エマニュエル・トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』
「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告
著者:エマニュエル・トッド
訳者:堀茂樹
発行:文藝春秋 2015年
レーベル:文春新書
ふたたび、ドイツがヨーロッパを牛耳ろうとしている。
武器は「戦車」でなく「ユーロ」。
債務を負った南欧諸国を隷属させ、東ヨーロッパ人を強制労働へみちびき、
フランス大統領府に有無を言わせない。
もしカール・フォン・クラウゼヴィッツが現代に生きていれば、
「交易とは別の手段をもってする政治の継続である」と説く、
『経済戦争論』なる書物を著したろう。
『ストライクウィッチーズ』(テレビアニメ/2008年-)
エコロジーとか、メルケルおばさんとか、ソフトなプロパガンダ戦略に騙されるな。
ドイツはすでに二度にわたりヨーロッパ大陸を決定的危機にさらした国。
歴史上、ここまでの非合理性のカタマリは、ほかに日本くらいしかない。
またしても、ロシアはドイツとクリミア半島で衝突した。
西側メディアはこぞってロシアの野蛮性を批判。
独裁的な権力者が君臨する土人の国だと。
しかし、かの国にはかの国なりのデモクラシーが存在する。
たとえばソ連時代から継承された高度な教育水準。
女子の方が大学進学率が上であり、
世界でもっとも女性の地位がたかい国のひとつと言える。
たしかに人類学的にみても、
ウクライナは個人主義的な核家族構造をもち、より西洋にちかい。
だがそれはフィリピンのタガログ族もおなじであり、
だからと言ってタガログ族が「西洋的」とみなされはしない。
西洋的な道徳観は、あくまで世界の少数派にすぎず、
自分の都合でイデオロギーをおしつけたところで反撥しか生まない。
ウクライナは、教育をうけた青年層が国外流出することにくるしむ。
ギリシアなどと同様に、ドイツによる攻撃で社会が解体しかけている。
著者の母国であるフランスは伝統的に、「普遍的人間」とゆう理念をかかげ、
本来はドイツの対抗馬になるべき存在だ。
しかしその力がないことが第二次世界大戦で證明された。
ドイツの組織力と経済的規律の強さにはかなわない。
アメリカ……ああ、そんな国もありましたね。
もしロシアが譲歩し、「ドイツシステム」がウクライナまで制圧したら、
西洋世界の重心はうつり、ひいては「アメリカシステム」を崩壊させるだろう。
人口を比較すれば、「ドイツ帝国」の規模にアメリカは太刀打ちできない。
けれどもバラク・オバマはハワイ生まれのインドネシア育ちであり、
ヨーロッパのことはなにも知らず、太平洋圏しか視野にはいらない。
あえてルッキーニで
1945年のアメリカの工業生産高は「45%」だったが、いま「17.5%」まで落ちた。
軍事的にも、イラク第2位の都市モスルをイスラム国に奪われた衝撃から、
ワシントンはまだ立ち直れてない。
アメリカの衰退は憂慮すべき次元にある。
動揺するユーロ圏は「ロシア嫌い」の感情だけで、
政治的・通貨的空間を一つにまとめようとしている。
ナチスのイデオロギーとなにが違うのか?
「親米左翼」を称する著者は、ドイツよりマシなアメリカの優位をうけいれつつ、
保険としてロシアのパワーを認めることでバランスを保てと、処方箋を書く。
これをアジアに適用するなら、ドイツを日本の軍国主義に、
ロシアを中国に置き換えればいいと僕はおもった。
肝心なのは、ミュンヘン講和的な現実否認におちいらないこと。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済
缶乃『あの娘にキスと白百合を』3巻
あの娘にキスと白百合を
作者:缶乃
掲載誌:『コミックアライブ』(メディアファクトリー/KADOKAWA)2014年-
単行本:MFコミックス アライブシリーズ
[ためし読み/以前の記事→1巻/2巻/『サイダーと泣き虫。』]
園芸部部長の「雪奈」が、副部長の「十和子」をグーで殴る。
百合漫画で相方にグーパンなんて見たことない。
絶頂へむかいたかまるコーラス。
準オムニバス形式の本作は、そろそろネタ切れになっておかしくないが、
第1話で印象ぶかかったバラ園を世話する園芸部が、満を持して登場。
花を愛でる少女は正義。
メインカップルの「白峰さんと黒沢さん」の出番もおおく、一貫性を維持。
缶乃の特徴は「目の表情づけ」だろうか。
きわめて古典的なスタイルの漫画家だ。
眼差しひとつが、すべてをものがたる。
描き手の自信が、紙面にみなぎっている。
「かわいい女の子をみたければ、私の漫画を読めばいい」と言わんばかりの。
ゆれる乙女心の描写の最高峰は、たぶん本作にある。
百合のマエストロである缶乃の作風は、
どちらかとゆうとサスペンスフルで、摩擦や軋轢をこのんで描く。
バラ園に情熱をそそぐ雪奈の崇高なたたずまいの陰で、
十和子の「愛ゆえの裏切り」が進行。
おのれの全存在を否定される様な仕打ちをうけた雪奈は、
生徒総会に出席できず、体育館の外でぽつんと座る。
閉会後、渡り廊下をあるく十和子と目があった。
建築物をいかした構図、イスなど小道具のつかいかた、一瞬の表情。
漫画の演劇的なポテンシャルを、だれが缶乃以上に発揮できるのか。
作者の十八番、見開きでのキスシーン。
斜陽さしこむ廊下のものさびしさ。
水道設備が園芸少女をシンボリックに、かつエロティックに演出。
憎しみとゆう裏地をかさねられた愛が、完璧なシルエットをみせている。
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『幻影異聞録♯FE』 うかびあがる元型
WiiU用RPG『幻影異聞録♯FE』は、アトラスと任天堂が共同開発する、
『真・女神転生』と『ファイアーエムブレム』のコラボタイトル。
作品世界でチキは、ボーカロイド的な存在として人気を博す(歌はこちら)。
かわいくて、健気にがんばる「ひととなり」は、初音ミクにも負けない。
ゲームの骨格はメガテン/ペルソナが基盤で、現代日本を舞台とする。
渋谷駅前の交叉点などもつくりこんだ。
ストーリーがすすむにつれ、看板や大型ビジョンなどが変化。
ゲームパッドでは、会話の過去ログがリアルタイムで更新される。
街を歩きながらスマホでLINEアプリをみてクスクス笑う、われわれの日常を再現。
凝ったインターフェイスがアトラスらしい。
「106」前のステージで、「黒野霧亜(きりあ)」のライブがはじまった。
エイベックス・グループがたづさわる音楽は、口ずさみたくなるクオリティ。
霧亜を演じるのは南條愛乃。
アイドルをめざす少年少女が、異世界からの侵入者と戦う物語なので、
ほかにも水瀬いのりなど、歌の得意な声優をそろえた。
ライブ終了後、渋谷に異変がおきる。
106内部はダンジョンと化す。
戦闘はキャラが前面に出た、ボイス満載のにぎやかなもの。
なんだか任天堂らしくないが、「剣・槍・斧」の三すくみで弱点をつき、
一気に畳みかけるシステムは、FEとアトラスRPGがさりげなく融合。
ボス戦では、強力なスキルで対抗。
たとえば「つばさ」と「エレオノーラ」がユニットとしてデビューしていれば、
コンビ技が発動、二人組として華麗に歌い踊る。
息はぴったり、大ダメージ!
水瀬いのりと佐倉綾音なんて、ごちうさファン的に夢の姉妹ユニットだ。
おっぱいへのこだわりはデビサバスタッフだからか
だいぶ「手強いシミュレーション」から遠ざかったのは否めないが、
戦闘後のレベルアップ画面ではおなじみのファンファーレが鳴り、
「ピンピンピン!」と成長の喜び(もしくはガッカリ)を噛みしめる。
これまで公開された情報で印象ぶかいのは、ガッツポーズがにあう、
シーダを髣髴させる「織部つばさ」の、ヒロインらしいたたずまい。
まっすぐな瞳(とゆたかな胸)に心うばわれる。
これぞFE、そしてアトラス系RPG。
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古味慎也/HiRock『EX-ARM』
EX-ARM
作画:古味慎也
原作:HiRock
掲載誌:『グランドジャンプ』(集英社)2015年-
単行本:ヤングジャンプ・コミックス GJ
[ためし読みはこちら]
「かわいい婦警さんに逮捕されたい」とは、だれしも思うことだろう。
古典として『逮捕しちゃうぞ』があるし、『攻殻機動隊』も言うなれば婦警もの。
凸凹コンビの活躍をえがく本作『EX-ARM』は、前者の系統に属す。
『EX-VITA』(2011-3年)のゴールデンコンビ「美波とアロマ」が、
パラレルワールドに復活したことは、このジャンルの訴求力をものがたる。
古味慎也の特徴は「画力の高さ」。
曖昧な批評でもうしわけないが、ほんとに高いのだから仕方ない。
アンドロイドのアロマが、運動制御機能をうしない横たわる様子。
絵だけで、サイバーパンク的状況がつたわるでしょ?
