戦を……」

「あいつは人間じゃない! 卑劣な豚だ!」

 エーリッヒは、妹分の大衆を動かす力や、軍事的センスを評価する。だがときに激しい感情にとらわれるのが不満。

 軍事の専門家である彼は、倫理の門外漢だった。勝とうが負けようが、〈トレーダー〉は人を殺すのだから「悪」に決まってる。善悪の問題に思考時間を割くほどの不経済は他にない。

 長野と電話がつながり、スピーカーからヒロヒトの甲高い声が流れた。

「もしもし。エイダちゃん、聞こえます?」

「ヒロ!」ようやくエイダの怒りが収まる。「大丈夫か、ケガはないか?」

「ええ、ありがとう。エイダちゃんも元気そうでよかった。こちらはアリースさんが【フラック】とゆう防禦魔法を起動しました。わたしが指揮をとります」

「なんだって! 冗談じゃない、ヒロは安全なところに隠れてろ」

「いま長野でガイスト適性が一番高いのがわたしなんです。エイダちゃんは後顧の憂いなく戦ってください」

「おとなしくしないと後でひっぱたくぞ!」

「うふふ、やさしいな。これでも将来ナデシコの大元帥になる身、市民はわたしが守ります。お任せあれ」

 通信が途切れた。

「シャイセ!」

 エイダがテーブルを叩いた衝撃で、機材の山が崩壊する。憤怒の炎で我が身を燃やす独裁者を、部下たちは遠巻きに眺めるのみ。




 博多っ子が、エイダの報復で焼け出され逃げ惑うのを、ユリア・スターリンはホテル最上階のスイートから見下ろす。群衆は落雷を避けようと地下鉄の入口へ殺到。

 数ブロック先で大爆発がおき、ホテルがはげしく揺れる。

「たしかあそこはラム酒の倉庫だったわね」

「姉さん」弟のヤーコフが言う。「われわれも避難しましょう」

「モグラみたいに地下に潜るのは趣味じゃないわ。あなたのことは命に代えても守る。安心なさい」

 ユリアは愛情こめて、よく似た弟の頬をさする。まだ十六歳で戦場を知らず、怯えている。

「このまま博多はアイゼンに占領されるんでしょうか?」

「まさか!」ユリアは高笑い。「ネズミじゃなく、ネコが罠にかかったのよ」




 石灰岩が散らばるカルスト地形の平尾台で、両軍が対峙する。

「タリホー!」

 V字編隊の先頭に立つチャーチルが、〈トレーダー〉のダウディングやバーダーを率いて攻め寄せる。三人の放つ竜巻がエーリッヒを追う。

「アハトゥンク、兄者!」

 俊足のエイダが体当りし、難を逃れた。長機の後方を僚機が掩護する、エーリッヒの編み出した「ロッテ戦術」だ。

 ダウディングとバーダーが装備する「ハリケーン」はBf109の機動力についてゆけず、数分で火だるまとなり戦線離脱。

 エイダとチャーチルの一騎打ちとなる。

「チャーチル」エイダが虎の様に唸る。「お前はあたいの大切なものを傷つけた。絶対許さない」

「猪口才な、ネコ娘! 吾輩についてこれるか?」

 スピットファイアの速度はメッサーシュミットと互角だが、より小回りが利く。追いかけるエイダが岩石に躓いた隙に、チャーチルが背後を取る。

「デブのくせにチョコマカと!」

 エイダは火球を乱射し、敵を遠ざけた。焼け野原となった平尾台で草木が燻る。

 Bf109の活動限界が近づいた。敵の戦略をようやくエイダは悟る。長野への遠隔攻撃は、自分をおびき出しガス欠にするための挑発だった。

 エーリッヒが発煙弾を手に叫ぶ。「退くぞ、アディ!」

 退却戦の不利はあきらかで、共倒れになる確率が高い。

「兄者」エイダが切なげに笑う。「後は頼んだ。『巻き込んで済まない』とヒロに謝ってくれ」

「アディ、まさか」

「あたいはずっと兄者のことが……いや、やめとこ。もし死ななかったら恥づかしいもんな」

「よせ!」

 エイダは仇敵の肥満体へ飛びつき、おのれの体ごと焼き払った。




 大火傷を負ったチャーチルは包帯姿が痛々しいが、アイゼンの撃退に成功し意気軒昂。福岡市動物園の視察に来ている。

 火災で脱走する恐れがあったため、猛獣はみな薬殺された。動物好きのチャーチルは、象の亡骸を見て号泣。

「スターリン、やはり貴様は悪魔だ! あの戦略のせいで、罪なき生き物まで被害が……」

「ひどい偽善ね」ユリアは冷笑。「市民を平気で犠牲にしておいて、よく言うわよ」

 救国の英雄であるチャーチルがいると聞きつけ、博多っ子が続々と集まる。得意の演説がはじまる。

「いま世界は暗黒時代に戻った。邪悪な独裁者を倒さねば、ビッグベン帝国の未来はない!」

 ヤンヤヤンヤの喝采を浴びる。異常に好戦的なチャーチルは、中庸を好む国民から警戒されていたが、いまはじめて熱狂的支持を獲得。

 ユリアはすべて筋書き通りにすすむ喜劇を鑑賞しながら昂奮、弟に頬ずりする。

「見なさい、ヤーコフ。民衆の愚かさを。自分たちを生贄にした男を讃美しているわ」

 人の輪がますます広がってゆく。

「千年後の歴史家は」チャーチルの演説は続く。「我らの時代についてこう語るだろう。『この日々こそが彼らの最高の時だった』と!」

 ユリアは口元をおさえ、身をよじり笑いをこらえる。下着をつけない豊満な胸が露わになり、弟は慌てて目を逸らした。

「なにが千年後よ! 学者の評価を気にして政治が出来るものですか。いまがすべて。自分がすべて。当たり前のことじゃない」

「姉さん」ヤーコフが囁く。「声が大きいです。目立ってますよ」

「そうね。もうこんな国に用はないわ。ヤーシャ、そろそろ帰りましょう。母なるサスーリカへ」

 彫りの深いヤーコフの顔がぱっと輝く。被差別民族である姉弟は、祖国で煮え湯を飲まされたことが幾度もある。でも今は、魂まで凍りそうな冬の寒さでさえ懐かしい。

「ユーリャ姉さん、うれしいです!」

 最愛の弟と抱き合うユリアは幸福感で満たされる。

 生意気なアイゼンの子猫ちゃんが死ねば完璧だったけど、当分立ち上がれないほどの軍事的損耗を与えた。満足すべき戦果でしょ。

 帰ったらヤーコフとふたりきりで、のんびり旅行がしたいわ。ああ、たのしみ!




