森尾正博『ラグビー部女子マネ革命 なづなのお願いっ!!』

 

 

ラグビー部女子マネ革命 なづなのお願いっ!!

 

作者:森尾正博

掲載誌:『ヤングアニマル嵐』(白水社)2014年

単行本:ジェッツコミックス

 

 

 

もし弱小ラグビー部に、かわいい女子マネージャーがはいったら。

後光さすヒロイン「朝日なづな」が革命おこす。

 

 

 

 

なづなはキレイ好きで、散らかってるのをみると、じっとしてられないタイプ。

机を掃除してもらった「大場先生」がスカウトした。

赤点だらけのテスト結果をもみけす条件で。

 

 

 

 

女子マネ効果は覿面!

部員のやる気に火がつき、嘔吐するまでランニング。

 

 

 

 

なづなには相手の目をじっとみつめる癖が。

天然か計算か、とにかく男をあやつるすべをしっている。

 

 

 

 

いがみあうフォワードの「飯田」とバックスの「速水」を仲直りさせたり。

ドラッカーなどの経営学をまなばなくても、

ムチムチのおっぱいがあれば、チームをおもうままマネジメントできる。

 

 

 

 

ラグビー漫画の難点は、15人以上の大所帯であること。

だが本作で名前が言及される部員は、上の副将ふたりと主将の「後藤」くらい。

安心してヒロインのおっぱいやパンツに集中できる。

 

 

 

 

クールな速水は、試合では眼鏡をはづす。

キャラ立てのうまさは、1974年うまれのヴェテラン作家ならでは。

中学時代は全国レヴェルだったが、いまはラグビーへの情熱をうしなっている。

 

 

 

 

関東でもトップクラスの強豪と練習試合。

スポ根おきまりの展開だ。

ただここでためされるのは、女子マネ効果が本物かどうか。

 

 

 

 

スポーツはそうあまくない。

パワーもスピードも技術も歯がたたず、圧倒される。

たのみの綱である速水は、肋骨をおったトラウマがよみがえり、足をすくませる。

 

 

 

 

前半だけで35点差。

速水と飯田のケンカも再燃する。

なづなのお色気作戦はなんだったのか。

 

 

 

 

大場先生は「ここの問題」だと胸をさすが、メッセージはつたわらない。

辯説で試合にかてたら、だれも苦労しない。

 

 

 

 

なづなは無力感をかみしめていた。

汗くさい男にチヤホヤされ、自分が勝利の女神かなにかとうぬぼれていた。

所詮はただの洗濯係だった。

しかし、そのおもいつめた表情は、部員たちを戦士の顔にかえる。

乙女の涙にふるいたたなかったら、男じゃない。

 

 

 

 

超ポジティヴな女子マネの視線でえがかれる、

あたらしいスポ根の世界は、単純素朴だがやけにアツい。




ラグビー部女子マネ革命なづなのお願いっ!! 1 (ジェッツコミックス)ラグビー部女子マネ革命 なづなのお願いっ!! 1 (ジェッツコミックス)
(2014/08/29)
森尾正博

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

原つもい『この島には淫らで邪悪なモノが棲む』

 

 

この島には淫らで邪悪なモノが棲む

 

作者:原つもい

掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2014年-

単行本:電撃コミックスNEXT

 

 

 

ところは人口数十人の「伊喜島」。

戸板に鎖でしばりつけられた主人公「梶浦」が、あやしい儀式のささげものに。

これは悪夢のシーンだが、物語のムードはでている。

 

 

 

 

梶浦は大学で民俗学を専攻。

勉強にはあまり熱心でなく、いじわるな教授にいつもおこられる。

気になるのはゼミ仲間の「夜戸ハル」さん。

あそんでる風じゃないけど、胸元のあいた服をきてたりするミステリアス女子。

 

 

 

 

やさしい夜戸さんの助け舟で、出身地の伊喜島をおそわった。

「観音姫」の伝承は調査対象にふさわしく、みなで孤島へむかう。

島民も宴会をひらいて歓迎。

特産品の「ヒモロギ」は、もちもちした食感がアボカドみたいでおいしい。

 

 

 

 

女たちは、観音姫の子孫といわれるだけあり美人ぞろい。

夜戸さんの妹らしき「海ちゃん」は、まだちっぱいけど将来有望。

こんなコにお酌してもらえるなら、移住してもいいかな。

 

 

 

 

宴もたけなわをむかえるころ、夜戸さんがイケメンにおそわれていた。

島では兄のオモチャだった。

そもそも住民全員が親戚でインセスト・タブーはない。

 

 

 

 

翌日、武装した島民が牙をむく。

調査団を生きたまま帰すつもりはない。

男ふたりはあっさり殺され、女は穢れのため監禁された。

 

『ひぐらしのなく頃に』や『月姫』などのノベルゲーをおもわせる、

民俗学をモティーフにしたサスペンスだ。

 

 

 

 

夜戸さんは「私を信じて」とゆうが、敵か味方かわからない。

そうこうするうち銃をもった美女軍団においつめられる。

島ギャルのクールなたたずまいにしびれた。

宴会でビクビクしてた海ちゃんは、実は女衆のリーダー的存在で、

虫けらでも処理する様に、よそものへの対処をきめる。

 

女性キャラは多彩でみなカワイイ。

21世紀の日本に、野蛮な因習にとらわれた閉鎖的な村なんて絶対ない。

近代国家なめてんのかといいたい。

でも本作はアリだ。

だって女の子は、永遠の謎だから。

 

 

 

 

梶浦をどう処理すべきか、女衆はきめかねる。

島民じゃないのにヒモロギへ耐性をもっており、殺すのはおしい。

幽閉されている「媛長様(ひめおささま)」に相談。

みためは幼女だが、不老不死らしい。

ロリ姫さまいわく、梶浦は島の救世主で、将来のわが伴侶。

 

 

 

 

「旦那さま」をよびつけ、さっそく御奉仕。

両手ふさがってるので足コキ。

 

絵柄は繊細で、筋書きはシリアスだが、本作はやたらエロい。

あえて引用しないが、乳首の描写のこまやかさは、成人漫画のそれに匹敵。

 

 

 

 

諸悪の根源であろう媛長様に、復讐心をぶつける。

窒息しながらゾクゾク大興奮する幼女。

SでもMでもない。

不死身のロリ姫はすべてに飽いており、刺激ならなんでもうけいれる。

 

 

 

 

普通の大学生が、無抵抗の娘を殺せるわけない。

「この島の王になれ」とささやかれる。

二度と外へでられないなら、せめて慾望をみたせ。

 

 

 

 

床にはあこがれの女性が、あられもない姿で失神している。

男が、王たるべき男が、うつくしい女をわがものにするのは当然。

もといた世界の倫理は、ここでは意味がない。

媛長様の煽動で、なにかが確実にこわれてゆく。

 

破壊力満点の要注目作だ。




この島には淫らで邪悪なモノが棲む (1) (電撃コミックスNEXT)この島には淫らで邪悪なモノが棲む (1) (電撃コミックスNEXT)
(2014/08/26)
原つもい

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

瀬野反人『ポイズンガール』

 

 

ポイズンガール

 

作者:瀬野反人

掲載誌:『月刊まんがライフ』(竹書房)2012年-

単行本:バンブーコミックス

 

 

 

オツムがたりないツインテの「ツン子ちゃん」に、同級生がテストの意義を説く。

あなたがこの世に必要かテストするためと。

正論だけど、毒キツすぎ。

 

 

 

 

ヒロインは「薬丸桃子」。

新種の蜘蛛にかまれ超毒舌のポイズンガールとなった。

自己申告によると、内面は心やさしい乙女だそうで、

とりあえず読者からの共感を担保している。

 

 

 

 

親切な「委員長」に対しても「ガリ勉ぼっちメガネ」よばわりと、

有吉弘行的攻撃性を発揮するが、メガネで鉄壁ガードされた。

なんだかんだで学園モノはたのしい。

 

 

 

 

ウェブ漫画出身の瀬野反人は、『残念博士』に『ふたりは牛頭馬頭!』と、

すでに角川書店から計5巻の単行本をだし、連載3本かかえる人気作家。

アマゾンレヴューをのぞいてみよう。

 

表紙の絵が日常に似ていたので買ってみましたが、全然面白くないです。

逆に腹がたちます。日常のパクリに思えます。残念博士だけに、残念です。

 

『残念博士』3巻

 

漫画の質にふさわしい打ち切り。ばっさり切り捨てた担当編集は有能。

このクズ漫画が全くつまらないのは言うまでもないが

この作者の漫画はどれもギャグ・画力・構成力と全てに欠けていて

雑誌に載せるのか不明なレベル。おそらく次回作は無いだろう。

★は1だが本当は★1つすらつける必要の無い駄作。買わない事を強く勧める。

 

『ふたりは牛頭馬頭!』2巻

 

尼の常識にてらしても、相当ひどい罵倒だ。

ギャグ漫画家は、すさまじい敵意を買いがちな職業。

 

 

 

 

そこでセーラー服である。

子供の全人格を否定する辛辣さを、中和できるから。

 

 

 

 

金魚を本気でdisってもゆるされる。

制服JKの発言なら。

 

「きらら」的な売れ線へはしったともいえるし、

ガワだけかえて作風をより先鋭化させたともいえる。

 

 

 

 

ウィトルウィウス的人体図におさまる薬丸さんには、宇宙的調和がある。

超人的な風情をかもしだす。

 

 

 

 

文化祭の出し物がきまらないので、HRの司会をまかされた。

壇上から聴衆をイジり倒し、ぐいぐいしきる。

無難な「クレープ屋さん」に決定。

 

 

 

 

「学園祭荒らし」にからまれたときのクレーム対応も、彼女の役目。

土下座しながらののしる。

薬丸さんさえいれば、天下泰平、商売繁昌!

 

 

 

 

学園モノの美点は、「テストされる存在」だった当時にかえれること。

自分は雑魚キャラじゃないと證明しようとする情熱をおもいだす。

気楽に毒をはいたり、はかれたりする自由もなつかしい。

きょうも笑顔で、ちょっとポイズン!




ポイズンガール 1 (バンブーコミックス)ポイズンガール 1 (バンブーコミックス)
(2014/08/27)
瀬野反人

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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ 

本居宣長とカール・マルクス

宣長44歳の自画像

 

 

本居宣長の思想はモダンだ。

たとえば歌学における「古今伝授」を否定する。

門外不出の秘伝なぞウソまみれと立證。

論争をこのみ、弟子からの批判すら歓迎した。

クニといえば藩をさす時代に、日本についてふかく思索をめぐらせた。

 

『源氏物語』の評論でも、藝術至上主義的な「もののあはれ」説で、

儒教や仏教にもとづく勧善懲悪的解釈を排撃。

 

 

賀茂真淵

 

 

師匠の賀茂真淵は、古代を絶対視する「下降史観」のもちぬしだった。

宣長が頓阿の歌集の註釈書をだしたときは激怒。

弟子が中世以降の歌書をよむのを禁じてたから。

 

 

宣長の生前に刊行された版本

 

 

孤独なたたかいゆえ、議論は過激となった。

狂信的ですらある。

「日本の歴史は179万年ある」とか、古事記や日本書紀の記述を信じこみ、

支那やヨーロッパの古伝説はすべてつくりごとと断じた。

かの国の華夷思想を逆手にとり、あちらこそ「西戎」とさげすんだ。

 

 

女三宮(西川祐信『源氏物語図』部分)

 

 

非合理性をついてくる批判者には、その合理性がまさに「漢意(からごころ)」だと反駁。

つまり記紀神話は、ミステリアスだからすばらしい。

理解不能だから、日本は日本たりうる。

 

 

43歳のカール・マルクス

 

 

『共産党宣言』と似た論法だ。

ブルジョアジーは、世界を自分たちの姿にあわせつくりかえた。

たえず社会の生産関係を変革しつつ、ありとあらゆるところを開拓、

世界市場をむさぼりつくし、産業からナショナルな基盤をうばう。

 

これに対しプロレタリアートは労働法など、まづ法の形で意志をとおす。

闘争はナショナルな次元からはじまる。

労働者は祖国をもたないから。

プロレタリアートは、みづからを民族として組織化しなければならない。

 

「ブルジョアジーとプロレタリアート」の図式は、「漢意と大和魂」の相似形。

 

 

ケムニッツにある東独時代のマルクスの頭像(撮影:Kolossos)

 

 

私有財産の撤廃などありえないと愕然とするブルジョアジーを、

「いまの社会の10人に9人は私的所有をみとめられてない」と追撃。

2011年のオキュパイ運動のスローガン「わたしたちは99%だ」にも、

マルクスやエンゲルスの詭辯すれすれの論理の残響がきこえる。

 

コミュニストの「女性共有制」は、道徳的反撥をよびおこす。

だがブルジョア諸君、あなたがたは公娼制度を利用しているのでは?

