加藤一二三『羽生善治論』

第70期名人戦第2局終局後の羽生と森内と著者(2012年4月25日)

 

 

羽生善治論 「天才」とは何か

 

著者:加藤一二三

発行:角川書店 2013年

[角川oneテーマ21]

 

 

 

 

将棋史上、もつとも逆転勝ちが多いのは大山康晴で、羽生善治がつづくとか。

ちなみに大山と100局以上指した現役棋士は、著者・加藤一二三しかいない。

 

羽生は駒のやりとりが多い。

好戦的な、はげしい棋風をもつ。

四五回くりかえし、あとに盤面をみても、優劣かわらぬことがしばしば。

打算でなく、駒の交換自体をこのむ。

 

くるしいとき、指し手がみえないとき、羽生はあえて敵に身をゆだねる。

こちらが「A」という手を指せば「A'」でかえされ、「B」なら「B'」でかえされるだけ。

なら第三の「C」で状況を複雑化し、相手にむつかしい選択をさせ、返し技をねらう。

不利な局面をよろこぶから、光がみえるまで、地獄の底でたえられる。

 

子どものころ羽生は、両親や妹と指した。

羽生家では、息子の圧倒的優位をくつがえす、特異なルールがあつた。

「いつでも好きなとき、盤を180度ひつくり返してよい」

あと一手か二手まで追いこむと、急転直下、自分が詰まされる立場となる。

必死に挽回しても、また回転。

これはつらい、逆にいうと、将棋をしらない妹でも互角以上にたのしめる。

やさしい性格なのだろうし、失礼ながら変人なのだろう。

 

 

第21期竜王戦第7局(2008年12月17-18日)

 

 

羽生が苦手とする棋士といえば、森内俊之。

特に名人戦で、3勝4敗と負け越しているのが目につく。

目標を名人戦にしぼり、羽生の序盤をよく研究した森内は、

振り飛車などの攻めを受けとめてから、押しまくり大差で勝つ。

あらゆる戦術を総動員し、指し切るギリギリまで攻める羽生は、

相手にうまく受けられると窮地におちいりやすい。

弱点がないことが、唯一の弱点。

 

あらゆる栄冠を手にした羽生だが、渡辺明との竜王戦で、

3連勝のあと4連敗したのは、史上初となる不名誉だ。

第7局65手目。

渡辺は落城寸前、羽生が「6二銀成」と指せば飛車取りで、必勝の局面。

「6二銀成」は、プロ棋士ならだれでも思いつくやさしい手だが、

34分長考した羽生は「6二金」をえらび、第7局は泥沼となつた。

 

このシロウトじみた悪手は、勝つ気がなかつたからと、著者はいう。

もう記録に関心なく、将棋の内容を重視すると、羽生自身のべている。

永世7冠などほしくないし、達成したところで、むしろ負担になるかもしれない。

すくなくともそう感じる一瞬があり、判断をくもらせた。

 

勝敗を超越した、「うつくしい将棋」をめざすのが現在の羽生善治だが、

みぐるしく勝ちにこだわつてこそ、この遊戯の存在意義があるのも真理で、むつかしい。





羽生善治論  「天才」とは何か (角川oneテーマ21)羽生善治論  「天才」とは何か (角川oneテーマ21)
(2013/04/10)
加藤一二三

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