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

村山渉『それでも僕らはヤってない』

 

 

それでも僕らはヤってない

 

作者:村山渉

掲載誌:『週刊漫画TIMES』(芳文社)2014年-

単行本:芳文社コミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

大手ハウスメーカーに勤める29歳のサラリーマンが、

キャバクラで童貞であることを侮辱されている。

理不尽な状況だ。

 

 

 

 

住宅は、コドモでは売ったり買ったりできないシロモノ。

その周辺でステップをふむ男女をえがく本作は、オトナの恋愛漫画。

 

板倉梓『なぎとのどかの萌える不動産』と似てるかな。

青年誌で描く女流作家らしい発想とも言える。

 

 

 

 

キャバ嬢にdisられていた営業マンのもとへ、

客として偶然、高校時代の憧れのひとが訪れる。

バツイチの出戻り娘となってたが。

 

 

 

 

作者は既婚者で子供もいるらしい。

屈託ない「藤野さん」が、ふとした言葉に反応して見せた暗い表情とか、

繊細な描線にときおりピリッと緊張感がはしる。

 

 

 

 

社長でもある建築デザイナーと、これまた童貞のメガネ男子のカップリングなど、

にぎやかな群像劇としての恋模様をえがく。

 

 

 

 

キャバ嬢の「アヤ」は建築学科でまなぶ苦学生でもある。

自称「重い女」で、不倫の恋へ突っ走る。

 

 

 

 

「家」をめぐる人のつながりから、建築デザイン会社で雇われたアヤ。

居場所をみつけ表情もほころぶ。

 

こんがらがった物語だが、まぶしい笑顔になごまされる。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

佐倉綾音の欲望

 

 

『矢作・佐倉のちょっとお時間よろしいですか』第145回は、

佐倉綾音の「はわわー」な萌えボイスではじまる。

若手声優のわりに露骨な媚びが苦手で、まるで妖怪の断末魔。

 

矢作紗友里がバシッときめ、格の違いをみせつける。

「パイセンまだ全然いけるっすわ。現役ですね」

「あたりまえでしょ。何年『はわわ』やってると思うの」

 

 

 

 

ひさしぶりの「佐倉綾音改造計画」のコーナーでは、

スタッフがあやねるの代わりに七夕の短冊を書いた。

 

「浅野さんのように自分原案のアニメをつくって、主役も花澤さんにお願いできますように」

パイセンが後輩の秘めた欲望を明るみに出す。

 

「あー、花澤さんと会えるんだったらいいですね~」

正解だったらしい。

 

 

 

 

このように業界で話題のアニメ、『それが声優!』第2話である。

浅野真澄信者枠(?)であやねるも出演。

親友の声優活動を熱心に応援する百合キャラで、「らしい」配役だ。

 

 

 

 

2話ではオーディションの内幕をえがく。

新人声優の苦労話が身につまされる。

 

 

 

 

受けても受けても連敗。

自腹で買った原作本で本棚が埋め尽くされる。

落ちた作品なんて見たくもないのに。

 

 

 

 

バイトで食いつなぐ身としては、全巻揃えるのはかなり負担。

でも準備しないわけにゆかない。

 

 

 

 

はじめてレギュラーとして出演したアニメのキャラが、なんと2話で死亡。

出番は今週で最後と告げられる。

別に声優を養うため作品が存在するのではないが、それにしても退場早すぎ。

 

 

 

 

勿論、カネに困らない新人もいる。

『それが声優!』では子役出身の「小花鈴」がそうだし、佐倉綾音もあてはまる。

劇団から声の仕事へすすみ、16歳で『夢喰いメリー』の主役を獲得、

活躍の目安である「Wikipediaの太字」は29作で、実に恵まれたキャリアだ。

 

いまも親と同居してるらしく、「預金通帳を見たことがない」と語っていた。

「はわわ」や「ふぇぇ」が下手なのは無理ない。

だってオタに媚びなくても食ってけるんだもの。

 

 

 

 

そんな無欲なあやねるの内面を、パイセンはさらに深くえぐる。

「好きとは言ってたけど、結局は花澤香菜より人気声優になりたい」との短冊が。

浅野真澄とならび花澤香菜を崇拝するのは悪名……じゃなかった有名なのに。

 

「お、思ったことねーわ!!! 人気声優とか別になりたくないし」

いつになく動揺。

 

いま日本でもっとも影響力ある20代女性は、花澤香菜だろう。

声優とゆう職業が花型となるなかで、特権的地位を手にいれた。

でも入れ替わりの激しい世界だし、実際ざーさんの出演数は落ち着いてきている。

あらたな「覇権声優」をめぐる競争に、あやねるは巻き込まれた。

百合思想を世界にひろめる使命を担って。






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テーマ : それが声優!
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合 

清水茜『はたらく細胞』 ノブヨシ侍『とりきっさ!』 擬人化とは

 

 

細胞擬人化マンガ、清水茜『はたらく細胞』(シリウスKC)のヒロインは、

酸素や二酸化炭素をはこぶのが仕事の「赤血球さん」。

ショートカットにショートパンツで、いかにも働き者にみえる。

すらりとのびた足もすてき。

 

「擬人化もの」の鍵であるキャラデザが成功している。

 

 

 

 

血管の傷口をふさぐ「血小板ちゃん」はロリ軍団としてえがく。

外見に個体差があるあたり藝がこまかい。

 

 

 

 

ただ帽子に名前を書くのは感心しない。

ヴィジュアル部分で文字情報にたよるのは興醒め。

擬人化した意味がないのでは?

 

 

 

 

それでも本作が非凡なのは、カラーページでの赤血球さんのたたずまいゆえ。

活発そうな赤毛やオレンジの瞳、おしゃれなスニーカー。

読むものに元気をわけあたえる熱血ヒロインだ。





 

 

 

 

 

ノブヨシ侍『とりきっさ!』(リュウコミックス・スペシャル)は、4コマ作品。

さえないサラリーマンが森で、かわいい鳥人間にであう。

 

 

 

 

追いかけた先にあったのは、トリビトの姉妹がいとなむ喫茶店「とりきっさ」。

疲れた都会人に癒やしを提供する、はやりのアニマルカフェだ。

 

 

 

 

本作の「リンとスズ」は、正確に言うと擬人化でなく半鳥半人。

せまい店内でもひらりと飛んで、癒しの空間に笑いと驚きをもたらす。

 

手をかえ品をかえての新メニューで、「人間」の定義をひろげながら、

作家たちは型にはまらない「キャラクター」をうみだしてゆく。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: ロリ  萌え4コマ 