そもそも、たがいの妻を誘惑しあうブルジョア風俗こそ、婦人共有の最たるもの。

 

 

板倉梓『タオの城』(芳文社コミックス)

 

 

マルクスや本居宣長が虚空にえがいた図式は、いくつかの社会をかえた。

ぺしゃんこに破壊した。

議論での使い勝手がよすぎ、追随者にワガママ放題をゆるした。

 

儒教を奉ずる徳川幕府のもと、市井にあって孤軍奮闘しつづけた宣長は、

明治革命や太平洋戦争のプロパガンダに悪用された責任をとわれても、困惑するだろう。

たしかに天皇崇拝者だったが、当時の天皇がどこでなにしてるかまるで関心なく、

武家による支配を当然とみなしていた。

 

 

宇治川の匂宮と浮舟(秋野不矩画)

 

 

われわれに可能なのは、抑圧的な思想との闘争、ただそれだけ。







【参考文献】

田中康二『本居宣長 文学と思想の巨人』(中公新書)

高島俊男『座右の名文 ぼくの好きな十人の文章家』(文春新書)

カール・マルクス『マルクス・コレクション II』(筑摩書房)



本居宣長 (中公新書)本居宣長 (中公新書)
(2014/07/24)
田中康二

座右の名文―ぼくの好きな十人の文章家 (文春新書)座右の名文―ぼくの好きな十人の文章家 (文春新書)
(2007/05)
高島俊男

ドイツ・イデオロギー(抄)/哲学の貧困/コミュニスト宣言 (マルクス・コレクション)ドイツ・イデオロギー(抄)/哲学の貧困/コミュニスト宣言 (マルクス・コレクション)
(2008/03)
カール・マルクス

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テーマ : 哲学/倫理学
ジャンル : 学問・文化・芸術

秋★枝『Wizard's Soul ~恋の聖戦~』2巻 神経戦のはて

 

 

Wizard's Soul ~恋の聖戦(ジハード)

 

作者:秋★枝

掲載誌:『月刊コミックフラッパー』(KADOKAWA/メディアファクトリー)2013年-

単行本:MFコミックス フラッパーシリーズ

[1巻の記事はこちら

 

 

 

グランプリ四国2回戦の相手は「王子憲一」、通称「王子」。

名字そのまんま。

柔和な性格で、四国のTCG界ではダントツでモテる。

 

 

 

 

もともとソツのないプレイスタイルだが、それにしてもつよい。

クセのある「まなか」のデッキを完璧にうける。

まるで透視できるかの様に。

 

 

 

 

陰謀が進行していた。

まなかの恋敵「小林」がデッキレシピを密告。

不正行為だが、女の涙でいいくるめた。

 

 

 

 

2戦めは「デッキ破壊デッキ」で圧倒し、イーヴンに。

王子は動じない。

セリフや表情から、勝利を確信してるとわかる。

だがまなかは、それよりふかく読んでいた。

 

 

 

 

恋愛漫画の名手が、心理描写の腕をゲームの駆け引きに応用したのが本作。

場の主導権をにぎり、相手をコントロールする。

TCGと恋愛は、本質的におなじもの。

 

 

 

 

カードにふれるたび、亡き母とのゲームの記憶がよみがえる。

衰弱する母に手も足もでなかった絶望が。

どんな天才も、死そのものに駆け引きは通じない。

 

 

 

 

だから生者はつねに、死の天使の後手をふむ。

みぐるしい陰謀も、こざかしい戦略も、みづからの首をしめるだけ。

 

 

 

 

試合後、王子が敗因をたづねる。

まなかいわく、かれの言動に隙はない。

ただうしろのギャルの反応で、あれこれわかった。

 

 

 

 

1回戦で屈辱的にたたきのめした「ふとみん」と、

意外にしたしげな絡みがあったり、群像劇としての趣向がました第2巻。

 

 

 

 

猫デッキの使い手「綾小路ここな」も、人気がでそう。

 

 

 

 

だがなにより、勝てば勝つほど顔に影がさす一ノ瀬まなかは、

おそらく漫画史にのこる、印象的な造形のヒロインだ。




Wizard's Soul 2 ~恋の聖戦(ジハード)~ (MFコミックス フラッパーシリーズ)Wizard's Soul 2 ~恋の聖戦(ジハード)~ (MFコミックス フラッパーシリーズ)
(2014/08/23)
秋★枝

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

真中らぁらのアイドル犯罪 『プリパラ』8話

 

 

ドキドキ! 夏だ! 水着だ! プールでかしこまっ♪

 

テレビアニメ『プリパラ』第8話

 

出演:茜屋日海夏 芹澤優 久保田未夢 南條愛乃 田中美海

演出:小林浩輔

絵コンテ:沖田宮奈

脚本:福田裕子

監督:森脇真琴

シリーズ構成:土屋理敬

キャラクター原案:金谷有希子

キャラクターデザイン:原将治 Cha Sang Hoon

アニメーション共同制作:タツノコプロ DONGWOO A&E

放送:2014年

[以前の記事→3話/4話/6話

 

 

「ダブルブッキングだね~。ほんっとドジなんだからぁ」

 

クラスメイトとプールへゆくつもりが、妹の「のん」にいわれて、

きょうの2時からプリパラのライヴがあるとおもいだす。

 

 

 

 

アイドルの才能にめぐまれた「らぁら」だが、スケジュール管理能力が致命的に缺落。

のんがいなければ、とっくに廃業してたろう。

 

 

 

 

プリチケバッグと水着をもって、やおら立ちあがる。

両方ゆくつもり。

そもそも「ステップアップ」さえしらなかった(6話参照)らぁらに、

「ダブルブッキング」なんて、むつかしい言葉はわからない。

 

「よくばりだねぇ……」とあきれる妹。

 

 

 

 

スイカの水着をきて、夏のひとときを満喫。

 

 

 

 

めいっぱいハシャギながら、「なお」に重大な告白をするタイミングをうかがう。

 

 

 

 

日陰に食事を用意してもてなす。

できるだけ誠意をみせないと、逆鱗にふれるかも。

 

 

 

 

一番わるいのは、なおのプリチケを没収した「大神田グロリア校長」とはいえ、

プリパラでのアイドル活動を秘密にするのは、ずっと心ぐるしかった。

 

 

 

 

小5にしては気くばりできるらぁらでも、状況があまりに激変したため、

抜け駆けしたのをうちあける機会をうしなっていた。

これ以上ひきのばせない。

 

 

 

 

「なお、あのね……あたし、プ、プ、プリパ……」

「プリパラ!?」

 

 

 

 

「ほらみて、『プリパラTV』やってる!」

 

 

 

 

「あたし、すっごい好きなアイドルみつけたんだ。

そのコね、なんと『らぁら』って名前なの! 歌も笑顔もキラキラで……」

 

 

 

 

すでに手おくれだった。

なおを傷つけずにすむ方法はみあたらない。

 

 

 

 

それでもやるときめたらやるのが、真中らぁら。

心の底からあやまる。

 

 

 

 

親友をおもう気持ちは通じなかった。

悪気がなくても、嘘をついたのは事実だから。

プールサイドでとけてゆくジェラート。

 

 

 

 

「だいっきらい! うそつき! らぁらなんかきらい!」

 

予想よりはるかにはげしく動揺する、なお。

 

 

 

 

らぁらはちょっと調子にのってたかもしれない。

プリパラで成功しファンはふえたが、一方でさってゆく人もいるかもしれない。

それは、親友かもしれない。

 

 

 

 

だがここから、プリパラらしいノリのよさを発揮。

水中で号泣するらぁらのおデコに、バチーンと校則違反チケットがはられる。

 

「え、委員長!? でもあたし、校則違反なんてなにも……」

 

 

 

 

「あなたがしたのは校則じゃなくて、アイドル違反!

アイドルは泣き顔をみせてはいけないッ!!」

 

将来のアイドル検事が、アイドル犯罪を糾弾。

あわてて顔をゴシゴシこする、らぁら。

 

 

 

 

友達ひとりを笑顔にできなくて、大勢のファンを笑顔にできるわけない。

そのためには、自分が笑顔じゃなきゃいけない。

前向きじゃなかったら、あたしじゃない。

 

 

 

 

プリパラTVを通じて、なおへかたりかける。

 

「あたしが笑っていられたのは、あなたが友達でいてくれたからだよ。

笑顔でいられるから、いまこうしてアイドルの夢をおいかけられるの」

 

 

 

 

話すほどに思いはつのり、また泣きそうになるが、みれぃにフォローされる。

「わらってプリプリ~♪」

 

 

 

 

らぁらが本心をかたっているのは、画面ごしでもつたわる。

もとよりなおが怒ったのは、嘘をつかれたからじゃない。

プリパラをやってるのがうらやましく、おいてかれる気がした。

でもらぁらは、かわらずわたしを大切におもってくれてる。

 

 

 

 

第8話は、地味なクラスメイトとの日常エピソード。

なのに深遠なアイドル哲学が開陳され、みごたえあった。

 

 

 

 

「なおにわたしたいものがあって……はいっ!」

 

パキンと「トモチケ」をさしだす。

 

 

 

 

「そ、そんな、うけとれないよ。わたしトモチケもってないのに……」

「それでもなおにあげたいの!」

 

等価交換とか、いまのらぁらにはどうでもいい。

7話でそふぃからトモチケをもらったときのうれしさを、みんなとわかちあいたい。

 

 

 

 

「まってて、なお。あたし、校長先生にもみとめられる様なアイドルに、絶対なる!!」

 

まだ全38話中の8話にすぎないのに、毎回成長が感じられる。

瞳のルーメン数はもはや測定不能。

 

 

 

 

『ラブライブ!』組の優等生で30歳の南條愛乃と、

ド新人で20歳の茜屋日海夏のケミストリーもあざやか。

演じる役は小学生だが、普遍的な人間ドラマだった。




プリパラ Stage.3【DVDオリジナルプロモマイチケ付】プリパラ Stage.3【DVDオリジナルプロモマイチケ付】
(2014/12/05)
茜屋日海夏、芹澤優 他

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テーマ : プリパラ
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合   

タブーなきSRPG 『禁忌のマグナ』

 

 

10月2日発売のニンテンドー3DS用ソフト『禁忌のマグナ』は、

可憐な精霊たちを駆使してたたかう、シミュレーションRPGだ。

 

 

 

 

おなじくマーベラスの『ルーンファクトリー』シリーズの流れをくむ作品で、

既存のジャンルにシステム面で新風をふきこむ姿勢がみられる。

 

フィールドに「マス目」はなく、自分の行動順がきたら、

青い円のなかを自由にうごき、赤い扇型を敵へむけ攻撃。

 

 

 

 

狙いをうまく定めると、吹き飛んだ敵が「巻き添え」をくらわし、コンボ発生。

キャラごとにことなる移動や攻撃の範囲をつかいわけ、

従来のSRPGになかった戦略をあみだそう。

 

 

右下の「暴れん坊」などの称号は、特にバトルに影響しない

 

 

コンボを10以上つなげると「追撃」が可能に。

どうみてもこれはボウリング!