僕はどちらかとゆうとダクトを抜けるシーンにうるさい方だが、
パースのとりかた、接写具合、いづれも賞讃にあたいする。
きれいなおっぱいだ……
比較的サービスシーンの多い作品なのに、あまり卑猥じゃないのは、
表情のつけかたがうまく、たとえば美波ならドジだけど気さくだったり、
各人のイキイキした個性がつたわるからと思う。
上記の魅力は『EX-VITA』の延長線上にあるもの。
しかし当ブログを検索したら、『VITA』の記事を書いてなかったと判明。
画力に舌をまいたが、いまいち感動しなかった覚えがある。
原作者つきの『ARM』でも、「だからなに」的な置いてきぼり感を除去できてない。
主人公さえ「ついていけない」と愚痴るストーリーラインを、
読者が把握するのは骨が折れるが、とにかく追いかけるしかない。
たとえば「鹿王院さん」のお尻。
ストリートチルドレンの「小春流ちゃん」も捨てがたい。
能天気もクールビューティも優しいお姉さんもロリも、
なんでもこなす描き分け能力は、すでに巨匠の域に達している。
彼女たちに捕まるなら、終身刑でもかまわない。
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小説4 「ジュリア」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
飛行機は、ビッグベンの本社がある福岡空港についた。
エーリッヒ・フォン・マンシュタインがタラップへ出ると、外は曇り空。架空の「エリック・ウルフ」なる名義のパスポートでイミグレを抜けた。入国目的はビールの販売。
タクシー乗り場へむかうエスカレーターを降りてすぐ、今度は上りのエスカレーターに乗る。慌てて目を伏せた男が目にはいる。MI5に所属するスパイキャッチャーだろう。すくなくとも三人に監視されていた。
エーリッヒは通行人にぶつかりながら全力疾走、自動改札機をとびこえ、ドアの閉じかけた地下鉄へ割りこんだ。
尾行を撒けたかどうかわからない。敵地では、見られているのを前提で行動する。
大濠公園駅で降車、トイレの洗面台の裏にテープで留めたワルサーPPKをとる。スライドを引き、薬室が装填されてるのを確認。こわばった顔が鏡に映る。銀髪の青年は口元をやわらげた。
福岡城の外濠跡にボートがうかぶ。ジョギングする利用者もいる。
肩紐で吊った黒のワンピースを纏う女が、ベンチに座っていた。雑誌を逆に折り片ページだけにする。こちらを目視した合図だ。
警戒をたやさず移動し、木立が遮蔽物になる片隅に二人は腰をおちつけた。
「きょうも世界は平和ね」
暗号名「ジュリア」は、児童遊園をながめつつ足を組む。身長百五十センチと小柄だが、パンプスのヒールが高いためそう見えない。逮捕歴があり、金銭目的でアイゼンに協力している。
「ファリーヌで敗北したのに」エーリッヒが言う。「民衆は動揺していない。最終的な勝利を確信してるんだ」
「でもわざわざ」ジュリアが微笑する。「アイゼンのエースが乗りこんでくるとは驚いたわ。かわいい妹のためかしら?」
「最重要の仕事は私自身がやる。他人の能力は当てにしない」
ジュリアはiPhoneの写真をみせた。太った男の見栄えの悪いヌードだ。ビッグベンの〈マネージャー〉であるチャーチルが、美少年と裸で同衾している。この爆弾は敵を震撼させるだろう。
女スパイは電話をしまう。「じゃ、値段の話をしましょ」
「裏を取らないといけない。この少年と接触できるか?」
「うふふ、用心ぶかい男ってすきよ」
ロココ調の装飾がほどこされた、自宅ではない施設のベッドで、ウィンストン・チャーチルが葉巻をふかす。この悪癖のせいで火事になりかけたのは一度や二度ではない。
ガウンを羽織るジュリアが浴室から出た。この売春宿「アメージング・アメジスト」で働いている。
「随分飲んだのね。お楽しみはこれからなのに」
「酒は吾輩の精力剤なのだよ」
チャーチルはグラスにシャンパンを注いで差し出すが、女は無視し、黒の下着を身につける。
「毒殺を恐れてるのか」肥満した中年男が笑う。「サスーリカのスパイは抜け目ない。臆病なほどだ」
「やればわかるわよ。毒がいかに有効な暗殺手段か」
サスーリカは東北・北海道を統治する〈ブランド〉。西側からみて神秘的な文化と、美女が多いことで知られる。
ちかごろ、高名な〈トレーダー〉のレフ・トロツキーが殺されたばかり。
「ほら」ジュリアはハンドバッグから資料を取り出す。「マンシュタイン君の情報よ。あと『アシカ作戦』ってゆう上陸作戦も探知したわ」
「ふん、なにをいまさら」
チャーチルは見向きもしない。諜報戦においてビッグベンは役者が上。銀髪のガキも泳がせておき、スパイのネットワークを一網打尽にするつもり。
葉巻を放り捨てたチャーチルはPS4を起動、銃を撃ちまくるFPSのゲームをはじめた。セックスより戦争が好きな男だった。
「男の子はこれだから……」
ジュリアは溜息つきながら葉巻を拾い、アロマランプに火をつけ、龍涎香を焚きしめた。媚薬の効果に反応した男の呼吸がせわしくなり、皮膚が黒ずむ。
「坊や、ゲームよりステキなことをするわよ」
ジュリアは、ブルドッグ化し尻尾を生やしたチャーチルに首輪をつけ、紐でつないだ。
「グルルル」チャーチルが牙を剥く。「薬物をつかうのは卑怯だワン!」
「おしおきが必要ね」
鞭で巨大な尻を打たれ、チャーチルは卑屈に、しかし嬉しげにキャンと鳴いた。
「ねえ」ジュリアは昂奮している。「ビッグベンの戦略はどうなってるの? いまのままじゃヒトラーに征服されるわ」
「売女め! 貴様らが共倒れを画策してるのは筒抜けだワン!」
「おたがいさまでしょ」
「世界の海を支配するビッグベン帝国は、永久に不滅だワン! ネコ娘の独裁政権など、ほっとけばすぐ自滅するワン」
ジュリアは肩をすくめ、首を横にふる。なにからなにまで面倒みなきゃいけないのか。
「それにしてもマンシュタイン君、イケメンだったなあ。おまけに強いらしいし」
「ひ弱なガキだったワン」
「あれ、尻尾巻いて逃げたと聞いたけど。アイゼンの男性って魅力的よね。頑固一徹で漢らしい」
「ビッグベンの男が世界一だワン! 思い知らせてやるワン!」
チャーチルは首輪をつけたまま、灰の散らばるベッドにジュリアを押し倒し、腰をなすりつけた。
女は天井の染みを数えながら、次に打つ手をかんがえていた。
エーリッヒとジュリアは、小倉にあるサンダウン競馬場の立見席でレースを見物している。
上流階級の社交場なので、エーリッヒはグレーのスーツ、ジュリアはぴったりした赤いドレスを着ている。腕をくんでカップルのふり。
「そのスーツ」ジュリアは楽しげ。「キマってるじゃない。やはり貴族なのね」
「君こそ、この場によく馴染んでいる。調査書を信じれば、庶民の出のはずだが」
「女に階級は関係ないわ。美貌さえあれば」
エーリッヒはくりかえし腕時計をみる。大帝国を崩壊させる爆弾、ジェイコブとゆう少年と対面する予定の三時がちかづいた。
「まったく」ジュリアは苦笑い。「アイゼン人は時間にうるさいんだから。せっかくならデートを満喫しましょ……あ、来た来た」
写真でチャーチルに抱擁されていた、十五六歳の少年が入口で右顧左眄する。そこに突如プラカードを掲げる集団があらわれ、ジェイコブを巻きこんだ。
「い、いけない!」珍しくジュリアが慌てる。
