刑罰と娯楽を切り離す

イギリスの法廷辯護士(バリスタ)の意見

 

 

ピサネロの作品から

 

 

悪いヤツを弁護する

Defending the Guilty: Truth and Lies in the Criminal Courtroom

 

著者:アレックス・マックブライド

訳者:高月園子

発行:亜紀書房 2012年

原書発行:2010年

 

 

 

 

「また死刑ネタか」と読者に閉口されたかもしれないが、

イギリスはとつくに廃止ずみなので、御安心いただきたい。

 

 

 

 

1800年代はじめのイギリスでは、スリなど二百種以上の違法行為が絞首刑の対象だつた。

聖職者を免除する様な抜け道もあるが。

ロンドンでの絞首刑は、熱狂をよぶ見世物だつた。

 

チェザーレ・ベッカリアによる1764年の著書『犯罪と刑罰』が、

ヴィクトリア朝のひとびとに、より合理的な解決をうながす。

投獄だ。

刑罰は「懲らしめ」でなく、「犯罪抑止」と「犯罪能力の剥奪」を目的とすべき。

かれの理論は、功利主義者のジェレミー・ベンサムなどに影響をあたえた。

それまで営利目的の民間の地下牢にすぎなかつた刑務所が、

救い主として脚光をあび、建設ラッシュが1840年代にはじまる。

 

ひとつ不都合があつた。

人間は合理的に行動しない。

合理的なときもあるが、そうでないときもある。

どちらともいえない。

 

 

 

 

刑期の長さと抑止力に、相関性はない。

潜在的犯罪者がおそれるのは逮捕であり、刑期でない。

食らうなら一年も二年もかわらない。

 

内務省の依頼で検證をおこなつた『ハリデー・リポート』も、

同様に結論づけたが、多くの政治家は知らないふりをする。

刑罰の長期化を推し進めると、有権者のウケがよい。

 

刑務所人口が25%増加しても、犯罪率は1%しか下らない。

アメリカの犯罪率は、急増の一途にある刑務所人口と無関係に上下してきた。

 

犯罪は、高級料亭でなく、回転率のたかいファストフード店だ。

パッと飢えをみたし、パッと店をでる。

客を囲いこんでも商売にならない。

だれが犯罪をおこしそうか、危険性を予測するのも有効でない。

 

刑務所が専念すべきは、受刑者の社会復帰。

就業と教育のプログラムにより、再犯率を低下させる。

実際は刑務所人口がふえつづけ管理人員が不足し、

過去10年で再犯率は12%も上昇した。

 

 

 

 

「国庫金をついやし、悪人どもに教育をほどこすなんて!」と憤る気持ちもわかるが、

犯罪者を社会へもどし家族を養わせ、税金をおさめさせた方が得ではないか?

 

それでも他者が罰をうけるときの「ざまあみろ」という感情は甘美で、

日ごろの不公平や不正や不満が埋めあわされる。

しかし2012年は、そんな悠長な時代だろうか?

 

アッシュワース教授は、興味ぶかい計算をしている。

犯罪がおこると通報され、記録され、検挙され、解決され、実刑判決がくだされる。

計算によると全犯罪のうち、実刑判決にいたるのは「0.3%」にすぎない。

つまり政府は、犯罪に対し無力だ。

 

 

 

 

刑罰は、一種のファンタジーでありフィクションでありエンターテインメント。

勿論国民は娯楽を享受する権利をもつが、

その提供者は政府より、民間の映画会社などの方が適するだろう。





悪いヤツを弁護する (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)悪いヤツを弁護する (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)
(2012/05/18)
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苑田 謙

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