 

比較的アクションが歓迎されるいまのゲーム市場へ、

シミュレーション系の新規IPを投じるにあたり、無双っぽい爽快感をとりいれた。

庶民にしたしまれるスポーツから。

 

 

主人公や宿屋の名前を自分できめられる

 

 

ルンファク同様、「生活」をたのしむゲームでもある。

主人公は宿屋を経営しており、そちらの仕事が日々の中心となる。

 

 

 

 

仲間になった精霊は、住み込みのメイドとしてはたらく。

客より従業員の方がおおくて、採算とれるか心配。

 

 

 

 

開発会社のネバーランドカンパニーは倒産したが、

オトコ目線の「萌え」を全力で追求してるのに、

「ほのぼのファンタジーライフ」が女性からも支持された、

ルンファクのいいとこ取り精神は息づいてる様にみえる。

 

 

 

 

「ガブリエーレ」は、小悪魔系の精霊。

フィールド上のアヴァターはみな頭身ひくく、アメーバピグを連想させ、

小倉唯の起用も、『ロウきゅーぶ!』ファンの泣きどころをついてくる。

 

宿屋のイヴェントで絆がふかまると、強力な「奥義(マグナ)」を習得。

立ち絵はチマチマよくうごき、立体視でみるのがたのしみ。

 

 

 

 

コスチュームは「戦闘服」や「メイド服」のほかに、「水着」もある。

課金コンテンツにならないことを、ただ祈るばかり。

 

 

 

 

主人公の畑をてつだう、おしゃまな少女「シュガー」。

CVは井口裕香。

家族じゃないらしいが、「お兄ちゃん」呼び。

 

 

 

 

土いじりに微塵も関心ないボクは、ルンファクだろうと信長の野望だろうと、

ゲームで農業させられるのが、ひたすら苦痛だった。

キンマグよお前もか……とおもったら、すれちがい通信で勝手に作物がそだち、

それを収穫するとアイテムを入手できるらしい。

 

 

 

 

たたかうメイドな精霊たち。

いまから「攻略」を練らなくては!




禁忌のマグナ(予約特典「(禁)宿屋お泊りセット(潜入アイマスク+ドラマ >> CD)」 付)禁忌のマグナ(予約特典「(禁)宿屋お泊りセット(潜入アイマスク+ドラマ >> CD)」 付)
(2014/10/02)
Nintendo 3DS

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テーマ : ニンテンドー3DS
ジャンル : ゲーム

唯登詩樹『最近この世界は私だけのモノになりました……』

 

 

最近この世界は私だけのモノになりました……

 

作者:唯登詩樹

掲載誌:『グランドジャンプ』(集英社)2013年-

単行本:ヤングジャンプ・コミックスGJ

[同作者の『My Sisters』の記事はこちら

 

 

 

唯登詩樹の新作のヒロインが露出狂だとして、だれもおどろかない。

「還暦ちかいのに、あいかわらずエロいな」と感心されるだけ。

 

 

 

 

しかし本作の「美希」は露出こそおおいが、狂人じゃない。

ある朝めざめたら、世界から自分以外の人間がきえていた。

ランジェリーショップへ侵入し、大胆下着を失敬するなど、結構たのしんでる。

 

 

 

 

異変がおこるまえ、美希はビッチだった。

毎晩あそびあるき、ちがう男と寝た。

 

 

 

 

もともと倫理なんてどこ吹く風だから、他者がいなくなりタガがはづれる。

ひろったバールであちこち破壊したり。

 

 

 

 

むなしい。

バイブでしかイケない生活が。

人恋しさはつのり、涙が枯れる日はない。

 

 

 

 

唯一の生存者は、オタク風のデブだった。

デブぎらいの美希から、みたまま「デブ」とよばれる。

 

本来なら鼻もひっかけられない存在だが、

唯登詩樹版『不思議の国のアリス』たる本作では、白ウサギの役をつとめる。

 

 

 

 

バイブよりマシってことで、デブをセックスの道具にする。

いやいや応じられるのがおかしい。

「唯性主義」とでも称すべき作風が、ワンダーランドで純度をます。

 

 

 

 

生存者はもうひとりいた。

太陽と風力で発電し、美希をストーキングする男が。

 

 

 

 

ストーカーが男なのは、暗闇でのオナニー中、ぬるっとレイプされてわかった。

ヤルのは好きだけど、ヤラれるのは嫌いなので、美希は怒り心頭。

このナンセンスな恐怖はジャバウォック

 

 

 

 

大学生である美希の過去もえがかれる。

優秀な兄と比較され、ドロップアウトしてゆく過程が。

その兄との、一夜のあやまちが。

世界の異変も、おそらく兄が関係する。

 

 

 

 

美希がビッチになった原因は、すこし病的。

闇がおそろしくて、ひとりで夜をすごせない。

トンネルすらはいれない。

 

 

 

 

トンネルをぬけると、そこに美少女がいた。

 

唯登詩樹ならではのタガのはづれたエロスと、いつになく内面をえぐる物語が、

三月ウサギのお茶会みたいなハーモニーをかなでる、

ルイス・キャロルやアリス・リデルにもよませたい傑作だ。




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(2014/08/20)
唯登詩樹

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

笹目ヤヤのかがやき 『ハナヤマタ』7話

 

 

ガール・アイデンティティー

 

テレビアニメ『ハナヤマタ』第7話

 

出演:上田麗奈 田中美海 奥野香耶 大坪由佳 沼倉愛美 豊口めぐみ

演出:吉村文宏

絵コンテ:佐山聖子

監督:いしづかあつこ

シリーズ構成・脚本:吉田玲子

キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺敦子

色彩設計:大野春恵

原作:浜弓場双『ハナヤマタ』(芳文社刊)

アニメーション制作:マッドハウス

放送:2014年

[第3話の記事はこちら

 

 

笹目ヤヤ、中学2年生。

美人で成績優秀、特技はドラム。

なにをしても目立つタイプの女の子。

 

 

 

 

バンド活動では本気でプロをめざし、オーディションをうけたりしてる。

もっともっと、かがやきたいから。

いまのままじゃ全然満足できない。

 

 

 

 

だからバンドが解散したときは、羽をひきちぎられる思い。

受験とか彼氏とか、オーディションにおちたのに「記念になった」とか、信じらんない。

 

 

 

 

でも本当につらいのは別のこと。

翼が折れてもいつか癒えるし、またはばたける自信があるけど、

わたしが傷ついてるのに、かわらず世界はまわってるのが歯痒い。

LINEをみると憂鬱。

 

 

 

 

小学校以来の親友の「なる」が、よさこい部ではりきっている。

いまのわたしより、かがやいてる。

 

 

 

 

熱心にさそってくれるのは、正直うれしい。

みんな良い子だし、よさこいも生でみたら、わたしにむいてる気がした。

きっとたのしいし、かがやけるはず。

 

 

 

 

けどあのコたちは、わかってない。

わたしがよさこいへ転向できないことを。

 

もし鳴子をもって笑顔でおどりだしたら、バンドやってた自分への裏切りになる。

なるたちが羨ましかったのを、みとめることになる。

自分が嘘つきだったことになる。

 

もちろん、だれにでも嫉妬心とか、みにくい部分がある。

わたしも否定しない。

でも必死においかけた夢を、なかったことにできない。

たとえ傷口がひらいても、あらがいたい。

 

あのコたちは、わかってない。

 

 

 

 

身をかくしても、犬みたいな嗅覚で追跡してきた。

単純だから、わたしのためと信じこんでる。

「ありがた迷惑」って言葉をしらない。

 

 

 

 

「気持ちはわかる」「ずっとそばにいるよ」「愚痴でもなんでもつきあう」

 

やさしくされるほど、心がじくじく痛む。

もう耐えられない。

わかってほしくない感情だってあることを、わかってない。

きっぱり拒絶しないと、これが永遠につづく。

 

「……わたしを勝手に『なかよしごっこ』にまきこまないでッ!!」

 

 

 

 

気弱ななるは、このひとことが致命傷になるはずだった。

数か月前なら。

友達への侮辱とうけとったらしく、逆ギレする。

 

「ヤヤちゃんのバカーッ!!!!!」

 

 

 

 

「……そうやっていつもカッコつけて、孤独ぶって、本当はさみしがりやのくせに!

わたしわかってるんだからねッ!!」

 

ペットみたいに面倒みてあげて、ずっと従順だったなるは、

ひそかにわたしを観察し、よわいところを見抜いていた。

 

 

 

 

ながいつき合いだから、おかしくない。

おたがい、良いところも悪いところもしってる。

でもわざわざ口にする必要ない。

一番いわれたくないことを、人前でいうことないじゃない。

 

 

 

 

これまでヤヤは理性にしたがい生きてきた。

正しいとおもうことだけしてきた。

うまれてはじめて、ひとに純粋な悪意をぶつける。

親友を、できるだけふかく傷つけるため。

 

 

 

 

勿論、機械じかけの百合の神は、すべてまるくおさめる。

 

 

 

 

乙女らは、どれほどうつり気だろうと、「共感の輪」にいればつねに正義。

 

 

 

 

ヤヤの抵抗は無意味だった。

 

 

 

 

しかし校門の階段をくだりおわるまで、膝をつくのをたえたヤヤの自尊心は、

やはり感動的だし、百合に染まりきらない個性が、キラキラ異彩をはなつ。




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テーマ : アニメ
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: きらら系コミック  百合 

隋の煬帝の業績

 

 

奢侈、荒淫、暴虐。

史上最悪の中国皇帝といえば隋の煬帝だが、即位前は「孝行息子」でとおった。

自分をかわいがった母皇后の喪中も、絶食するフリで評判となる。

こっそり裏口から御馳走をうけとるとき、匂いが漏れないよう、

レトルト食品よろしく竹筒の蓋を蝋で密閉した。

文帝はすっかりだまされ、長男坊を廃太子とし、煬帝を後継者にえらぶ。

 

それにしても竹筒を密閉とか、支那の史書はおもしろすぎてこまる。

裏面工作があったにせよ、具体的手口が後世につたわるはずないのに。

 

 

 

 

煬帝による悪政の二大象徴が、運河掘鑿と高麗征伐。

 

とはいえ広大な地域をむすぶ水路は、物資輸送の便宜を飛躍的にたかめる。

諸国があらそう三国・南北朝時代は、大規模な交通網など夢想でしかなかった。

漢代の運河は底に泥がたまり使用不能だった。

煬帝が即位してすぐ着手したインフラは、現在も利用されている。

 

高麗征伐は、国内で楊玄感らに叛乱おこされたりして、三度失敗。

愚挙ではあるが、文帝や唐太宗もおなじ轍をふんでおり、煬帝ひとり責められない。

 

 

大運河開鑿の工事

 

 

楊玄感につづき群雄が雲のごとくたち、「帝」や「王」をなのる。

隋末ほどみだれた時代は、ながい支那の歴史でもほかにない。

次期チャンピオンの最右翼は、家柄よく才覚があり、中原を制した李密。

ただ東都洛陽をおとせない。

 

食料をうばわれた守将・王世充は、寡兵でヤケッパチの決戦をいどむことに。

切れ者の李密は、はじめ持久戦で敵の自滅をまつつもりだったが、

諸将の勢いにおされ、野戦へのこのこ打って出る主戦論に鞍替え。

けっきょく猫は窮鼠にかまれ、壊滅的敗北を喫する。

 

 

皇后らと水辺であそぶ煬帝

 

 

