水樹奈々『深愛』

水樹奈々の師匠、安留安生(画像は別名義)

 

 

深愛

 

著者:水樹奈々

発行:幻冬舎 2011年

 

 

 

有名な歌手・声優である、水樹奈々の自伝でもっとも印象ぶかいのは、

演歌歌手めざし5年半、内弟子として住み込みで教えをうけた、

安留安生からの度重なるセクハラ被害を告白した部分だろう。

自業自得とはいえ、加害者にとって人格破壊的な内容であり、

これを書いただけでも、著者はタダモノでないとわかる。

 

歯科技工士だった水樹の父は、独自のメソッドで娘の喉をきたえた。

粉塵と騒音まみれの作業場で、毎日何時間も熱唱。

よくいえば力強い、わるくいえば押しつけがましい、例の歌唱スタイルのルーツだ。

 

カラオケ大会を荒しまわる、愛媛県新居浜市の「天才演歌少女」は、

あまりに特異すぎ学校でイジメられた。

堀越高校の芸能活動コースに進学してからは、月3万円の仕送りで生活。

学校指定の700円の靴下を買うのが、なによりくるしかった。

歌手としては鳴かず飛ばずで仕事にめぐまれず、

欠席がむしろ褒められる芸能科で、皆勤賞かつ学年トップの成績をおさめた。

 

絵にかいた様な「苦労人」ぶりは、まさに演歌の世界。

 

 

 

 

しかし演歌的な水樹奈々は、演歌を超えている。

 

昭和の基準にあてはめても、躾のきびしい父だったが、

娘が催し物でもらった「おひねり」に決して手をつけなかった。

なにを買おうが文句をいわなかった。

歌手が、自分の歌で得たものだから。

5歳で高峰三枝子を歌いこなす天才少女は、荒稼ぎした。

スパルタ教育の一方で、その経済的自由は同年代と比較にならない。

 

おひねりは、アニメグッズやゲームや漫画に消えた。

子供が大金を手にしたらそうなる。

筋金入りのオタクは、まづ「声優」として藝能界のぶあつい壁をやぶる。

父のみた夢とことなるが、その晴れ舞台をお膳立てしたのは父だった。

 

 

高知よさこい祭り2005(撮影:工房 やまもも)

 

 

新居浜は、街のいたるところに「カラオケ喫茶」がある。

 

みんな歌うことが大好きで、目立ちたがり。

四国全体に言えることだが、

生まれながらに祭り好きで、楽しいこと、騒ぐことが大好き。

 

だから、子供の私にも歌う場がたくさんあった。

 

演歌の英才教育で「日本の心」を植えつけられた水樹だが、

それより根っこにあるのは、四国人の魂。

深刻なトラウマさえ、明朗なエネルギーに変換し、ステージでドカンと昇華させる。




深愛 (しんあい) (幻冬舎文庫)深愛 (しんあい) (幻冬舎文庫)
(2014/01/16)
水樹奈々

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テーマ : 女性アーティスト
ジャンル : 音楽

井上かーく『JOB&JOY』完結 闘争の果てに

 

 

JOB&JOY

 

作者:井上かーく

発行:芳文社 2013-14年

レーベル:まんがタイムKRコミックス

[1巻の記事はこちら

 

 

 

仲よしすぎて、じゃれてるのか、マジゲンカなのか見分けがつかない。

ハンバーガー店ではたらく、かしましJK三人娘の物語は、愉快に完結。

 

 

 

 

男言葉とポニーテールが目印の「優也」(女子です)は、よりクールに。

同僚のミスを平然とカバー。

 

 

 

 

やさしいカチューシャ系女子の「綾奈」は、

「おかんキャラ」から「おばあちゃんキャラ」へ進化。

 

 

 

 

天然なヘアピン系女子の「舞花」も、人手不足でみながテンパってるとき、

マイペースであるがゆえ「逆境につよい」とゆうスキル発動。

アルバイトはドラマチック。

男泣きにむせぶ店長さん。

 

 

 

 

接客業とおもえぬ陰気な顔でおそれられる店長が、2巻の陰の主役。

ポスター貼るのに水平器をつかうなど、仕事はこまかい。

 

 

 

 

夏も休暇なんて一切とらない。

学生時代から働きづめで貯金してきた、生まれついての社畜。

 

 

 

 

舞花「やだよー暑い中ビラ配りやだー」

優也「そんなの新人にやらせとけばいいんですよ!」

店長「お前らだよ」

 

傍若無人な従業員たち。

非正規雇用がますます拡大する日本で、

「正社員vsバイト」の階級闘争が勃発。

 

 

 

 

「飲んだら時給50円減らす。」

 

控室の冷蔵庫が主戦場となる。

職場のスイーツって、なぜあんなに早くなくなるんだろ?

 

 

 

 

優也は好物のプリンに、「呪」の字をびっしり書きつらねる。

自衛しないと、生き血をすう競争社会でサバイバル不可能。

 

 

 

 

かせいだバイト代は、証券市場へ投資。

冗談にきこえない。

 

 

 

 

同級生の「いっちゃん」と「ゆっち」が御来店。

ふときづく。

ファーストフードって、女子高生の手料理がたべられる、すごい店ってことを。

袋小路の日本経済に風穴あけるかも。

 

 

 

 

乙女らの産業革命は、ケンカしてたことすら忘れるたのしさ!




JOB&JOY (2) (まんがタイムKRコミックス)JOB&JOY (2) (まんがタイムKRコミックス)
(2014/03/27)
井上かーく

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タグ: きらら系コミック  百合  萌え4コマ 

『ローン・サバイバー』

 

 

ローン・サバイバー

Lone Survivor

 

出演:マーク・ウォールバーグ ベン・フォスター テイラー・キッチュ エミール・ハーシュ

監督:ピーター・バーグ

制作:アメリカ 2013年

 

 

 

ノコギリの刃みたいな地形が舞台の戦争映画。

アフガニスタンの山岳での、失敗した2005年の狙撃作戦をえがく。

 

 

ベン・フォスターの瞳はうつくしい

 

 

無線が通じないなど悪条件がかさなり、

SEALsとナイトストーカーズは、手塩にかけそだてた19名をうしなう。

 

歴史上、他国からの侵略に耐性がある点で、日本とアフガンは似ている。

前者には海が、後者には山が助太刀してきた。

SEALsは、きたえあげた肉体と戦術と勇気で、自然の要害にたちむかう。

『バトルシップ』につづき、ピーター・バーグ監督の父ゆづりの海軍趣味が炸裂。

 

 

 

 

ゆえに本作は「サバイバル映画」で、古典的な「戦争映画」じゃない。

インディアンにかこまれたら騎兵隊がきて逆転、とはゆかない。

チヌークがRPGで撃墜されるときの絶望感といったら。

 

 

 

 

潜伏中にヤギ飼いと遭遇し、議論する隊員たち。

逃すか、縛りつけるか、殺すか。

 

軍隊は、学校や会社とちがい民主的だ。

将官は参謀の、小部隊指揮官は下士官の意見に、大体したがう。

組織運営の理想型といえる。

だってそうしないと自分が死ぬもの。

 

 

パッとしないエミール・ハーシュ

 

 

SEALs隊員は「ヒーロー」の範疇をはみでる。

指を吹き飛ばされても、慌てず騒がず左手にもちかえ撃ったり。

弱虫でもうしわけないが、カッコイイと憧れはしない。

 

 

 

 

タリバン兵200名に包囲されたときの退路。

陸海空を制すフロッグマンにとり、これも「道」。

 

 

 

 

苛酷な訓練もかんがえものだ。

なまじ頑丈な分、無理がきく。

死中に活をもとめ、あえなく死んだ兵もすくなくあるまい。

カエル人間の本能は、「もののあはれ」すら感じさせる。



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ひろやまひろし『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!』4巻

 

 

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!

 

作者:ひろやまひろし

原作:Fate/stay night(TYPE-MOON)

企画原案:TYPE-MOON

掲載誌:『月刊コンプエース』(角川書店)2012年-

単行本:角川コミックス・エース

[以前の記事→2期/3期1-3巻/『いもかみさま』

 

 

 

エインズワース邸に囚われた「美遊」の救出作戦がつづく。

それは世界の存亡をかけたミッション。

 

 

 

 

美遊「わたしの友達はイリヤだけ。友達は生涯にひとりいれば十分でしょ?」

イリヤ「いやいやいやいやいやいや! 重いよ!」

 

歪でうつくしい友情。

「『エヴァンゲリオン』が「セカイ系」と「日常系」に枝分れした」とゆう、

ボクの假説にもとづくと、Fateはセカイ系だから日常がない。

めざわりな親はおらず、百合だけある。

優先的なカテゴリーは「家族」でなく、「敵か味方か中立か」。

 

 

 

 

暴走ロリの「エリカ」が、魂ぬきとられた「イリヤ」をもてあそぶ。

人形だから切り刻んでかまわない。

 

 

 

 

切るといってもドレスだけど。

ひろやま先生は読者の期待にこたえる。

裸が逆転の布石となるあたり、達者なストーリーテラーだ。

 

 

 

 

美遊が拉致された理由もあきらかに。

セカイを救済するため。

親友をとるべきか、地球をとるべきか。

 

 

 

 

「女の子の命は世界より重いのよ!!」とさけぶクロエ。

 

 

 

 

「ミユも世界も両方救う!!!」

 

模範解答をみちびくイリヤ。

 

 

 

 

父にお尻ペンペンされるエリカ。

 

セカイ系の大風呂敷はズタズタに。

おもいっきり、たっぷりと、かつ合法的に、幼女をお仕置きしたい!

