小説15-2 スカイツリーの戦い

『自由か、隷属か』


登場人物表


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アニキの焦燥が伝染した2万弱の大軍は、雪崩うって東京都の昼間人口をふやした。

交通は麻痺し、市民は恐惶をきたす。

白刃きらめかす奔流は、荒川にかかるいくつかの橋で堰きとめられる。

厳重なバリケードごしに矢の雨がふり、多くの自由軍兵士の血がながれた。

アニキは自分の決断がもたらす結果を、車内から注視。

 

「弓隊を前線にだします。連携はむづかしいですが」と中田。

「会長がいれば指揮してもらったのに」とアニキは無益なことをゆう。

 

新四ツ木橋の防御がくづれ、連鎖してほかの橋も陥落。

さらに都心の墨田区へすすむ。

どこまでゆくつもりか。

東京スカイツリーがあたしらをみおろす。

あけた窓からきこえる金属音や悲鳴は一瞬もやまない。

となりのフランちゃんの震えがはげしい。

かためたちいさな両の拳に手をかさねる。

 

「どうするんだアニキ。このまま東京を制圧するのか?」

「われわれにそんな力はない。引き際が肝心だ」

 

はなから引き際なんてなかった。

数時間はしりづめで息きらせた自由軍兵士は、

隅田川と荒川と東京湾と敵軍に包囲されてるときづいた。

組織化された政府軍の攻撃は、効率よく叛徒を生贄にささげる。

みしった人間が、斬られ、突き刺され、射抜かれる。

数か所で火の手があがった。

消防車のサイレンはきこえない。

罪なき弱者がにげまどい、たおれ、ふみつけられ、死んでゆく。

 

「ジョージィーッ! なぜ陣地をはなれた!?」

 

全身を血でそめたアリアさんが、鬼の形相ではしってくる。

 

「ア、アリア、けがは……?」

「なぜうごいたか聞いているッ!」

 

地団駄ふんで振りまわす太刀から血しぶきがとぶ。

全員斬り殺されかねない。

 

「高台で包囲されかけて……」

「いまここが包囲殲滅戦だろうがッ! もういい、撤退だ!

参謀長、命令系統を再編してくれ。指揮官クラスがふたりやられた」

「了解」

「わたしが殿をつとめる……なにボサッとしてる、いますぐ逃げろ!」

 

 

 

 

 

この「スカイツリーの戦い」で、自由軍は1500の死傷者と捕虜をだした。

対する政府軍は400にすぎず、みじめな敗北だ。

京葉道路をくだるプリウスのなかは無言。

二三日寝てない中田は助手席でねむる。

負傷者を満載したトラックをおいぬく。

絶望した視線に責められる気分に。

一般道におりると、太刀をせおう女兵士ふたりがロードバイクではしるのをみた。

自転車はわが軍の貴重な輸送手段。

 

 

 

 

 

メッセの会議室ですわるアニキはうちしおれていた。

悪態が口をとびだす。

 

「バカアニキ、ヘボ司令官、最弱将軍。フォーク准将なみの無能」

「…………」

「責任とれよ」

「やめればいいのか? もとはといえばオマエが……」

「うるさい、反省のコメントはないのか」

「あやまってすむ問題じゃないだろ……」

 

半泣きのアニキがつくづくなさけない。

ほかの幹部はうつむく。

あたしへの暗黙の同意らしい。

 

「普段ボンヤリしてても、いざとゆうときヤン・ウェンリーみたく、

才能発揮すると期待したあたしがバカだった。アニキ取り柄ねえな」

「そのくらいにしておけ」とアリアさんに片目でにらまれた。

 

体あらって着がえてるが、一日中たたかった汚塵が表情にのこる。

 

「そうだ、アリアさんが司令官になればいい」

「わたしはジョージの片腕になるときめている。

なあジュン、家族なんだから重責を理解してやってくれ。ささえてくれ。

さっきはアドレナリンでおかしくなってたとはいえ、わたしも不躾な発言をした。

ゆるせ、ジョージ」

 

なんだよ、みせつけるじゃんか。

勝手にあたしを呼び捨てしたのも気にいらない。

なにが家族だ、わりこんでくんな。

イカれた軍人野郎のくせに。

こっちはわかってんだ、アンタさっき逃げるため放火しただろ。

もうウンザリだ。

席をけって退室する。

 

 

 

自室のベッドにはいり、audio-technicaのヘッドフォンでiPhoneの音楽を再生。

 

「千本桜 夜ニ紛レ 君ノ声モ届カナイヨ

此処は宴 鋼の檻 その断頭台で見下ろして」

 

ねえ、リョウさん。

断頭台からあたしのこと見下ろしてる?

あなたの声がききたい。

だきしめられたい。

あたしはボーカロイドじゃないんだ、ひとりじゃもう無理だよ。



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苑田 謙

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