聯合艦隊・軍用犬・日本語文法

 

 

あまりおもしろくないイアン・トール『太平洋の試練』(文藝春秋)から、別の話題を。

 

北太平洋をおおうミッドウェー海戦の作戦計画は、妥協の産物。

「柱島艦隊」とバカにされる戦艦艦隊に、日の目みさせた。

マハンの「集中の原則」と欺瞞作戦を、都合よく抱きあわせて。

攻撃のみ執着し、索敵をわすれる。

連戦連勝が運命と信じ、矛盾を矛盾のまま放置。

宇垣纏参謀長など、兵棋演習でサイコロの目をごまかした。

 

 

 

 

ニミッツはアリューシャン列島をすて、空母三隻を南雲の左側面に配置。

まつしぐら敵の喉元へくらいつく。

 

南雲忠一の兵装転換は後知恵で批判され、山口多聞の積極性が賞讃される。

たしかに飛行機の発艦は、空母の火災をふせいだ。

防御としての攻撃。

 

 

B-17が投下する爆弾をかわす空母飛龍

 

 

炎上する赤城をどうするか。

黒島亀人先任参謀は「陛下の艦を陛下の魚雷でしづめることはできない」とさけぶ。

なんの論理性もない。

「陛下の艦」を敵にわたすのはゆるされるのか?

天皇の概念は議論を封じるに有効だが、戦争の役にたたない。

 

山本も南雲も草鹿も「復讐する」とかなんとかいつて、敗北の責任をとらない。

海軍の損耗は一週間、東條英機首相にすらかくされた。

すでに国家の体をなしてない。

 

 

空母エンタープライズに着艦するデバステーター

 

 

アメリカ国民の士気は高くも低くもなかつた。

国旗をふつたり行進するほど能天気でない。

スキャンダル、労働争議、凶悪犯罪、人種暴動、官僚の縄張りあらそい……。

ルーズヴェルト大統領は開戦前とかわらず非難をあびた。

日本以上に混乱した国家だつた。

 

だが社会全体でみると、おそろしく効率よい戦時体制をきづいた。

 

 

 

 

 

 

 

くわしく紹介する時間ないが、マイク・ダウリング『レックス 戦場をかける犬』(並木書房)はよい本だ。

アメリカ海兵隊の軍犬兵だつた著者と軍用犬「レックス」の、

イラクでの苛酷な日々と、戦友としてのたしかな絆がしるされる。

レックスは美男子で、マリーンから「セクシー・レクシー」とよばれ愛された。

 

イヌは「死」を認識する。

正確にゆうと、「死」をおそれる人間の心を理解する。

生物学的に意見のわかれる話題だが、

毎日AK-47や迫撃砲でねらわれた体験にもとづくから説得力あり。

危険を察するほど、レックスは士気をたかめる。

 

 

 

 

反政府組織は民間人のあいだにひそみ、簡易爆弾で米軍や協力者をころす。

アメリカはベトナム戦争以来はじめて、軍用犬を戦闘任務につけた。

地中ふかく武器弾薬をうめても、かれらは地表にのこる臭気をかぎあてる。

おそれをなした敵は、レックスを優先的に攻撃しだす。

 

M16は長すぎイヌにあたるので、M4をもとめる提言など勉強になつた。

 

 

前線基地マハモウディアの検問所

 

 

イラクでは、互いの命を互いの手と足に委ねながら、

あらゆる状況を乗り越えてきた。

この絆は生きている限りずっと続く。

海兵隊のモットー「いつも忠実に」に値するマリーンがいるとしたら、

それはレックスに他ならない。

 

こんなうつくしいセリフをはくから、ボクはアメリカ海兵隊がすき。

 

 

 

 

 

 

 

現代日本人の武器はアサルトライフルや軍用犬でなく、日本語。

1981年の井上ひさし『私家版 日本語文法』(新潮文庫)をよんだ。

 

かれは共産党を支持した左翼で、文法観にも政治意識がにじむ。

日本語が西欧語とくらべ時制の区別がはつきりしないのは、

わが国は世界最後の元号使用国だからとこじつけたり。

時間をある種の循環構造とみなすんだと。

 

言葉についてかんがえぬいた井上は「新かな」で書く。

古代の表音による「正かな」より、どれほど缺点がおおくとも、

自分がいきる時代の表音にしたがいたい。

一方、新仮名がもたらす混乱をさけるため漢字を多用。

水掛け論になりがちな問題に対する、徹底した道具主義にボクは感服した。

 

ただつかうのは新仮名だが、支持するのは正仮名。

なにしろ日本国憲法が正仮名で書かれる。

さまざまな矛盾を解決する、憲法の威力を尊重。

井上は筋のとおつた左翼の闘士だつた。





太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下
(2013/06/14)
イアン・トール


レックス 戦場をかける犬レックス 戦場をかける犬
(2013/09/27)
マイク・ダウリング


私家版 日本語文法 (新潮文庫)私家版 日本語文法 (新潮文庫)
(1984/09/27)
井上ひさし

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苑田 謙

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