イリヤたちの葛藤より、全男子の慾望に肩いれする。

この規格外のリアリティが『プリヤ』だ。




プリズマ☆イリヤ3rei!! 4―Fate/kaleid liner (角川コミックス・エース 200-13)プリズマ☆イリヤ3rei!! 4―Fate/kaleid liner (角川コミックス・エース 200-13)
(2014/03/22)
ひろやま ひろし、Fate/stay night 他

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サブロウタ『citrus』2巻 百合の因果律

 

 

citrus

 

作者:サブロウタ

掲載誌:『コミック百合姫』(一迅社)2013年-

単行本:百合姫コミックス

[第1巻の記事はこちら

 

 

 

「人間なんだから、少しは理性ってものを保ってほしいわね……」

 

黒髪うつくしい生徒会長「芽衣」は、御立腹。

 

 

 

 

義理の姉「ユズ」に、電車でイタズラされたから。

動物じゃあるまいし、見境なく。

 

 

 

 

ユズが発情したのは副会長「桃木野さん」のせい。

ドリルツインテが恋敵になりゃ、だれでも焦る。

 

百合漫画は、因果性にもとづくサイエンスフィクション。

デタラメで適当なボーイ・ミーツ・ガールとちがい、

少女が愛しあうとき、そこには理由がある。

 

 

 

 

「ポスト日常系」を模索する10年代の作品にふさわしく、

『citrus』も親との関係を軸に「キャラを掘り下げる」。

 

ユズの墓参りにつきあい、胸襟をわづかにひらいた芽衣。

父に捨てられた優等生は、心底から家族の愛をもとめる。

 

 

 

 

「キスなんてできるか…っ!」

 

まづ愛がないと、恋はできない。

自分は「恋人」でなく、「姉」にならねばならない。

禁じられた関係が、正式なプロトコルを強要する矛盾。

百合の共和国で、ハッピーエンドの可能性は、論理的に排除されている。

 

 

 

 

世界を放浪する、芽衣の実父が帰宅。

16歳の娘へのおみやげがクマのぬいぐるみだったり、イケメンだが無神経。

 

 

 

 

芽衣は孤独感が極限に達すると、ビッチとなる。

もっとも身近な存在で、かつ自分にとって理想の男性なのに、

その父に置き去りにされたら、あとは女に慰めをみいだすしかない。

代替品だから、だれでもよい。

 

 

 

 

まよえる子羊を平手打ち。

夜も眠れないほど恋しい相手なのに、突き放す。

キスは思春期女子のすべて。

そしてキスは問題を解決しない。

 

 

 

 

テーブルの下でからめた指みたく、もつれた心をときほぐし、

さらにその指を秘所の奥へさしこむ様にして、本音をさぐりあてる。

しがらみから解放され、そこにいるのは、ただふたりのオンナノコ。

 

むせかえるほど濃密な心理描写……やはり傑作だ。

 

 

 

 

2巻でえがかれるキスは6回。

ユズの口についた、クレープのクリームを嘗めるところが一番エロい。

甘みたっぷりだけど、素材をいかした塩梅は、このうえなく美味。




citrus (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)citrus (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2014/03/18)
サブロウタ

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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合    百合姫コミックス 

野上武志『紫電改のマキ』

 

 

紫電改のマキ

 

作者:野上武志

掲載誌:『チャンピオンRED』(秋田書店)2013年-

単行本:チャンピオンREDコミックス

 

 

 

食傷ぎみとかボヤキながら、つい手がのびる「萌え×ミリタリー」。

ちばてつや『紫電改のタカ』の向こうをはった戦闘機モノだ。

 

 

 

 

混雑する西武池袋線をあざ笑うかの様に、滑空する飛燕。

作品世界では「ヒコーキ通学」がみとめられている。

オートバイにちかい位置づけ。

 

 

 

 

校舎裏に捨ててあった紫電改をレストアし、あこがれのファイターライフをはじめる。

ガルパンを通過した目でみると、さほど突飛な話でもない。

(作者はガルパンのキャラデザに参加)

 

 

 

 

ヒコーキは「不良の乗り物」的なイメージ。

他校との抗争に巻きこまれるのもめづらしくない。

 

 

 

 

空とゆう処女地で、非日常を体験する乙女たち。

なんだかんだで萌えミリの絵面のうつくしさは、ひとの心をうばう。

 

 

 

 

石神井川とか練馬区周辺の風景に、戦闘機がなじんでいる。

 

 

 

 

「羽衣(はごろも)マキ」は大分県(訛りがある)の田舎出身で、中学時代はヒコーキ通学だった。

その空戦テクニックは、サーカスばりに華麗。

背面飛行で送電線の間をすりぬける。

走り高跳びみたい。

 

 

 

 

「なぜオンナノコが戦争するのか?」

野暮なことは言いっこなしよ……が、このジャンルのお約束。

もちろん設定はある。

ヤンキーの縄張りよろしく、各校が制空権をあらそう。

 

 

 

 

「吉祥時女学園」は、スピットファイアをとばす英国趣味。

ガルパンの初戦もイギリスだし、かませ役担当国となっている。

練馬大根ネタでdisるのがおかしい。

 

 

 

 

アメリカに牛耳られる大空のサムライ。

マレー作戦のつぎは真珠湾だから、じっと我慢。

 

 

 

 

月月火水木金金の訓練につかれたら、スタバで息抜き。

パイロット系女子だからこそ、なんてことない日常もふかく味わえる。




紫電改のマキ 1 (チャンピオンREDコミックス)紫電改のマキ 1 (チャンピオンREDコミックス)
(2014/03/20)
野上武志

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

雨松/真刈信二『スパイの家』

 

 

スパイの家

 

作画:雨松

原作:真刈信二

掲載誌:『アフタヌーン』(講談社)2013年-

単行本:アフタヌーンKC

 

 

 

16歳の少女の名は「阿賀まりあ」。

身分は女子高生、そしてスパイ。

 

 

 

 

阿賀一族は、800年にわたり情報員を輩出する家系。

たとえばイギリスがそうである様に、スパイは教育や訓練でつくれない。

親から子へ、血をとおし受け継がれる。

 

 

 

 

父娘がうけた依頼は、来日中のザジキスタン大統領夫妻に対するテロの阻止。

当国とのレアアース独占採掘契約は、日本の国益において死活問題だ。

 

 

 

 

日本経済を左右する協定締結のため、警察も総力あげる。

交渉も歓迎会も、すべて全館貸し切りのホテルでおこない、

さらに交通も地下も空中も封鎖し、数十名のスナイパーを配置。

 

 

 

 

蟻の這いよる隙は、大統領夫人の過去に。

世界的ピアニストだった彼女が、強烈な反ロシア主義者になるきっかけは、

18歳のとき出場したモスクワのコンクールでの事件。

 

ハードな題材に、エレガントな文化の上着をかさねるのは、

いかにも『勇午』(1994年-休載中)の原作を担当した真刈信二節。

 

 

 

 

ハイテクと交渉力を武器に難局くつがえすさまは、『勇午』ファンも満足(ただし拷問なし)

作画は赤名修とくらべたら酷かな。

あれは漫画におけるリアリズムの最高峰だし。

 

 

 

 

その分、少女スパイのおいしそうな脚線を堪能しよう。

しぶしぶ(命懸けの)家業を手伝うときの、ふくれっ面がカワイイ。

 

 

 

 

スパイは、腕力や経験だけじゃ通用しない。

思春期女子だからわかることもある。

まりあの土壇場の機転が日本をすくう。

 

 

 

 

真刈と赤名が袂をわかったのは、ファンとして嘆かわしいが、

10年代にふさわしい作品がうまれる端緒となったのはめでたい。

展開的には、まりあたんが仕掛けるハニートラップを希望!




スパイの家(1) (アフタヌーンKC)スパイの家(1) (アフタヌーンKC)
(2014/03/20)
雨松

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

中山敦支『ねじまきカギュー』13巻 ブレるカギューたん

 

 

ねじまきカギュー

 

作者:中山敦支

掲載誌:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2011年-

単行本:ヤングジャンプ・コミックス

[以前の記事→1-4巻/5巻/6巻/7巻/8巻/9巻/10巻/11巻/12巻

 

 

 

本日発売ヤンジャン掲載分で、カモ先生と理事長の抗争に決着ついた。

善悪の戦いの焼け跡に、中山敦支は破滅的な希望をみちびく。

 

かたや昨日発売の単行本13巻は、いわば「つなぎ」の段階。

今月発売の漫画のなかで一番おもしろいといえないが、

ボクは作者にいれこんでるので、あれこれ思うことはある。

 

 

 

 

カギュー軍団は、理事長が所有する伊豆諸島最南端の島へ、

愛をしらない男の人生の謎をさぐりにゆく。

待ち伏せを警戒するが、島民はみな素朴で拍子ぬけ。

 

中山は、庭にタヌキが出没する鹿児島のはづれの出身ゆえか、

田舎の描写にそこはかとなく雰囲気あり。

 

 

 

 

民宿で一泊。

百戦錬磨のヒロインたちも、夜襲に気づかない。

 

 

 

 

だって島民195名全員が、理事長にやとわれた暗殺者だから。

地場産業としての人殺し。

いまだありがちな、『八つ墓村』的テンプレ村落の逆をゆく。

 

 

 

 

祝、表紙登場!

ミステリアス女子でありつづけた森センセが初参戦。

最強クラスの使い手らしい。

 

 

 

 

水中戦で、ランがコジカへ空気を口うつし。

 

単行本化された作品でキスがえがかれたのは、

『禁断ワンダーラバー』(2011年)だけのはずで、あれも女同士。

節目となる短篇だが、あまり成功してなかった。

純情な中山は、ひたすらヘテロの人で、百合のウソくささが板につかない。

 

 

 

 

新キャラでハラショーなのは「喜びのモアヴ」。

バレリーナ風に優雅な身のこなしと、ガスマスクが絶妙にミスマッチ。

 

 

 

 

たまにロシア語がでるのでロシア人だろうか。

体内に埋めこんだ手榴弾で島民を脅す。

普通に死んでいる。

 

 

 

 

「かけがえない一度きりのあなたたちの死に立ち会えたこと、

モアヴちゃんは一生忘れませぇ~ん♪」

 

……おかしい。

どれほどバトルがはげしくても、人が死なない漫画だったんじゃないか。

かわりに死よりふかい淵をえがくのでは。

いつの間にルール変更してる。

 

 

眼帯の殺し屋「ガガリ」

 

 

「ブレない」が、いまの日本で最高級の修飾語としてもちいられるが、

一方で中山敦支は結構ブレる作家だ。

ブレてなにが悪いといわんばかり。

その作風はノイズまじりで、かつうつくしい。

 

バンドでゆうならソニック・ユースか。

アヴァンギャルドだけど、人なつこくユーモラス。

たまにインテリぶるけど、根はパンク。

 

 

 

 

混沌をいきる乙女のティーネイジ・ライオット

孤高をまもりながら包容力あるカギューたんは、キム・ゴードンみたく神々しい。




ねじまきカギュー 13 (ヤングジャンプコミックス)ねじまきカギュー 13 (ヤングジャンプコミックス)
(2014/03/19)
中山敦支

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

タグ: 中山敦支  百合 

熊谷祐樹『終末風紀委員会』

 