仁義なき戦いにあけくれる支那は混乱のきわみだが、

それはつまり、煬帝にも生き残りのチャンスがあるってこと。

とりうる戦略は三通り。

本拠地を、洛陽・長安・江都のどこにおくか。

 

最重要地点は東都洛陽だが、いちばん危険でもある。

物産ゆたかで風光明媚な、南方の揚州へおちのび、ゆるゆる力をためる作戦にした。

結果からゆうと、最後まで落城しなかったのは洛陽。

戦争はわからない。

 

 

絞殺される煬帝

 

 

詩人として名高い煬帝は、ニヒリストの傾向があったのか、

万一のときにそなえ毒酒をたくわえ、専門の役人に管理させた。

ところが、安全だったはずの江都で宇文化及らによるクーデタがおきたとき、

毒薬係はまっさきに逃げたため、あわれ煬帝は縊り殺される。

 

陳の後主へおくった「煬」とゆう悪名が、おのれの諡号として歴史にきざまれた。

 

 

煬帝の龍舟

 

 

運河で南北を経済的にむすびつけたのは煬帝の先見性だが、

唐太宗・李世民は、軍事面では変幻自在の騎兵戦術をつかいこなし、

議会制度に比すべき「諫官」をおくなど、政治面も改革。

いくらなんでも相手がわるい。

スーパースターの同時代を生きると、ひとは「史上最悪」にされるおそれがある。







【参考文献】

宮崎市定『隋の煬帝』(中公文庫)

同『大唐帝国 中国の中世』(同)

高島俊男『しくじった皇帝たち』(ちくま文庫)



隋の煬帝 (中公文庫BIBLIO)隋の煬帝 (中公文庫BIBLIO)
(2003/03)
宮崎市定

大唐帝国―中国の中世 (中公文庫)大唐帝国―中国の中世 (中公文庫)
(1988/09)
宮崎市定

しくじった皇帝たち (ちくま文庫)しくじった皇帝たち (ちくま文庫)
(2008/01/09)
高島俊男

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

上山徹郎『テングガール』2巻

 

 

テングガール

 

作者:上山徹郎

掲載誌:『月刊ヤングキング』(少年画報社)2013年-

単行本:YKコミックス

[1巻の記事はこちら

 

 

 

ド田舎にあらわれた天狗少女の物語、絶好調の第2巻。

町内のウワサにもなりはじめた。

 

 

 

 

本巻は、つねに2体1組で行動する幻獣、「母手父手(むしゅふしゅ)」を退治する。

何度たおしてもよみがえる、不思議な性質の謎をときながらの戦いだ。

 

 

 

 

小天狗里の歴史を調査中のイギリス人作家「ベイカーさん」に、

まぢかでテングガールの姿を目撃されるなど、人間関係もうごきだす。

 

 

 

 

地元の建設会社の娘「スミレ」が、小天狗里の名所を案内。

 

 

 

 

かつて舟運でさかえた「竜宮通り」の美観は、昔日のにぎわいをしのばせる。

スミレちゃんの郷土愛もうつくしい。

 

 

 

 

反抗期をこじらせる「ユウ」との距離はちぢまらず、

女子はいっぱいだが、百合っぽくベタベタしないリアルな青春群像だ。

 

 

 

 

飄々とした人柄で地元でも評判のよいベイカーさんが、

まねかれた夕食の席で、お爺ちゃんの不謹慎なジョークに激昂。

おなじく作家だった、自分の祖父の死を気に病んでるらしい。

 

 

 

 

マスコットキャラの「ジョー」と田園風景を駆けぬける。

バトル描写にはスポーツ的爽快感が。

 

 

 

 

田んぼの世話はそっちのけで、むだに精巧なカカシばかりつくり、

御近所からあきれられている「田所さん」が、本巻の陰の主役。

後継者不足で相続されず、荒廃してゆく農地とゆうテーマがある。

JKカカシが、くりかえしテングガールを邪魔するのもみどころ。

 

 

 

 

農村があれてゆく一方で、その再生もえがかれる。

幻獣はかならずしも敵でなく、「水の里」で人と鳥獣が共生するヒントかもしれない。

 

 

 

 

読後しみじみ感動し、ため息ついた。

『テングガール』にはすべてがあって、しかも唯一無二。




テングガール (2) (ヤングキングコミックス)テングガール (2) (ヤングキングコミックス)
(2014/08/16)
上山徹郎

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

世界超能力大戦

1973年のニューヨークでのユリ・ゲラー

 

 

スプーン曲げとゆう「超能力」は、超テレビむきの題材だった。

映像としては神秘的だが、お手軽で罪がない。

そのハンサムなイスラエル青年は、世界の価値観をかえた。

 

物理学者は、ふってわいた様な超能力ブームを黙殺するが、

1972年にスタンフォード研究所が、ユリ・ゲラーをまねき検證をおこなう。

糸をひいたのはCIA。

研究所は軍事技術もあつかうため、政府の依頼をことわれなかった。

 

たとえ一流の科学者でも、超能力を探究の対象とするのはむつかしい。

「再現性」に問題あるから。

特にゲラーはきまぐれで、管理された条件下で安定した結果をだせない。

超常現象が不安定なのは当然だろうが、単なる言い訳にもみえた。

それでも驚異的な透視能力についての論文が、『ネイチャー』誌に掲載される。

 

 

 

 

なぜCIAは超能力に首をつっこんだか?

当時ソヴィエトがESP研究に力をいれてたから。

これがナンセンスなのは百も承知だが、脅威となる可能性がゼロでない以上、

アメリカも研究に着手せざるをえなかった。

自称超能力者以外、デタラメと證明されるのをだれもがのぞんでいた。

 

ところが研究をひきついだ陸軍はノリノリで、実戦部隊を結成。

海軍や空軍とちがい、科学的根拠を気にしてたら陸軍軍人はつとまらない。

日本でも有名なジョゼフ・マクモニーグルらは、ソ連の原子力潜水艦「タイフーン級」や、

逆に米軍が極秘に開発していたステルス戦闘機などの透視に成功。

当時の公式文書が現在公開されている。

軍幹部は驚愕し、ふるえあがった。

「もしソヴィエトが、同等の能力をもつとしたら……!?」

 

1995年、あまたの「戦果」あげた超能力部隊が廃止される。

冷戦終結や、超能力より超能力的な情報技術の進歩などが理由だが、

そもそも遠隔透視がもたらす情報は、大して役にたたなかった。

通常の諜報活動をおぎなう参考程度にもちいられた。

過去にどれだけ偉業をおさめようと、超能力者の言葉に命はかけられない。

 

 

『ラブライブ!』1期12話(テレビアニメ/2013年)

 

 

さらに想像たくましくすると、ソヴィエトが冷戦にやぶれたのは、

エスパー兵士のハラショーな能力にたよりすぎたからかも。

 

 

城谷間間『妹はアメリカ人!?』(マイクロマガジンコミックス)

 

 

売られたケンカは買うが、過度にのめりこまない。

研究熱心で、情報だいすきで、現実的。

なんだかんだでアメリカは戦上手だ。







【参考文献】

梅原勇樹/苅田章『NHKスペシャル 超常現象 科学者たちの挑戦』(NHK出版)



NHKスペシャル 超常現象―科学者たちの挑戦NHKスペシャル 超常現象 科学者たちの挑戦
(2014/03/20)
梅原勇樹、苅田章

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テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

市川和馬『鉄仮面のイブキさん』

 

 

鉄仮面のイブキさん

 

作者:市川和馬

掲載誌:『まんがタイム』(芳文社)2013年-

単行本;まんがタイムコミックス

 

 

 

本来めまぐるしく変動する、思春期女子の感情表現をあえて抑制した、

綾波レイや長門有希など「無表情キャラ」の一群に、ニューフェイスあらわる!

 

 

 

 

「伊吹さん」の特色は、愛想がわるくないこと。

実は表情ゆたかで、笑顔の練習にも余念ない。

ごく一部のひとにしか、つたわらないだけ。

 

 

顔色ひとつかえずに握力23.1kg

 

 

「レイvsアスカ論争」とゆう、20年におよぶイデオロギー闘争がある。

『新世紀エヴァンゲリオン』の真ヒロインがどちらかについて議論はつづくが、

両者は対照的で、かつ拮抗した魅力の持ち主で、いまだ結論に達しない。

ただ2000年前後は、綾波レイがその新奇さゆえ、エヴァの象徴とみなされた。

 

 

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(日本映画/2012年)

 

 

10年代はアスカが優勢といえる。

両極端な「ツンデレキャラ」が世間で持て囃されるなか、元祖として脚光あびた。

特に2012年の『エヴァQ』での活躍はあざやかで、レイを脇においやる。

 

 

 

 

伊吹さんは、ツンデレ時代に叛旗をひるがえす。

鉄假面かぶったまま、必死にアピール。

 

 

 

 

たとえば演劇部でナースの衣装をかり、セリフを棒読みしたとする。

背筋がこおるほど怖い。

伊吹さんの言動は、意図がつかめない分、別の「意味」がうまれる。

 

 

 

 

美術の時間、伊吹さんがデッサンのモデルをつとめた。

幼なじみの「相楽さん」のスケッチブックに、満面の笑みが!

 

無表情キャラには、解釈の余地がある。

好意を安売りするツンデレとくらべ、より高次元の存在だ。

 

 

 

 

教科書を貸してくれたお礼に、顔文字そえて「ありがとう」。

女の子は、感情表現の武器をたくさんもっている。

頬をあからめるだけが能じゃない。

 

 

 

 

意識とは、けっして意識された存在以外のものではありえず、

そして、人間たちの存在は、彼らの現実的な生活過程である。

 

カール・マルクス/フリードリヒ・エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』

 

はげしく火花ちらすジャパン・イデオロギー。

ポーカーフェイスで日常に革命をおこせ。




鉄仮面のイブキさん (1) (まんがタイムコミックス)鉄仮面のイブキさん (1) (まんがタイムコミックス)
(2014/08/07)
市川 和馬

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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: エヴァンゲリオン  萌え4コマ 

ninikumi『シュガーウォール』2巻

 

 

シュガーウォール

 

作者:ninikumi

掲載誌:『COMICリュウ』(徳間書店)2013年-

単行本:RYU COMICS

[1巻の記事はこちら

 

 

 

幼なじみの様な、恋人の様な、姉の様な。

おデコがまぶしい「黄路(こうろ)」の透明感はましている。

 

 

 

 

通い妻的ふるまいも板につき、ひとりぐらしのメガネ男子高校生、

「柚原(ゆはら)」の家に親戚からとどいた、大量のミカンをジャムにする。

ビンを殺菌したりとか、こまごました日常がたのしい。

 

 

 

 

黄路はいつもケガしてる印象。

2巻では、あるけなくなるほど足をくじく。

 

 

 

 

おぶって自宅までおくる。

柚原が彼女の家をみるのは、はじめて。

影が支配する街に、通行人はいない。

 

 

 

 

そもそも黄路と柚原は家族全員をうしなっている。

極少の要素で構成される物語だ。

内面と住居に死者の痕跡をさぐり、かれらと対話しつつ、日々をすごす。

 

 

 

 

黄路は柚原本人より、柚原の亡き姉に執着。

つめたく拒絶されたことを根にもっている。

 

 

 

 

わるいのは柚原だから。

川でおぼれかけた柚原をたすけようとして、自分の父が溺死し、

その一部始終をみていた自分が、だれより傷ついたのに、

弟をまもるためとかいって、わたしを責めるなんて理不尽だよ。

 

 

 

 

柚原の姉の部屋にあった学ランをいただいた。

姉と弟のあいだにわりこむ。

性差を曖昧にする。

姉の名誉のため、自分の精神を防衛するため、柚原は黄路をたたく。

 

 

 

 

翌日は雨。

街並みのきりとり方に冴えをみせるninikumiだが、

晴天でも憂鬱な描写であるせいか、雨雲はむしろやさしく感じる。

水のイメージが、ひたひたしみこむ。

 

