ユージーン・スミスと写真の矛盾

『楽園へのあゆみ』(1946年)

 

 

ユージーン・スミスが家族をとつた一枚。

『ライフ』誌の従軍記者として、沖縄で日本軍の砲弾をくらい、体はズタズタだつた。

一年たつても恢復しない傷口から、膿がカメラへしたたる。

くだけた顎から涎がもれる。

 

写真ではわからない。

撮影は心身の状態に、おおきく左右されるのに。

ボクの経験からいうと、シャッターボタンをおすにはエネルギーがいる。

光、角度、距離、タイミング……頭をフル稼働させる。

でも写真をみても、撮影時の気分や体調はおもいだせない。

太陽や風をなまなましく感じるが、自分はそこにいない。

 

 

『カントリー・ドクター』(1948年)

 

 

スミスは写真を、「真実を写す」ものとみなさない。

シャッターをきつて、自動的に現実そのものがあらわれるなら、苦労ない。

 

勉強家で、取材対象をとことん調査した。

『助産婦モード・カレン』のときは、学校にかよい資格までとる。

暗室作業へのこだわりは伝説となつており、

藝術的で神秘的な白黒表現に、同業者も舌をまいた。

 

口論するときは、かならずテープレコーダーで録音する。

あとで「言つた言わない」の水掛け論にならない様に。

スミスとやりあうものは、慎重にことばをえらぶ必要があつた。

かれにとつてカメラも、意志疎通をたすける道具にすぎない。

 

 

『水俣』(1971年)

 

 

1971-74年、水俣市で活動する。

医療や産業をとりつづけたスミスにとり、公害問題は格好の主題だつた。

1961年に来日し、一年がかりで日立製作所のPR写真にとりくむも、

かれの基準では、異国を理解するには短期間すぎ、再挑戦の願望をもつていた。

 

たしかにカメラは縁をつなぐ。

太平洋戦争の敵国、不治の障碍をもたらした相手に、ここまでふかく関与するとは。

アメリカ先住民の血をひくスミスは、日本を源流のひとつとみなし、

サケが母川回帰するがごとくやつてきた。

 

 

『水俣』(1971年)

 

 

1972年、水俣病患者ときた五井工場で、チッソの従業員約200人におそわれる。

ひどく叩きのめされ、首にのこる砲弾の破片がくいこみ、重態となる。

視力がおちはじめたのが、なによりかなしい。

チッソを告訴しろという勧めはことわつた。

フォトジャーナリストは、中立をまもらねば信用をうしなうから。

撮影者の健康など、写真においては無意味。

 

1976年、帰国しアリゾナでくらすスミスを、息子ケヴィンがたづねる。

ひさしぶりにカメラを手にした。

かれの目では、もうピントをあわせられなかつた。

父は泣きくづれた。







【参考文献】

土方正志『ユージン・スミス 楽園へのあゆみ』(偕成社)



ユージン・スミス―楽園へのあゆみユージン・スミス―楽園へのあゆみ
(2006/02)
土方正志

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