小説6 「ルーズベルト」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


全篇を縦書きで読む








 リバティアの首都である大阪のビル街で、自動運転のエアカーが地上三十メートルを滑走。

 後部座席で十六歳のドロシー・マッカーサーが、ぶあつい手帳で予定をたしかめる。燃える様な赤毛と、エメラルドの瞳があざやか。フリルいっぱいのブラウスに、黒のジャンパースカート。もともと細い胴体をコルセットで締め上げる。頭の斜め上にミニハットが。

「エアカーの乗り心地はいかかです、ユアハイネス?」

 隣で薄紅梅の和服を着たヒロヒトが、特大サイズのハンバーガーにかぶりつく。療養中の東條を長野にのこしての公式訪問だ。

「ボリュームがすごいですが」ヒロヒトはケチャップまみれの口で答える。「とってもおいしいです!」

 接待と護衛をつとめるドロシーは、軽蔑心を気取られない様に笑顔をつくった。

 この十歳の姫君は、年齢以上に幼さを感じさせる。両国の関係が切迫した今日、皇族は相互理解をたかめる努力をすべきなのに。

 ナデシコに自家用のエアカーは皆無。エイダがアウトバーンを建設し、フォルクスワーゲンの生産に力をいれるアイゼンでさえ、工業力は西の大国リバティアに到底かなわない。

 こうした見聞を本国につたえれば、どれほど外交的に貢献できることか。

「いろんなお店で」不意にヒロヒトが言う。「青い鷲のポスターを目にします。『NRA』と書いてありますが、どんな意味ですか?」

「全国復興局の略称です。不況と戦うキャンペーンとして、政府はドラッグストアの店主からヘンリー・フォードまで、あらゆる経営者に協力を求めています」

「いわゆるニューディール政策ですね。アイゼンと似てるかも」

 ドロシーは緑の瞳でプリンセスを見直す。食べるのに没頭してたくせに、侮れない観察眼だ。

 ゴスロリ少女が呟く。「そう、悪しき全体主義の時代だ……」

「ドロシーさん、なにか?」

「いえ、ひとりごとです」

 こんな政治は自由の国にふさわしくない。いつかボクが変えてやる。




 ヒロヒトがホワイトハウスに着くと、〈マネージャー〉のフランクリン・ルーズベルトが記者会見をひらいていた。

 二十歳と若く、眼鏡をかけた理知的な顔立ちで、美男子の部類にはいる。六代前の〈マネージャー〉を親類にもつ名家の生まれだ。

 アップルとグーグルのCEOを両脇にしたがえ、新製品「ガイストフォン」を発表した。目に見えるハードウェアをもたない、窮極の携帯電話だ。全国民に無料で支給される。

「恐れるべきは、恐れそのものです」ルーズベルトが声高に訴える。「大恐慌との戦いでも、ファシズムとの戦いでも。我らは一致団結し、デモクラシーの兵器廠とならねばならない」

 記者は総立ちし、拍手喝采をおくる。

「大統領」懐疑的な記者が挙手。「アイゼンに宣戦布告する可能性もあるのですか?」

「あなたがたは」嘆息するルーズベルト。「何回おなじ質問を繰り返せば気が済むのか! では今一度、全国の母親たちに約束しよう。リバティアは決して、若者を戦場へ送り出さない」

 爽やかな笑顔、理路整然たる口調。エイダとはまた異なるカリスマ性に、ヒロヒトは感服した。




「ヒロヒト内親王殿下でいらっしゃいますね? お会いできて光栄です」

 大柄な女に声をかけられた。

 エレノア・ルーズベルト。夫より二歳下のファーストレディだ。出っ歯でお世辞にも美人と言えないが、知性や意志のあらわれた容貌。

「こちらこそ」ヒロヒトはにこやかに返答。「高名なルーズベルト夫人にお目にかかるのを楽しみにしておりました」

「勿体ないお言葉です。歴史ある〈ブランド〉の貴賓をお迎えすることは、まだ新しいリバティアにとり大いなる喜び。全国民に代わってお礼を申し上げます」

 育ちのよいヒロヒトは社交辞令が得意だが、知的なのに優しげなエレノアの物腰は別格に思えた。

「唐突ですが」和装の姫君が言う。「政治に関して聞きたいことがあります」

「お役に立てればよいのですけど」

「いまナデシコとリバティアは仲が良くありません。〈トレード〉になるとも囁かれています」

「ええ。あってはならないことですね」

「権力を持たない女性の身で、〈ブランド〉を平和へ導くにはどうしたらよいのでしょう?」

 エレノアは苦笑した。「難しい御質問ですこと」

 ファーストレディは演壇の夫を見遣る。会見を成功裏に終わらせ、鼻高々。

「女性には」エレノアが続ける。「男性にはない道徳心があると、わたくしは信じています。高い理想を持ち続けるのが大切ではないでしょうか」




 看護婦に車椅子を押され、ルーズベルトはホワイトハウス二階の寝室へはいった。見物人の前では補助器具をつけ立っているが、普段は自力でベッドに登れもしない。

 だがいまのところ彼は、自分が下半身不随なのを国民に隠し通していた。

「脱がせてくれ」

 筋肉のまったくない両脚が現れる。ルーズベルトは看護婦の頭を股間に押しつけた。重要な演説に際しての緊張が解け、気晴らしをしたい気分だった。女は表情をかえず〈マネージャー〉の性器を咥える。

 エレノアが女性秘書をつれ入室。夫の行為に関心を示さず、書類の束を渡す。ふたりの性的関係はとっくに切れていた。自分は秘書を丸裸にし、背中に舌を這わせる。

「サスーリカは、スターリンの五か年計画で急速なガイスト工業化を達成し……」

 ルーズベルトは快感にときおり反応しつつ、ラジオ番組「炉辺談話」のリハーサルをする。これからは国民がどこにいようと、なにをしていようと、彼の言葉が脳へ直接流れ込むことに。

