小説12 別れ

『自由か、隷属か』


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4月22日 朱星ジョージ

 

 

 

椅子にすわるアリアが、真剣の柄に両手と顎をのせる。

鬼の形相。

 

先週、特定秘密保護法にもとづき軍律会議がひらかれ、

蒼月学園教諭・灰野リョウの死刑がきまった。

執行はきょう午前10時。

 

うちひしがれても、絶望しない自由部員たち。

身長143cmのフランちゃんも薙刀で武装する。

 

「なんとか救出できませんか? わたしも戦います」

「警官200人以上、こちらは5人。犬死にするだけだ」と目の血ばしるアリア。

 

ジュンは窓辺で、イヤフォンしてPS Vitaでカチカチあそぶ。

ドアがひらき、死刑囚がはいってきた。

 

「先生……」

「キミたちには挨拶しておきたくてね」

 

かける言葉がない。

死が1時間後にせまる男は、ゆったりした風情で着席。

動揺をかくしてるか、無我の境地に達したか。

 

「いまの心境を説明するのはむつかしい。

後悔しているが、自分の行動のただしさを確信してもいる」

「オレらのせいでこんなことに……」

「気づかってくれてありがとう、ジョージ君。

でもキミらの運動ははじまったばかり。未来へ目をむけよう」

 

この重責をオレはになえるのか?

大学進学後も自由部に顔をだす、トモコ先輩が泣いている。

 

「卑劣です……先生をスケープゴートにするなんて」

「たしかに濡れ衣だ。ボクが軍の機密をもらし、暴動を使嗾したとか」

「この国は狂ってます!」

「社会科教師らしく最終講義をしてもいいかな?」

 

ホワイトボードに中東の地図をかく。

2011年の革命、いわゆる「アラブの春」の熱狂がすぐ鎮静したのは、

アラブ諸国が「レンティア」、つまり地代生活者の国家だから。

政府はガスや石油による歳入が豊富で、税にほとんど依存しない。

「課税なくして代表なし」で、国民は政府に説明責任をもとめず、

民主化への熱狂もひろく共有されなかった。

そう、逆もまた真なり。

資源をもたない政府は、おもい説明責任を課せられる。

 

「……だれかが責めをおわないと混乱はしづまらない。国民はひとつになれない」

「先生がその犠牲になるんですか」

「まさか、ボクでは荷が勝ちすぎる。騒動はつづくだろう。

すこし話しすぎたかな。それじゃ、みんな元気で」

 

ジュン以外全員起立し、みおくった。

 

 

 

 

 

「本日の臨時生徒総会は午後1時に延期します」と校内放送が。

現生徒会長のフランによると、死刑執行をつとめるブシドーの荒谷がにげたらしい。

同僚を密告しておきながら、泥はかぶらない。

激昂したアリアがゴミ箱をけとばす。

 

「生殺しみたいな非人道的なまねを……。広報してるんでしょ、効果はないの?」と、

トモコ先輩がフランちゃんにたづねる。

「本のステルスマーケティングにつかってる、ツイッターアカウント2000個をフル稼働させてます。

リツイートの連鎖で情報は拡散してますが……」

「ムダだろ」

 

きょうはじめてジュンが口をひらく。

おおきな瞳にかなしみの色はみえない。

 

「テレビや新聞に、機械いじりで対抗できるかよ」

 

連日マスコミは、灰野先生やジュンの醜聞をかきたてる。

ほぼすべてウソとわかってても、耳ふさぎたくなるほど。

 

「あたしがやる。アニキ、太刀かして」

「……多勢に無勢だ、勝ち目はない」

「そうじゃない、あたしが先生を斬る」

 

表情ゆたかすぎる妹から感情がきえた。

 

「やめておけ、シロウトにできる仕事じゃない」と口をはさむアリア。

「朱星の人間なめんな」とはきすてるジュン。

 

 

 

 

 

校庭に約千人の生徒と教師、約百人の警官、テレビ局の人間がいる。

肌をさす四月の風。

 

「……キミがくるとは、おどろいた」

「リョウさん、あたしはなにもゆうことがない。ただ一刀でしとめる」

 

風の音しかしない。

 

「生きつづけてくれ。エゴイストとして」

「約束できないけど、がんばる」

 

春光を照りかえす刀身が、急転直下のうごきをはたした。

 

 

 

 

 

第一部「綻花篇」了


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苑田 謙

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