彼らは右翼団体で、少数民族【ヴァンピーア】の排除を主張していた。それに該当する競馬場のオーナーに嫌がらせしようと襲撃。
「吸血鬼がいるぞ!」
ジェイコブに頭から赤のペンキをかける。片目が赤いとゆう身体的特徴から【ヴァンピーア】と認識した。
「人の血を吸う」などは迷信だが、他民族に半ば信じられている。金融業やマスコミの経営者などに多いため、「世界を操る陰謀を企む」との俗説も蔓延。
「くだらん」エーリッヒが吐き捨てる。「『紳士の国』も看板倒れか」
ジュリアは心ここにあらず。「え、ええ……そうね」
「少年は気の毒だが、すぐ離脱しよう。接触はまた、時と場所をかえて」
女スパイは狂騒を凝視する。意識にジェイコブ以外の事象がのぼらない。
エーリッヒが無理に引くと、その手が激しく震え、しかも傷だらけなのに気づいた。これは偶然のケガではない。拷問の痕だ。
赤いドレスの女は手を振り払い、バッグから出した円筒を握り、一直線に突き進む。
三日月状の光刃が出現。サスーリカの【パンツァー】である「KV」だ。かがやく戦斧のひと振りで、数十人の右翼は差別主義の夢をみたまま、現世から飛び去った。
「ジュリア!」エーリッヒはワルサーを構える。「おまえはいったい何者だ」
血だまりに立つ「ジュリア」は軽侮の表情をうかべる。
【パンツァー】の運用には、メンテナンスに一個大隊規模の組織が必要とされる。末端のスパイがあつかえる道具ではない。
銀髪の狼はワルサーPPKの全弾七発を撃ちこむ。九ミリ弾で防禦は破れない。ただの目眩ましだ。
反射的に手で顔を覆った女の左目から、カラーコンタクトが落ちた。紅の瞳がぎらつく。彼女も【ヴァンピーア】だった。
エーリッヒはすばやく弾倉を交換、一発だけ撃ち、パニック状態の群衆にまぎれ退却した。
「ヤーコフ、ごめんなさい……ごめんなさい」
宿に戻ったユリア・スターリンは、弟の顔をタオルで懸命に拭く。十九歳のときから三年にわたり、サスーリカの〈マネージャー〉を務めている。鉄のカーテンに隠れ、正体不明のフィクサーとして暗躍したが、年貢の納めどきが来た。
「姉さん、もう泣かないで」被害者のヤーコフが慰める。
「そばに置いた方が安全と思ってたら、あんな下衆に絡まれるとは……。おねがいヤーコフ、愚かな姉さんを許してちょうだい!」
ユリアは罪悪感に耐えきれず、床に突っ伏し号泣。恐怖政治をしく権力者の、意外な素顔だった。
「そんな、許すだなんて。僕は姉さんと祖国のためなら、いつでも命を投げ出す覚悟です」
「おお、ヤーシャ! わが天使!」
ひしと抱きあう美しい姉弟の姿は、汚れた裏の顔を微塵も感じさせない。
ユリアは堅く復讐を誓った。
これほど気高い魂を冒涜する連中には、相応の報いをくれてやる。たとえ全世界を敵に回しても。
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『カードキャプターさくら』OP曲・坂本真綾『プラチナ』 木之本桜の「思い」
画像クリックでYouTubeへ飛びます
アニメ『カードキャプターさくら』3期OP曲である、坂本真綾の『プラチナ』は、
当時は転調をくりかえす複雑さに仰天したが、いま聞くとそれほど異端ではない。
Aメロでは、まだ十代だった坂本の硬めの歌唱が聞ける。
秋月奈久留
Bメロは知世・ケルベロス・小狼など、仲間たちを紹介。
アクースティックギターからピアノが主調となり、リズムは前のめりに。
螺旋階段をのぼるみたいに、じわじわメロディもたかまる。
空に向かう木々のようにあなたを
まっすぐ見つめてる
「木々の様にあなたを見つめる」は、シュールな言い回しだ(作詞:岩里祐穂)。
舞い上がる桜吹雪がうつくしい(絵コンテ:浅香守生)。
OPアニメで花瓣はストリングスにあわせうごく。
「風」を象徴させているのだろう。
みつけたいなあ かなえたいなあ
『プラチナ』とゆう歌に描かれる主人公はやや消極的。
さくらの表情もぼんやり。
重力に逆らい空を飛んだことへの感動はなく、夢のなかでまどろんだまま。
歌声はサビだからといって張り上げない。
風にのり、ふわふわ舞う花瓣そのもの。
信じるそれだけで
越えられないものはない
ストリングスの音階にそい花びらが落ちる。
思春期の少女の感情みたく不安定。
しかし純粋さをました声は弦楽器にちかづき、からみあう。
歌うように奇蹟のように
「思い」が全てを変えてゆくよ
さくらが両手でそっと拾い、胸に抱きしめたもの、それが「思い」なのだろう。
風の様に透明で、花びらの様にはかないけれど、なにより大切なもの。
花瓣がハート型にみえるのも、イコノロジー的に胸をときめかす。
16年たっても、みづみづしい叙情性。
絵と楽器と言葉と歌声がひとつになった端麗な美意識は、
21世紀における象徴主義の模範として、ふかい影響をおよぼしている。
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スプラトゥーンからデビルズサードへ 板垣伴信の哲学
板垣伴信は、WiiU『デビルズサード』が8月4日に発売されると告げる動画で、
本作が「マージ(合体)」でなく「アッパーコンパチブル(上位互換)」だと強調した。
彼がこれまで作ってきた『NINJA GAIDEN』などの「メレーコンバット」と、
オンライン多人数対戦の「シューター」の単なる抱き合わせでなく、
両ジャンルでやれたことを何ひとつ切り捨てない「全部乗せ」と言いたいらしい。
おなじくWiiUで成功をおさめた『スプラトゥーン』が、
「ストラテジー」と「シューター」の骨格だけ抜き取りドッキング、
まったくあたらしいジャンルを創出したのと好対照といえる。
自己の世界観をさらに開陳。
『孫子』を意識し、「戦わずして勝つのが兵法の基本」とのべる。
マルチプレイでは「クラン」に所属し戦うが、
そこでは軍事同盟などの外交が大きな役割をはたす。
「ゲームにはある程度のリアリティが必要」とゆう板垣は、
メカニズムがもとめるならプレイヤーキャラクターをイカにする任天堂とは、
かなりことなる哲学の持ち主の様だ。
スパイ行為までゲーム構造にとりこんだ。
どこかのクランへ潜入し、盗んだ情報を売ったりできる。
逆に「裏切り者がいるぞ!」と書いたビラをばら撒き、敵を撹乱したりも。
本作のマルチプレイで、できないことはなさそう。
例外はセックスくらい。
クランは報酬をえることで陣地の強化が可能。
トーチカ・補給所・監視カメラ・コンテナ・兵舎・天守閣など……。
せっかくつくった要塞が、敵の航空支援で爆破された。
これは腹が立つ。
板垣いわく、「人間の慾望は創造と破壊」。
破壊に対しては、さらなる破壊でこたえたい。
フルーツで玉入れ競争とか、お遊び要素も用意。
WiiUが1台あれば、2015年におけるゲームの一番おいしいところを味わえる。
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堂本裕貴『りぶねす』2巻 無敵の西条飛鳥
りぶねす
作者:堂本裕貴
掲載誌:『マガジンスペシャル』(講談社)2014年-
単行本:講談社コミックス マガジン
発情する兄におびえ隣家へ駆けこんだカスミ。
アスカはベランダを飛び移り、幼なじみのテツに制裁をくわえにゆく。
ぴょんぴょんと身軽なフットワーク。