 

終末風紀委員会

 

作者:熊谷祐樹

掲載誌:『ゲッサン』(小学館)2013年-

単行本:ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル

 

 

 

風紀委員のヒロインが、校則違反者とたたかう。

えてして敵役の設定だから画期的。

 

 

 

 

「グレル濃度」はウィルスの影響をあらわし、数値がひくいほど優等生。

病状が進行するとヤンキーやギャルとなり、

公然と迷惑行為をはじめ、ついには完全なモンスターと化す。

それを「聖文具(ステーショナリー)」で斃すのが、エリートたる風紀委員の使命。

 

主人公「コン野まどか」がふるうのは、コンパス型の聖文具。

 

 

『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(日本映画・1997年)

 

 

エヴァンゲリオン弐号機の「プログレッシブ・ナイフ」を連想。

ボクらにとりカッターナイフは、どんな装備よりリアル。

 

 

アスカの横顔はうつくしい

 

 

実在か架空かをとわず、武器はみなうつくしいものだが、

兵士でもないかぎり使い心地までわからない。

文房具なら共感できる。

「ペンは剣より強し」とゆうし。

 

 

 

 

まどかのパートナーは、先輩の「定規(さだき)メモリ」。

その名のとおり、物差し型の聖文具をあやつる。

卓越した空間把握能力で、間合いを完璧に見切る力が。

 

 

 

 

初単行本となる本作は、木石の様にカタブツのまどかなど、キャラ立ちしてる。

カラオケ店でも、風紀の乱ればかり気にしてカワイイ。

 

 

 

 

校則でスカート丈は膝上5センチまでゆるされるが、

まどかはそれより長く、膝がかくれる程度。

でも動きのある漫画なので、大抵めくれて足が露出する。

ロングスカートもまたよきもの。

 

絵柄は少年漫画調だが、ビシッと明快な描線が印象的。

中山敦支に通ずる。

 

 

 

 

うしろの1年の主席風紀委員、「黒姫(くろき)シン」も目をひくキャラ。

エモノはシャーペン替芯ケース状の、支援射撃用聖文具。

 

 

 

 

ミサイルランチャーみたく「ハイポリマー針」を射出。

針を攻撃以外にもちいる場面もあって、アクションはみごたえあり。

 

 

 

 

モンスター化したギャルが大量発生、渋谷を占拠。

殺意おぼえる禍々しさ!

アゲアゲに盛って盛られて、群れなし場を支配、乱痴気騒ぎをくりひろげる。

 

 

 

 

ギャルの異能は「同調圧力」。

まどかですら自分をみうしない、スカートをたくしあげる。

 

ヤンキーにギャルにネトウヨに街のオバサン……たむろするしか能のない連中。

そんな日本の恥部に、堂々たちむかう文化系ヒロイン。

もはやプリキュアにしか残存しないとおもわれた、勧善懲悪の物語だ。

 

スカート丈をめぐる聖戦が、いまはじまった。




終末風紀委員会 1 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)終末風紀委員会 1 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)
(2014/03/12)
熊谷祐樹

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テーマ : 漫画
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我孫子祐『スライムさんと勇者研究部』完結 ポスト日常系の冒険

 

 

スライムさんと勇者研究部

 

作者:我孫子祐

掲載誌:『別冊少年マガジン』(講談社)2012年-

単行本:講談社コミックス

[過去の記事→1巻/2巻/3巻

 

 

 

スライムさんにゴーレムさんにキメラさん。

ドラクエ・インスパイア系のモンスター娘がすごす、ファンタジーライフ。

完結となる4巻のみどころを紹介。

 

 

 

 

最強キャラはドラゴンの「木龍栞」さん。

モンスターが勝利した世界で、政府に協力する。

さけられぬであろう、勇者らの叛乱にそなえて。

 

 

 

 

自衛隊などと合同訓練をおこなう。

国防や治安維持にたづさわるものはみな、木龍さんを尊敬。

人類の希望はモン娘に託された。

 

 

 

 

平和ボケの庶民のあいだで、多摩川の「タマちゃん」みたいなアザラシがブームに。

あれは2002年か、なつかしい。

 

 

 

 

スライムの姿で世話やくうち、母性本能にめざめたスライムさんだが、

恩を仇でかえすアザラシの、肉食動物としての野生の本能を目の当たりに。

さすが最弱モンスター、食物連鎖の底辺にいる。

ゆるゆるな様で、殺伐としてるのが本作。

 

 

 

 

無愛想なキメラさんが、部室にゲームをもってきた。

ひとりっ子なのにコントローラが四つも……そんなにみなと遊びたかったのか。

そっけないデレ方がカワイイ。

 

 

 

 

『勇者ハンター』で一狩りいこうぜ!

いかついモンスターでかこみ、レベル1の勇者をタコ殴り。

モンハンとゆうゲームの残酷な本質を炙りだす。

 

 

 

 

『スライムさん』の底流には暴力がある。

「日常」と「ファンタジー」の奇怪なキメラとゆうか。

 

さて、ここで逆説を弄してみる。

いわゆる「日常系」の源流は、『エヴァンゲリオン』ではないか。

エヴァ以降の物語は、総じて「キャラの掘り下げ」をおもんずる。

内面描写とは、すなわち両親との関係で、だから作家は「日常」にこだわる。

碇シンジの敵が、使徒よりも父である様に。

 

我孫子祐はその潮流に沿いつつ、たくみに脱臼させる。

ゴーレムさんの一家団欒の場面で、お母さんがぎっくり腰になったり。

なんとなく、クライシス。

エディプス・コンプレックスでなく、実存的不安が本作の主題。

 

 

 

 

最終話のゴーレムさんの文化祭での大演説は、素直に感動した。

愛くるしく、人をやさしい気持ちにさせるスライムには、

「勇者vsモンスター」の果てしない戦いをのりこえる力があると。

最弱ゆえの可能性。

 

 

 

 

「セカイ系」ぽい大風呂敷をひろげずに世界をかたり、

いまの空気を吸いこみつつ、肯定的な光を未来へ投射。

漫画史にのこるはずの作品だ。




スライムさんと勇者研究部(4)<完> (少年マガジンコミックス)スライムさんと勇者研究部(4)<完> (少年マガジンコミックス)
(2014/03/07)
我孫子祐

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 我孫子祐 

犬犬『深海魚のアンコさん』2巻 百科事典的な物語

 

 

深海魚のアンコさん

 

作者:犬犬

掲載サイト:『COMICメテオ』(ジー・モード)2012年-

単行本:メテオCOMICS(フレックスコミックス)

[1巻の記事はこちら

 

 

 

世界一かわいい魚類図鑑は、2巻もぴちぴち新鮮だ!

 

ところが、マーメイドたちが夏の旅行にえらんだのは山登り。

海とか故郷だし、いまさら。

 

 

 

 

まぁ川辺でもきっちりサーヴィスするけど。

ベタの「闘魚(とうな)ちゃん」の大胆水着にときめくし、

アカメフグ「紅眼(あかめ)ちゃん」の、中二病でゴスロリなワンピースもいい。

「人魚×水着」の盛り合わせがこれほど美味とは。

 

 

 

 

渓流の女王「ヤマメさん」としりあう。

斑点模様のパーマークがすてきな美人だ。

 

 

 

 

森でクマと遭遇し、異種格闘技戦がはじまる。

ベタ子とアカメの威嚇は通じず。

 

 

 

 

そこへ渓流の王者「イワナちゃん」参戦!

悪食だからヘビやカエルなど、なんでもたべる。

 

 

 

 

トビウオの「安護翼(あご つばさ)」は、ヒーロー研究会会長(会員1名)

校内をとびまわり、窓から出入りするので先生によく怒られる。

 

 

 

 

銭湯の番頭をつとめる「四目はら仁美(よつめはら ひとみ)」。

瞳に仕切りのあるヨツメウオで、その名のとおり目がよっつ。

 

 

 

 

仕切りのおかげで水上と水面を同時にみれる。

レアな深海魚の「アンコさん」をじっくり観察。

 

この漫画はとにかく、生命の神秘に目をみはる。

神様って天才的なキャラクターデザイナーじゃない!?

 

 

 

 

コミュ障の「隠井珠緒(かくれい たまお)」はカクレウオ。

ナマコなどの腸内でくらす魚で、たまに学校にきても保健室登校。

 

毎話ニューフェイスがあらわれ、にぎやか。

「掘り下げが足りない」とか、「キャラをふやさず日常をえがけ」など注文もあるが、

批判者は、新キャラをださずにおれない作者の衝動をわかってない。

 

 

 

 

だって尋常じゃないでしょう。

肛門から侵入して、宿主と共生する習性とか。

エロすぎるし、おいしすぎる。

特にアンコさんのお尻は、ナマコみたいな弾力がたまらない。

 

 

 

 

人間界のありきたりな「日常」なんてそっちのけ。

ここにあるのは「自然」とゆう、血湧き肉躍る物語。




深海魚のアンコさん(2) (メテオCOMICS)深海魚のアンコさん(2) (メテオCOMICS)
(2014/03/12)
犬犬

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

ウィリアム・H・マクニール『世界史』

薬叉女像(マウリア朝)

 

 

世界史

A World History

 

著者:ウィリアム・H・マクニール

発行:中央公論新社 2008年

原書発行:1967年(第4版1999年)

レーベル:中公文庫

 

 

 

わが国の教科書とちがい、固有名詞の使用を最小限にとどめ、

文明の興亡と影響関係を軸に、世界の歴史をつづるダイナミックな本。

 

産業革命と民主革命が西欧でおこり、ほかでおきなかったのはなぜか。

たとえばインドは、カーストが流動化をはばんだ。

ではなぜ不合理な制度が導入されたのか。

カーストがあれば、他者を見下せるから。

現代のまづしい日本人が、在日朝鮮人や生活保護受給者へ牙むくのとおなじ。

 

 

太守ダーラー・シクーとその子(ムガール・16世紀)

 

 

イスラム世界は華麗なコスモポリタニズムをほこった。

ペルシャ語は、アラビア語にかわる主要な詩の言語となり、

オスマン帝国の軍事と行政では、トルコ語がつかわれた。

神秘的なスーフィズムは、イスラムのインド化といえる。

 

