ジョセフ・ヒース『資本主義が嫌いな人のための経済学』

『ブレードランナー』(アメリカ映画・1982年)

 

 

資本主義が嫌いな人のための経済学

Filthy Lucre: Economics for People Who Hate Capitalism

 

著者:ジョセフ・ヒース

訳者:栗原百代

発行:NTT出版 2012年

原書発行:2008年

 

 

 

 

カナダはトロント大学の哲学者による、経済書。

哲学の剃刀が、もつれる議論の糸を断つ。

政治の濁水を濾過し、経済を明瞭な視野におさめる。

 

 

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二十世紀のチャンピオン、それは「福祉国家」だ。

左翼にコミュニズム、右翼にリバタリアニズム、それぞれの夢を捨てさせた。

スウェーデン経済は、政府の分配だけでGDPの30%をこえるが、

世界屈指の富裕国で、しかもソヴィエト共産主義以上の平等をなしえた。

資本主義の効率と、社会主義の平等は、両立できる。

現代の数理経済学も、そう證明する。

 

 

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リバタリアンは、ダーウィンの不肖の弟子。

「自然淘汰」や「適者生存」の原理を社会にあてはめ、

資本主義は自然に発生し、自然に機能すると主張する。

利己的な行動こそが、人間社会を発展させると。

だが生物界の生存競争は、実のところ底辺へむかう。

種内の競争は、種全体の適応力低下につながりやすい。

クジャクが長い尾羽を持てあます様に。

 

市場は自然に生じない。

国家により建設され、国家による管理を必要とする。

第二次大戦まで、銀行の「取りつけ騒ぎ」はありふれた現象だつた。

政府が預金を保證したところ、銀行に殺到する群衆はきえた。

『素晴らしき哉、人生!』は笑い話となる。

 

政府が悪で、民間部門が善のはずがない。

国家が生みだす富の大きさは、市場のそれとまつたく同じ。

ゼロだ。

「国民」が富を生産し、消費する。

国家や市場などの制度は、単なる調整のメカニズム。

 

 

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貿易は、右派に政治利用される。

「競争」を煽り、減税・賃金カット・規制緩和・環境基準引き下げなどをもとめる。

母国を低開発国に似せようとする。

 

しかし貿易は交換のシステムであつて、競争でない。

あらゆる輸入が、いづれ輸出で支払われる。

生産の海外移転でうしなわれた雇用も、国内生産の増加で埋めあわせられる。

 

 

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保守派は「自己責任」という言葉がすき。

とつくに廃れた概念なのに。

十九世紀に保険数理学が発達し、民間の保険業があらわれる。

二十世紀の政府はこの技術を借用、セーフティネットをひろげた。

 

自動車保険をかけた人は事故をおこしがちで、火災保険をかけた人は火事をおこす。

無責任きわまりないが、人間はよわいもの。

社会保障の「モラルハザード」を糾弾する保守派は、民間の保険も否定せねばおかしい。

 

 

 

 

 

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本書後半は純情可憐な左翼を撫で斬りに。

 

コーヒー生産者をたすけんと、豆を高値で買う「フェアトレード」や、

ザ・ボディショップの「援助より取引を」キャンペーンが、

慈善的価格操作のせいで、惨憺たる結果もたらした話はおもしろい。

 

 

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左派は、利潤追求を悪徳とみなす。

たとえば、水は生活に不可欠だから、水道は民営化すべきでない。

ならペットボトルの水は、水ぢやないの?

 

マイクロソフト社は1986年から2004年まで、株主にまつたく配当を支払わなかつた。

重大な法律違反を犯しつつなされた同社の略奪的活動は、

特に利潤を目的としたものではない。

 

1994年、倒産の危機に瀕するユナイテッド航空の株主が、

従業員に55%の会社の所有権をあたえ、妥協をひきだそうとした。

2002年、なにも変わらなかつた会社は倒産。

 

政府も民間企業も、大組織であれば、さまざまな利害をもつ。

「国民のため働け」「株主のため働け」と命令しても、効果はない。

非営利組織が、利他的にふるまうとはかぎらない。

 

 

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左翼は世界中の貧困に心を痛め、不公平に憤る。

だが典型的な低開発国は、そもそも分配するだけの富がない。

問題は配分の仕方でなく、経済成長だ。

支那の工員の賃金は、ここ十年にわたり年率ほぼ10%上昇したが、

経済成長率と足並みをそろえている。

 

市場は、賃金を均等化する傾向がある。

仕事内容に変化がなくとも、みんなで豊かになれる。

 

 

 

 

 

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福祉国家が、チャンピオンの座から陥落する未来もありうる。

医療予測で技術革新がおこり、死期を確定できる様になればどうか?

関連の保険市場は崩壊するだろう。

 

1982年の映画『ブレードランナー』が衝撃だつたのは、

未来都市にまだ広告が存在し、しかも大規模化すると示唆したから。

資本主義なる醜悪なシステムがのこる二十一世紀に、

80年代の観客は心底から落胆し、そして映画は真実をかたつていた。

いまのところは。





資本主義が嫌いな人のための経済学資本主義が嫌いな人のための経済学
(2012/02/09)
ジョセフ・ヒース

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