 

 

 

黄路は傘もささずブランコをこいでいた。

背後からちかよると、腫れあがった頬でわらう。

空虚な毎日で、傷ばかりふえてゆく。

 

 

 

 

黄路の胸にひろがる疵痕は、自傷行為によるものらしい。

柚原はそれを癒そうとしない。

くじいた足首に湿布を貼るくらいするが、あたらしくつけた傷の方がおおい。

 

わかい男女のメランコリックなまじわりを、うつくしいカットでとらえる漫画だ。

いわくありげだけど、ボクは「考察厨」の傾向や能力がなくて、くわしくわからない。

本当の自分ではない自分につきうごかされる自分、それがテーマなのはわかる。

 

 

 

 

いちまいいちまい皮をむいても、まだヒロインの核心にとどかない。

巨大な闇、または光に、のみこまれてしまいそう。




シュガーウォール 2 (リュウコミックス)シュガーウォール 2 (リュウコミックス)
(2014/08/12)
ninikumi

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

大宰府を復活させよ

『エンジェル・ウォーズ』(アメリカ映画/2011年)

 

 

日本を戦争へみちびく勢力が、政界に跋扈している。

それに対し毀誉褒貶ある。

支持するもののおおくは田舎者だろう。

 

尖閣諸島ちかくで日中海軍が交戦したとして、全面戦争へ発展するかもしれない。

東京・大阪など大都市、沖縄・横田・横須賀・佐世保などの基地にミサイルがくる。

23区内にすむボクは、火の海にのまれたわが町を想像できる。

 

 

『てぃだかんかん』(日本映画/2010年)

 

 

ボクがなみはづれて臆病とはいえない。

2001年の9.11テロのあと、沖縄旅行のキャンセルがあいつぎ、

国と県は安全をアピールする運動をするはめになった(「だいじょうぶさぁ~沖縄」キャンペーンなど)

当事者のポジションにたてば、ひとは率先して平和主義に旗色をかえる。

中国政府がアルカイダより理性的と、あなたは断言できるか?

 

 

 

 

平壌や北京にちかいのは、沖縄でなく九州。

沖縄は戦略的に重要じゃない。

日本全体のたった0.6%の面積に、米軍基地の74%が集中するのが異常で、

兵力を分散し、敵の攻撃によるダメージをそぐ原則に反している。

アメリカ人は真珠湾の教訓をわすれたのか。

 

 

 

 

沖縄に基地をつくったのは、ダグラス・マッカーサーの知恵。

1948年、アメリカ政府はGHQに、憲法9条を廃して日本軍を設立しろと指示するが、

9条はマッカーサーの理想の実現であり、撤回できない。

沖縄基地は、大原則を現実に適合させる唯一の手段だった。

「飛び石作戦」を指揮した男だから、距離のとおさは気にしない。

 

マッカーサーとゆう一個人が、日本にあたえた影響のおおきさに畏怖をおぼえるが、

彼も神ではなく、再軍備・安保条約・沖縄復帰などの将来は予測できず、

その矛盾は解決されぬまま拡大しつつ現在にいたる。

沖縄については、またあとでふれよう。

 

 

呉基地の夜景(撮影:Kenichi Nobusue)

 

 

理想は戦争抛棄だが、むこう数十年の戦略として合理的なのは、「大宰府」の復活。

福岡を中心に日米の兵力を配置、機関に外交・諜報の機能をもたせる。

軍事的・政治的・心理的・歴史的にも筋がたつ。

もし反撥する九州人がいるなら、危機感たりないのでは。

 

別に夢物語じゃない。

 

鳩山発言によって、県外移設ということが

政府も検討の俎上にのぼらせることの可能な案だと思えたのだ。

(略)

今回、佐賀空港への移設は、すでに国と県との交渉ごとになっている。

鳩山さんのようにただ空想的に口にしたというだけでなく、

さらに現実味が増したわけだ。

 

松竹伸幸のブログ『編集長の冒険』

 

マッカーサーほどじゃないが、鳩山由紀夫政権の意義は、

短いながらも深く大きく、戦後の日本史の転換点となっている。

 

 

『終戦のエンペラー』(アメリカ映画/2013年)

 

 

たしかに日本国憲法は「押しつけ憲法」だ。

マッカーサーと日本国民が、日本政府へ押しつけた。

もともとアメリカ政府は9条がきらいで、はやくも1950年に「警察予備隊」創設で骨抜きに。

 

現政府はふたたび国民に対する叛乱をおこし、憲法を否定しようとしている。

それが国家権力の本質であり、おどろくにあたいしない。

「押しつけ」「押しつけ」と鼻息あらい連中には、

「安保条約こそ押しつけだろう。なぜ『押しつけ条約』といわない?」と問いただそう。

 

 

 

 

アメリカは第二次大戦以降、おおきな戦争に勝ってない。

勝ち星といえば、弱いものいじめのグレナダ侵攻とパナマ侵攻くらい。

おまけで湾岸戦争をいれてもいい。

 

 

『ローン・サバイバー』(アメリカ映画/2013年)

 

 

陸軍研究所の論文によると、ヴェトナム戦争期に44万4000人の兵が脱走した。

兵役逃れは57万人。

志願制になった21世紀でも、すでに4万人が脱走している。

 

アメリカの尻についたところで、勝率は期待できない。

戦争は、すくなくとも50%、負ける確率がある。

ついわすれがちな事実だ。

 

 

 

 

日本全体で「安保条約支持」が81%なのに対し、沖縄はわづか11%。

民主主義の原則が、沖縄に適用されてないのは明白。

 

なぜアメリカは、戦略的価値のない沖縄にこだわるのか。

武力でかちとった島だから。

同胞の血がしみこんだ土地を、敗戦国にゆづるほどお人よしではない。

たとえ返還しても、基地があるうちは法的・心理的に、そこはアメリカ。

 

ではなぜ日本は、沖縄を解放しないのか。

都合がいい、それだけ。

沖縄は日本じゃないから、外部だから、心は痛まない。

 

現在、基地ではたらく沖縄県民は9000人まで激減、

基地からの収入も県民総所得の5%にすぎない。

もはや沖縄は経済的に基地へ依存しない。

 

 

長谷川光司『武装中学生 2045 -夏-』(ガムコミックスプラス)

 

 

21世紀に現存する最後の植民地、それが沖縄。

日本は安保条約を悪用し、間接的に美ら島を武力支配している。

あきらかな憲法9条違反だ。

 

たたかえ、平和と正義のために。







【参考文献】

C・ダグラス・ラミス『戦争するってどんなこと?』(平凡社)



戦争するってどんなこと? (中学生の質問箱)戦争するってどんなこと? (中学生の質問箱)
(2014/07/09)
C・ダグラス・ラミス

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テーマ : 軍事・安全保障・国防・戦争
ジャンル : 政治・経済

鈴木イゾ『魔法精錬 ~ガルナルージュと雛菊亭のエルッカ~』

 

 

魔法精錬  ~ガルナルージュと雛菊亭のエルッカ~

 

作者:鈴木イゾ

掲載誌:『月刊アクション』(双葉社)2014年-

単行本:アクションコミックス

 

 

 

いにしえの魔王を封印したとゆう伝説がのこる「魔王塚」。

夜に雷がおちたとの噂をきき、どうなったか見物にきた。

 

 

 

 

主人公は、剣士にあこがれる町娘「エルッカ」。

なにか出てきたら、棒きれで撃退するつもり。

好奇心旺盛な妹「ノーラ」もついてきた。

カンのするどい妹が、禍々しいものがちかくにいるのを察知。

棒で応戦できるわけない、巨大な魔獣。

 

 

 

 

突如エルッカの御守りに反応し、塚のなかから長髪でヒゲ面の男が出現。

まさか魔王復活!?

 

 

 

 

左手を缺損し、いかにもあやしいこの男、

エルッカをいきなり抱きかかえ、モンスターと対峙。

 

 

 

 

曽祖父の形見といわれ、刀身がなく柄だけの剣から、

はげしい電光がほとばしり、一撃で巨獣をたおした。

 

 

 

 

ロン毛のヒゲ男の名は「マオ」。

職業は魔法使いで、ある事情で百年も封じこめられたとか。

この世界に魔法は存在しないため、本来は信じがたい話だが、

威力を目の当たりにしたこともあり、エルッカはマオを自宅にかくまう。

普段は姉「イリーナ」が経営する食堂をてつだっている。

 

 

 

 

マオの行動は不審な点ばかり。

情報収集と称し、街中のネコをあつめたり。

動物の言葉がわかるらしい。

 

 

 

 

でも不良中年との出会いは、エルッカにとって僥倖。

ただの御守りとおもってた品が、魔法剣「ガルナルージュ」だったなんて!

退屈な日常からぬけだし、英雄になれるかも。

すぐ調子にのるタイプ。

 

 

 

 

幼なじみの「ユーリ」は、町の警護隊に所属。

不審者にしかみえないマオを警戒する。

エルッカと男子ふたりの関係もみどころ。

 

 

 

 

末っ子ノーラはジト目の無口キャラだが、しょっちゅう危険なところへ顔をだす。

姉同様、冒険にひかれる血がながれる。

「三姉妹のドタバタコメディ」としてもたのしい。

 

はじめてのオリジナル作での単行本とはいえ、

キャラクターの魅力は、経験のとぼしさを感じさせない。

 

 

 

 

男キャラのナヨッとした体型などの繊細な描線は、作者を女性とおもわせるが、

エルッカの小ぶりな胸が触手でギチギチしめつけられたりとか、

担当編集者が優秀なのか(笑)、ちらほらあるサーヴィスカットが効果的。

 

 

 

 

学者でもある警護隊隊長の「シリウス」が、闇に葬られた歴史をかたる。

百年前、あまたの魔法剣士をしたがえ、怪物どもを駆逐した魔法使いがいたことを。

そしてエルッカが、魔法剣士の子孫であることを。

 

 

 

 

マオの抹殺をはかる国王直属機関「ヘスオン」の刺客に対し、

その血にながれるエルッカの魔力が覚醒。

 

当世風の要素をあれこれ盛りこみつつも、

「ワクワクさせる」とゆうファンタジーの本道をあゆむ秀作だ。

つづきが気になってしかたない。

 

 

 

 

青空みたくさわやかなエルッカの立ち居振る舞いと、

ちいさめの胸とおおきめの尻、すなわち腰のくびれも絵になる。

夏の課題図書に推薦!




