『スパイ・ゲーム』にみるスコット兄弟の関係

『スパイ・ゲーム』(アメリカ映画・2001年)

 

 

「引退の日まで、そんなに慎重で……職業病ね」

「なあグラディス、ノアがいつ方舟をつくつたか知つてるかい?」

「……?」

「雨の前、雨が降る前さ」

 

 

 

 

(まつたく、この人ときたら……)

 

秘書もあきれる老スパイの生き様をえがく本作は、

トニー・スコット監督の母エリザベスに捧げられたが、

それ以上に兄リドリーへの思いでみちる。

 

 

 

 

 

 

 

1975年、ベトナム戦争中。

CIA工作員ネイサン・ミューアは、暗殺作戦を指揮するため飛んできた。

狙撃の得意な陸軍二等軍曹を紹介される。

 

「どこで射撃をまなんだ?」

「ボーイスカウトです」

 

 

 

 

「……冗談だろ?」

「いいえ」

 

 

 

 

スコット兄弟の父は運輸業者で、戦中と戦後しばらくは軍人だつた。

幼少期の旅暮しのおかげか、息子たちは映画監督として、移動のおおい過酷な生活にたえた。

かれらが題材に戦いを好むのも、偶然でなかろう。

 

 

 

 

 

 

 

ベルリンのビルの屋上で口論する、有名な場面。

 

「人間を野球カードみたくやりとりしやがつて! なにかのゲームのつもりか!?」

「そのとおり」

「なんのために!? 正義がどうとか、タワゴトをいうなよ」

「それがまさに我らの仕事だ。いやなら手をひくといい」

 

 

 

 

よくもわるくも、目立ちたがりのスター俳優。

そんなロバート・レッドフォードとブラッド・ピットだが、

三十ちかく年がはなれてるので食いあわず、むしろ馬があう。

ブラピは、レッドフォード監督作『リバー・ランズ・スルー・イット』で引き立てられた恩があり、

芝居にいい意味で甘えが感じられる。

 

そして「師弟関係」という主題は、トニー監督にとつても大切なもの。

アニキの回想を引用する。

 

長い時間をかけてぼくがまなんできたコマーシャルや

映画製作のノウハウすべてを、トニーに伝授した。

ぼくらはいつも一緒で、兄弟間のライバル意識などとも無縁だった。

当時、一緒に仕事をしていた人間のなかで、

トニーがもっとも才能ある人間のように思えた。

それから数え切れないくらい、弟は才能を発揮しつづけているよ。

 

 

 

 

 

中央がスティーヴン・ディレイン

 

 

スパイというより、官僚タイプのCIA職員・ハーカー。

イヤミだが有能な、本作の敵役だ。

名演とおもう。

 

イギリス人であるリドリー・スコットの、ハリウッドでの苦労話は枚挙に暇がない。

カメラを自分で操作したら、組合と揉めたとか。

『ブレードランナー』製作中、「なぜこの映画にユニコーンが必要なのか?」といつた、

答えようのない愚問ばかり浴びせられキレたとか。

 

 

 

 

 

 

 

アニキはこういう。

 

もちろん、映画製作はストレスに満ちたものだが、刺激的な作業でもある。

もっともうまく段取りを進められれば、そのストレスは人間を活性化させてくれるが、

逆に下手をするとストレスで寿命が縮んでしまう。

 

 

 

 

ことし8月19日、トニー・スコットは橋から飛び降り自殺した。

遺書はあるが、理由はしるされてない。

近親者の観察や、解剖の結果からも、死につながる問題は見当らなかつた。

なので、一ファンとしての推測がゆるされるとおもう。

 

ここ数年、トニーの腕はあきらかに落ちており、だれより本人が認識してたろう。

だが、寿命がちぢむほどストレスがたまろうと、映画を撮る以外の人生はありえない。

 

6月、リドリーの『プロメテウス』をみる。

あらたな傑作だつた。

「アニキ、あとは任せたぜ」ということではないか。

 

 

 

【参考文献】

ポール・M・サモン『リドリー・スコットの世界』(扶桑社)






以上は、「ブログ DE ロードショー」という企画のため書いたものです。

ほかの参加者の方々による記事は、宵乃さんがこちらにまとめてくれると思います。

いつもありがとうございます!


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