「エレノア」ルーズベルトは隣のベッドの方を向く。「こりゃまたひどいスターリン礼讃だな! 削除するぞ」

「勝手にしたら」秘書に指を挿入されたエレノアの息遣いは荒い。「でもあなたは無知な大衆に迎合しすぎよ」

「羊の歩みに合わせるのが、羊飼いの仕事さ」

 ノックのあと許可を得て、ドアが開かれた。黒衣のドロシー・マッカーサーが目を伏せ立ち尽くす。頬は赤毛より紅潮している。

 寝そべるルーズベルトが手招き。「かまわん、報告してくれ。お姫様の世話は大変だったろう」

「そ、その……お取り込み中でしたら……」

「かまわないと言っている。ナデシコの姫は美人か?」

「年の割にすぐれた見識をお持ちです」

「外見について尋ねたつもりだが」

「ボクは……わかりません」

 夫妻が声を合わせ笑う。この内気な美少女をからかうのが、最近の彼らの寝室での楽しみ。

「あなたはマジメすぎるわ」裸のエレノアがほほえむ。「好きな方のベッドにいらっしゃいな。何事も勉強よ」

「し、失礼します!」

 乱暴にドアを閉め、ドロシーは厚底ブーツの音をたてて走り去る。「また始まった」と、ホワイトハウスの使用人はみな苦笑した。権力者の秘密を共有する優越感を覚えながら。




 非常階段の踊り場で、ナースと秘書が密談する。

「おつかれッス」

「おつかれー」

「仕事とはいえ、こう毎日じゃ嫌になるよね」

「だねー。ユリア様がせっつくから、やらざるを得ないけど」

「もうエレノアはウチらの操り人形っしょ。でも足萎え野郎は得体が知れないな。戦争する気あんだか、ないんだか」

「ドロシーも純情ぶっててムカつくよねー。ボクっ娘とかキモすぎ」

 パニエでふくらむスカートをなびかせ、赤毛のゴスロリ少女が階上にあらわれた。エメラルドの瞳がつめたく光る。

「サスーリカの雌犬は、悪口も品がないな」

 看護婦は狼狽。「サスーリカ? おまえ、なに言ってんだ?」

「現政権に大量のスパイが浸透しているのは周知のこと。そろそろ駆除しないとね」

 ごまかせないと悟った看護婦は、FNファイブセブンを三階へ向けて構える。

 ドロシーは手摺を滑り台にして懐に飛び込み、喉輪で地面へ突き落とす。拾った包帯を逃げかけた秘書の首に巻き、頸動脈を圧迫。

「たすけて……殺さない……で……」

 三十秒で秘書の肉体は生命維持活動をやめた。

「害虫め」

 黒衣の少女は、ブーツで間諜の苦しげな死に顔を踏みにじる。




 つつがなく日程を終えたヒロヒトが、ベンチに座り空港へのバスを待っている。エアカーが故障したことをドロシーは平謝りするが、おおらかな姫君は気にしない。

「ホットドッグを食べられたから、むしろ良かったです! いろいろ気遣ってくれてありがとう。すばらしい滞在になりました」

 杖をついた、年老いた黒人の男が列に並んだ。

 ヒロヒトはいそいでホットドッグの残りを飲みこみ、席を手で払ってから声をかける。

「お爺さん、どうぞ」

 老人は聞こえてるらしいが無視した。

 それとなくドロシーが諭す。「彼は立っていたい様です、ユアハイネス」

 自分が貴種だから遠慮していると思い、和装の姫君は老人の手を取って座らせようとする。

 閉口した老人が言う。「そこは白人専用のベンチなんじゃよ」

「え……そんな」

 ヒロヒトは否定してもらおうとドロシーを見たが、彼女は気まづそうに視線を逸らす。

「バカげてます!」姫君が血相変える。「ナデシコの内親王ヒロヒトが責任を持ちます。お爺さん、ここに座ってください」

「嬢ちゃんや」老人は溜息をつく。「よそ者のあんたに責任が取れるのものかね」

「こう見えて結構セレブなんです!」

「わしの弟は『白人の女に道を聞かれた』だけでリンチにあった。木に吊るされ、射撃の的にされたんじゃ」

「ひどい……」

「話しかけたのは向こうなのに。わしは自分の足だけ見て道を歩いておる。どんな難癖をつけられるか分からんからな。嬢ちゃんの気まぐれで首を突っ込まれても、迷惑千万じゃよ」

 自由の国リバティアの現実を知り、ヒロヒトは絶句した。それは重すぎる教訓だった。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

あずま京太郎/日向寺明徳『サクラブリゲイド』3巻 戦場に咲く花

 

 

サクラブリゲイド

 

作画:あずま京太郎

原作:日向寺明徳

掲載誌:『月刊少年シリウス』(講談社)2014年-

単行本:シリウスKC

ためし読み/以前の記事→1巻/2巻

 

 

 

あずま京太郎の画力は、もっと評価されるべき。

巨大ロボット同士がぶつかる戦場の空気。

狙撃が重きをなす戦術の表現。

そして女子。

最高の描き手のひとりと認めたい。

 

 

 

 

3巻は中国軍のヘビ娘、「梁美帆(リャン・メイファン)」との激闘がみどころ。

当たるも八卦、当たらぬも八卦。

「天帝サマの言うとおり」でターゲットをえらぶデタラメさが、チャイナ的。

 

 

 

 

バトルのあいまに幼少期の記憶が挿入され、キャラを掘り下げる。

児童売春を匂わせる鬱展開だ。

 

ルーキーコンビによる本作は、3巻にいたり深みと密度が増し、

新兵どころか佐官クラスの貫禄をただよわす。

 

 

 

 

だが『サクラブリゲイド』の本領は、「ロボットSFとラブコメの融合」にある。

特に目新しさはなく、10年代のメインストリームとすら言えるが、

その融け合いっぷりが尋常じゃない。

 

支那の巨龍に蹂躙され、全滅しかけたその刹那、梓のお腹が鳴る。

「食慾」をヒントにした着想で突破口をひらく。

 

 

 

 

本巻では、僚機を遠隔操作する「アンザイレン(命綱)」機能が解放される。

瞳の光が2進法の数列と化し、天才的な処理能力を表現。

 

 

 

 

ひとりで3機あやつれば、神経を通じ激烈な負荷がかかる。

息もできないほどの苦痛を官能的にえがく。

 

弐瓶勉をこえたと思えるページもいくつか。

 

 

 

 

戦いが終わっては、両手に花の添い寝イベント。

これでもかと読者のニーズに応えつつ、さらなるドキドキを供給する傑作だ。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 近未来 

『乱歩奇譚 Game of Laplace』2話 「人間椅子(後編)」

 

 

人間椅子(後編)

 

テレビアニメ『乱歩奇譚 Game of Laplace』第2話

 

出演:櫻井孝宏 高橋李依 山下大輝 小西克幸 矢作紗友里

絵コンテ:山本天志

演出:木野目優

原案:江戸川乱歩

監督:岸誠二

シリーズ構成・脚本:上江洲誠

キャラクターデザイン:森田和明

総作画監督:山形孝二 鎌田祐輔

アニメーション制作:Lerche

放送日:2015年7月10日

[1話の記事はこちら

 

 