魔法精錬 ガルナルージュと雛菊亭のエルッカ(1) (アクションコミックス(月刊アクション))魔法精錬 ガルナルージュと雛菊亭のエルッカ(1) (アクションコミックス(月刊アクション))
(2014/08/09)
鈴木イゾ

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網本光悦『イチから知りたい! 家紋と名字』

武蔵七党の勢力図

 

 

カラー版 イチから知りたい! 家紋と名字

 

著者:網本光悦

発行:西東社 2014年

 

 

 

平安末期、「源平藤橘」に代表される氏姓制度とことなる通称がもちいられだす。

関東を開拓した中級武士の集団「武蔵七党」など。

朝廷からたまわるのでなく、実力でかちとった名前、それが「名字」だ。

 

室町時代は応仁の乱などで世はみだれ、一揆も頻発、名字が農民までひろまる。

 

 

 

 

家紋と名字は、天皇家と武家の駆け引きの歴史をせおう。

ふるくからの「日月紋」にくわえ、「菊紋」や「桐紋」を採用したのは後鳥羽上皇。

菊の花をこよなく愛し、刀の銘などにあしらった。

新古今和歌集や承久の乱とおなじく、武家に対抗する戦略でもあったか。

 

 

『プリパラ』第6話(テレビアニメ/2014年)

 

 

「五七桐」は、おもに武功をたてた武将に下賜された。

いまも官邸の備品や、500円硬貨の装飾としてなじみぶかい。

皇宮警察本部や法務省は「五三桐」で、南みれぃのアイドル検事コスにも登場。

『プリパラ』と後鳥羽上皇はつながっている。

 

 

 

 

豊臣秀吉は主君の織田信長から五三桐を、後陽成天皇から五七桐をあたえられる。

独自のアレンジをほどこし、具足・衣服・調度品・大阪城の外装など、なんにでもあしらう。

有力な大名にも大盤ぶるまいしたので、桐紋の価値がうすれる結果をもたらした。

 

徳川家康は、秀吉の逆をゆく。

朝廷から菊紋と桐紋を下賜される話はことわった。

また「三つ葵」を徳川・松平家以外がつかうのを禁じ、稀少性をたもった。

 

そして農民から名字をとりあげたが、紋の使用はゆるす。

家紋中心の秩序の確立だ。

 

 

 

 

家紋の歴史は、戦国武将の興亡とわかちがたい。

毛利元就がこのんだ紋は「長門三つ星」。

例の「三本の矢のおしえ」は、家紋をネタに創作されたといわれる。

 

 

 

 

斎藤道三は「二頭立波」をみづからデザイン。

戦の駆け引きを潮の干満にたとえ、流れをよむことの重要性をしめした。

道三は子の義龍にころされ、美濃斉藤氏は波がひく様に滅亡。

 

 

 

 

坂本龍馬の家紋は「組み合わせ角に桔梗」。

山崎の戦いのあと、土佐へ落ちのびた明智秀満(光秀の娘婿)が、

坂本家のルーツだとゆう説がある。

 

 

 

 

明智光秀の紋は「水色桔梗」。

彩色がさだめられた、めづらしいもの。

土佐におちのびて云々のくだりは眉唾ものだが、

可憐な花が悲劇の匂いをただよわせ、わるくない。

 

 

 

 

島津製作所や三越など、歴史のながい企業の社章やブランドマークは、

創業者の家紋に由来することがある。

ちなみに「三菱鉛筆」と「三菱グループ」が同型なのは偶然。

 

 

 

 

関西では、女は結婚後も「実家の紋」をつぐ風習があるが、

家紋は武士の文化の影響がつよく、刀とか弓とか無骨なデザインがおおい。

そこでもちいられるのが、優美な図柄にかえた「女紋」。

鷹の羽を扇にするなんてステキじゃない?




カラー版 イチから知りたい!  家紋と名字カラー版 イチから知りたい! 家紋と名字
(2014/07/01)
網本光悦

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『プリパラ』6話 南みれぃコンプレックス

 

 

異議あり? らぁらがウチにやってきたっぷり!

 

テレビアニメ『プリパラ』第6話

 

出演:茜屋日海夏 芹澤優 久保田未夢 折笠愛 坪井智浩

演出:小林浩輔

絵コンテ:柊陽菜

監督:森脇真琴

シリーズ構成・脚本:土屋理敬

キャラクター原案:金谷有希子

キャラクターデザイン:原将治 Cha Sang Hoon

アニメーション共同制作:タツノコプロ DONGWOO A&E

放送:2014年

[以前の記事→3話/4話

 

 

南みれぃ。

パプリカ学園中等部1年で、風紀委員長をつとめる。

その一方、ポップなキャラで愛嬌ふりまくプリパラアイドルでもある。

 

 

 

 

計算外ぷり……。

夏休みでレッスン室は芋洗い状態、らぁらの家は校長が出没。

しょうがない、ウチでやるしかないぷりっ。

 

 

 

 

豪邸なのは育ちのよいイメージのとおり、でもびっくり。

 

予告をみてから一週間、心待ちにしていた「掘り下げ回」だ。

1万5000条以上ある校則を暗記する知性。

些細な違反もみのがさない正義感。

たまにみせる、後輩へのやさしさ。

その一方で、矢澤にこも真っ青のアイドル道の追究。

エリーチカとにこにーを交配させた様な個性は、いかにしてうまれたか?

 

 

 

 

「親の顔がみたい」とゆうくらいで、人格形成の背景をしるには親を参照すべき。

らぁらは高圧的な教育ママを予想していたが、美人でやさしそうで安心。

 

 

 

 

すばやく自室をあさる。

クマのクッションとか、ちょっと意外。

 

 

 

 

本棚はむつかしげな書物でぎっしりだが、目ざとくアルバムをみつけた。

遊園地ではしゃぐ姿は兇悪なかわいさ。

おさないころからポップなものがすきとわかる。

 

 

 

 

お父さんが帰宅。

こちらも負けず劣らずやさしそう。

職業は検事で、ちなみにお母さんは辯護士。

エリートの両親に大切に育てられたんだろうなあ。

 

 

のん登場!

 

 

自営業でいつもバタバタして、妹が最高権力をにぎる我が家とだいぶちがう。

 

 

 

 

「ああそうそう、おいしいクッキーがあったわね……」

 

 

 

 

「それよりママ、冷蔵庫にプリンがあったじゃないか。

こんな暑い日は、つめたいものの方がいい」

 

 

 

 

「異議あり! いまの発言はクッキーを侮辱しています!!」

 

 

 

 

 

「ではこう言いかえましょう。いまこの場でもとめられているのはプリンであると!」

 

 

 

 

えっ、ええぇっ……。

絵かいた様なハッピーファミリーが突如崩壊。

 

 

 

 

カンカン!

居間に木槌のかわいた音がひびく。

 

 

 

 

みれぃが法服にきがえていた。

「……これより審議をはじめます」

 

 

 

 

「裁判長!」

「辯護人、どうぞ」

「證人として真中らぁらちゃんの出廷をもとめます」

「許可します。證人、前へ」

 

 

トロ~ンとしてる

 

 

「らぁらちゃん、クッキーと豚骨ラーメンだったら、いま食べたいのはどっち?」

「えっとぉ、ラーメンもすきだけどぉ……」

 

学校では無敵の話術でまわりを翻弄するらぁらだが、プロにはかなわず、

食いしん坊とゆう弱点をついた法廷戦術にからめとられる。

 

 

 

 

「異議あり! 誘導尋問ですっ!!」

 

すかさず反対尋問。

白熱の法廷ドラマは手に汗にぎらせる。

アイドルをめざす女の子の物語だったはずだけど……。

 

 

 

 

みれぃの大岡裁きで一件落着。

「ごめんなさいね、らぁらちゃん。びっくりしたでしょう?

でもケンカのあとは、いつも以上に仲良くなっちゃうのよねぇ、パパ?」

「そうだねぇ、ママ」

 

これが南家の教育方針だった。

夫婦ゲンカほど、子供の発達に有害なものはない。

しかし共同生活において軋轢はさけられない。

なら娘を裁判官にして、公平な判決をくださせればよい。

法律もまなべるし、いいことづくめだ。

 

 

 

 

「はぁ、まったく……」

みれぃが校則の鬼になったのと、家に友達をよびたがらなかった理由が判明。

 

 

 

 

しばらくして第2ラウンド開始。

今度はシャレにならない空気を感じる。

「ちょっとお父さんお母さん、いまはやめてよ!」

 

 

 

 

「みれぃの正義を愛する心は、検事にピッタリじゃないか!」

「みれぃは昔から、弱いものイジメをゆるせない子だったわ。辯護士むきよ!」

 

子供に仕事をつがせたいとゆう、エリート家庭ならではの問題。

 

 

 

 

こればかりはみれぃ裁判長も解決できない。

だって自分が本当になりたいのは、アイドルだもの。

 

 

 

 

「ストーップ!!! ほらみて、本当はこんなに仲良しなんだから!」

 

さっきみつけたアルバムかかえて、らぁらがさけぶ。

ステキな家族なのに、ケンカばかりなんておかしいよ。

このままじゃ、みれぃがプリパラやめさせられるかも。

どうにかしてとめなきゃ。

 

 

 

 

「まぁ、なつかしいわぁ~」

「みれぃがアイドルをめざす様になったのも、あのときからだなぁ」

 

……え、どゆこと?

 

 

五三桐紋があしらわれている

 

 

お父さんは、正義のため戦う「アイドル検事」になってほしい。

 

 

 

 

お母さんが託す夢は、弱いものの味方「アイドル辯護士」。

 

 

 

 

娘がめざすのは「ポップなアイドル」。

両親の希望はハードルたかすぎてこまる。

 

 

 

 

「そんなぁ……」「勿体ない……」

 

南夫妻の教育哲学は、やはり興味ぶかい。

「アイドルなんて無理にきまってる。あきらめて勉強しなさい」じゃなく、

「アイドルも法律家も、どちらも本気でめざしなさい」。

100%応援してくれることが、どれほど心づよいか。

 

 

 

 

みれぃのアイドル方程式が完成。

 

 

 

 

自分がいかにめぐまれた、幸福な家庭でそだてられたか、あらためて実感。

この気持ち、みんなと共有したい!

 

 

 

 

フルーティでスウィートな新曲で、初のランクアップ達成。

精神的成長を「メイキングドラマ」としてアイドル活動にフィードバックする、

『プリパラ』のおもしろさが存分に発揮された、俗にゆう神回だった。

 

 

 

 

しかし南家にまだ火種はくすぶっている。

「アイドル検事」と「アイドル辯護士」、どうみても検事の方がカワイイ。

いまの「ポッピングキャラ」よりずっと。

『逆転裁判』にも美少女検事はいるが、有罪にされたくなるほどじゃない。

みれぃの進路はおそらく父親寄り。

母娘の葛藤が、3クールでどうえがかれるのだろう。




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(2014/12/05)

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テーマ : プリパラ
ジャンル : アニメ・コミック

濱田浩輔『はねバド!』3巻 イニシアティヴ

 

 

はねバド!

 

作者:濱田浩輔

掲載誌:『good!アフタヌーン』(講談社)2013年-

単行本:アフタヌーンKC

[以前の記事→1巻/2巻

 

 

 

強敵がつぎつぎあらわれてこそスポ根。

女子バトミントン漫画の3巻で濱田浩輔は、

新キャラ「芹ヶ谷薫子」に、海へむかい自己愛をさけばせる。

 

 

 

 

薫子は、ヒロイン「羽咲綾乃」の中学時代のライヴァル。

いたいたしい思い出がよみがえる。

 

 

 

 

手段えらばぬ薫子に喫した敗北は、母の失踪の原因となった。

綾乃にとり深刻なトラウマ。

物語は外へひろがりつつ、内むきに螺旋階段をかけおりる。

 

 

 

 

単行本のあとがきやオマケをよむと、2巻発売時のサイン会が刺激となったらしく、

新ユニフォームのエロさにも、作者の意気ごみが反映。

 

 

 

 

帯はヤスダスズヒトが担当。

画集も買ってるくらい、濱田はヤスダの大ファンとか。

おっぱいへのこだわりに、影響をよみとるのは容易だ。

 

 

 

 

「志波姫唯華」のいるフレゼリア女子の、アシンメトリなデザインもすてがたい。

平坦な体型のかすかな曲線は、紙面を指でなぞりたくなる繊細さ。

 

 

 

 

一方、キャプテン「荒垣なぎさ」の凹凸は圧倒的。

2巻の着替えとくらべ正面むきだが、ジグザグのシルエットはかわらず、

ワキ見せの艶もくわわり、ヴォリューム感がすさまじい。

 

 

 

 

さて、インターハイ神奈川県予選。

理知的な3年生「理子」のシングルス挑戦などえがく。

敵がフォアサイドをあけるのは、苦手なバックハンドをつかいたくないから。

その弱点をみぬいたうえで、あえてフォアに打ったり。

『はねバド!』は、駆け引きをおもんずるスポーツ漫画だ。

 

 

 

 

すったもんだあった綾乃と薫子は、3回戦で激突。

 

 

 

 

堅固な意志力のお嬢さまと、人間ばなれした反射神経の天然娘。

主導権をにぎるのはどちらか。

 

 

 

 

「駆け引き」は戦いの醍醐味だが、物語では空疎になりがち。

相手のグーに対しパーをだす、単なる「後出しジャンケン」にみえる。

 

本作は綾乃の無感動なたたずまいに、薫子が後手をふむ瞬間を結晶化。

漫画ならではの必然性。

 

 

 

 

必然性ある駆け引きとしてボクがおもいうかぶのは、

『スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』のラストとか、

『銀河英雄伝説』の「バーミリオン星域会戦」とか。

 

登場人物の個性に、大掛かりなプロットがからまり、重厚なあじわい。

 

 

 

 

『はねバド!』は、そうした傑作群に肉薄している。

サーカスみたくかろやかに。




はねバド!(3) (アフタヌーンKC)はねバド!(3) (アフタヌーンKC)
(2014/07/07)
濱田浩輔

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

水瀬るるう『大家さんは思春期!』3巻 チエちゃんブラジャーを買う

 

 

大家さんは思春期!

