歴史による啓蒙は可能か

フィリップ4世に臣従するエドワード1世

 

 

小谷野敦『日本人のための世界史入門』(新潮新書)は、

「学問的であること」をおもんずる、著者の古風な趣味があらわれている。

いわく学問は、意味や本質など問わず、事実だけ追窮すべき。

歴史には、必然も法則もなく、偶然しかない。

 

カペー朝やハプスブルク家は長続きし、ヨーロッパの基盤をつくつたが、

それはなぜかといえば、運がよかつただけ。

西洋キリスト教世界は一夫一婦制だから、愛人の子は王位継承できない。

アジアのユルさとことなり、その権力は生殖能力にもとづく、砂上の楼閣だつた。

 

天皇がほろびず続いたのも偶然。

ローマ教皇が天皇より持続しているのと同様に。

イスラム勢力がもつと強く、ローマまで版図におさめたら途絶したろう。

「天皇制の本質」とか「中世の本質」とかいう議論は、学問的にタワゴト。

実際、一夫一婦制が導入された途端、天皇家は虫の息だ。

 

 

足利義満像

 

 

憂国者であるボクは視野がせまく、世界史をみても、つい日本をかんがえる。

 

明の建文帝は、足利義満を日本国王に冊封した。

豊臣秀吉や徳川将軍がならう。

対外的に、天皇より上位者としてふるまつた。

 

一方で徳川期は、支那が異民族に支配された事情もあり、

「日本は支那よりすぐれた万世一系の国」という、軽佻な思想もうまれた。

 

1889年公布の憲法で、日本を「帝国」とし、天皇を「エンペラー」とした。

プロイセン中心に国家統一をなしとげたドイツを模したもの。

ちなみに最近まで、エチオピアやイランも帝国をなのつていた。

 

日本はエンパイアこそ撤回したが、エンペラーは放置プレイ中で、世界に対しはづかしい。

 

 

食卓でむかいあうメンデルスゾーンとレッシング

 

 

大正・昭和前期の民衆は、講談や吉川英治の小説を通して歴史を知っていたのだ。

それに司馬遼太郎が続いたわけだが、英雄豪傑を描くのはけしからんと、

民衆史観でゴリゴリ押しまくったあげくの歴史離れではないのか。

(略)

私なら、忠臣蔵事件を知らない学生に、

徳川時代の農民の生活の細かなあれこれを教える学者に我慢がならないと言いたい。

 

本来、史書からは多くをまなべる。

だが歴史学者は、民衆バンザイのイデオロギーに凝り固まり、

当の民衆は、小説と事実の区別がつかない。

まともに読書をする階層は、全国民の1%くらい。

そこでなにを論じようが、コップのなかの嵐にすぎず、啓蒙などそれこそ夢物語。

 

以上が「小谷野史観」だ。

悲観的といえる。

ボクはルソーみたいな、啓蒙的で革命的な学者がでてほしいけど。





日本人のための世界史入門 (新潮新書)日本人のための世界史入門 (新潮新書)
(2013/02/15)
小谷野敦

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