お茶の子さいさい、第一の事件をズバッと解決。

自分をハメた真犯人に、心から感謝する。

たのしませてくれて本当にありがとうと。

 

 

 

 

コバヤシ少年は「少年A」となった。

殺人者として吊るし上げられる。

 

 

 

 

生まれたままの、けがれなき瞳。

天上の真実をつたえるソプラノ。

たとえ世界が彼を敵視しても、信じられる。

 

 

 

 

防腐処理をほどこした屍体による「人間椅子」の謎を解く。

自信にみちた様子は、女体よりずっとうつくしい。

 

 

 

 

やはり本作のキーポイントは制服。

コバヤシのそれは、ジャケットの裾がひろがりワンピースみたい。

くねくねとしなをつくり、ぼくらを誘う。

 

 

 

 

変態家具の座り心地をたしかめる。

うらやましい。

椅子になりたい。

少年の体重や体温を感じたい。

 

 

 

 

「で、助手にしてくれるかどうかのテスト、合格ですか?」

「まぁギリだな」

 

仔犬みたく尻尾ふりふり。

つい視線がひきよせられる。

彼のかわいらしい臀部に。

 

 

 

 

禁断の慾望をときはなつ鍵。

コバヤシ少年、君はなんて罪ぶかい存在なんだ!






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テーマ : 乱歩奇譚
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 男の娘 

珈琲『のぼる小寺さん』

 

 

のぼる小寺さん

 

作者:珈琲

掲載誌:『good!アフタヌーン』(講談社)2015年-

単行本:アフタヌーンKC

[ためし読みはこちら

 

 

 

「ボルダリング」は、シューズと滑り止めのチョークだけでおこなう、

どちらかとゆうとカジュアルなフリークライミングの一種。

細身の女子が壁にはりつく姿は絵になる。

体重による負荷がかるい分、男より有利な面も。

 

 

 

 

いわば本作は「雰囲気マンガ」と「スポ根」のフュージョン。

挫折とか、強力なライバルとか、めざせ全国とか、明確なストーリーラインがない。

周囲の人間の視点から、小寺さんの手足や脇や腹筋をながめるだけ。

 

 

 

 

クライマーは「見られる」存在だ。

必死によじ登るところを、安全な地面からジロジロと。

小寺さんは制服姿もカンペキ。

 

 

 

 

つねに身だしなみに余念がない。

窓ガラスで前髪をなおす様子も、見られてるけど。

 

 

 

 

休み時間に制服でボルダリング。

筋力でみづからの全体重をささえるとき、だれだって無防備になる。

ありえない角度からみる、セーラー服とスパッツのコーディネイションが詩的だ。

隙だらけなのに、隙がない。

 

 

 

 

部活後、空きっ腹をラーメン二郎でみたす。

食が細いのもクライマー向き。

 

 

 

 

重力にさからい、ひたすら高みをめざす。

崇高で、力づよく、あぶなっかしい。

これほど天使にちかいJKを、僕はほかに知らない。






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『それが声優!』1話 「アフレコ」

 

 

アフレコ

 

テレビアニメ『それが声優!』 第1話

 

出演:高橋李依 高野麻里佳 長久友紀 生天目仁美 野沢雅子

監督・絵コンテ・演出:博史池畠

シリーズ構成・脚本:横手美智子

原作:あさのますみ 畑健二郎

キャラクターデザイン・総作画監督:佐々木政勝

アニメーション制作:GONZO

放映日:2015年7月7日

 

 

主人公の「一ノ瀬双葉」が、お出かけ前の着替え中。

バサッバサッと服をはらう。

ノイズの有無をたしかめている。

 

 

 

 

だって彼女は声優だから。

ベテランの浅野真澄の原作にもとづくアニメであり、

先輩への挨拶の大変さとか、「声優あるあるネタ」をたのしむ作品だ。

 

 

 

 

録音ブースではどこに座るかが悩みどころ。

すばやい判断力がもとめられる。

野沢雅子の隣なんて、畏れ多くて絶対無理。

 

 

 

 

子役出身の「小花鈴(こはな りん)」は、15歳ながら10年のキャリアをもつ。

演技も達者。

藝歴がものゆう業界なので、外見で判断するのは禁物だ。

 

 

 

 

新人ふたりは、年下の大先輩のギャップ萌えにときめく。

 

声優同士の「仲の良さ」それ自体がコンテンツとして流通し、

たとえばラジオ番組『洲崎西』がアニメ化されるなど本末転倒な昨今だが、

過剰なストレスにさらされた若い娘が、横のつながりを求めるのはわかる。

つまり本作は百合アニメでもある。

 

 

 

 

「萌咲いちご」に音響監督からでた指示は、「もっと巨乳っぽい声で」。

新人が現場で抗議できるはずもなく、

それがどんな声かさえわからず演技をつづける。

 

 

 

 

急にふられた「兼ね役」に対応できず、双葉は声優失格の烙印をおされた。

事務所の先輩「汐留ヒカリ」は、同情しつつも慰めない。

ますます厳しさをます競争のなかで、「仲良しごっこ」に意味はなく、

自力で生き残るしかないと、彼女のキャリアがおしえる。

 

横手美智子がシリーズ構成を担当するせいか、人形の使いかたなど、

本作はアニメ制作の現場をえがく『SHIROBAKO』に似ている。

でも双葉は、宮森あおいみたいなスーパーガールではない。

ド新人の身分で会社や、業界の大物をうごかしたりしない。

ほんの数秒の仕事すらままならない。

 

男とか会社とか、なにかに頼るのでなく、自分の喉ひとつで人生をきりひらく。

あえて茨の道をあゆむ女の矜持をしっとりと描いている。






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『乱歩奇譚 Game of Laplace』1話 「人間椅子(前編)」

 

 

人間椅子(前編)

 

テレビアニメ『乱歩奇譚 Game of Laplace』第1話

 

出演:櫻井孝宏 高橋李依 山下大輝 小西克幸 中原麻衣

絵コンテ:平井義通

演出:いとがしんたろー

原案:江戸川乱歩

監督:岸誠二

シリーズ構成・脚本:上江洲誠

キャラクターデザイン:森田和明

総作画監督:山形孝二 鎌田祐輔

アニメーション制作:Lerche

放送日:2015年7月3日

 

 

ある朝コバヤシ少年が目覚めると、

そこは中学校の教室で、手に血塗られた糸ノコギリが。

 

 

 

 

教壇をみると、担任の教師がバラバラ死体となっている。

まるで造形美術の様にしつらえられて。

 

記憶がただしければ、ぼくはやってない。

だれかがぼくを眠らせて、濡れ衣を着せたんだ。

 