雄辯で学識あるキリスト教の宣教師にも、耳かたむけない。

マホメットの啓示はそれを凌駕すると確信していた。

門戸をひらいたのは、トウモロコシ・タバコ・綿などのグローバルな価格革命による。

 

 

馬遠『観梅図団扇』(宋代)

 

 

もっとも完成度たかいのは支那文明か。

孔子の時代から世襲は懐疑にさらされ、能力主義がたっとばれた。

いやしい身分の出でも、適切な教育をうければ君子となる。

 

一方その官僚制度は、あまりに強力すぎる。

明代、船主や船乗りの利益をかえりみず、外航船の建造を禁じたが、

ヨーロッパの政府ならあえりない硬直ぶりだ。

 

支那人がなぜ新奇なものに関心もたなかったか、容易に理解しうる。

自分の国の諸制度が立派に機能しているとき、

責任あるひとびとが「南蛮人」の文物にたづさわる理由はない。

 

 

アルブレヒト・デューラー『騎士と死神と悪魔』

 

 

ヨーロッパの代表議会政治の源流のひとつは、「教会法」にある。

教会における会議の重視が、世俗政治へもちこまれた。

 

職業の分化がひろまり、知的多元論が根づく。

論理や普遍性や確実性より、中庸や妥協や常識を旨とする。

 

 

フランシスコ・ゴヤ・イ・ルシエンテス『1808年5月3日』(1814年)

 

 

ナポレオン・ボナパルトは敗れたが、その敵にさえ革命は爪痕のこす。

民衆の感情と利害にうったえ、愛国的情熱をよびおこさねば、この風雲児に対抗できなかった。

 

 

丹下健三 国立代々木屋内総合競技場

 

 

日本とヨーロッパは似ている。

社会の全階層にわたる、軍事中心の傾向が。

近隣の文明から貪慾にまなびながらも、持ち前の毅然たる態度が、

文化的個性をうしなわない進歩を可能にさせた。

 

ただ、自己の矛盾を克服せんと変革したヨーロッパに対し、

日本はつねに他者のつくりあげた環境に対応する、とゆう差異がある。

 

 

ニューヨーク、マンハッタン中央部

 

 

戦後は、米ソの「軍拡競争」の時代となる。

地球の裏側へ核弾頭をおくりこむロケットの開発が、

人工衛星の打ち上げを実現するなど、おもわぬ副産物もあった。

だがソヴィエトは、産業の重点を武器製造に集中させすぎ、民間経済の停滞まねく。

 

世界史は、あまりに急速でみじかい。

古代へ回帰したがる日本なんて、とっくに周回おくれだ。




世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)
(2008/01/25)
ウィリアム・H・マクニール

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

藤枝とおる『きみの好きな彼女』

 

 

きみの好きな彼女

 

作者:藤枝とおる

掲載誌:『月刊プリンセス』(秋田書店)2013年-

単行本:プリンセスコミックス

 

 

 

舞台は宮城県のある港町。

南三陸町自慢のモアイ像がみえる。

津波にのみこまれた街の「その後」の青春群像を、仙台在住の作者がスケッチ。

 

 

 

 

ヒロインは高校2年生の「天咲真潮(あまさき ましお)」。

同級生の「鹿島威(たける)」に片思いしている。

彼がいつも孤独に海をながめるのは、津波にさらわれたまま、

いまだ行方不明の恋人をわすれられないから。

 

 

 

 

伝統的な「鹿(しし)踊り」などもえがかれる。

 

あれから三年。

季節はめぐり、住民は日常をとりもどしつつある。

 

 

 

 

本作の特徴は、真潮のヘアスタイル。

ボブとショートの中間くらいの、ナウシカみたくフワッとした髪(後書きによる)

なにげないコマに潮風を感じる。

少女漫画おそるべし。

 

『風の谷のナウシカ』は、作品全体にも影響およぼしたろう。

残酷に牙むく「自然」に対し、調和の道をさぐる凛としたヒロイン。

 

 

 

 

「俺は別に海を恨んでるわけじゃない」

 

ブアイソで、「細モアイ」なんて悪口をいわれてた鹿島だが、

あかるくやさしい真潮に心ひらいてゆく。

 

 

 

 

ところが祭りの日、行方しれずの恋人に生き写しの少女とであう。

人形みたく小柄で可憐な「海老名ひかり」。

 

 

 

 

ひかりは東京からきた転校生で、どうもワケありらしく、

田舎者を見下してまじわろうとしない。

 

 

 

 

思い人とのあいだに割ってはいった恋敵だが、真潮はなにくれと世話をやき、

ひかりも得意のファッションデザイン画で文化祭をてつだう様に。

 

本作の主題は時間。

過去は否定も忘却もできないが、それでも時は未来へむかってながれ、

特に若者たちにとりそれは、輝かしいものでなくてはならない。

 

 

 

 

ボクの被害など微々たるものだが、いわゆる地震酔いにくるしみ、直立するのも困難だった。

そんな記憶がクルクル脳裏をよぎる。

大仰な「お涙頂戴」でなく、平坦な「日常系」でもない物語。

髪型ひとつで神話世界の住人となる、オンナノコの神通力のおかげか。




きみの好きな彼女 1 (プリンセスコミックス)きみの好きな彼女 1 (プリンセスコミックス)
(2014/03/14)
藤枝とおる

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

城谷間間『妹はアメリカ人!?』

 

 

妹はアメリカ人!?

 

作者:城谷間間

掲載サイト:『マンガごっちゃ』(マイクロマガジン社)2013年-

単行本:マイクロマガジンコミックス

 

 

 

「BLEAAAAH(あかんべー)!!!!」

 

離婚後に帰国したアメリカ人の父が急死したため、

母が渡米したら、身寄りをうしなった娘「アナ」をつれてきた。

金髪碧眼、どこからどうみても妹はアメリカン。

 

 

 

 

いわゆる「異文化交流もの」だが、本作でアメリカ文化は勉強できない。

米国の女子高生のあいだで、どんなコスメやテレビドラマが流行ってるかとか、

ボクはしりたいし、そうゆう具体的なネタで物語は含蓄をますのに。

 

いまだ鎖国状態の国で、アナは交流をふかめられない。

 

 

honeycombed=蜂の巣にしてやる

 

 

米国文化の代表としてえがかれるのは「ゾンビ」。

たしかにゾンビ好きの女の子って萌えるけど、

世界一有名なゾンビゲーをつくったのは、われらがカプコンだ。

 

 

 

 

そんなこんなで、ずるずる日本の習俗にとりこまれるヤンキー娘。

これがクールジャパンか。

くりかえし異民族の侵略をうけながら、結局同化させた、

かつての支那文明の高みに達しつつある。

 

 

 

 

温泉では、「裸のつきあい」に感動。

 

 

 

 

入浴中の兄に、スクール水着でサプライズ!

手足ながいガイジンこそ、スク水は似合う。

 

 

 

 

エロ漫画などからHENTAI文化をまなび、

自分からやまとなでしこを調教するほど急成長。

 

 

 

 

ただ、研究熱心なアナですら受けいれられないのは、キンシンソーカン。

お茶目な辯護士のママは、ちょっと愛情表現が過剰。

近親相姦は世界共通のタブーなのに、日本人ってプログレッシヴすぎ!

 

 

 

 

こつこつバイト代を貯金する妹に理由をたづねると、

日本にも父の墓をたてるため19万円必要だった。

勿論それは先祖代々の和式でなく、洋式の個人墓。

 

十字架のペンダントに口づけするアナが、1巻でいちばんうつくしい。

家族の死は、輸出も輸入もできない。

 

 

 

 

おそらく本作は、華奢でのびやかな手足がかきたくて、

作者がヒロインをアメリカ人にしたであろう、おきらく日常系漫画だが、

国籍や民族がなんであれ妹はカワイイ、とゆう絶対的真理が胸をうつ。




妹はアメリカ人!? 1 (マイクロマガジン☆コミックス)妹はアメリカ人!? 1 (マイクロマガジン☆コミックス)
(2014/02/28)
城谷間間

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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アルガルヴェ・カップ2014の岩渕真奈

 

 

女子サッカーのゴシップがちらりと披露されてる本、

河崎三行『蹴る女』(講談社)から北京オリンピックの話題を。

 

キャプテンの池田浩美は帰国後、自分と夫の私生活に取材した、

TBS系列で全国放送されたテレビドキュメンタリーをみる。

ヤラセだった。

そこでは夫ひとりが、夫婦の食事を準備し、後かたづけしていた。

いつも分担してるのに。

池田が支那で戦っている隙に、スタッフが追加撮影した映像を、

うまくつなぎ編集、「おっかない妻の尻に敷かれる夫」の物語をデッチあげた。

 

サッカーなんて男臭い競技にのめりこむ女は、侮辱されて当然だった。

それが2008年。

 

 

 

 

2011年ワールドカップ・ドイツ大会で優勝、2012年ロンドン五輪で準優勝。

「なでしこ」たちは、自身が敬意をはらわれるべきだと、実績もって證明した。

大袈裟にいえば、日本文化上の革命だった。

 

こまるのは、反動が大きすぎたこと。

殉教者が聖人に列せられる様に、「2011年のなでしこ」が権威となる。

35歳の「聖サワ」は不可侵とされ、代表の顔ぶれは微動だにしない。

『サザエさん』の配役ならそれもよいが、サッカーチームのマネジメントとしては異常。

 

 

ロンドン五輪決勝・アメリカ戦、83分の岩渕真奈のシュート

 

 

いま20歳の岩渕真奈は、11年も12年もそこにいた。

不平分子として。

無理かさねボロボロになった足でピッチをふみ、

孤独な階級闘争をしかけ、むなしくしりぞけられた。

 

その後ドイツへわたり、ジャガイモかなにかをたらふく食べ、

華奢で可憐な少女は、あっという間に戦車みたいな外見を手にした。

 

 

 

 

2014年3月、はじめてポルトガルのアルガルヴェ・カップに出場。

ぶっちーは補缺のままだった。

 

2試合めのデンマーク戦でひさびさの得点。

ホープ・ソロの特訓の成果に偶然はまったロンドン五輪決勝を教訓とし、

アッパーカットを顎にねじこむ様に、相手GKを斃した。

 

 

 

 

健気ななでしこ、頑張るなでしこ、仲良しのなでしこ……。

それは結構なのだが、油揚げをさらうトンビみたく「10番」をねらう、

貪慾で危険な「第13の使徒」の存在をボクはしっている。



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テーマ : 岩渕真奈
ジャンル : スポーツ

タグ: 岩渕真奈 

Ryota-H『Arcdia アークディア』

 

 

Arcdia アークディア

 

作者:Ryota-H

掲載誌:『月刊コミックガム』(ワニブックス)2013年-

単行本:ガムコミックスプラス

 

 

 

イラストレーターとして活躍する絵師が、超絶作画でおくるダークファンタジー巨篇!