アスカの果敢なアクションで、第2巻の幕はあがった。
目玉はアスカとの水族館デート。
漫画で表現された少女の可憐さの極北ともいえる、
「妹ものの決定版」の1巻から、ぐいと「王道ラブコメ」へ舵をきった。
男まさりの剣道少女のくせ、いつになく女らしいワンピース姿。
前結びにしたシャツはスポーティで、個性をひきたてる。
本作において、妹カスミは色慾の対象にならない。
ひとつ屋根の下に暮らしてるから、おめかしに感動することもない。
幼なじみにはかなわない。
全世界待望の温泉回では、カスミの豊満なカラダを思う存分たのしめる。
でも水族館デートの印象が鮮烈すぎ、イマイチたかぶらない。
よくできたフィギュアだなと原型師の腕に舌をまくが、それ以上感情移入できない。
念願の添い寝イベント。
ホラー映画をみせるなどの戦略が奏功。
ただ隣からアスカがみていた。
軽蔑の眼差しで。
もはや「本妻」の余裕すらただよわす。
天使すぎる妹は、このまま空の彼方へ飛んでってしまうのか。
妹愛好家の僕は、幼なじみキャラのあまりの吸引力に困惑した。
イルカだって、キスしたくなるくらいだもの。
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梅木泰祐『あせびと空世界の冒険者』3巻 モチベーション
あせびと空世界の冒険者
作者:梅木泰祐
掲載誌:『COMICリュウ』(徳間書店)2014年-
単行本:RYU COMICS
いよいよ敵のアンドロイド「ダリア」が大暴れ、読者の期待にこたえる第3巻。
襲撃時の大胆不敵なたたずまいとか、ゾクゾクさせられる。
梅木泰祐は「絵になる絵」を描く作家だ。
フリルつきの見せパンをとらえるアングルの趣味のよさとか。
「フィールドデバイス」機能をもつ左目を破壊。
顔半分をうしなってもなお、彼女はうつくしい。
監禁された「あせび」は厳重に緊縛される。
小道具としての鎖が、切迫した構図をうむ。
だれだって助けてあげたくなる。
本巻はイチャイチャ成分すくなめなので、単行本おまけで補充。
最高のサプリメントだ。
飛空船のダクトをぬけ、あせびさん奪還をはかるユウ。
いざってとき体を張らなきゃ、魅力的なヒロインに愛される資格はない。
立体迷路状になっており迷うが、ここでも漫画的誇張が効いている。
僕の好みから言うと、物語の進みがゆっくりぎみかな。
いづれにせよ、内発的な動機につきうごかされる、
イキイキとした登場人物たちが、われわれ読み手を引き摺る傑作だ。
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小説3 「西方電撃戦」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
五月十日朝、〈トレード〉がはじまった。
エイダ・ヒトラーとマンシュタインは西方へ長駆、摂津国に侵入していた。大企業「ファリーヌ」が支配する地域だ。
マンシュタインがたてた「黄作戦」は、彼自身が敵主力と交戦する間にエイダが中国山地を迂回、搦手の斜面から奇襲をかけるとゆうもの。
カーキ色のジャケットを着たエイダは、鵯越の「斜面」を俯瞰する。「断崖絶壁」にしか見えず、震える手から【シュトック】が落ちた。
和服の少女があらわれ、袂をおさえつつそれを拾う。
「ヒロ!」エイダのツリ目が見開かれる。「なぜこんなところに。あぶないぞ!」
「居ても立ってもいられなくて……。助太刀したいのはやまやまですが、足を引っ張りたくないので、せめて応援だけでも」
エイダの涙腺がゆるみ、色白のヒロヒトの顔がぼやけて見えた。
「ファリーヌなんて楽勝さ。ワインばっか飲んで浮かれてる連中だもん」
「でも、世界最強の〈ブランド〉と聞きます」
ナデシコやアイゼンなど、ガイスト技術により伸長し、国家機能を吸収するに至った私企業を〈ブランド〉とよぶ。
「老いた巨人だよ。共感主義に毒されてもいる。兄者の作戦はいつも完璧だから、今回も絶対勝つ。ヒロ、来てくれてホントありがとな」
エイダは華奢な両腕でヒロヒトを抱きしめた。ふりむいて【パンツァー】を起動。身長より長い両手剣の「Ⅲ号」だ。
慣性制御でスピードを殺しながら、金髪の少女は「老いた巨人」の背面へ駆け降りる。
のこされたヒロヒトは、友人の後ろ姿が一ノ谷の森に吸いこまれるまで見送った。
「よし、わたしはわたしの戦いをがんばろう!」
ショルダーバッグから『地球の歩き方』や『るるぶ』をとりだす。爺の目を盗んでファリーヌに遠征したのは、夢にまでみた高級パティスリーをおとづれるため。一生に一度あるかないかの機会、雨が降ろうが槍が降ろうがあきらめない。
〈トレード〉勃発をうけ、あたりを兵士がウヨウヨする。自分の素性は知られてないにせよ、目立つ和服を着たのを後悔した。
筒型のケピ帽をかぶった、見たことないほど長身の軍人が、部下を叱りつけている。二メートルはありそう。ヒロヒトは視線をおとし、早足で通りすぎる。
「マドモアゼル」軍人が呼び止めた。「御両親とはぐれたかな? 我々が保護してさしあげよう」
「ノン、メルスィ。すぐそこのホテルへ戻るだけですから、お構いなく」
巨漢は口髭を撫でた。ちかくに宿泊施設などない。だが娘の物腰は高貴な身分を感じさせる。自分の態度が不躾だったかもしれない。
「これは失敬。拙者はファリーヌの〈トレーダー〉で、シャルル・ド・ゴールと申すもの。貴嬢の力添えができたら、この上ない喜びです」
ヒロヒトの作り笑いが引き攣る。ありがた迷惑な行為は、えてして断れない。
ついにエイダの足がとまった。もはや断崖絶壁どころではない。奈落だ。川の流れが水しぶきを立てつつ百メートル下の滝壺へ落ちる。
暗算で単純な物理演算をおこなう。無理だ、確実に死ぬ。
爆音が轟く遠方に目を凝らすと、マンシュタインがルクレルク戦車の砲撃をうけている。つづいて敵の〈トレーダー〉が光の剣で斬撃。銀髪の青年はサーベルのⅣ号を振るい、三人相手に孤軍奮闘する。
ちっともこわくない。兄者の作戦は完璧だもん。
エイダは宙に身をおどらせた。
頬に地面の感触が。まだ死んでない。
立たなくては。ここは戦場だ。
「あッ」
脳を串刺しする激痛が走り、エイダは崩れ落ちた。右の爪先があらぬ方を向いている。
落ちていた枝を添え木にし、べそをかきながら骨折の応急処置をした。
殺到した歩兵小隊が、遠巻きにFAMASを構える。エイダはⅢ号を再起動、みえない傘で5・56ミリ弾の雨をふせぐ。
「逆落とし」でバッテリーは50%を切った。守備一辺倒ではジリ貧だ。
設定をいじり防禦のガイスト効果を捨て、すべて機動力に割り振る。
「うにゃああああああ!」
歴史に永遠に特筆されることになるその突進は、ただ一撃で敵を恐懼せしめ、ナポレオン以来の栄光のグランド・アルメを全軍崩壊させた。
上機嫌のヒロヒトは、歩きながら五つめのマカロンを頬ばる。カラフルで味もさまざま、やめられない、とまらない。
「ファリーヌって、スイーツまでおしゃれ!」
「甘味のため、わざわざナデシコから遠出するとは、貴嬢も舌が肥えてますなあ」
ガトーにパンにエクレアにショコラにギモーヴ……。店ごと買い占める勢いで欲ばったお菓子の袋を、ド・ゴールは両手ではこぶ。最初は怖いと思ったが、やさしい人だった。
ファリーヌで恋人をみつけるのもいいかもしれない。全世界の女子の憧れ!
