小説18 三顧の礼

『自由か、隷属か』


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6月20日 本城フラン

 

 

 

タクシーで北京郊外をはしる。

山脈がちかづいてきた。

ゆくさきは人民解放軍の女性士官の寮。

 

先日の中国外務省との非公式の会談は、成功といっていいとおもう。

門前払いをくらうのも覚悟してたから。

わたしの著書『自立するJK』シリーズはこちらでも版をかさねており、

17歳の女とはいえ、一応名士として通用したのかもしれない。

 

自由日本軍にとり、中国との同盟締結は死活問題だ。

いま兵力1万4000、人口の一万分の一ほどの規模しかないが、

対する政府軍は、国全体を支配していることが弱点となりうる。

有事だからこそ、国境を警備するのに軍事的資産を割かれるし、

もし他国が呼応すれば、二正面作戦の不利におちいる。

中国政府から、当面は内戦に対し中立との確約をとり、数十億円の借款をうけた。

でもみんなのもとへ帰るには、まだ手土産がたりない。

 

タクシーをおり、ふるぼけた寮の受付をたづねた。

「馮愛生(フェン アイシェン)上尉」をよびだしてもらう。

 

「何度もお騒がせしてすみません」と頭をさげる。

「またあなたか……これで三日連続じゃないか」

 

フェン上尉は24歳の陸軍士官。

暴動鎮圧などの実績があり、日本に興味があるとゆうことで紹介された。

地につくほどの黒髪をうしろでたばね、パッと花がさく様な美貌の持ち主。

自由部で美人は見慣れてるけど、このひとにも圧倒される。

でもムスッとしてるから、御機嫌とらなきゃ。

 

「劉備が諸葛亮の家をたづねたときは、三回めでようやく会えました。

わたしごときが三顧の礼をつくさずして、だれの心をうごかせるでしょう」

「三国志か。しかしわたしには『天下三分の計』などない」

「あれは創作だとおもいます。人払いをしての発言だったと陳寿も書いてますし」

「ふふ……たしかにね。密談の記録をのこした人間がいるはずない。

わかったよ、降参だ。すくなくとも話はきこう。応接室にきてくれ」

「ありがとうございます!」

 

コーヒーか紅茶か聞かれたので、紅茶をたのんだ。

お土産のチーバくんグッズをわたしたが、あまりよろこぶ風はない。

フェン上尉がコーヒーカップかたむけながら話す。

 

「いわれずとも用件はわかってる。革命に加担しろとゆうことだろう」

「御明察です」

「日本の情勢が気にならない軍人はいない。でもなぜわたしなんだ?」

「外務省のかたに、とても優秀なひとがいるおそわったので」

「そして父親が党幹部で、次期国家主席候補だから」

「否定はしません」

 

上尉がソファで反り返り、足をくむ。

 

「われわれ中国人は、最近の日本の右傾化を心配していた。

正義があるなら、アジアの平和に貢献できるなら、応援するにやぶさかでない」

「そのつもりでやっています。資料を御覧ください」

「宣伝文書なんて無意味だ。大事なのは信頼に値する人間かどうか」

「はい、わたしは自由日本軍を代表してここにきました」

 

ちいさな顔のまんまるな瞳に射すくめられる。

心の底まで見透かされそう。

 

「あの可憐な少女、『sailor suit revolutionary』といわれて有名な……」

「朱星ジュンですね」

「あの子はどうゆう人柄なんだ? こちらでもすごい人気だ。特に男から」

「尊敬できるひとです。わたしにない物をもっています。ささえて、力になりたい」

 

ノックがして、受付のおばさんが顔をだす。

配達員がアマゾンの巨大なダンボール箱をかかえている。

「ちょっと失礼」といってサインしにゆくフェン上尉。

箱をあけると中は日本の漫画がぎっしり。

 

「わたしはBL漫画がよみたくて日本語をマスターした。つまり腐女子だ」

「い、意外です」

「日本は男同士の恋愛が盛んなのだろう? 進んでて本当にうらやましいよ。

中国の男なんて、女の尻を追い回してばかり。まったくけがらわしい!」

 

大演説がとまらない。

同類だ、ジュンさんの同類を大陸でみつけてしまった。

 

「あとアイドルもみんなカワイイ! ハロプロにAKBにももクロ……」

「くわしいですね」

「日本にいったら、絶対会ってみたいアイドルがいる」

「だれですか」

「もちろん初音ミクさん! 彼女はすごく歌がうまい。人間ばなれした天才だ」

「わ、わたしも会えるなら会ってみたいなあ」

 

池袋のBLカフェをしってるかとか、根掘り葉掘りきかれる。

腕時計をちらりとみた。

マズイ、帰りの飛行機まであと1時間……。

 

「どうした、いそぎの用があるのか」

「いえいえ、フェン上尉とのお話の方が大事です」

「そんなことはあるまい。つづきは日本でしよう。約束だぞ」

「きてくれるのですか!?」

 

彫刻の様にととのった顔が、軍人の冷徹さをとりもどす。

 

「少数民族の弾圧なんてつまらない。それが正義なのかもわからない。

できるなら理想のため、青龍偃月刀をふるいたい」

「わたしも薙刀使いなんです。全然よわいですが」

「安心するといい。この馮愛生が前線にたてば、敵は逃げ散るだろう」



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苑田 謙

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