 

作者:水瀬るるう

掲載誌:『まんがタイム』『まんがタイムファミリー』(芳文社)2012年-

単行本:まんがタイムコミックス

[以前の記事はこちら→1巻/2巻

 

 

 

母よりやさしく、妹よりカワイイ。

中学1年の大家さん「里中チエ」が、逆走しながら時代を牽引する。

 

 

 

 

チエちゃんの得意科目は、主要5教科ぜんぶ。

苦手は家庭科以外の実技。

特に体育がダメで、クラスメートをみると若さに感動する。

 

 

 

 

連載も2年をこえ、大家さんは題名どおり、青春の扉に手をかけた。

友人にかりた少女漫画で、同世代の女子の文化をまなんだり。

気になる男子のことを四六時中かんがえたりとか、理解できないが。

 

 

 

 

ヒロインの天使的な可憐さと、悪魔的な魅力がすべての作品だが、

さらに腕をあげた水瀬るるうは、群像劇としてもたのしませる。

 

なかでもアパートの店子で、チエちゃんの姉を称する、

売れっ子ホステス「麗子さん」は八面六臂の活躍。

おなじコスプレ衣装をきても、チエちゃんは一日署長、麗子さんはグラビアモデル。

 

 

 

 

チエの同級生がぞろぞろ訪問してきたとき、

麗子さんは「ユキちゃん」の外面から、内面のくるしみを見抜いた。

「大きい」ひとしかわからない悩みを。

 

 

 

 

自称姉としては、ここで一肌ぬぐしかない。

汚部屋からユキに合いそうなブラジャーをさがすが見つからず、

大家さんに「私が出しますから散らかさないで!」とおこられる。

妹とゆうより、嫁の言動。

 

 

 

 

ダンスが趣味でショートカットの「マユ」は、まだスポーツブラ着用。

もちろんチエも。

些細なサービスカットに罪悪感おぼえるのは、本作ならでは。

 

 

 

 

みなで下着売り場へ突撃、店員にみつくろってもらう。

谷間ができたことに感動する里中チエに感動。

「母かつ妹的な大家さん」ってだけでオーバースペックなのに、

さらに「大人の女」のペルソナも手にしたがるなんて。

 

 

 

 

帰宅後、さっそく試着。

スカスカ空振りする手つきが愛くるしい。

 

非凡な表現力のあらわれだ。

男は特異な嗜好でないかぎり、ブラのつけ方など体感できないし、

女はブラを装着する自分を背後から観察できない。

里中チエは、作者のなかで生きている。

 

 

 

 

そのまま銭湯へいったら、御近所さんにからかわれた。

この大事件は、しばらく町内の噂を独占するだろう。

 

 

 

 

学校でも、男子は思春期女子の変化に勘づく。

それを断罪するチエ。

聖女のごとく潔癖に。

ごごごごごめんなさい、チエちゃん。

でも最大の問題は、キミがかわいすぎることじゃない?

 

手をのばしたら、にげてゆく未来。

極端少女のミライクロニクルにふりおとされそう。




大家さんは思春期! (3) (まんがタイムコミックス)大家さんは思春期! (3) (まんがタイムコミックス)
(2014/08/07)
水瀬るるう

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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ 

ホーキングとシミュレーションゲーム

模型機関車であそぶホーキング

 

 

十代のスティーヴン・ホーキングは、友人とゲームづくりに熱中。

ウォーゲームはマス目が4000もある大作だったし、

封建領主が勢力をきそうゲームには、複雑な系図をあしらった。

宇宙の原理をしりたいとゆう慾望が、すでにめばえていた。

 

父は自分とおなじ医学部進学をのぞんだが、ホーキングは生物学がきらい。

観察にもとづく分類と記述ばかりで、ものたりない。

人類がどこからきて、なぜここにいるか、かんがえる手段がほしかった。

 

1962年、大学院生の資格でケンブリッジの門をくぐる。

当時活発なのは素粒子物理学だが、すでに完成の域に達し、

ホーキングの目には植物学の同類とみえた。

宇宙論をえらばなかったら、時代にとりのこされたかもしれないと彼はゆう。

 

 

イングランド東部のカム川で、最初の妻ジェインと舟遊び

 

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症したホーキングが、実験で成功するのは至難。

理論家として生きるしかない。

 

彼は代表的業績であるブラックホール研究を、観測に裏づけられた證拠なしで完結させる。

「先端分野の研究はあくまで実験的にすすめねばならない」とのべた、

素粒子物理学が専門で、宇宙論ぎらいのリチャード・ファインマンの間違いを證明。

つまりカール・ポパーの「反證主義」に対する反證が、ホーキングの人生だ。

 

宇宙を理解するのに、宇宙の存在はいらない。

頭脳さえあればいい。

 

 

『マトリックス』(アメリカ映画/1999年)

 

 

1999年の映画『マトリックス』公開後、物理学者はあるアイデアについて議論をはじめる。

「いま目にうつる世界は、コンピュータが脳に直接おくった假想現実ではないか?」

 

 

『ファイアーエムブレム 覚醒』(任天堂/2012年)

 

 

科学者がうたがう根拠はある。

この宇宙は、我々にとってあまりに都合よくできている。

たとえばビッグバン後の、膨張と重力が絶妙につりあう「臨界宇宙」。

水素原子が核融合をおこしヘリウムを形成するときの、

エネルギーが放出される効率「0.007%」も、やたら生命にやさしい。

 

世界はいわば、ヌルすぎるシミュレーションゲーム。

だれかが仕組んでるとしかおもえない。

光の観測において、基礎定数が微調整されたらしいなんて、天文学の證拠もある。

 

 

 

 

われわれの現実がゲームかどうか、たしかめる方策がひとつ。

「シミュレーションのなかで生きている」とゆう発想をひろく伝道すること。

それはプログラマにとり、シミュレーションの継続を妨害する行為だから、

提唱者はなんらかの形で「削除」されるはず。

 

 

無重力を体験するホーキング

 

 

ホーキングはノーベル賞をおくられてない。

「ブラックホールが粒子を放出する」とゆう予測を、理論物理学者の大半は支持するが、

実地の観測で立證するのはきわめて困難だから。

より権威ある「基礎物理学賞」をもらえたので、本人は気にしてないが。

 

すさまじい障碍は、学究生活の妨げとならなかった。

講義や会議を免除され、むしろ得をした。

彼の人生もまた、「仕組まれた」匂いをただよわす。







【参考文献】

スティーヴン・ホーキング『ホーキング、自らを語る』(あすなろ書房)

マイケル・ブルックス『ビッグクエスチョンズ 物理』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)



ホーキング、自らを語るホーキング、自らを語る
(2014/04/03)
スティーヴン・ホーキング

THE BIG QUESTIONS Physics ビッグクエスチョンズ 物理THE BIG QUESTIONS Physics ビッグクエスチョンズ 物理
(2014/03/31)
マイケル・ブルックス

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テーマ : 宇宙・科学・技術
ジャンル : 学問・文化・芸術

アッサ『ボクの下僕になぁれっ!』

 

 

ボクの下僕になぁれっ!

 

作者:アッサ

発行:一迅社 2014年

レーベル:わぁい!コミックス

 

 

 

「転校生レベル高すぎワロタwwwww」

 

金髪ツインテでニーソの「立花りおん」は帰国子女。

草はえるほどカワイイ、超ハイスペック高校生だ。

ちょいと目つきわるいけど、影のあるオンナノコなのもまたよし。

 

 

 

 

運命の出会いとおもいこむ、「高瀬幸成」のうしろの席をあたえられたが、

はなったセリフは「何見てんのキモイ」。

幸成はドMなので、ますます深みにはまる。

 

 

 

 

更衣室でひとりで着替えるところにエンカウント。

みてはいけないとわかってても、目はくぎづけ。

 

 

 

 

それは本当に見てはいけないものだった。

なにが秘密かよくわからないが、はげしく動揺するりおん。

口封じのため幸成に悪戯をしかける。

 

 

 

 

アッサは『黒子のバスケ』など、おもに同人のBL畑で活動中の漫画家で、

作風は萌えのメインストリームからすこしはづれている。

りおんは骨ばった体つきで、貧相なお尻に縞パンがにあう。

 

 

 

 

「一生存在を無視する」

「あんたの意見を聞いてるんじゃなくて、命令してるの」

「ジュース一本もロクに買えないクズなの!?」

「汚らわしいボロ雑巾がッ!!」

 

天使のルックスにかくされた悪魔の本性に、読者も快感おぼえだす。

 

 

 

 

いくら足蹴にしても、従順に尻尾ふってなついてくる幸成に、

サディスティックヒロインもほだされる。

徹夜で宝物のストラップをさがしてくれたお礼に、こっそりほっぺにチュッ。

 

作者はこのジャンルをよくしらず、編集者の依頼で描きはじめたそうだが、

かざらないストレートな物語が、「男の娘」本来の魅力をひきだしている。

 

 

 

 

あ、「わぁい!コミックス」なのでいちいち断りませんでしたが、

りおんはこんなにカワイイんだから勿論、男の娘です。

 

 

 

 

このジャンルの美点は、深刻ぶらないこと。

リアルじゃないから、男の娘はいい。

葛藤はあっても、自由すぎるヒロインが幸福になるのは、けっこう簡単。

 

 

 

 

男の娘はボクらにパワーをくれる。

オススメの一作だ。




僕の下僕になぁれっ!  (わぁい! コミックス)僕の下僕になぁれっ! (わぁい! コミックス)
(2014/08/02)
アッサ

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 男の娘 

グリーンウォルド『暴露 スノーデンが私に託したファイル』

Eメールなどのデータを収集するプログラム「XKeyscore」

 

 

暴露 スノーデンが私に託したファイル

No Place to Hide: Edward Snowden, the NSA, and the U.S. Surveillance State

 

著者:グレン・グリーンウォルド

訳者:田口俊樹 濱野大道 武藤陽生

発行:新潮社 2014年

原書発行:2014年

 

 

 

NSA(アメリカ国家安全保障局)の分析官は、インターネット上の全情報を監視できる。

アドレスさえわかれば、大統領のメールの中身までみれる。

 

内部告発者となったエドワード・スノーデンは、協力者と接触するとき、

携帯電話のバッテリーをぬくよう相手に要求する。

電源を切っていても、NSAは遠隔地から起動し、盗聴器としてつかうことが可能。

とりはづせない構造なら冷凍庫にいれさせる。

 

くりかえすが、NSAの目標は「すべて」の情報を傍受すること。

いまは航空機のフライト中の通信を追跡するのに躍起になっている。

数時間でも、だれかが監視の目をのがれることが我慢ならない。

 

 

(撮影:Laura Poitras/Praxis Films)

 

 