……出版社の宣伝ぽくゆうとそうなる。

 

 

 

 

舞台は中世ヨーロッパ風の王国「アルカルス」。

「異形」とよばれる魔物の侵攻にあい、滅亡に瀕する。

 

片方だけの翼をもつ美少年は名を「アルク」といい、

異形の血をひくため地下牢に幽閉されていたが、

刀折れ矢尽きた王国軍は、彼を召しかかえることにした。

 

 

 

 

絵のシロウトが技術をかたるのは僭越ながら、あえてゆうと、

漫画に「超絶作画」は必要なのか疑問におもう。

書きこみがおおすぎると、ゴチャゴチャして見づらい。

 

アマゾンにも、「漫画的手法をとりいれろ」との辛口コメントが。

 

全体的に読み辛い漫画でした。

もうちょっと背景とキャラクターで線のタッチを変えたり

トーンやキャラクターの白抜き(モヤ)をしてみたり、

カッコ良さを追求しただけの描き込みを減らすなどして、

読者にちゃんと分かりやすさを表現したほうがよいと思います。

 

 

 

 

アニメの技法書だが、『アニメーションの本』(合同出版)は、

動きや構図の鍵はシルエットにあるとのべる。

シンプルであるほど、その絵はうつくしく印象的に。

 

 

 

 

じゃあこの漫画は、「コマ割りと吹き出しつきの画集」にすぎないのか?

さにあらず。

たとえば異形が、身内であるアルクにいったセリフ。

「殿下と云えど使節(わたくし)に手を出せば、反逆の罪を負いますぞ」

国家を代表する外交官の、権限のおもさをえがく。

 

 

 

 

敵が強力すぎ、ただのモブキャラとおもわれた騎士団も、

戦術をねったうえで迎撃をはかり、わづかでも勝利の可能性をたかめる。

 

 

 

 

「ヴァレッタ」は野心家で、アルクに嫉妬し陰謀の罠をはる。

戦場で倒れるが、自身の傷より部下の死をなげくあたり、単純な悪人じゃない。

彼は上の騎士団長の息子で、脇役にも重厚なドラマがある。

 

 

 

 

異形は空をも支配。

中世のテクノロジーでどう対抗するのだろう。

 

 

 

 

そのとき王は、妃と「閨事」にはげんでいた。

真っ昼間からいい気なものだが、たしかに子作りは公務でもある。

 

題材がファンタジーで、どうしてもイメージに目をうばわれるが、

本作の主題は、極限状態におかれた人間たちのリアリティをえがくこと。

マトモな絵でかかれた『進撃の巨人』とゆうか。

 

 

 

 

だから、城下町の孤児がつるむ不良集団の「アンナ」なんか、

ツインテでツンデレで妹キャラだったり、ラブコメパートもイキイキ。

市井の生活をきりとるスナップショットとなっている。

 

 

 

 

ちなみに作者は、画角に関する技法書を同人出版している。

『Arcdia』は、漫画的手法をとりいれるべき凡作でなく、それを開拓する意慾作だ。




Arcdia -アークディア- 1巻 (ガムコミックスプラス)Arcdia -アークディア- 1巻 (ガムコミックスプラス)
(2014/02/25)
Ryota-H

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

くまのとおる『ばけもの町のヒトビト』

 

 

ばけもの町のヒトビト

 

作者:くまのとおる

掲載誌:『月刊アクション』(双葉社)2013年-

単行本:アクションコミックス

 

 

 

ここは「さざめき町」。

「夭(あやかし)」とよばれる異形の者たちと、人間が共存している。

 

 

 

 

袴姿の、くせっ毛黒髪ショートは「雨宮しずく」。

見ためは普通だが、涙ながすと雨がふる能力をもつ「半夭(はんよう)」だ。

 

作者くまのとおるは、これが初単行本。

繊細かつ、すっきりした描線は、ボク的にどストライク。

 

 

 

 

本作は多種多様なあやかしを愛でる漫画。

ゆるキャラぽいのもいれば……

 

 

 

 

ネコバスよりインパクトある、ムカデバスなんてのも。

 

 

 

 

店先で試食したイカ的な食べものに舌鼓うつが、素材は店主のヒゲだったり。

「シャッター通り」の不景気と無縁な、独創性あふれる商店街だ。

 

 

 

 

箱からとびだしたのは、首のない女の子。

 

 

 

 

からくり人形の「御神楽くくり」は、アパートの家事全般をうけもつ。

古今東西の傀儡をあやつって。

 

 

 

 

ちょっと重い荷物は、大仏にはこばせる。

 

 

 

 

この街に深刻な対立や葛藤はみあたらず、

ヒトと魑魅魍魎がゆるゆるな日常をおくっている。

異質な存在を排除したがる風潮への、作者の異議申し立てとよめなくもない。

 

まぁ無理に時事ネタとむすびつけなくても、

やけに自然体なモン娘たちを好きにならずにいられない。

雪女の「雪野ふぶき」は、握手しただけで手が凍りつく。

 

 

 

 

怒るとビキビキ角がはえる、サブヒロイン格の「三ッ鬼乙花(みつき おとは)」。

兇暴な鬼娘だ。

 

 

 

 

秘密の趣味はコスプレ。

人間の文化にすっかりハマったらしい。

 

 

 

 

制服着るだけで化けてしまう、オンナノコの本能がいちばん特異なのか!?

ヘンテコだけど、あざとくない作風に感心。

作者は成人向けも描いてるが、そっちに染まらないでほしいかな。

いや、単行本出たら絶対買うけど。

この魔力は抵抗しがたい……。




ばけもの町のヒトビト 1 (アクションコミックス)ばけもの町のヒトビト 1 (アクションコミックス)
(2014/03/10)
くまのとおる

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

佐藤健太郎『魔法少女サイト』

 

 

魔法少女サイト

 

作者:佐藤健太郎

掲載サイト:『Championタップ!』(秋田書店)2013年-

単行本:少年チャンピオン・コミックス

 

 

 

佐藤健太郎、この平凡な名をもつ漫画家を、世界はまだ認識してない。

本作は『魔法少女・オブ・ジ・エンド』とおなじく、いじめられっ子がヒロイン。

せっかくの並行連載なのに、「マホーショージョ」しか描きたくないらしい。

 

 

 

 

中学生の「朝霧彩」は、家でも兄から虐待うける。

生理がとまるほど腹を殴られるのが日課。

 

 

 

 

人生の袋小路にさしこむ光明。

下駄箱にはいってた、羽つきのハート型の銃。

 

 

 

 

自分を強姦しようとした男と、それを教唆した女へむけ発射すると、

ハートの硝煙だけのこしDQNどもは忽然ときえる。

なぜか電車に首を切断されていた。

 

『オブ・ジ・エンド』の萌えとグロの比率が「3:7」なら、本作は「7:3」。

 

 

 

 

同級生の「奴村露乃(やつむら つゆの)」も魔法少女だった。

羽のはえたスマホ型の道具をあやつる。

「時をとめる」、ボスキャラ級の能力をもつ。

 

口から垂れてるのは、ヨダレでなく血。

魔法の使用は少女らの寿命をちぢめる。

 

 

 

 

魔力は、不幸な少女にのみ与えられる。

露乃の過去、それは絶望の淵の底とゆうべきもの。

番外篇6.5話でえがかれる復讐譚もやるせない。

 

今風のかわいい絵柄だが、救いはない。

 

 

 

 

人を殺すのをためらう彩と、無感覚になっている露乃。

ふたりは共闘するが、理解しあってない。

 

本作に魔法少女モノの定番、マスコットキャラは不在。

たとえば『まどマギ』のキュウべえはむかつくが、

アレのおかげで、まどかはすくなくとも孤独じゃない。

 

 

 

 

「魔法少女狩り」をする魔法少女もいる。

ほかを斃し、それぞれの道具「ステッキ」をあつめれば無敵。

多彩な術をくりだすバトルがみどころ。

 

 

 

 

いかにも薄幸そうな彩だが、恋愛フラグもたっている。

 

サトケン先生の作風は既視感こそつよいが、甘めにしたり苦めにしたり、

たくみな匙加減で読者を翻弄する、したたかな描き手だ。




魔法少女サイト(1) (少年チャンピオン・コミックス)魔法少女サイト(1) (少年チャンピオン・コミックス)
(2014/03/07)
佐藤健太郎

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『マケン姫っ! 通』9話 もっともエロい科目はなにか?

 

 

学園ハーレム

 

テレビアニメ『マケン姫っ! 通』第9話

 

出演:前野智昭 下屋則子 野水伊織 矢作紗友里 藏合紗恵子 美名

演出・絵コンテ:高橋秀弥

脚本:雑破業

監督:金子ひらく

シリーズ構成:黒田洋介

総作画監督・キャラクターデザイン:高見明男

原作:武田弘光『マケン姫っ!』(富士見書房)

アニメーション制作:XEBEC

放送:2014年

 

 

廊下でたまたま自分の悪口が耳にはいり、学園長がキレた。

 

 

 

 

「学園長なんてお気楽な仕事してるから、いつもジャージで女捨てちゃうのかしら」

「いえてるぅ、キャハハハ」

 

ぐぬぬ……あたしは学園長やめる!

しばらく生徒にやらせて、この仕事がどんだけ大変かおもいしらせてやる!

