稲葉圭昭『恥さらし』

恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白

 

著者:稲葉圭昭

発行:講談社 2011年

 

 

 

 

1996年、両国国技館ちかくのホテルの一室。

関東と北海道のヤクザが拳銃の売買をしている。

紙袋にトカレフ。

だが、取引の雲行きがあやしくなる。

「こいつの耳は柔道の耳だ。警察にしかそんな耳のヤツはいない」

 

事実だつた。

著者・稲葉圭昭は、北海道警警部補として潜入捜査していた。

柔道は、全国大会で準優勝した実力者。

耳のつぶれた極道がいてもおかしくないが、犯罪者の直感がすべて察知する。

撃鉄がおこされ、銃口がむけられる。

 

元ヤクザの情報提供者がいう。

「こいつは学生時代にレスリングやつてたんだ」

柔道もレスリングも似た様なものだが、関東ヤクザは納得した。

理屈でなく、機先を制されたのだろう。

 

 

 

 

 

http://blog-imgs-43.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/1-vlcsnap-2012-04-16-14h02m47s201.jpg

『L.A.コンフィデンシャル』(アメリカ映画・1997年)

 

 

著者が「マル暴」に配属されたのは1984年。

広域暴力団が北海道を切り崩しはじめたころ。

警察庁は拳銃摘発に力をいれた。

被疑者の身柄すら取らず、バカみたいに銃を漁つた。

自分で調達し、コインロッカーにいれて110番、それだけで署は表彰された。

東京のヤクザに宅配便でおくるよう頼んだら、

するどいコンビニ店員が通報し、ブツは警視庁に掠めとられた。

全国の警察が血眼になり、銃をうばいあう。

 

 

http://blog-imgs-43.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/2-vlcsnap-2012-04-16-14h03m21s110.jpg

 

 

道警は銃欲しさのあまり、覚醒剤130キロ、大麻2トンの密輸をみのがした。

「泳がせ捜査」と称して。

函館税関(管轄は財務省)に花をもたせるため、二十丁を摘発させた。

 

濁りきつている。

ジェイムズ・エルロイの小説が陳腐におもえる。

 

 

http://blog-imgs-43.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/3-vlcsnap-2012-04-16-14h04m06s25.jpg

 

 

著者が有能だつたのは、よくわかる。

まづ腕つぷしがつよい。

実力で叩きのめすと、むしろヤクザに一目おかれる。

あとは事務処理能力。

逮捕状を三時間で入手できるかが、緊急逮捕成功のわかれ目。

車を走らせるにも、時間ごとの道路工事や抜け道を頭にいれないと、仕事にならない。

 

夜に働くようになり、外見もヤクザそのものに。

たまに「それは法律違反だ」などというと、「なに警察みたいなこと言つてるんすか」と驚かれた。

敵も味方もない、法を法とおもわぬ灰色の世界で生きるうち、

覚醒剤の密売まで指を染めた。

情報提供者を手なづけるカネが必要だつた。

そのかわり、道警随一の情報網をものにした。

 

 

 

 

 

http://blog-imgs-43.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/4-vlcsnap-2012-04-16-14h04m49s140.jpg

 

 

砂の城は、ひとつの波で崩れおちる。

 

警察には人事異動がある。

犯罪者は、たやすく足をあらえない。

小樽署副署長に異動となつた、元上司の片山俊雄を、

稲葉がつかつているスパイが脅迫した。

捨てられたと感じ、怨みをいだいたらしい。

著者は責任をとらされ、銃器と薬物の捜査から干される。

警察官人生の否定。

 

絶望の淵で、覚醒剤に救いをもとめる。

体力があるので、粉のまま注射器をみたし、

逆流する血液でとかすと、静脈に一気にながしこむ。

 

 

http://blog-imgs-43.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/5-vlcsnap-2012-04-16-14h01m04s237.jpg

 

 

翌年、覚醒剤取締法違反(使用)容疑で逮捕。

屈辱にたえられず、拘置所に移送されてすぐ死のうとする。

ジッパーの金具をはづし、手首から肘にかけてはげしく上下させる。

血管らしき細長い筋がみえたので、それを引きちぎる。

刑務官にとめられた。

簡単に死ねる場所ではない。

 

気のよわい副署長は、連日の事情聴取で追いつめられ、

札幌市にある藻南公園のトイレで首を吊つた。

道警幹部は、すべての罪を片山になすりつけ、事件の幕をひいた。

 

ことの発端となつた、借金づけだつたスパイの渡部真には、

警察にケンカを売つて生きのびる余地なぞ、拘置所の中ですらない。

靴下の片方を口におしこみ、もう一方を首にまく。

歯ブラシの柄をさしこみ、ハンドル代りにしてギリギリ絞めつける。

覚悟の自殺だつた。

 

 

http://blog-imgs-43.fc2.com/n/e/a/nearfuture8/6-vlcsnap-2012-04-16-14h04m27s249.jpg

 

 

人間は、孤立して生きられない。

だが組織はかならず腐敗する。

摺臼の様に、個人をすりつぶす。






恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白
(2011/10/07)
稲葉 圭昭

商品詳細を見る

関連記事

テーマ : 検察・警察の腐敗
ジャンル : 政治・経済

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
03 | 2012/04 | 05
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -
月別アーカイヴ
02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03