1983年うまれのスノーデンは高校中退者で、アウトサイダーの匂いをただよわす。

名門大学卒業者なら、立身出世をすててまで正義をつらぬかないだろう。

しかし諜報機関は、疎外された若者たちに依存せざるをえなかった。

 

ギリシア神話の本を読破し、ビデオゲームにひたりこみ、

ヒーローになるのを夢みるコンピュータオタクだった。

また彼の世代にとってインターネットは、自己実現の場だった。

そのプライヴァシーと匿名性と自由を政府がうばうなら、行動をおこすしかない。

 

 

2008年11月、オーヴァルオフィスでのブッシュとオバマの会談

 

 

オバマ政権は「1917年のスパイ活動法」を適用し、7名の内部告発者を逮捕した。

その数は、1917年から前任者までの延べ人数の倍以上。

NSAについての輿論調査は、賛成者と反対者の支持政党がいれかわった。

 

こうした政界の日和見主義で野放し状態となった公安機関は、

選挙でえらばれた大統領よりつよくなる。

 

 

マルウェアの感染に成功した場所と件数

 

 

2005年からNSA長官をつとめるキース・B・アレグザンダー陸軍大将は、

イラク占領時にもちいたユビキタス監視システムを、国内に導入した。

 

「テロとの戦い」は口実にすぎず、どうみても国家安全保障と関係ない、

ブラジルの石油会社、経済会議、同盟国の指導者、ハッカー集団「アノニマス」、

そしてなによりアメリカの一般市民をターゲットにしてきた。

 

テロリストは、監視への対抗手段をまなんでから活動をはじめる。

2013年のボストンマラソン爆弾テロに関し、NSAはなにも検知できなかった。

デトロイトやニューヨークの件が未遂でおわったのは、市民や従来の警察力のおかげ。

大量のメタデータ収集が対テロ戦争に必要である根拠を、NSAは提示できてない。

 

 

ネットワーク機器にビーコンをうめこむロードステーション

 

 

NSAの本質は「経済スパイ」だ。

支那企業が、ルータやサーバに監視装置をうめこむのを米政府は批判するが、

NSAもおなじことをしており、要するに市場シェアでまけ監視網をせばめたくないだけ。

 

経済力と軍事力が表裏一体なのは事実だが、かといってウソはゆるされない。

アメリカ政府が説明責任をはたさず、国民からの同意を無視すれば、

支那に抗議する正当性をうしない、結果的に利敵行為となる。

 

 

ワシントン・ポスト紙編集主幹のボブ・ウッドワード(撮影:Kat Walsh)

 

 

本書の後半は、実名あげて米英の体制べったりなジャーナリズムをぶった斬り、

おもしろいのだが日本人には直接関係ないので、ここでくわしくふれない。

 

「責任ある報道」とゆう美名のもと、中立のフリしてつねに政府の主張をとりいれる姿勢、

日本なら「マスゴミ」だが、あちらは「コーポレート・ジャーナリズム」とゆう蔑称があること、

ジュリアン・アサンジ同様、スノーデンにも人格面を攻撃する報道がなされたが、

それはソヴィエトや中国政府の得意技でもあること、などなど。

 

イギリス版NSAの「GCHQ」が、ガーディアン紙へのりこみHDDを破壊したのはひどすぎるし、

スノーデンに協力した罪で逮捕されるべきと著者も批判されたが、

なら定期的に秘密情報をうけとってるボブ・ウッドワードはどうなのよとか、

著者の激烈な反骨精神が、読者を奮い立たせてくれる。

 

 

NSAの提携企業およびその協力分野

 

 

NSAの情報は、「ファイヴ・アイズ」とよばれる五か国で共有される。

アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド、共通点は英語をはなすこと。

なかでも英国のGCHQは、スパイの国だけあってNSAに匹敵する能力をもつ。

 

イスラエルとも親密な関係をきづいてきたが、彼らはしたたかで、

合衆国に対しもっとも敵対的な諜報活動をおこなう国のひとつでもある。

ゆうまでもなく日本は、なんの見返りもなく尻尾をふりつづける、ただのポチ。

 

フェイスブック・ヤフー・アップル・グーグルなど、民間企業もNSAと秘密協定をむすぶ。

いちばん協力的なのはマイクロソフトってのが、イメージどおりでわらえる。

「いまの時代、個人情報を共有するのは当然さ」とうそぶくマーク・ザッカーバーグは、

自宅に隣接する4軒の家を3000万ドルで購入、プライヴァシーをまもった。

なお社内システムへのアクセスをこばんだ唯一の企業は、ツイッター

 

 

高山としのり『i・ショウジョ』(ジャンプ・コミックス)

 

 

スノーデンが世界につきつけた問題はおもい。

 

米ペンクラブの報告書によると、NSAの監視活動をしったことで、

アメリカ人作家のおおくが自己検閲に駆り立てられている。

すくなくともメールにヘタなことは書けない。

これぞまさに権力がのぞむこと。

データ収集そのものより、ひとびとを萎縮させる効果に意味がある。

 

もし警察に、令状なしに家宅捜索したり、自宅に監視装置をおく権限をあたえれば、

まちがいなく犯罪率はへるが、いまのところ民主国家はそうしない。

安全よりプライヴァシーが優先事項と、市民はかんがえるから。

自由なき社会での生に、意味などないから。

 

スノーデンはそう宣言するため危険をおかし、どうにか世界の流れをかえた。




暴露:スノーデンが私に託したファイル暴露:スノーデンが私に託したファイル
(2014/05/14)
グレン・グリーンウォルド

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大北紘子『Vespa』

 

 

Vespa

 

作者:大北紘子

発行:一迅社 2014年

レーベル:百合姫コミックス

[同作者の『しあわせにしてほしい』の記事はこちら

 

 

 

「恋塚少尉」は近衛隊に属する女軍人。

ヨーロッパの肖像画風の扉絵にひきこまれる。

 

 

 

 

警護をうけもっていた「イザベル姫」の輿入れがきまる。

あくまで政略結婚の道具として。

縁組が不満らしく、本気で殴る蹴るの折檻がはじまった。

 

 

 

 

恋塚はバカにした目つきで、冷淡にあしらう。

同い年のプリンセスの、自分と別れたくないがゆえのワガママとわかってるから。

臣下がオトナにならねばならない。

 

 

 

 

結婚を一番かなしんでるのは恋塚だが、

たかが少尉の身分で、大国との和議を反故にできやしない。

せめて未練なく嫁いでほしくて、だまっていた。

 

 

 

 

「隊長」が傷ついた恋塚をベッドでなぐさめようとする。

彼女をこんなに愛する人間がそばにいるのを、しってほしくて。

 

時代も地域もあいまいな異世界で、女同士の三角関係が摩擦音をたてる。

 

 

 

 

花嫁をむかえたのは、眼帯の女王。

この世界に男はほとんど存在せず、結婚とゆう風習もほろびつつあるが、

隣国の姫の美貌をみそめた女王が、屈辱的な縁組をもうしいれた。

イザベルに選択の余地はない。

 

 

 

 

イザベルは「腹を借りる」ためもらわれた。

まづ家畜同然の男どもに強姦させ、いちど適当な種で産ませてから、

正式に女王の受精卵をイザベルの子宮に孕ませる。

この野蛮な習俗は姫も承知で、野良犬に噛まれた様なものとたえしのぶ。

 

 

 

 

陵辱の四夜がすぎた。

「わたくし不安になってしまったのよ。

あなたが庭の木にぶら下がっていたらどうしようって」

「ご期待に添えず申し訳ありません」

 

スクーターの名でしられる「vespa」は、イタリア語で「スズメバチ」の意。

女王蜂が生殖を独占する、人間にはグロテスクにうつる生態になぞらえた。

 

 

 

 

「教養も礼儀も美貌も、何も必要なかった」

「女の肉としての価値しかいらない」

「頭と腹以外は、切り落としてもかまわない」

 

眼帯の女王は、心もこなごなに蹂躙しようとする。

異をとなえるものはいない。

 

男の愛は獣慾にひとしく、みにくい。

女の愛は洗練され、うつくしい。

きっとそれは真実だが、ならもし世界から男がきえたら?

女の愛は純粋なままでいられるか?

 

 

 

 

恋塚と隊長は、婚礼式典のパレードをおそう。

失敗すれば、いや成功しても、国が崩壊しかねない暴挙。

 

 

 

 

恋塚は、あまんじて人身御供になったイザベルに、

てっきり怒られるものと覚悟してたが、しゃにむに抱きつかれた。

疵物にされても心がおれなかったのは、再会を夢みてたから。

 

 

 

 

牙をむく女王と最後に下水道で対峙する。

彼女の行動は、愛そのものへの復讐だったとあかされる。

だれよりも愛の虜だった。

 

 

 

 

女同士の愛は、たとえ比較対象をうしなっても、至上の美をほこる。

百合の絶対的正義をたからかにうたう傑作だ。




Vespa (IDコミックス 百合姫コミックス)Vespa (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2014/06/19)
大北紘子

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うず『きぐるめくるみ!』

 

 

きぐるめくるみ!

 

作者:うず

掲載誌:『月刊まんがタウン』(双葉社)2013年-

単行本:アクションコミックス

[同作者の『しばいぬ子さん』の記事はこちら

 

 

 

なぜ着ぐるみは愛されるのか?

中身は人間とわかっているのに。

ゆるキャラブームに一石投じる、心理学的四コマ漫画。

 

 

 

 

髪をきり、決死の覚悟で入学式にのぞんだ「木ノ下くるみ」は、高校デビュー失敗。

ヘアスタイルくらいじゃ、内気な自分をかえられない。

だったら「中の人」になっちゃえ!

 

 

 

 

活動内容は未定のまま、婚活にもえる「篠田先生」を釣り、着ぐるみ同好会設立。

 

 

 

 

クラス委員長の「楓」と、手芸男子の「亨」を、部員として駆りあつめた。

ふたりとも着ぐるみに関心なく、席がちかいので名前だけ貸す。

 

 

 

 

特に楓は、決して着ぐるみをきない。

すでに「眼鏡キャラ」と「委員長キャラ」を確立してるから、別人格は必要ない。

 

しかし楓は、先輩の無気力ぶりをきらって文藝部をやめ、

くるみのねじくれた情熱に賭けることに。

『しばいぬ子さん』にせよ『炊飯器少女コメコ』にせよ、

シュール系ギャグが得意なうずの新作は、意外なほど青春してる。

 

 

 

 

本作はバトル漫画でもある。

ストーカー的にくるみに執着する幼なじみの「三日月もも」は、

お嬢さま校の仲間ひきつれ、ライヴァルとして名乗りをあげた。

 

 

 

 

特訓風景は、じわじわ来るおかしさ。

なにが悲しくてツンデレ美少女が、暑くるしい着ぐるみで全身かくすのか。

いやツンデレだからこそ、心に鍵をかけるのか。

 

 

『しばいぬ子さん』(竹書房)

 

 

うずは「ペルソナ」の作家といえるだろう。

周囲に適応するうち形成された、内界をまもる強固な殻としての假面。

一筋縄でゆかない、人間の複雑な本性。

 

 

 

 

ヒロインが姿をみせたがらない本作は、サブプロットで読者をつかむ。

たとえば木ノ下家と三日月家の、世代をこえた確執とか。

 

 

 

 

くるみも、手芸男子とのフラグがたちかけるが……

 

 

 

 

ツンデレ幼なじみとの百合とゆう本流にのみこまれ、うやむやに。

燃えあがった頬は、またすぐ假面のしたへ。

 

 

 

 

シュールでカオスなのに、計算ゆきとどいた物語。

眼鏡のかげで駒をあやつり、世界をうごかす神がいるみたい。




きぐるめくるみ!(1) (アクションコミックス)きぐるめくるみ!(1) (アクションコミックス)
(2014/07/28)
うず

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