 

 

 

 

スケベな「碓健悟(うすい けんご)」が新学園長に就任。

さっそくシラバスの改訂にとりくむ。

地理の授業で、「エロマンガ島」と女生徒に答えさせたり。

 

 

 

 

社会科見学でTENGAぽい会社の工場へゆき、

タンブラーに似た形状の商品を手にとらせたり。

乙女のしらないことが、世間にはたくさんある。

 

 

 

 

国語は官能小説を朗読。

 

 

 

 

「ある日金太が歩いていると~♪」

 

コミックソングの金字塔、つボイノリオ『金太の大冒険』を熱唱。

天使の歌声を淫らにそめる。

 

 

 

 

理系科目でもエロスを追求。

おっぱいの体積を算出し、数学力やしなう。

 

 

 

 

登校時間からすでにセクハラの嵐。

リンボーダンスに成功しないと校門から先へすすめない。

 

『マケン姫っ!』2期の監督は、『聖痕のクェイサー』などでしられる金子ひらくにかわった。

ボクは『魔乳秘剣帖』がだいすき。

過剰なサーヴィス精神のもと、ヒロインは辱められてゆくが、

起承転結はっきりした物語が中核にあり、不思議と下品にならない。

 

 

 

 

「こんなものはこうして通ればいいのじゃ!」

 

文系科目でも理系科目でも副教科でも、マケンキを屈服させることはできない。

 

 

 

 

生物の時間。

「うわぁ、ウジャウジャいるぅ。なんかオタマジャクシみたい」

「で、これなに?」

「さぁ?」

 

 

 

 

となりで「タケル」がシャーレもって興奮している。

 

一番エロい科目は生物だ。

だって性慾って、要するに生殖行動でしょ。

 

 

 

 

学問の深淵をのぞかせつつ、女生徒らの叛乱で9話は幕をおろす。

美少女を支配するのがいかに困難か。

そういやボクも学校で、骨身にしみるほどまなんだなあ。




マケン姫っ! 通 第5巻 Blu-rayマケン姫っ! 通 第5巻 Blu-ray
(2014/07/25)
前野智昭、下屋則子 他

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センターフォワードは諸刃の剣

『日経ビジネスDigital』

 

 

河崎三行『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)に、

INAC神戸レオネッサの会長をつとめる文弘宣の悪口がかいてある。

 

なでしこリーグのBGMにチャンピオンズリーグアンセムをつかうなんて失笑モノとか、

マスコミに対しなにかと虚勢をはるとか、スーツがバブル時代の趣味とか、

素人のくせ公式戦のベンチにすわり、監督さしおいて選手を罵倒するとか。

典型な俗物と言いたいらしい。

 

彼が俗物かはともかく、代表クラスの選手と個人的な食事会を設け、

あからさまに選手の処遇に差をつけるのは、いただけない。

選手と御飯をたべたいなら、チーム全員招待するのが筋だ。

ただし、サッカーの世界で「依怙贔屓」は日常茶飯事でもある。

 

 

カンプノウでのグアルディオラ(撮影:tpower1978)

 

 

たとえばジョゼップ・グアルディオラは、リオネル・メッシを偏愛。

2009-10シーズン、メッシは「CFでなければ試合に出ない」と監督につげる。

そして身長195センチのイブラヒモヴィッチをウイングへまわせと。

 

ペップはこうかたる。

 

メッシは独特だし、唯一無二の逸材なんだ。

僕たちは彼を飽きさせないようにして、

彼が気持ち良くプレーできるような選手で周りを固めなければならない。

 

つまり、メッシにあわない選手は必要ない。

 

 

バルセロナ時代のイブラヒモヴィッチ(撮影:Якушкин Иван)

 

 

よって6600万ユーロで獲得したズラタンを、2400万ユーロで放出。

これが合理的判断だろうか。

 

アレクサンドル・フレブも、バルセロナで疎外感をおぼえた。

アーセナル時代のアーセン・ヴェンゲルは、チーム全員と親密な関係をきづき、

なにか問題おきても、選手の目をまっすぐのぞき語りかけ、話に耳をかたむける。

フレブにいわせると、ペップはわかく経験不足で、器がちいさい。

 

 

メッシのゴールシーン(撮影:Darz Mol)

 

 

いや、「民主的」なのが良いとはかぎらない。

CLとリーガを制し、クラシコでレアルを5-0で粉砕した翌2010-11シーズンは、

メッシにあたえた独裁権力が効を奏した。

 

だが公平な競争原理は忘れられ、周囲はメッシへ過度に依存する。

2012-13シーズン、バルサの対戦相手はこぞって天才児を四人で囲いこんだ。

それでも彼は抜いてしまうが、つねに成功するわけではない。

 

手勢のコントロールをうしなったペップは、その年かぎりで退団。

モウリーニョとの心理戦に傷ついたのも理由にかぞえられる。

 

 

アドリアーノと宇佐美貴史(『nikkansports.com』 撮影:宮崎幸一)

 

 

ガンバ大阪を10年間ひきいた西野朗は、ヴェンゲルにちかい「民主派」だろう。

彼の著書『勝利のルーティーン』(幻冬舎)に、宮本恒靖を外した話がある。

2004年、日本代表キャプテンでもある宮本がアジアカップに参加するあいだ、

ガンバの3バック、シジクレイ・山口・實好は機能し、無失点が4試合つづいた。

かえってきた宮本はサブへまわされる。

「なぜ外すのか」と聞かれたので話したら、納得はしないが文句はいわなかった。

丸くおさまったのは、宮本の冷静さと、DFとゆうポジションのおかげらしい。

 

西野が就任した当時、ガンバにマグロンとゆうFWがいた。

192センチでヘディングが滅法つよいが、単調な攻撃は次第に封じられる。

 

センターフォワードの選択は、チームのスタイルそのものにも影響する。

どうしても点を取る方向にチームが偏っていくので、

獲得した選手のプレーに合った戦術を選択していかないと、

チームが機能しなくなってしまうのだ。

簡単に言うと、CFのプレーに周囲が合わせてしまうということだ。

 

遠藤や二川によるポゼッションサッカーへ移行できたのは、マグロンが負傷離脱したから。

 

2011年序盤の2トップは、アドリアーノと宇佐美貴史。

このふたりが相性わるく、アドリアーノの1トップへかえたところ、

サイドにまわった宇佐美が守備をサボりだしたのでトップ下におくと、

今度はサイド攻撃偏重のカウンター一辺倒となった。

ガンバらしいパスサッカーをとりもどしたのは、

たまたまシーズン途中に宇佐美とアドリアーノが移籍したため。

 

優秀なストライカーがいないと勝てないが、暴れ馬に轡をはめるのが、これまた難題。







【参考文献】

河崎三行『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)

グイレム・バラゲ『知られざるペップ・グアルディオラ』(フロムワン)

西野朗『勝利のルーティーン』(幻冬舎)



蹴る女 なでしこジャパンのリアル蹴る女 なでしこジャパンのリアル
(2014/01/11)
河崎三行

知られざるペップ・グアルディオラ サッカーを進化させた若き名将の肖像知られざるペップ・グアルディオラ サッカーを進化させた若き名将の肖像
(2014/02/07)
グレイム・バラゲ

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(2014/01/23)
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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

水瀬るるう『大家さんは思春期!』2巻 里中チエのペルソナ

 

 

大家さんは思春期!

 

作者:水瀬るるう

掲載誌:『まんがタイム』(芳文社)2012年-

単行本:まんがタイムコミックス

[1巻の記事はこちら

 

 

 

中学1年、12歳の「里中チエ」が、祖母から継いだアパートを切り盛りする四コマ。

題名に反し春はまだこず、家事ばかり上達。

料理の腕は板前レヴェルに。

 

 

 

 

テニス部を見学しにゆけば、ウェアの破廉恥さにうろたえる。

前近代的な道徳観念のもちぬし。

 

 

 

 

級友がファッション雑誌よみながら盛りあがっている。

チュニックとショートパンツ、それぞれ2980円。

ガーン、特売でお米10kg買える値段!

花より団子、服より白米。

 

 

 

 

タンスの中身は、御近所でもらったお下がりのセーラー服だけ。

私服は皆無。

 

人はその制服どおりの人間になる。

 

ナポレオン・ボナパルトがのこした箴言のひとつ。

つまり里中チエは、100%混じりけなしの女子中学生。

 

 

 

 

204号室の「麗子さん」につれられデパートで買いもの。

お金持ちなホステスさんゆえ、高めの服でもおねだりできる。

チエちゃんは、ボーイッシュなのからカワイイのまでなんでも似合うが、違和感ぬぐえない。

結局、浴衣を買ってもらった。

 

 

 

 

巻末のお泊り会が見せ場。

仲よし五人組は期末試験前、「さくらちゃん」家へ勉強しにゆく。

古アパートとくらべ広くてキレイで、店子に申しわけない気持ちに。

 

 

 

 

……ハッ!

勉強中、階下から包丁の音がきこえた。

もう居ても立ってもいられない。

「お願いだから手伝わせて」とたのむ。

 

台所での手際よさは、まさに理想の嫁。

はじめて「お母さんの手伝い」ができて、よろこぶチエ。

 

 

 

 

スーパーガールの心の奥が垣間みえる。

母は「いないも同然」、父は「優しい人だと聞いた覚えが」。

渡り鳥の雛よろしく、さくらちゃんのママが「理想の母親像」とおもいこむ。

家事をおしえたのは祖母だが、それは「母と娘」とゆう特別な関係にかえられない。

 

チエの発言は戦慄にあたいする。

こんなかわいい娘に、空間的心理的な距離をおく母親って、血も涙もない悪魔かも?