ふと、銃の射撃音や砲弾の爆発音がこだまするのに気づいた。
「そういえば」ヒロヒトは我に返る。「アイゼンが攻めてきましたよね。大丈夫でしょうか」
「ぬはは、ジャガイモ食いの山猿など恐るるに足りませぬ。この『ソミュア』をみれば尻尾巻いて逃げ出すでしょう」
ド・ゴールが自慢する【パンツァー】は、刀身が波打つ異様な形状のフランベルジュ。
「なんで真っ直ぐじゃないんですか?」
「肉をザクリとえぐって痛めつけるんですよ」
「それはちょっと残酷かも……」
エイダが光の剣をかまえ、ヒロヒトの正面に立っていた。息が荒く、憔悴の面持ち。ジャケットは返り血に染まる。
「おいデカブツ」エイダが低音で唸る。「いますぐヒロを離せ!」
「エ、エイダちゃん」ヒロヒトは慌てる。「これはちがうの……」
普段は猫に似て可憐なエイダが、サーベルタイガーのごとく八重歯を剥き出して襲いかかる。ド・ゴールは腕を負傷し、すたこら退散。
「親切なおじさんだったのに……」
ヒロヒトは残りのスイーツを持っていかれたことを嘆いた。
エイダとマンシュタインによる「電撃戦」は連合軍を蹴散らし、長州の下関まで追い詰めていた。もうひと押しで完全勝利が手にはいる。
ふたりは接収したファミレスで軍議をひらいている。冷静沈着なマンシュタインが激昂しテーブルを叩く。
「追撃を緩めるなどありえん! ここで敵戦力の中核を潰さねば、すぐ復讐がはじまる。〈トレード〉のことは、専門家である私に全権委譲しろ」
「兄者はミリオタ発想をやめろ!」エイダは一歩も引かない。「ビッグベンと全面戦争になれば勝てっこない。経済力が違いすぎる!」
ビッグベンは九州・四国地方を治める〈ブランド〉。世界の海運を牛耳る超大国だ。エイダは、〈マネージャー〉に就任したばかりのウィンストン・チャーチルと和平を結ぶつもりだった。
「チャーチルは」マンシュタインは邪険に言う。「『戦争の犬』と渾名される好戦的な男だ。講和になど応じるものか。アディ、わかってないのはお前の方だ」
「フォン・マンシュタイン! 余に対する忠誠の誓いを、卿は忘れたか!?」
銀髪の青年に流れる軍人の血は「忠誠」とゆう単語に反応、瞬時に表情を硬化させた。ブーツの踵をぶつけ、右手を突き出す。
「ハイル・ヒトラー!」
灰色の目に憎悪が宿っている。エイダは出血するほど唇を噛みしめた。
暗雲たちこめ烈風とどろき、関門海峡がはげしく渦をまく。
骨折したエイダはヒロヒトの肩を借り、チャーチルと対峙。背広を着た、肥満した四十代の男だ。〈マネージャー〉にしては年を食っている。
チャーチルがニヤつきながら尋ねる。「そのおかしな服の女は何者だ?」
「はじめまして」ヒロヒトは靡く黒髪を抑えつつ微笑。「ヒロヒトと申します。ナデシコの内親王です。貴国とはかつて〈コントラクト〉を結んでいた縁もありますし……」
「ナデシコ? 知らんな、どこの村だ?」
和装の姫君は愕然とした。駆け引きで無知を装ってるのかもしれないが、いづれにせよ大国の傲慢さに威圧された。
エイダは「あたいに任せとけ」とウィンク。
「ミスター・チャーチル、理解してほしい。アイゼンに〈トレード〉をする意志はない。余はビッグベンの人々を尊敬している」
嘘ではない。すぐれた統治機構をもち、ガイスト技術で産業革命をおこし、各地の植民地を運営し莫大な富を築く。彼女が愛するアイゼン以上に優秀な〈ブランド〉と思っていた。
「小娘、我輩を誑かすのか」チャーチルは嘲笑。「貴様が世界征服を企んでるのは周知の事実。いい子ぶるなら、盗んだ越中や越後を手放せ!」
「数百年にわたりアイゼンが治めた土地を取り戻しただけだ。盗んだと言われるのは心外だ」
「クンクン……野望の臭いがするワン」
チャーチルの呼吸が急に不規則になる。顔色が変わり完全に褐色に。
彼は四十一歳のとき脳外科手術を受け、人工的にガイスト適性を手にいれた。その副作用として、昂奮するとブルドッグと化す。
「チャーチル、話を聞け! たがいの利害は一致してるはず。力を合わせ、共感主義に対する壁にならないでどうする!?」
「うるさいワン! 植民地を持っていいのは超大国だけだワン!」
そのときサーベルが閃き、エイダの背後から飛び出したマンシュタインが、ジグザグの動きで斬りつける。チャーチルは即座に【パンツァー】を起動、光の盾でふせいだ。圧倒的な防禦力を誇る「マチルダ」だ。
ブルドッグの喉笛を食いちぎらんと、銀髪の狼は息もつかせぬ連撃をしかける。しかし機敏なチャーチルは一瞬の隙をみて、救援にきた軍用ヘリのリンクスへ乗りこんだ。
空模様は暴風雨にかわった。号泣するエイダは泥濘に両手をついて叫ぶ。
「戦争はなにも解決しない! なぜわかってくれないんだ!」
かける言葉のないヒロヒトは、むせぶ背中をそっと撫でつづけた。
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我孫子祐『東のくるめと隣のめぐる』2巻 虚々実々
東のくるめと隣のめぐる
作者:我孫子祐
掲載サイト:『ComicWalker』(KADOKAWA)2014年-
単行本:角川コミックス・エース
[1巻/同作者の『スライムさんと勇者研究部』1巻/2巻/3巻/4巻/『アンズー』]
TSUTAYA東久留米駅北口店だろうか。
御当地もの要素と、女子のかざらないファッションとゆう、
本作の特色をワンペアそろえた魅力的な扉絵。
塚原さんのロールトップのブーツがかわいい。
妹のくるりちゃんはガチャをあけるのに苦戦中。
何がはいってるか気になる。
かつてオトコオンナだったのに、お嬢さまに変貌した「翼」が2巻の中心。
塚原さんの愛猫アフロに海苔をあたえる。
ペットの好物まで知ってることで、親密さがつたわるいいシーンだが、
黒いものが黒いものを食べる絵のつたわりづらさに困惑。
我孫子祐の作品は分類がむつかしい。
いや、ことさらに新奇だったりシュールだったり淡白だったりしないし、
本作も三角関係ラブコメとか、むしろ古典的ジャンルへ寄せてるけど。
逆だし
しかしババア軍団から「ドリカム状態」とからかわれ、腰砕けに。
たとえるなら亜脱臼的な外しかた。
女子3人のゆるゆるトークのたのしさは、『スライムさん』以来のお家藝。
ただ12話は、ハロウィーン衣装でババ抜きしながらなのがミソ。
「ゲーム」が進行してゆくのが感じられスリリングだ。
15.5話は4コマに挑戦。
冒頭の扉絵みたいな、大ゴマの説得力が作者の強みと思ってたので意外だ。
笑顔にグッと迫るカメラワークはさすがだけど。
本巻唯一の見開きページは、最後の17話に。
このもどかしさ。
着ぐるみにはいったヒロインをどう攻略しろと。
あいかわらずゆるゆるだけど、よりしたたかに手強くなった本作。
ガチャでSSRを引くのなんて目じゃない。
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タツヲ『アルノサージュ 生まれいずる星へ祈る詩』完結
アルノサージュ 生まれいずる星へ祈る詩
作画:タツヲ
原作:GUST
発行:講談社 2014-5年
レーベル:シリウスKC
ガストから発売されたゲームの前日譚となる、オリジナルストーリーが完結。
原作ファンに独占させるには惜しい、すばらしい作品だった。
おそらく背景などの資料が大量に提供されてるのだろうが、
ファンタジックなSF世界を緻密に構築する画力に、2巻でも脱帽した。
仲間の精神世界へ潜入する「ジェノメトリクスダイブ」を無事終え、
キャスとデルタの絆はよりつよく、よりふかまった。
絵がキレイなだけの漫画じゃない。
アクションも本作のみどころのひとつ。
棒術で敵の攻撃を弾きながら、指示をだすラチェット。
アニメの動画マンだった作者の特質が出ているシーンだ。
そしてメカの描写。
禁断兵器「XR41」自体よく描けているが、
見開きにラチェットの表情がカットイン、緊迫感をたかめる。
2巻はラチェットの母が登場。
命とひきかえに街を守ろうとする、娘の決断をうけいれる。
涙を假面のしたに隠しながら。
なんてドラマチックなのだろう。
漫画の醍醐味がはちきれるほど詰まった全2巻。
みじかい作品だが、伝説のはじまりとして歴史にのこるだろう。
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小説2 「ディアンドル」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
「口のなかで肉汁がほとばしる!」ヒロヒトが絶叫。「本場のソーセージの味がこれほどとは! ほら、爺もいただきなさい」