 

 

 

本作のヴィジュアルで印象的なのは、灰色に塗られたモブの処理。

コバヤシ少年の意識の対象になると、くわしく描画される。

 

ハードボイルドな主観性が強調され、探偵モノにそぐわしいし、

ふわふわと日常をおくる少年のたたずまいが伝わる。

おまけに作画工程を大幅に省けるのだから、あっぱれな発明だ。

 

 

 

 

歌舞伎町あたりのビルの屋上にペントハウスをみつけた。

「Cafe & Bar ファントム」と看板にあるが、いまは営業してないらしい。

 

 

 

 

アケチ探偵がここで暮らす。

殺人容疑者である少年は、弟子いりを願いでる。

 

 

 

 

凶悪犯の罠にかけられ絶体絶命なのに、この「ゲーム」に昂奮していた。

もっともっと、犯罪の世界をしりたい。

 

 

 

 

「おまえ、壊れるぞ」

「……壊れたいです」

 

少年がかよう中学の制服は、ネクタイをえらべるらしい。

もちろん彼がつけるのはリボン風のもの。

原案小説での特技である「女装」も披露されるだろう。

 

 

 

 

ノイタミナ枠としては『UN-GO』を髣髴させる本作は、

単なる探偵モノでも、江戸川乱歩の翻案でもない。

 

ショタ、男の娘、女装少年……呼び方はなんでもかまわないが、

常識を逸脱した美少年のハードボイルドな生き様に心奪われる、最高のアニメだ。






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タグ: 男の娘 

小説5 「アインシュタイン」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


全篇を縦書きで読む








 長野の総統官邸に借りている一室で、ヒロヒトは鼻歌まじりで鏡の前にたつ。ワンピースやチュニックなど、エイダのお下がりの服を試着。普段は和装がおおいので、私服の数が増えただけでもアイゼン留学の意義はあった。

 ようやく多忙なエイダの都合がつき、あした一緒に出かける予定。ひとりファッションショーに熱がこもる。

 咳ばらいが聞こえたので振り向くと、ドアのところに東條英機がいた。

「爺、レディの部屋はノックするものです」

「開けっ放しでしたが。姫様、夕食の前に計算ドリルの進み具合を見せてください」

「勿論やってあります。服の片づけをするから、あなたは先に行ってなさい」

 ヒロヒトが妙に高飛車な態度をとるときは、大抵ウソをついている。東條は遠慮なく部屋へ踏み入り、机の引き出しをあけた。

 計算ドリルは一冊まるごと真っ白。

「説明していただきましょう」

「夕食後にやるつもりだったのです」ヒロヒトの目が泳ぐ。「勝手に机の中を見るなど失礼ですよ!」

「姫様は毎日八時に寝るではないですか。わかりました。このドリルが全部終わるまで、しばらく外出を禁止します」

 ヒロヒトは金魚の様に口をパクパクさせる。この一か月、なにより楽しみだったイベントなのに。

「東條!」ヒロヒトは癇癪をおこしハンガーを投げる。「臣下が主君に命令するとはなんですか!? 分際をわきまえなさい!」

「偉そうなことは、割り算をマスターしてから言うべきですな。あしたはここに張りついて監視します」

 ナデシコの姫君は大粒の涙をこぼし、長い睫毛を濡らした。エイダとのお出かけが自分にとってどれほど価値があるのか、この頑迷な元軍人はまったく理解してない。ゆるせない。

 枕元の【シュトック】をつかみ、「九十七式」の光刃を現出させる。エイダやマンシュタインに教わり、操れる様になった。

「斬りたければ斬りなされ」東條は譲歩しない。「今上陛下に仰せつかった教育係の大役、爺は命に代えても全うしますぞ」

 ヒロヒトの完敗だった。天国から地獄へ。割り算・分数・つるかめ算……。錯乱のあまり叫ぶ。

「ハゲジジイ、死んでしまえ!」




 翌朝、ヒロヒトは自室で食事をすませ、お下がりのエンパイアチュニックに着替えてから、東條の部屋へむかった。土下座して謝り、外出の許可をもらう算段。どうしてもあきらめられない。

 ノックに返事がないのでドアを開くと、軍服姿の東條が背をむけ直立している。

「おはようございます」ヒロヒトが声をかける。「どうしたのですか。まだ怒ってるの?」

 回り込んだヒロヒトは、彼の顔をみてアッと驚きバッグを取り落とす。

 全身が精巧な石像と化している。彫刻ではなく、本物だ。

「石頭とは思ってたけど、本当に石になってしまうなんて……」

 ヒロヒトは途方に暮れる。エイダやマンシュタインは留守だし、だれに相談すればよいのやら。もし国家機密に関わる事態なら、むやみに通報もできない。

 うん、見なかったことにしよう。




 待ち合わせ場所だった長野市街のカフェで、エイダ・ヒトラーが演説の原稿を推敲している。テーブルにうづたかく本が積まれる。

 ナデシコの姫がひとりで来店したのに気づいた。

「ヒロ! 結局来れたんだな、よかった。その服似合ってるぞ」

 赤面するヒロヒト。「ありがとうございます!」

「あたいはもうスカートとか履かないから、サイズが合うのは全部あげるよ」

 エイダの服はパーカーにショートパンツ。長い足は黒のニーソックスを履いている。ボーイッシュで活発な印象。

「難しそうな本がたくさん!」ヒロヒトは目を瞠る。「一冊読むのに何日かかるんですか?」

「だいたい一日で二三冊かな。同じことばかり言ってたら飽きられるから、勉強しないとな。ヒロも政治や経済の本を読んどけよ」

 ため息がでた。アイゼンで一番忙しいのに、だれより勉強家で、オシャレで、好きな人がいて、やさしくて面倒見がよくて……。すっかりエイダの虜となったヒロヒトが、隣に座り凭れかかる。

「おいヒロ、邪魔だよ」まんざらでもないエイダ。「まったく甘えん坊で、こまったやつだな」

「いまナデシコは不況で、格差が拡大しています。どうしたらいいんでしょう?」

「さあ? 経済学者でさえ意見がまるで一致しない問題が、素人にわかるもんか」

「でも、エイダちゃんの舵取りでアイゼンは完全雇用を達成したって、爺が言ってました」

「雇用創出計画は前任者のシュライヒャーが実行したのに、あたいが手柄を独占したと批判する学者もいるよ。痛くも痒くもないけど。パブリシティをふくめてマネージメントなんだから」