 

 

 

 

翌朝、チエを見送るさくらちゃんファミリーは号泣。

一晩泊っただけなのに、血をわけた家族の今生の別れみたい。

イヌの様に純粋で忠実で、愛をもとめ人の懐へとびこむ。

日常を大河ドラマにかえる窮極ヒロイン。

 

 

 

 

チエが擬似家族を演じるのは、「娘」になったことがないからだろう。

一番多感な時期に、娘としてのペルソナをうばわれた。

 

ようやく夏祭りで、思春期らしい経験をあたえられる。

 

 

 

 

浴衣姿は朝顔のごとくうるわしい。

あまりの可憐さに、203号室の「前田」にボディガード役を命じる麗子さん。

守りきれるだろうか。

 

ただ浴衣は「私服」といえない。

母との相剋、その葛藤をへてのみ、娘は自分の色をみいだす。

自分の服をえらべない女なんて、女じゃない。

純白のセーラー服じゃ、だれも愛せない。

いつか彼女が色気づく瞬間がたのしみでもあり、さびしくもあり。

読者も肉親みたいな気分に。

 

萌え四コマ界でも群をぬいて萌える、天使より無垢で、悪魔的に魅了するヒロインだ。




大家さんは思春期!  (2) (まんがタイムコミックス)大家さんは思春期! (2) (まんがタイムコミックス)
(2014/03/06)
水瀬るるう

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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ 

大野ツトム『しっぽ! エンハンスメント』

 

 

しっぽ! エンハンスメント

 

作者:大野ツトム

掲載誌:『漫画アクション』(双葉社)2013年-

単行本:アクションコミックス

 

 

 

攻めの姿勢きわだつ双葉社が、今回おくりだすヒロインは「しっぽ娘」。

名前は「小山田ハナ」。

ワオキツネザルみたく立派なイチモツだ。

 

 

 

 

機械じかけの便利な尾をつかい、海でエビを採るなどしてくらす。

「海女さん萌え」の漫画でもあり。

偶然メガネ男子をひろった日から、騒動にまきこまれる。

 

 

 

 

かれの名は「アンソニー」。

南方の島国「ガーランドラ」の王子と称し、しっぽの返還を要求。

それはもともと王国の所有物で、つけ根に刻印もある。

開発者であるハナの祖父が、15年まえ試作機を持ち逃げした。

 

 

 

 

「Exception ARM Module」、略して「EXARM(エクサム)モジュール」とよばれる。

人体と融合し、機能を強化する、サバネティクスエンハンスメントだ。

軍事利用もできそう。

ガーランドラは小国ながらレアメタルを産出、科学水準もたかい。

 

 

 

 

ハナは亡き祖父から王子の話をきかされ、ずっとあこがれていた。

実物は科学オタクのもやしっ子で幻滅だけど。

 

 

 

 

純朴なしっぽ娘と、理系男子の、相当噛み合わないラブコメぶりがたのしい。

EXARMは王族をまもるようプログラムされてるので、

さわられるとハナはビクンビクンッと反応。

恥しくてしかたないが、王子は機械しか興味ない。

 

 

 

 

そもそも祖父がハナに異様なマシンを移植したのは、

病気をもってうまれた彼女を生きながらえさせるため。

 

メカ娘趣味と、ケモナーやモン娘趣味のハイブリッドで、あらたな性的嗜好を開拓。

 

 

 

 

最後に敵キャラ「バネッサ」を紹介。

パッツン前髪のクールな戦闘員で、左腕から銃弾はなつ。

 

 

 

 

……かとおもえば、モジュールをチェーンソーにきりかえ攻撃したり。

ほかにもゼルダのフックショットみたいのとか、あれこれ交換しつつハナを翻弄。

これがEXARM本来の戦術みたい。

 

大野ツトムは『劇場版TIGER&BUNNY』のコミカライズをてがけた作家で、

アクションは洗練されてるし、キャラも表情ゆたかでいい。

アニメよりのダイナミックな作画だ。

 

 

 

 

希少資源をめぐる国際的陰謀に、ハナの出生の秘密などからむ物語。

そしてなにより、パンツのクロッチの描写にロマンがこもる。

目がはなせない。




しっぽ!エンハンスメント(1) (アクションコミックス)しっぽ!エンハンスメント(1) (アクションコミックス)
(2014/02/28)
大野ツトム

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

サムライとゆう前衛

京都御所

 

 

なぜわれわれは戦国時代に惹かれるのか?

自由だから。

なにから自由なのか?

天皇の支配から。

 

日本列島の歴史で、現代に通ずる「国境」の観念がうまれたのは、

戦国大名が領域権力として、通行規制をおこなったことに遡る。

その領国は「国家」と称される。

喧嘩両成敗法により家来同士の抗争を禁じ、総力戦体制をととのえた。

 

 

 

 

太閤検地・石高制・兵農分離・楽市楽座・一向一揆との対決・貨幣政策……。

すべて織田信長と豊臣秀吉の「先進性」によると学校でおそわるが、

「天下人なら政策も画期的だったはず」とゆう、乱暴な予定調和論にすぎない。

信長など最終段階にようやく、ほかの戦国大名のレヴェルに追いついたのに。

 

画期的だったのはひとりの天才でなく、時代だ。

 

 

二条城二の丸御殿大広間一の間・二の間

 

 

江戸時代に幕府は「公儀」とよばれた。

国家の公権力を意味するこの用法は、戦国時代にはじまる。

イエズス会宣教師ルイス・フロイスは、大名を国替えさせる転封におどろいた。

ヨーロッパの封建制ではありえない。

 

幕府は「公家衆法度」や「禁中並公家諸法度」で、公家を直接統制。

統制される側からも歓迎された。

ただ林羅山が、京都で論語の講読をおこなったときは反感まねく。

学問は家ごとの秘伝とされ、一般公開など非常識だった。

それでも徳川家康は、公家の家々に秘蔵された典籍の提出を命じ、

出版事業に力をいれ、学問の普及をはかった。

 

旗本の学者である新井白石は、『読史余論』で支那思想を応用、

家康の覇業を、天皇から武家への易姓革命として正当化。

それは古代以来となる、日本史上第二の統一国家だった。

 

 

徳川慶喜撮影「安倍川鉄橋上り列車進行中之図」 晩年の慶喜は写真狂いだった

 

 

幕末に模索された「公儀政体」は、欧米の議会制度にならったもの。

オランダ語や漢文の書籍から、サムライは1825年頃すでに最新の政治思想をまなんだ。

そもそも江戸幕府の体制自体、「大名の連合政権」のごとき性格をもつ。

 

近世の武士は、中世の武士とことなる。

13世紀以前は地方豪族とその従者を成員とするのに対し、

被支配者である上層農民が武装した、新興の社会階層だった。

ブルジョアが主導したフランス革命に似てる。

武士の平等意識や合議制の伝統は、身分としての出自による。

「私心」を悪とみなし、藩または国家の「公論」を尊重した。

 

 

徳川慶喜(1866-67年撮影)

 

 

問題は徳川慶喜。

彼が鳥羽伏見の戦いで弱腰だったのは、天皇の目前での戦争を嫌ったから。

その建前が「朝敵」扱いをまねいたわけで、皮肉とゆうか喜劇だ。

 

大政奉還や敵前逃亡などの突発的行動は、

「独公」とあだ名された慶喜の、孤独をこのむ性質に原因の一端がある。

配下や一般大衆への関心も皆無だった。

失職後の幕臣の生活をおもえば、政権の返上など即断できるはずない。

たしかに「最後の将軍」はサムライでなかった。

 

歴史上のどんな悪玉も、研究がすすむにつれ再評価されるものだが、

2014年刊行の評伝を読んだところで、慶喜に復権の気配は感じられない。

天皇に反革命をゆるし、日本史の時計を古代へ巻き戻したから仕方ないか。







【参考文献】

黒田基樹『戦国大名 政策・統治・戦争』(平凡社新書)

尾藤正英『江戸時代とはなにか』(岩波書店)

家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館・人物叢書)



戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)
(2014/01/17)
黒田基樹


江戸時代とはなにか―日本史上の近世と近代 (岩波現代文庫)江戸時代とはなにか―日本史上の近世と近代 (岩波現代文庫)
(2006/04/14)
尾藤正英


徳川慶喜 (人物叢書)徳川慶喜 (人物叢書)
(2014/01/08)
家近良樹

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

タグ: 天皇 

松井勝法『ハナカク -The Last Girl Standing-』

 

 

ハナカク -The Last Girl Standing-

 

作者:松井勝法

掲載誌:『月刊コミックゼノン』(徳間書店)2013年-

単行本:ゼノンコミックス

 

 

 

女子の総合格闘技をえがく漫画。

可憐な娘らの血がながれ、骨はくだけ、靭帯はちぎれ、意識がとぶ。

 

 

 

 

おなじ題材をあつかうものに太田モアレ『鉄風』(2008年-)があるが、

本作の方がより10年代的かな。

高校1年「吉野小春」の、セーラー服の脚線みれば一目瞭然。

 

 

 

 

せっかくの美脚も、車の破壊につかわれるけど。

変質者にさらわれかけた主人公をたすける。

 

 

 

 

強い相手をみるとヨダレをたらす、残念な性癖をもつ。

 

作者は2000年ごろ、「キユ」名義で『週刊少年ジャンプ』に連載もつが、

2本とも10週で打ち切りとゆう憂き目にあう。

それでも昔とった杵柄で、少年漫画的な誇張表現は錆びついてない。

 

 

 

 

その後『ビジネスジャンプ』へうつり、原作つきの女ソムリエもの『ソムリエール』がヒット、

単行本21巻分の長期連載をおえ、満を持しオリジナル作で再戦いどむ。

幼稚な言動を、初期のインターネット文化でコケにされたWJ時代をへて、

ワイン漫画で実力やしなったいま、ソツなく萌えの流行をとりいれるなど成長。

よく「時代が〇〇に追いついた」とゆうが、この場合「キユが時代に追いついた」か。

世間様にジャーマンスープレックスかます様な痛快さがある。

 

 

 

 

ヒロインは「安藤花夏(はなか)」。

身長142センチでハムスターぽい。

ひょっとして格闘漫画史上、最軽量の主人公じゃないか?