「姫様」東條英機は小声でたしなめる。「食べてばかりいないで、ナデシコを代表する自覚を持ちなされ」
ふたりは軽井沢にあるエイダ・ヒトラー所有の別荘に来ている。中部地方を統治する企業「アイゼン」の有力者がつどい、ヒロヒトの歓迎会をひらいた。
「グーテンアペティート!」エイダが六個のビールジョッキを手にやってきた。「ヒロ、たのしんでるか?」
「ダンケ、たのしいパーティをありがとうございます。それ、すてきな衣装ですね」
エイダは袖なしの赤い胴衣を着て、下は長めのスカートにエプロン。
「ディアンドルってゆうんだ。じゃ、なにかあれば遠慮なく言ってくれよな」
東條にジョッキを渡し去っていった。
「エイダちゃん、かわいいなあ」ヒロヒトは溜息をつく。「若いのに気配りできるし、ほんと魅力的なひと」
「彼女が〈マネージャー〉に就任したのは」東條がジョッキを手に言う。「いまの姫様とおなじ十歳です。そこから破竹の勢いで経済を復興させ、領土を恢復しました……もしもし、話を聞いてますか?」
和服の少女の視線は、お目付役の手元のビールに釘づけ。
「お酒は絶対だめですよ! 姫様はハメを外しすぎです! あ、あそこにマンシュタイン氏がいます。いろいろ教わりましょう」
十四歳のエイダ・ヒトラーはアイゼン全体を切り盛りする〈マネージャー〉で、十八歳のエーリッヒ・フォン・マンシュタインは戦闘の専門家である〈トレーダー〉だ。
銀髪の青年が【シュトック】を起動すると、しなやかに湾曲した輝くサーベルとなる。
「わたしの『九七式』とは」ヒロヒトが言う。「すこし形がちがいますね」
「これは『Ⅳ号』だ」マンシュタインは無表情。「攻撃・防禦・機動力ともにすぐれている。索敵や通信の機能もそなえるこの【パンツァー】が、現代の戦術の中心だ。東方のテクノロジーは未熟だから、学んでゆくといい」
「よろしくお願いします」
露骨に見下され腹がたったが、ヒロヒトは愛想よくした。はやく豚肉の煮込みのアイスバインを食べに戻りたい。
「ところで」姫君が話題を変える。「昼間に現れたミノタウロスは何だったのですか? アイゼンはあんな恐ろしい怪物が出没するんでしょうか」
「ガイスト鉱を採集しに迷宮に潜ってたんだが、バッテリー切れだってのに、ウチのバカなじゃじゃ馬娘が……」
気配を感じて振り向くと、エイダがビールジョッキを傾けていた。
「だれがバカなじゃじゃ馬娘だって?」
「えいらちゃん!」ヒロヒトが凭れ掛かる。「わたひはねえ、〈マネージャー〉とかそうゆうのがイヤなんれす! もっと自由がほひい! フツウの女の子みたく、オシャレとか恋愛とかひたい……」
どうしてもとせがまれ、一口だけビールを嘗めさせたら撃沈した。
「いまのままでいいよ」エイダは姫をソファへ引き摺った。「みんな噂してるぞ。ヒロの黒髪と着物がうつくしいって」
「わたひはえいらちゃんみたく金髪にしたいんれす! でも爺がはんらいするの! えいらちゃん細いし、足長いし、うらやましくてうらやましくて……」
エイダはブラウスの胸元をおさえつつ、広間の中央をながめた。東條がディアンドル姿のアイゼン美女にかこまれている。コルセットで絞って強調された巨乳に鼻の下をのばす。
行儀にうるさいくせに、自分はナデシコ男児の恥をさらすのだから世話ない。
「男って」エイダが言う。「やっぱああゆうスタイルが好きなんだろ。こんなガリガリじゃモテないよ」
「別にモテたくなんかないれす! えいらちゃんみたいになりたいの!」
「酔ってるとはいえ、可愛いこと言うなあ。よし、明日は長野市内を案内してやろうか」
「本当!?」ヒロヒトの目が輝く。「うれしい、ぜひ!」
エイダは、女子の会話に関心しめさないマンシュタインに話題をふる。
「あ、兄者も一緒にいくか? え、えい、映画をみるとか……」
「ふん」マンシュタインは鼻で笑う。「どうせゲッベルスが作った、くだらんプロパガンダ映画だろう。だったら家で私のブルーレイを見るといい。戦術の勉強にもなる」
ゲッベルス本人がこの場にいるのに平気で悪態つくから、彼は人望が薄いのだった。
憤慨したエイダはエプロンを床に投げ捨て、庭へ出ていった。マンシュタインはきょとんとして肩をすくめる。
「マンシュタインさん」ヒロヒトが言う。「エイダちゃんの衣装、褒めてあげました?」
「いや」
「似合ってたよと、あとで言ってくださいね。約束ですよ」
広大な森の上にひろがる夜空を、星がケーキのトッピングの様に飾りたてている。
十四歳の〈マネージャー〉はプールサイドで、ブラウスの袖で鼻を拭いた。
「エイダちゃんとマンシュタインさんは」ヒロヒトが背後から声をかける。「実の兄妹なんですか?」
「兄者は甲州の名門貴族の生まれなんだ。身分違いだよ。五年前に養成校で、あたいの指導係になって以来の腐れ縁さ。当時から兄者は天才の誉れ高かった」
「エイダちゃんは、マンシュタインさんのことが大好きなんですね」
「そ、そんなわけないにゃあ!」
いきなり突き飛ばされ、ヒロヒトはあやうく水を張ってないプールに落ちかけた。
「だ、だれがあんな軍事オタクを!」エイダは両手の人差し指をつける仕草。「でもまあ、大事なビジネスパートナーとは思うけど……」
ヒロヒトにとり、世襲の〈マネージャー〉の家系に生まれたことは重荷だったが、似た年恰好の娘がその職を務めつつ、自分の気持ちに正直に生きる姿に胸が熱くなった。
「わたしアイゼンに来てよかった。ここでなら、ずっと探してたものが見つかりそう」
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高木秀栄/草下シンヤ『REVOLT』
REVOLT
作画:高木秀栄
原作:草下シンヤ
掲載サイト:『Comic Walker』(KADOKAWA)2014年-
[高木秀栄の前作『ねりこちゃん造形中!』の記事はこちら]
戦争ゲームが得意な高校生「成瀬晃」がその腕前を買われ、
革命請負企業に利用されるとゆう話。
芝村裕吏の『マージナル・オペレーション』に似ているが、
学園モノ要素がある分だけ、本作の方がより漫画的。
知らぬまに殺戮の片棒をかつがされた成瀬は苦悩するが、
組織から監視役の「ソフィア」が学校に送りこまれ、逃げられない。
「謎の転校生との接近」とゆうラブコメイベントでもある。
「ゲーム画面」に幼なじみの「宝珠(ほうじゅ)」の父親があらわれる。
アフリカで武装勢力の人質となった。
それでも「ぽー」は気丈にふるまい、日直の仕事をこなすため登校。
前作『ねりこちゃん造形中!』でもおもったが、高木秀栄は画力がたかく、
メリハリのきいた演出もたくみで、ときおりハッとさせられる。
注目すべき作家だ。
各国の革命軍をひきいて暴れまわっても、所詮はただの高校生。
日常ではつまらない教師ひとりに服従せざるをえない。
どうにもならない現実。
僕も小説の題材にしたのでわかるが、「革命」はフィクションにしづらい。
あらゆる政府の活動は、政権維持を最優先するわけで、
革命は理論上ありえない現象なのだ。
勿論、崩壊寸前まで弱体化した政府も存在するが、
それを相手に戦うのは「弱い者いじめ」に見えてしまう。
あと革命を海外へ輸出してる場合かともおもう。
国内需要は十分なはずだ。
しかし僕は『マージナル・オペレーション』より本作を推したい。
ぽーの造形のみごとさ。
狂いのない手の描写にあきらかなデッサン力。
胸なんかぺったんこなのに、肉感的でやわらかそうにみえる。
かわいさとゆう正義をつらぬく、これもひとつの革命だろう。
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『きんいろモザイク』OPの比較
2期
現在2期が放映中の『きんいろモザイク』のオープニングをくらべてみる。
仲良し5人組が駆けっこしたりジャンプしたりのアニメ部分や、
ホーンをとりいれた軽快な曲は似ているが、特色は微妙にことなる。
僕は1期のOPがすきだった。
たとえばサビのところで、カレンがくるっとアクセルジャンプを決めるところ。
ほとばしるエネルギー。
休み時間の会話での、ツインテの綾の笑いかた。
すこし離れてちょこんと座り、積極的に口を挟まないが、
でも話は全部聞いていて、いちいち反応が表情にあらわれる。
こうゆうコいるよなあって、ときめく。
2期の綾は、行儀よい座り方こそおなじだが、ポジションはセンターに。
「ガチ百合担当者」の地位を確立したのをふまえている。
1期は「キャラ立ち」させることに重点がおかれた。
わるくいえば5人はバラバラ。
2期は個性をたばねる一体感。
百合とゆうジェットエンジンが加速する。
よーするに、コーオツつけがたいデース!
ワタシのどアップがある分だけ、2期がキンサで勝利デース!!
