後藤和久『決着!恐竜絶滅論争』
発行:岩波書店 2011年
レーベル:岩波科学ライブラリー
2010年、『サイエンス』誌に掲載された恐竜絶滅についての論文は、
「原因は小惑星衝突」という結論をもつての、終戦宣言とされる。
33歳でその共著者に名をつらねた研究者による、科学の現場の熱がつたわる良書。
ユカタン半島のチチュルブ・クレーターが、1991年に発見されたことは、
まさに隕石衝突なみの衝撃を、大量絶滅の原因論争へもたらした。
おおくの研究者が持説撤回を余儀なくされる。
アーチバルド、クルティヨ、ケラーらは衝突はみとめるものの、
絶滅は「斬新的」とし、原因を「火山噴火」にもとめる様になつたが、
議論はあきらかに劣勢、挽回のみこみなし……とおもわれた。
2000年ごろから、すでに専門家は圧倒的に「衝突説」を支持するのに、
一般メディアが反対論者の主張を好意的にとりあげだす。
「定説をくつがえす研究」の方がおもしろいから。
インターネットの普及が、科学のありかたを転換。
「多数派の妨害にあつて、査読(論文の審査)がとおらず、研究費もおりない!」と、
不満タラタラの漸進的絶滅論者は、査読なしのインターネットでの発表へとびつく。
科学者は専門以外くわしくないので、地球科学分野の研究者さえ、
「論争はまだ活発につづいてるらしい」と勘ちがいする様に。
混乱をまねいた責任は、衝突説支持者にある。
いつたん假説が定説となれば、再反論するのは億劫なもの。
キューバ・フォトメント地域にあるK/Pg境界層の露頭
業を煮やした、衝突説支持者のペーター・シュルテが音頭をとり、
地質学・堆積学・古生物学・惑星科学・地球化学・地球物理学など、
はばひろい分野から41名あつめ、1000篇ちかい論文を精査し、細分化した研究を再編。
一語の表現をめぐり、数日議論をかさねる。
「チチュルブ衝突は大量絶滅の原因だつた(caused)」か、それとも「引き金となつた(triggered)」か?
(最終的にややゆるやかな「triggered」をえらぶ)
膨大なメールのやりとりを5ページに集約した2010年の論文は、
チチュルブ・クレーター発見に匹敵する、セカンドインパクト。
反対派に、関連諸分野で定量かつ定性的な反論をおこなう義務を課した。
メキシコ湾周辺のK/Pg境界線でみつかつた大量の證拠を、どう説明するか?
火山噴火説は、衝突説と同水準で絶滅プロセスをかたれるか?
長年の悶着に決着つけるため、分野をこえ論争をみなおし、一般人に評価をあおぐ。
史上初のこころみとなる研究手法だつた。
科学のアップデートは、インターネットよりはやい。
![]() | 決着! 恐竜絶滅論争 (岩波科学ライブラリー) (2011/11/09) 後藤和久 |
- 関連記事
テーマ : 博物学・自然・生き物
ジャンル : 学問・文化・芸術