 

 

 

 

花夏が強くなりたいとねがうのは、園藝部だった中学時代、

イジメられている友人をたすけられなかったから。

体はちいさいが、胸に熱いものを秘める。

 

 

 

 

打・投・極のMMAは、かならずしも体格がすべてじゃないとはいえ、

142センチの幼児体型は極端におもえる。

取り柄は反射神経くらい。

 

 

 

 

ひっこみ思案で非力で運動音痴だけど、ドッジボールで逃げるのだけ得意だった。

小春から強引にジムへさそわれ、格闘家としての道をあゆみだす。

 

 

 

 

脇役がみな個性的で、ワイワイガヤガヤがたのしい漫画だが、

ここはチャンピオン「野原忍」を紹介しておこう。

普段はヨガのインストラクターみたいな感じ。

 

 

 

 

リングでは棘をもつ薔薇となる。

「妖刀」と評される挑戦者の左ハイキックを華麗にかわし、からみつき、へし折る。

 

 

 

 

史上最弱クラスのヒロインが、どこまで強くなるのか。

こんなに「先が楽しみ」な漫画はそうない。




ハナカク 1: -The Last Girl Standing- (ゼノンコミックス)ハナカク 1: -The Last Girl Standing- (ゼノンコミックス)
(2014/02/20)
松井勝法

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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

花澤香菜『25』

 

 

25

 

花澤香菜のアルバム

 

サウンドプロデュース:北川勝利(ROUND TABLE)

アルバムプロデュース:山内真治

発行:アニプレックス 2014年

 

【上の画像クリックでYouTubeへ飛びます】

 

 

 

「どん! たん! ちきちき、どったん!」

きっと世界一かわいいヴォイスパーカッション。

MC Hanazawaによるラップにもときめく。

 

声優・花澤香菜の二枚めのアルバムの白眉は「Brand New Days」

南波志帆など手がける矢野博康が、スクリッティ・ポリッティぽい打ち込みで、

ニューウェイヴと渋谷系とアイドル声優を串刺しにした、だんご3兄弟的名曲だ。

 

花澤の声質はよくもわるくも、しっとりした情感にとぼしく、

弦楽器や管楽器より、打楽器にちかい佐倉綾音の発言も参照のこと)

 

 

 

 

年齢にあわせた全25曲、99分10秒。

うち24曲が新作、カラフルながらも統一感がある。

音楽面は北川勝利、作詞面は岩里祐穂と密に意見交換し、

「アーティスト花澤香菜」の看板を前面にうちだしたと、一聴してわかる。

 

だが、しかし。

そもそも「花澤香菜」とはなにか。

アニメやラジオ出演、雑誌インタヴューなどからつたわる彼女のひととなりは、

ひとことでゆうとエゴのなさ。

エゴのない自分を誇るエゴすら感じさせない。

くらべたら初音ミクの方がずっと人間臭い。

 

つまり、アーティストの本質を聞き手にさぐらせるためのCD2枚組。

オレたちにも花澤がわからないから、99分のなかで自分で見つけてねってこと。

 

 

 

 

17曲め「Eeny, meeny, miny, moe」がよい手がかりとなる。

作編曲はニコニコ動画周辺で活動する白神真志朗

作詞は『ゼーガペイン』(2006年)以来の声優仲間である浅沼晋太郎

音楽的には10年代の流儀、精神的にはよりパーソナルに。

 

台詞の上からなぞった ペンの黄色いライン 行ったり来たり

どうか夢への扉が 閉まりませんようにと 願って叫んでた

 

マクドナルドかどこかで、台本にマーカーで線をひく新人声優。

ゲーム音楽の洗礼をうけた世代による息せき切ったメロディに、

17歳のころの無力感と不安と焦燥が結晶化している。

 

いまでこそ「花澤無双」と評され、出演してないアニメをさがす方が困難なほどの人気だが、

のほほんと透明感あふれる演技の裏にある、必死な情熱が透けてみえた。

 

 

 

 

シンプルなギターロックの「マラソン」は、歌手自身が作詞にかかわる。

 

でこぼこアスファルト たまに石ころ

応援はない ライバルもいない

 

風の中を 走れ 走れ

ひとりきりで 走れ 走れ

 

そこにえがかれる風景は、意外なほど孤独。

 

 

 

 

モータウン調のシャッフルビートが人をしあわせにする「25 Hours a Day」も、

聞き返すうち、花澤の葛藤が滲みでていることに気づく。

 

25 Hours a Day

24時間じゃ足りないくらい 素晴らしい

(略)

春の雨がもうすぐ ひと降りごと 街を輝かせる

そんなふうに もっと優しくなれたらいいな

 

どちらかとゆうと慾望うすい彼女の願いは、1日がもう1時間ながくなること。

それと人にやさしくなること。

全人類共通の願望だが、だからこそ絶望的にむつかしい。

でも花澤香菜なら実現可能かもしれない……なんておもわせる、

魔法みたくキラキラした、個性的で普遍的な「ざーさんポップ」がここにある。




25(初回生産限定盤)25(初回生産限定盤)
(2014/02/26)
花澤香菜

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テーマ : 声優
ジャンル : アニメ・コミック

小説19-2 大宮の戦い

『自由か、隷属か』


登場人物表


全篇はこちら






三週間がすぎた。

暑さと、出口のみえない連戦で、心身は消耗してゆく。

 

もともと北部戦線は目的が不明瞭だ。

発端はサッカー。

埼玉県知事が非常事態宣言を発し、県内での大規模イベントを禁止したところ、

浦和レッドダイヤモンズのサポーターが暴徒化、数千人で県庁を襲撃した。

知事は警察をうごかし弾圧にのりだすが、はげしい抵抗にあう。

浦和駅前のフラッグを撤去しようとした警官は袋叩きにされた。

しまいには赤い服をきてるだけで逮捕されるとゆう騒乱におちいり、軍が出動。

 

そんなわけでレッズサポーターが北方軍の中核をなす。

赤い服はやたら目立つし、なにかとゆうと「ウィーアーレッズ! ウィーアーレッズ!」とさわぐ。

カモフラージュもなにもあったものではない。

さっきもある兵にユニフォームを脱ぐよう指示したが、黙殺された。

 

「あれはあれでいいじゃない」と、トモコ会長が肩をもつ。

「そうか?」

「2011年のエジプト革命でも、サッカーのサポーターが大きな役割を担ったのよ。

かれらの行動力、組織力、鼓舞する力は、敵にとり脅威となる」

 

テントに赤服がはいってきて、「姐さん、よかったらどうぞ」と、かき氷をさしだした。

会長への貢物だ。

 

「『姐さん』? 会長はずいぶん慕われてるんだな」

「いってなかったっけ。わたしは去年からレッズのオーナーよ。本社がこっちだし」

「へぇ、サッカーにくわしいなんて意外だ」

「いや全然。オフサイドとかわけわかんない。

ただ女子チームに猶本光ちゃんてゆう、すごくカワイイ子がいてね。

彼女を支えてあげたいっていうか、直に会ってみたい、なんて……」

 

スプーンくわえて顔をあからめる。

戦争は、さまざまなプレイヤーの思惑が錯綜する、複雑怪奇なゲーム。

 

 

 

 

 

「兵は拙速をたっとぶ! 敵の意図はあきらかだ!」

 

たちあがって机をたたき、北方軍司令官の門田をどなりつけた。

きょうも作戦会議は紛糾する。

椅子から見上げるポロシャツの代議士は何くわぬ顔。

軍のナンバー3であるわたしと、どちらが上位かはっきりしない。

名目はこちらだが、国会議員が女子高生の風下にたつのは癪だから。

 

北部戦線はわが軍が優勢。

政府軍は東京で主力と合流したいらしく、強引に南へ突出をくりかえし、

そのたび側背をつかれ、じわじわ傷をひろげていた。

現在の兵力は6000、志願兵をふやしている自由軍の半分までへった。

出血に耐えかねてか、二三日まえから大宮の台地にあつまり、陣地を構築しはじめた。

いますぐ攻撃しなくてはならない。

 

門田は達者な口で自重論を説くが、要はおびえている。

大規模な衝突がもたらす結果に。

保身をはかる者との議論は無益だ。

スキャンダルをつきつけるか、それともたたっ斬るか。

 

「アーレオー、アーレオー、俺たちの浦和レッズ!」と、野太い歌声が外からひびく。

あわてて駆けでると、赤い群衆が太鼓にあわせ飛び跳ねている。

「大宮ぶっつぶせ」などと絶叫しながら。

そして指揮統制そっちのけで北東へ突撃をはじめた。

 

テントへもどると、とりのこされた北方軍幹部が虚ろな表情でたちつくす。

 

「あなたがたは出陣しないのですか? 兵が危険をおかしてるのに」

「低能のサッカー気違いどもが……」と、血の気のうせた門田がもらす。

「『善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず』」

「なに?」

「戦巧者は人材にたよらず、勢いにより勝利するって意味です。『孫子』勢篇」

「…………」

「では司令官、千仞の山をころがる様に戦ってきます」

 

 

 

おそらく敵が合流をいそぐのは、補給がとどこおっているから。

国道17号を北上すると、情報どおり政府軍のトラックが渋滞にまきこまれていた。

会長ひきいる弓隊の射撃のあと、斬りこんで糧食をうばう。

食いしん坊のジュンがよろこぶはず。

 

手勢を半分のこし、大宮公園へむかう。

ここが桜の名所の評判をとりもどすのに、あと何年かかるだろうか。

青葉は真紅の炎にのまれ、灰となり地面へかえってゆく。

氷川神社の祭神の怒りがおそろしい。

命からがら逃げ散る敵兵は、ひとりづつ血祭りにあげられる。

すでに勝敗は決した。

いい気になったレッズサポーターは、NACK5スタジアムまで放火。

翌日、将官6名ふくむ政府軍5500名が降伏をもうしでた。

 

 

 

 

 

戦いがおわり、川沿いの基地まであるく。

なまくら刀の血糊を拭きとる。

今回斬ったのは、トラックの三人。

ほとんど抵抗うけずに、突き刺し、薙ぎ払い、首を刎ねた。

アドレナリンの高揚がさり、殺人者としての苦悩だけのこる。

となりのトモコ会長と目があう。

多分おなじことをかんがえている。

二日でげっそり痩せ、美人女子大生の看板が台無しだ。

 

「わたしは荒事に向いてないわぁ……。ズルいけど、後方支援に専念するわ」

 

わたしだって向いてない。

殺せば殺すほど、痛感する。

そう宣言する勇気がないだけ。

 

「会長、こないだはありがとう」

「なんのこと?」

「例の患者を斬るのを止めてくれたこと」

「ああ、あれね。お安い御用よ。どうせ手を挙げるだろうと思ってたし。

刀で斬りつけたのはビックリだけど。あなたも止められるの想定してたでしょ?」

「そんなことはない。わたしはカッとなると見境なくなるから……」

「じゃあ無意識の計算か。いづれにせよ、士気をたかめる意図を感じたわ」

 

表情はつかれてるが、声にこちらを批判する調子はない。

会長はつづける。

 

「あなたは、わたしや本城さんの側の人間よ。理性にしたがう。

朱星兄妹はちがうわね。感情のまま生きる。血筋かしら」

「ジュンはわかるが、ジョージもか?」

「あらあら、灯台もと暗しで気づかないのかな。かんがえてみなさいよ。

妹が可愛くてしかたなくて、革命までおこしたのよ、あのお兄ちゃんは」

 

そういわれれば、そうかもしれない。

とにかく、感情ゆたかな兄妹のいるメッセへかえることが、いまのわたしの唯一の希望。


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苑田 健

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