電撃戦と日本海海戦

 

 

1940年初夏の西部戦線で、ドイツ国防軍が「電撃戦」をおこす。

装甲部隊はわづか4日で戦線突破、迅雷のごとく英仏海峡沿岸へたどりつき、

袋のネズミと化した連合軍北翼部隊を、「鎌の一撃」で血祭りにあげた。

作戦立案者マンシュタインと、任用者ヒトラーの先見の明を、世界は畏怖をまじえ讃嘆。

 

だがカール=ハインツ・フリーザー『電撃戦という幻』(中央公論新社)によると、電撃戦は電撃戦でなかつた。

 

 

 

 

開戦まえ、保守的な上層部が計画を骨抜きにし、マンシュタインは閑職に左遷される。

ヒトラーは装甲兵器に関心なく、重砲に情熱そそいだ。

第一次世界大戦の伍長として、塹壕戦のつづきを予期していた。

「完全自動車化された軍隊」なぞプロパガンダにすぎず、実は「馬の軍隊」だつた。

動員された馬は270万頭、第一次大戦の2倍。

 

 

アルデンヌでの交通渋滞(5月12日)

 

 

「戦車はアルデンヌの森をぬけられない、だからここには攻めてこない」とフランス軍は盲信。

偵察機が車両群を発見しても、誤報とみなす。

あながち的はづれな思いこみでもなく、独軍の大渋滞は250kmにおよんだ。

ここに爆撃をくわえれば、たやすく進撃をとめられた。

 

 

渡河用ゴムボートの移送

 

 

「韋駄天ハインツ」とよばれたグデーリアンは、要塞都市セダン攻略の際、戦車部隊を後方におく。

速攻の信奉者すら、戦況の変遷についてゆけない。

ルーバルト曹長ひきいる11名が、ゴムボートでムーズ川をわたりトーチカ奪取、

フランス軍の防衛システム崩壊の呼び水となる。

そのころ戦車部隊は、森林内で点検整備におわれていた。

 

 

 

 

セダン突破をはたしたグデーリアンは、一軍団長にすぎぬ身で、世界史の岐路にたつ。

橋頭堡を強化しつつ歩兵部隊をまつか、それとも装甲部隊の総力あげ西方へ突進するか?

つまり総司令部にしたがうか、己の信念にしたがうか?

 

独断が戦場に革命をおこす。

上官も作戦計画も無視したグデーリアンに、各装甲師団が拉致される。

雪崩のごとき力が、「世界最強」のフランス陸軍を粉砕。

 

 

 

 

空母赤城でこける宮藤芳佳 『ストライクウィッチーズ』(テレビアニメ/2008年放送)

 

 

『日本海軍はなぜ過ったか』(岩波書店)で、「軍人は過去の戦をたたかう」と半藤一利がのべる。

帝国海軍は、太平洋戦争末期まで「日本海海戦」を夢みた。

バルチック艦隊よろしくアメリカを日本近海へよびよせ、大和以下四隻による艦隊決戦で撃ちしづめる。

レーダーと航空機の時代に。

日露戦争経験者はみな退役したのに、いや実戦をしらないからこそ、かれらは伝統主義者となる。

 

 

 

 

海軍の主流だつた「艦隊派」の連中が、そろいもそろつてヒトラーを礼讃し、

弱小海軍国ドイツに追従したのは昭和史の謎だが、半藤によると理由は「女」らしい。

渡独した日本軍人はみな、大歓待をうけ女を抱かされ、すつかりドイツ贔屓に。

甘美な幻が、軍隊をまどわす。

 

 

『ガールズ&パンツァー』(テレビアニメ/2012-13年放送)

 

 

戦争という、この名状しがたい現象における勝利は、

這いよる混沌の渦のなか、ひたすら革命的であることでつかめる。

現実的に現実を否定せよ。





電撃戦という幻〈上〉電撃戦という幻〈上〉
(2003/03)
カール=ハインツ・フリーザー


日本海軍はなぜ過ったか――海軍反省会四〇〇時間の証言より日本海軍はなぜ過ったか 海軍反省会四〇〇時間の証言より
(2011/12/07)
澤地久枝 半藤一利 戸高一成

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