小説13-1 第二部「乱花篇」

『自由か、隷属か』


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5月9日 羽生アリア

 

 

 

京葉線は江戸川をこえた。

夕陽にきらめく川面が海へひろがる。

戦争などなければ、最高の一日だったのに。

 

となりの席でジュン君が漫画をよむ。

「4月22日の朱星ジュンはどこまで計算していたか?」

この問いは、後世の歴史家をなやますだろう。

一部始終を目撃したわたしすら、見当つかないのだから。

 

恋人を斬首する15歳の映像は、彼女を「悲劇のヒロイン」にした。

ふさわしい称号にちがいないが、あの悪意にみちた言葉の洪水を、

一瞬ですべて虚構と證明するしわざにわたしは戦慄した。

学び舎のみぐるしい醜聞が、革命前夜のうつくしい悲恋に。

どんでん返し。

反政府デモは、法の範囲内におさまるのをやめた。

支配者がそむいた法に、民衆がしたがう道理はない。

 

 

 

白地に黒のチェックのワンピースをきたフランが、ジュン君にはなしかける。

 

「髪きりましたよね。ボブかわいいなぁ」

「ありがと。『声優グランプリ』もってって、花澤香菜みたくしてもらった」

「そう言われればちょっと似てるかも。目おおきくて色白くて」

「あたしにとっちゃ最高の賛辞だね、お世辞とわかってても」

 

フランはさりげない心くばりのできる子だ。

 

 

 

電車は船橋競馬場や谷津干潟をとおりすぎる。

 

4月26日の日比谷公園周辺のデモは2万5千人あつまった。

すくなからぬ参加者が武器をたづさえた。

革命の聖地となった秋葉原へ行進する途中、武力衝突が。

火虎首相は軍に治安出動を要請。

中立のつもりでそこにいたわたしが目算するところ、

政府軍は約2000、デモ参加者で武装し戦意あるものは約3000。

万世橋付近、中央線の高架下でせめぎあう。

組織化されない叛乱軍は蹴ちらされた。

正確には敵に痛撃あたえ、一目散にげた。

報道によると政府軍の死傷者は1500、叛乱軍は4-500。

鎮圧するには民間人との区別がむつかしく、同胞相手で士気もあがらない。

政府軍はアキバを死守したが、勝利はたかくついた。

 

 

 

やさしい笑顔でフランが会話をつづける。

 

「漫画なによんでるんですか?」

「サブロウタ先生の『citrus』。百合姫コミックスの名作」

「百合、つまり女同士の恋愛ですね。ジュンさん、そうゆうの興味あります?」

「いや自分がするのはなぁ。百合漫画は絵カワイイのおおくて好きなだけで。

ああでも、フランちゃんが相手ならいいかな」

「はわわっ……わたしなんかじゃ釣りあいません!」

「耳まで真っ赤だよ。こりゃフラグたったか」

「ふ、ふえぇぇ……ア、アリア先輩はカッコイイから、同性からモテますよね?」

 

いやなタイミングでガールズトークにまきこまれた。

 

「カッコイイとゆうか、怖いとよくいわれる。眼帯してるしな」

「このひとたちはダメだって。面とか胴しか知らないんだから」とジュン君。

「なにをゆう。ジョージはともかく、わたしは恋のひとつやふたつ知ってる」

「ほう、聞かせてもらおうじゃないの。てゆうかアニキ動揺しすぎ、アハハハハ」

 

たわいないコミュニケーション。

恋人を手にかけたとゆう心の傷が、20日で癒えるはずない。

苦悩のほどは想像を絶する。

否、朱星ジュンなら克服できたのか。

かぼそい少女が、社会秩序をゆるがす。

その正体は無邪気にふるまう天使か、底しれぬ闇をかかえる悪魔か。



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苑田 謙

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