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テーマ : きんいろモザイク
ジャンル : アニメ・コミック
小説1 「出会い」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
二〇四〇年四月二九日、午前十時。
東京と長野を一時間でむすぶリニアモーターカーが、鬱蒼たる森を無音で駆け抜ける。
十歳の女子であるヒロヒトは、萌黄色の着物をきて個室の席にすわる。駅弁の蓋をとり、山菜や川魚に舌なめずり。
トイレからもどった禿頭の男が渋い顔をした。東條英機はヒロヒトの教育係だ。
「姫様」老人が言う。「もう三つめではないですか。風景でも見ていなされ。これは旅行ではなく、留学なのですぞ」
「わかってます」少女は箸をとめる。「山の幸から風土をまなんでいるのです」
ヒロヒトの家系は、関東を支配する企業「ナデシコ」の創業者一族。不自由な生活から解放され舞い上がっていた。
「リニアに乗ったのは初めてでしょう」東條の説教が続く。「我々も『アイゼン』の技術力に追いつかねばなりません」
「とっても速いですね。飛行機みたい」
「物質の慣性を制御する『グスタフ機関』で、エネルギーを消費せず高速移動できます。開発者のアインシュタイン博士との面会を予定してますから、くわしくは彼女に聞けばよろしいかと」
「ええ、たのしみです」
特にアイゼンの食べ物が。ソーセージにアイスバインにザワークラウト……。想像するとますます食がすすむ。ところが調子に乗りすぎ、胸焼けがひどくなった。
「う……気持ち悪い」ヒロヒトが腹をおさえる。「爺、窓を開けてください」
「固定されてますよ! 吐きそうならトイレで……」
「ダメ、立てない。もう無理。おねがい、電車止めて」
リニアが急停止した。窓の外にのどかな田園がひろがる。
規則的な地響きとともに車両が揺れる。線路に降りた乗客が、悲鳴をあげ逃げまどう。
姫君が訝る。「なにが起きたの? わたしの声は運転手に届いてませんよね」
「鹿でも轢いたんでしょう。爺が見て参ります」
四人用の個室にのこされたヒロヒトは、獣の足が窓を横切るのを見た。鹿でなく馬や牛の様だ。ただ幅三メートルはある。
「姫様!」東條が転がり込む。「すぐ逃げなくては! あれはミ……ミノタウロスです!」
手をひかれ車外へ出ると、牛の頭をもつ巨人が斧を振り回し、人間をむさぼり食っている。ヒロヒトは恐慌をきたした人の流れに巻きこまれ、階段で地上へむかう。
アイゼン軍の戦車や装甲車が到着した。歩兵が群衆をみちびき安全を確保。レオパルト2の140ミリ滑腔砲が火を噴く。敵は苦痛のあまり咆哮する。
さらにユーロファイター・タイフーン二機が天空を切り裂き飛来、空対地ミサイルでとどめを刺した。
だが、仁王立ちするミノタウロスのシルエットが爆煙に浮かぶのを、兵たちは見た。かすり傷ひとつない。牛の怪物は砲身をつかんで戦車を投げ、戦闘機を撃墜した。
放心状態のヒロヒトが呟く。「信じられない……これが幻獣の力なの」
「いそいで!」東條は姫君を装甲車に引き入れようとする。「死にたいのですか!?」
「爺、【シュトック】を出してください」
「なにを血迷いごとを!」
「わたしには弱き者を守る義務があります。あなたは逃げなさい」
十歳の少女の横顔に、帝王の風格が兆すのを東條はみた。これが血かと思った。元軍人の彼は臆病ではないが、心のどこをふりしぼっても、こんな勇気は出てこない。
お目付役はうやうやしく、菱形模様に糸が巻かれた筒をささげる。姫は巨獣を睨みながら受け取る。長い髪と着物の裾が風にたなびき、黒のレギンスがあらわに。
「ところで」東條がふと尋ねる。「【シュトック】の使い方は御存じで? これは三種の神器のひとつ。もし壊れでもしたら、爺は切腹どころでは済みませぬ」
ヒロヒトは無言。電源の入れかたも知らない。そもそもスイッチが見当たらない。
ミノタウロスが涎を垂らしながら近づく。下水の様な悪臭がただよう。
やばいかもしれない。
東條は叫んだ。「姫様のバカーッ!」
どこかから甲高い声がひびく。
「風雲急を告げるこの世界。不安にかられた民衆の、ヒーローを呼ぶ声が聞こえる。そう、我こそが救世主エイダ・ヒトラーだッ」
十四歳の娘は電柱のてっぺんから飛び降り、片膝つく着地のポーズをきめた。ミリタリージャケットの下にパーカーを着込み、下はショートパンツ。
ナデシコからの客人ふたりは唖然。
「ふふふ」自称救世主が笑う。「突然のスーパースターの登場に言葉もないか」
ヒロヒトは思わず口走る。「だ、だれ!?」
自尊心を傷つけられたエイダは【シュトック】を掻っ攫い、起動した。反りのある電光の刃がとびだす。
「なにこれ、ショボ……。アイゼンより五年は遅れてるな」
「失礼な!」ヒロヒトが抗議。「この『九七式』はナデシコの技術の結晶で……あ、あぶない!」
ミノタウロスの斧に襲われるが、エイダは振り向きざま太い腕を斬り落とした。すぐさま【シュトック】の力で瞬間移動し跳躍、喉を掻き切る。斃れた巨獣の体重で、信濃の大地が震えた。
「あっはっは……クッソちょろい! これでがっぽりガイスト鉱ゲットだぜ」
高笑いするエイダの全身を、背後からミノタウロスの手が包む。致命傷を負ったとはいえ、まだ息がある。細身の娘は必死にもがくが、力ではかなわない。
和服の姫君は、足元に転がる刀をとった。さわった途端、壊れた水道管の様に光刃が暴れだす。
ヒロヒトは焦る。「爺、どう調節したらいいの!?」
「わかりません、わたしは軍政家だったんです!」
血塗れの怪物が立ち上がり、エイダを噛み砕こうとしたとき、縦にまっぷたつに切断された。
フィールドグレーの軍服を着た銀髪の青年が、右手に光のサーベルを、左手に少女を抱えている。エーリッヒ・フォン・マンシュタイン、十八歳。アイゼンを代表する戦士だ。
「まったく」マンシュタインがぶっきらぼうに呟く。「あまりに無謀で、世話の焼ける総統様だ」
「兄者!」エイダは首にしがみつく。「また助けてくれたのか、ありがとうにゃあ!」
打って変わった態度でゴロゴロと猫の様に甘え、キスの雨をふらせる。異変の連続についてけないヒロヒトと東條は放ったらかし。
「そういや」エイダは客人の存在を思い出す。「ちゃんと挨拶してなかった。ヒロヒト、ようこそアイゼンへ。変革してゆく世界の目撃者になれるなんて、君は幸運だな!」
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登場人物・あらすじ・用語集
登場人物
【ナデシコ】(関東地方)
ヒロヒト(10歳)※年齢は2040年時
世襲の〈マネージャー〉の家系の生まれ。うつくしい黒髪をもち、和装をこのむ。
マジメな性格だが、食べることに貪慾。ちょっとムッツリ系の女子。
東條英機(65歳)
ヒロヒトの教育係をつとめる元軍人。「爺」と呼ばれている。
忠誠心に厚いが、やや頼りない。つるっぱげ。
【アイゼン】(中部地方)
エイダ・ヒトラー(14歳)
救世主を名乗る〈マネージャー〉。愛称は「アディ」「あーちゃん」など。
金髪のショートカットで、ツリ目と八重歯がチャームポイント。
部下のマンシュタインを兄と慕っている。
エーリッヒ・フォン・マンシュタイン(18歳)
アイゼンきっての不敗の〈トレーダー〉。銀髪。貴族の家柄でブアイソ。
エイダにつれない態度をとる。
【リバティア】(近畿地方)
フランクリン・ルーズベルト(20歳)
支持率の高い〈マネージャー〉。
急性弛緩性麻痺を患い、下半身不随に。車椅子を利用。
妻エレノアがいるが、愛人を多数かかえている。
ドロシー(ダグラス)・マッカーサー(16歳)
「軍神ドロシー」の異名をもつ〈トレーダー〉。
誰もが認める美少女で、目立つゴスロリ衣装を戦場でも着用。でも実は……。
ルーズベルトに弱みを握られ、頭が上がらない。
【ビッグベン】(九州・四国地方)
ウィンストン・チャーチル(44歳)
演説を得意とする〈マネージャー〉。肥満体型。
きわめて好戦的で、エイダを挑発する。無類の酒好き。