 ヒロヒトの熱い視線がテーブルの上のブレーツェルに注がれるのに気づいたエイダは、ひとつ分け与える。

「外はカリカリだけど中はふわふわ」夢中で頬張るヒロヒト。「独特の食感です! えっと、経済の話でしたっけ。〈マネージャー〉って大変ですよね」

「肝心なのは、大衆がなにを望むのか知ることさ。夢を見せれば、彼らはついてくる。すこしくらい失敗しても」

 各種のパンをたいらげたヒロヒトはウトウトし、テーブルに伏せて眠りはじめる。エイダはくすりと笑い、ナデシコの姫君の艶のある髪を撫でた。

 ふとカフェを見渡すと、ほかの客もみな寝ている。店員までも。

 異変がおきている。




 十五歳のアリース・アインシュタインは、数年くしけづってないボサボサの髪を掻く。フケが総統官邸の床におちた。

 物理学界で彼女を知らぬものはない。二年前に発表した論文『一般ガイスト理論』で、情報を記憶し転送する元素「ガイスト鉱」に、人間の脳がどうアクセスするのかを見事に解明した。いまや世界経済の五十パーセントが、ガイスト技術に依存している。

「あのー」あからさまに不機嫌なアリース。「ウチは理論物理学者なんで、技術屋の仕事を振られても困るんスけど」

 エイダはいつになく低姿勢。「緊急事態なんだ、たのむよ」

 アリースは黒縁眼鏡を押し上げた。右目が紅に光る。【ヴァンピーア】は科学者など知的な職業におおい。

「あんたらが乏しい資源で無理するからッスよ」

「戦わなきゃ〈ブランド〉は消滅する。ほかに選択肢はないんだ」

「別に消滅してもいいッスけどね。んなもんウチの研究に関係ないし」

 エイダは強張った笑顔で答える。鋭い八重歯でいまにも噛みつきそう。ふたりの一触即発の会話に、ヒロヒトは肝を冷やした。

 ジャージ姿のアリースは、ノートPCにつないだ【シュトック】でエイダの執務室をしらべる。十数個のかわいいストラップがジャラジャラと鳴る。

「示度がだいぶ不安定ッスねー」

 エイダは首を傾げる。「すぐ対処できるか?」

「波動関数の相互干渉が、過度に複合的な絡みあいを起こしていて、分枝宇宙を捕捉できねーッス。ちゃんとガイスト系に適した原子的環境を維持してくれねーことには」

「……すまん、もっと簡単に説明してくれ」

 アリースは鼻で笑う。「数式つかえば一発だけど、あんたにゃ理解できねーっしょ」

 ワナワナと震えるエイダが爆発する寸前、ヒロヒトはくちばしを入れた。

「博士の評判は、ナデシコまで鳴り響いています。世界を変えた天才だと」

「あんたがナデシコのお姫様ッスか。あざッス! でもそこの総統さんは、ウチのことが嫌いらしいッスけどね」

 エイダの反ヴァンピーア主義を指している。

「そんなことはない」エイダは口を尖らせる。「あたいは、アイゼンに貢献できる有能な【ヴァンピーア】は認めてる」

「どーだか」

 ヒロヒトは懸命にエイダを宥めつつ、アリースに頭を下げ協力をもとめた。

「お姫様の頼みは断れないッスね」アリースは右手に指輪をふたつ嵌める。「ま、犬に罪はねーですし」

 天才少女が犬の石像をさすると、指輪はキーンと音を立てながら光り、毛並みのよいシェパード犬がうごきだし、飼い主のエイダへ飛びついた。

「ブロンディ!」エイダの目が潤む。「無事でよかった……アリース、ありがとう!」

 ガイスト鉱を鋳造した指輪によるこの技術は【ルフトヴァッフェ】とよばれ、おもに軍事利用されている。火球や雷などで敵軍を一掃できる。

 ヒロヒトは呆気にとられた。「アイゼンの科学はこんなに進んでるの……」

「将来的には」アリースが胸を張る。「巨大隕石も落とせるはずッス。あ、これ話したらマズかったか」

 天才少女は口元を抑え、上目遣いで独裁者を見やる。なんだかんだで怖い相手だ。エイダの握る権力からすれば、一科学者の生命など吹けば飛ぶほど軽い。

「いいんだ」エイダは微笑する。「ヒロはあたいの妹みたいなものだから。競争上開発せざるを得ないけど、人間が隕石を落とす日なんて、永遠に来ないことを祈るよ」




 その夜、スタジアムに六万人がつどう集会がひらかれた。ヨーゼフ・ゲッベルスによる音楽、アルベルト・シュペーアによる照明が会場を盛り上げる。

 主役は勿論、「MCヒトラー」ことエイダ。マイク片手に彼女が登場した途端、客席は押すな押すなの大騒ぎ。

「DJゲッベルス、スピン・ザット・シット!」

 ゲッベルスのターンテーブルから響くビートに合わせ、エイダはステージの端から端まで身軽に飛び回り、観客を煽る。

 舞台袖から眺めるヒロヒトは、聞いたこともない大音量に度肝を抜かれた。

「やつらは悪知恵はたらく【ヴァンピーア】/カネに取り憑かれた飽くなきパラノイア/戦争気違いウィンストン・チャーチル/ワンワン喚いて墓穴掘ってる」

 流麗かつ力強いフロウに乗せられ、オーディエンスは叫び、両手を突き上げる。

 ヒロヒトも「ジーク・ハイル」の合唱にくわわった。東條英機が石化したことをすっかり忘れたまま。

 エイダちゃんは、わたしをはるか彼方へ連れていってくれる。

 そこがどこだろうと、きっと無敵のはず。




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ジャンル : 小説・文学

merryhachi『立花館 To Lie あんぐる』

 

 

立花館 To Lie あんぐる

 

作者:merryhachi

掲載誌:『コミック百合姫』(一迅社)2014年-

単行本:百合姫コミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

賛否両論、コップの中で激しい嵐をよんでいる問題作。

 

ガチ百合とかいらないから売れる漫画描け!

売れる漫画がわからない?

だったらよその売れてる漫画のコピーでいいよ(笑

・・・という現在の百合姫編集部の方針を忠実に反映した作品。

 

アマゾンレビュー

 

対立点をまとめると、女の子同士のズブズブの恋愛をえがく『コミック百合姫』で、

『To LOVEる -とらぶる-』みたいなハーレムラブコメを許容すべきか否か。

 

タイトルを似せての挑発に、ピューリタンが反撥するのは無理ない。

『ゆるゆり』や『百合男子』さえふくむ、広大な百合姫ワールドが動揺している。

 

 

 

 

主人公がつぎつぎとラッキースケベに巻きこまれるたび、

ツンデレ幼なじみはいちいち嫉妬の炎をもやす。

たしかにコミック百合姫より、週刊少年ジャンプがふさわしいと言えなくもない。

 

 

 

 

主人公の「夏乃はなび」は高校進学を期に、女子寮生活をはじめた。

住まいは見るからにオンボロな「立花館」。

 

 

 

 

一歳下の幼なじみ「藤原このみ」が寮を切り盛りしている。

はなびを意識してるらしく、ツンツンとつれない態度。

 

 

 

 

それでも6年ぶりの再会で、思い出話に花が咲く。

かよいあう意識の流れのうつくしさは、少年漫画ではあじわえない。

 

 

 

 

そこへ唐突に挿入される、妙に入念な描き込みのパンチラ。

他にもおさわり・おっぱい・ノーパン・おもらしと盛りだくさん。

 

オタク特有の選民意識にとらわれ、百合が高尚なものと錯覚する百合オタに、

ヘテロだろうとホモだろうとセックスはセックスだと言わんばかりの粗雑さで、

わかりやすい記号的エロティシズムをつきつける。

ファストフードやファストファッションにつづく、「ファスト百合」時代の到来か。

 

僕はこの論争に意見はない。

娯楽の世界は「売れたものが正義」で、読者が泣こうが喚こうが、

そよ風ほどの影響力もおよばさないと思っているから。

 

 

 

 

では視点をかえ、ジャンル論的にかんがえよう。

『立花館』は百合漫画なのか?

 

まづ定義から始めねばなるまい。

脚本家・吉田玲子の発言を引用する。

 

空気感みたいなものは意識しています。

その場のなごやかさ、張りつめ方、人と人の距離感、声には出さない思いやり。

そうしたものを含んだ会話になるといいなと。

 

『ハナヤマタTVアニメ公式ガイドブック colorful flowers』(芳文社)

 

「百合」とは、思春期の、もしくはそれに準ずる年代の女同士の、

やさしさと緊張感をはらむ意思疎通、およびその空気感をえがくもの。

 

結論。

『立花館 To Lie あんぐる』は百合漫画だ。

本来あらゆる作品がそうあるべきなのと同様に。

コミック百合姫のユニクロ化は、百合デモクラシー時代の必然かもしれない。






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タグ: 百合姫コミックス  百合 

高橋哲哉『ドキドキしすたー♡葵ちゃん』

 

 

ドキドキしすたー♡葵ちゃん

 

作者:高橋哲哉

掲載誌:『電撃萌王』(アスキー・メディアワークス/KADOKAWA)2014年-

単行本:電撃コミックスNEXT

[ためし読みはこちら

 

 

 

お兄ちゃんだいすきな中学1年の「小日向葵」を愛でる妹モノ。

嫁の様に、妻の様に、かいがいしく尽くす。

右下のコマの満面の笑みに癒される。

 

 

 

 

パパとママはいつもお仕事で家にあまりいないそうで、

邪魔するものない日常のなか、兄妹はますます親密に。

 

風邪をひいた兄を看病するシーンでは、

腕にかかるツインテのつややかな一房に見惚れる。

本作は髪の描写がなまめかしい。

 

 

 

 

絵心ない僕が指摘するのもなんだが、デッサンが不安定とゆうか、

体型のバランスがよろしくない構図が散見される。

でもプリプリのお尻は、暴力的なまでの可愛さ。

 

 

 

 

たとえば水瀬るるう『大家さんは思春期!』もそうだが、

中学1年女子だけが発する可憐さってのがある。

まだあどけない一方で、十分うけいれ可能にもみえる。

 

本作に中二病的な小難しさは皆無。

がんばるぞいとか紐とか、ツイッターで拡散されそうなフックもない。

音楽でゆうならシンプルなパンクロック。

 

 

 

 

水着回のたのしさも尋常ではない。

葵をおそう「ハプニング」はお約束で、そこがいい。

ある種の伝統藝能とみなしうる。

 

 

 

 

作者は、ゼロ年代に「高橋てつや」名義で、

『ペンギン娘』や同人サークル「モエモエカフェ」などで一世を風靡した、

いわゆる「萌え文化」のオリジネイターのひとり。

 

お風呂回の、兄の方がセックスを意識してないことによる諧謔は、

ラモーンズに匹敵する様式美。

 

 

 

 

敏感な葵は、お兄ちゃんに耳かきしてもらい絶頂に達する。

ちなみに実際は着衣。

 

思想がなく、リアリティがなく、現代性や社会性もない。

特に自己言及がおそろしいほどない。

ないないづくしだが、それでもひたすら可愛い妹を愛でたいとゆう、

歯止めのきかない熱情が網膜ごと読者を貫通する、まさに電撃的な会心作だ。






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藍井彬『DUEL!』

 

 

DUEL!

 

作者:藍井彬

掲載誌:『ヤングガンガン』(スクウェア・エニックス)2015年-

単行本:ヤングガンガンコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

女子高生のフェンシング漫画。

われわれにとって剣道の親類におもえる競技だが、

「鉄の棒」で突き合う峻烈さは特異なもの。

 

 

 

 

内気な「日向みのり」は学校でいじめられている。

登校中の表情も暗い。

 

 

 

 

そこで出会ったのが、帰国子女である金髪碧眼の「アリス」。

フランス系のハーフらしい。

剣の腕前は、ユースオリンピックに出場するほど。

 

 

 

 

アリスの凛としたうつくしさ、だれにも媚びない強さにあこがれ、

みのりは白糸台高校フェンシング部へ入部。

 

熱血すぎる副部長と飄々とした部長など、脇役も個性的。

おなじくYG連載の『咲-Saki-』と、かすかに世界観を共有している様だ。

 

 

 

 

アリスは道場をつかうため、名前だけ部に籍をおいている。

先輩から雑巾がけしろと言われても拒否。

口癖は「irrationnel(非合理的だ)」。

おフランスな金髪美少女が、日本みたいな田舎に同化するはずない。

 

勿論、胸当てのふくらみもワールドクラス(クラス・モンディアル)

 

 

 

 

藍井彬は、「旭凛太郎」名義で16年のキャリアをもつ作家。

僕は未読だが、表紙などから男臭い作風だったと推測するが、

別名義で「たたかう女子」の流行にあわせてきたらしい。

そして成功している。

アリスのはなつ殺気など、ペーペーには描けない水準。

 

 

 

 

ぴったりしたユニフォームのシルエットもさることながら、

細身の剣自体が、女が手にするとやたら絵になる。

 

フェンシング漫画は、ほかに岡啓介『銀白のパラディン−聖騎士−』があるが、

古強者の技術にささえられた本作こそが、決定版とみなされるだろう。






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