【サスーリカ】(東北・北海道地方)
ユリア・スターリン(22歳)
狡猾でしたたかな〈マネージャー〉。人種差別を受ける【ヴァンピーア】でもある。
スタイル抜群で色仕掛けで男を操る。身長が低いのがコンプレックス。
あらすじ
10歳のヒロヒトと14歳のエイダ・ヒトラー、
ふたりの少女の運命の出会いが、全世界を揺るがす戦いの火蓋を切る。
剣や魔法や幻獣といった超自然的な力を駆使し、
チャーチル・ルーズベルト・スターリンらの陰謀にたちむかう。
「真珠湾」や「電撃戦」で敵の圧倒的な物量を撥ね返しつつ、
ふたりは愛とプライドのため命をかけ奮闘。
だが一方で「絶滅収容所」や「特攻作戦」など、負の側面も露わに……。
第二次世界大戦とファンタジーを融合させたバトル小説。
用語集
〈ブランド〉
ガイスト力学の発展で肥大化し、国家機能を吸収した私企業。
〈マネージャー〉
〈ブランド〉を取り仕切る経営者。年齢よりガイスト適性が重視される。
〈トレード〉
ガイスト鉱をめぐる〈ブランド〉同士の闘争。その専門家を〈トレーダー〉と呼ぶ。
〈コントラクト〉
〈ブランド〉間の取り決め。条約。
【ガイスト力学】
物理情報を記憶し転送する特性をもつ元素「ガイスト鉱」に、
人間の脳がどうアクセスするかを解明した物理学の分野。
アリース・アインシュタインの論文『一般ガイスト理論』で飛躍的に発展。
世界経済の約50%がこの技術に依存する。
【シュトック】
ガイスト鉱を携帯し、安定的にアクセスするための端末。
おもに通信装置や武器として用いる。
【パンツァー】
攻撃・防禦・機動・索敵・通信といった機能をそなえるガイスト機器。
【シュトック】から電光がほとばしり、剣や槍などの武器の形をなす。
アイゼンの「ティーガー」、サスーリカの「T-34」が知られている。
【マリーネ】
大量のガイスト鉱を消費して創り出された幻獣。
きわめて強力で、〈トレード〉の行方を左右する。
ペガサスの「赤城」、キュクロプスの「大和」などが有名。
【ルフトヴァッフェ】
ガイスト鉱から生成した【リング】から放たれる魔法。
ナデシコの「零式」、アイゼンの「メッサーシュミット」などがある。
【ヴァンピーア】
「吸血鬼」と蔑まれる被差別民族。血を吸うのは伝説で、根拠はない。
「片目が赤い」とゆう身体的特徴をもつ。
歴史的経緯から金融業などに携わることが多く、
「世界を支配する陰謀を企む」と偏見をもたれることも。
〔シコーラ〕
ガイスト適性の高い年少者を選抜するための教育機関。
能力によっては10代で〈マネージャー〉に抜擢される。
〔ラビリーント〕
ガイスト鉱山に形成された迷宮。幻獣が棲息する。
〈トレード〉では要塞として機能。
〔リヴァリューツィヤ(共感主義革命)〕
2017年にサスーリカでおきた、帝政を倒した社会運動。
ほかの〈ブランド〉はその波及を恐れている。
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スバルイチ『勇者が死んだ!』 むねきち『入ってますよ、HENTAIさん。』
近刊2作から、漫画家がいかにして読者の存在する現実世界と、
物語がくりひろげられるファンタジー世界をリンクさせるかみてみよう。
スバルイチ『勇者が死んだ!』(裏少年サンデーコミックス/ためし読み)は、
農夫である主人公が、収穫した大根にニーソを履かせる場面からはじまる。
あきれる幼なじみの「ユナ」。
職業・性癖・人間関係などがあきらかに。
主人公が脚フェチなら、その慾求の対象を描けないといけない。
ユナのふとももは、筋肉と脂肪のバランスが絶妙。
そんなこんなで、読者は作品世界へとりこまれる。
悪魔の吐く溶解液で主人公の肉が溶けたのに、ヒロインは服だけとか。
本当はスバルイチは、シリアスでホラーテイストの現代ものをやりたかったが、
担当編集者の注文にあわせ、ドラクエインスパイア系のお気楽エロコメにした。
ホームページの「好きな映画100」をみると、かなり渋い趣味の持ち主とわかり、
作中のギミックの活かしかたなどに、お馬鹿ノリだけでない素養をみてとれる。
荒ぶるアーティスト魂をごまかす方便としてのファンタジー、これはこれでいい。
お次は、むねきち『入ってますよ、HENTAIさん。』(ドラゴンコミックスエイジ/ためし読み)。
なんの変哲もない女子中学生「真理」が、
ツボからあらわれた少女「ビビア」によって、魔法少女的なものに変身。
しかしこの衣装はただのコスプレなので、特殊能力はゼロ。
自称精霊のビビアちゃんとの怪しい同棲生活がはじまるが、
札束で買収された両親は歓迎。
この世でもっとも強力な魔法、それはおカネ。
足腰立たなくなるまで真理をペロペロ舐めつくし、魔力を補給するビビア。
JCと百合があれば、そこはもう十分にファンタジー世界。
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守月史貴『捻じ曲げファクター』『神さまの怨結び』
守月史貴『捻じ曲げファクター』(ジェッツコミックス/ためし読み)のヒロインは、
ラッキースケベを発生させる特殊体質のもちぬし。
「必然的な御都合主義」とゆうパラドクスをたのしめる。
守月史貴は女体描写に定評ある作家。
「紗知」のおっぱいは杏仁豆腐を髣髴させる。
ふにふにして含水率高そうで、でも適度な歯ごたえがあり、口にふくめば甘そう。
キスシーンもねっとり濃厚で、息ぐるしいほど。
幼なじみを救うためとはいえ、視覚的にも物理的にも積極性がひかる。
同作者の『神さまの怨結び』(チャンピオンREDコミックス/ためし読み)。
いじめられっ子の「櫻」が、大嫌いな同級生から強引に巨乳を吸われる。
タイトルにある「怨結び」とは、嫌いな人間とあえてセックスし、
その相手を消滅させる呪いのこと。
男女の交わりに禁忌性が附与され、読者をより一層昂揚させる。
ミステリアスな少女「叶(きょう)」による夜の公園でのパイズリ。
フライパンの上のバターみたくとろけるおっぱい。
こちらの体内のすべてが吸収されそう。
路面にうつる叶の素顔。
水のごとく癒やす女体で、男は溺死するまであそぶ。
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おいでよ FEの森
『ファイアーエムブレムif』の新要素、「マイキャッスル」の動画が公開された。
簡単にいえば、ステージの合間の拠点となる城下町をデザインする機能だ。
配置した武器屋や道具屋では、仲間が店番をしている。
戦闘だけでなく接客までさせられる、劣悪な労働環境だ。
「竜脈値」を消費することで施設はレベルアップ。
生産の概念もあり、田畑から食材、鉱脈から鉱石が手にはいる。
城下町は自由に歩きまわれる。
たしかに主人公の視点からながめる風景は、
ひたすらマス目で攻防をくりひろげてきたFEとしては斬新。
すれちがい通信でつながったプレイヤーとは、どちらかのマイキャッスルで戦闘。
都市計画は、利便性と防御力のバランスをかんがえる必要がある。
スマホなどのオンラインストラテジーではよくある仕様だが、
SRPGにくみこんだ例は稀ではないか。
どこをどういじくろうが、FEはFE。
温泉にはいったら先にカザハナさんがいて怒られたり。
でも支援レベルがAくらいになれば、混浴もロック解除されるはず。
そうにちがいない。
絶対そうにきまってる。
画面を直接タッチし、仲間との絆をふかめる遊びも。
さすがにこれは古参ファンが激怒しそうだし、
僕も「いまさらラブプラスかよ」とおもわなくもない。
だがやるしかない。
われわれプレイヤーには崇高な使命があるのだから。
こんなにお兄ちゃんが好きなのに、相棒としか見られてないサクラさん
すべては愛する妹たちのために。
サクラさんに温泉で頬ずりされるときを夢みて、
天翔けるペガサスの様に、僕の心は白夜王国へむかうのだった。
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テーマ : ファイアーエムブレム
ジャンル : ゲーム