レナータ・モルホ『ジョルジオ・アルマーニ 帝王の美学』

リッチョーネの海岸で母と

 

ジョルジオ・アルマーニ 帝王の美学

Essere Armani

 

著者:レナータ・モルホ

訳者:目時能理子 関口英子

発行:日本経済新聞出版社 2007年

原書発行:2006年

 

 

 

マザコンでないイタリア男などいないが、

ジョルジオ・アルマーニの性向は、国民気質以上のものがある。

母の写真をつねに持ちあるく。

わすれて家を出たときは、運転手を取りにもどらせる。

 

口では何も言わない人だったけど、多くのことを教わったよ。

口でとやかく言うよりも、もっとずっと大切なことをね。

美人だったのに、家庭と僕ら子どもたちに全エネルギーを注いでくれた。

僕にとってそれは、ものすごく大切な教えだったね。

 

父ウーゴはファシスト連盟で事務仕事をしていた。

戦後、八か月の懲役刑をうけた。

鉄格子のむこうで泣く父をみる経験は、十一歳の少年にはおもい。

面会後の帰路、ジョルジオはひたすら映画館へゆきたいと願つた。

母には言い出せなかつたが。

この逸話にはやくも、アルマーニの本質が露呈している。

はなやかな世界へのあくがれ。

流転する時勢へのするどい嗅覚と、反撥。

「ファシスト時代の方が、いまのイタリアよりマシだつた」と彼はのべる。

 

 

 

 

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兵役時代

 

男が天職をみつけるのは、むつかしい。

ミラノ大学医学部を中退し、陸軍にはいる。

メスをふるうアルマーニ、ライフルを撃つアルマーニ。

「男の友情」を夢みて入隊するも、イタリア軍にそんなものはない。

あればもうすこし強かつたろう。

除隊後、ミラノの百貨店「リナシェンテ」に職をえる。

運命の瞬間。

ショウウィンドウの飾りつけの助手からはじめ、ファッション部門に異動になり、

バイヤーの仕事にかかわり、デッサンの描き方をおぼえる。

焼け跡のイタリア、なにもない時代、「スティリスタ(デザイナー)」という単語すらない。

雷がおちる様に、アルマーニはアルマーニになつた。

 

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セルジオ・ガレオッティ、アルマーニ、父ウーゴ

 

1975年、終生の親友セルジオ・ガレオッティと会社をつくる。

ふたりは恋愛関係でもあつた。

ついにアルマーニは自身の軍隊をもつ。

表むきは共同経営だが、実務はほとんどアルマーニが仕切つた。

下積みがながいので、なんでもできた。

工場に視察にゆけば、蒸絨をやめさせ、革新的な生地をうみだす。

贈収賄の容疑で召喚されたことさえある。

 

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アルマーニによるデザイン画

 

会社をおこした七十年代は、政治の季節。

革命の闘士に、ドレスはいらない。

逆にブルジョワ女は、大衆の反感を煽らないよう、わざと地味な服をきた。

「スティリスタ」など、時代錯誤の骨頂だつた。

だがアルマーニは、殺伐とした空気に、需要を嗅ぎとる。

女はもう、人形みたいに着飾る必要はない。

フリルをはぎとり、機能的なラインをまとわせた。

男のジャケットの構造を解体し、紳士服に優雅さをもちこんだ。

 

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仕事場のアルマーニ

 

「ひとつでもミスをおかせば、ジョルジオに殺される」

広報にかかわる妹ロザンナは、そうかたる。

アルマーニは、ファッション界のムッソリーニだ。

決して部下をほめない。

コーヒーメイカーの前でたむろする社員をみると怒りだす。

毎朝、だれよりはやく出社する。

そして仕事がはじまらない数分にいらつき、どなりちらす。

 

 

 

 

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アルマーニ コレツィオーニ ウオモ 2006-07年秋冬コレクション

 

アルマーニの広告は映画的だ。

広告らしくない。

幼少のみぎりの趣味があらわれている。

他社にさきがけ、いわゆる「ぶち抜き広告」を採用した。

つよく表象をうちだし、ファッション界の混沌から抜けだそうとして。

 

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ジョルジオ アルマーニ ドンナ 2003年春夏コレクション

 

あちこちで、スーパーモデルを批判している。

「クラウディア・シファーはボクの服を着てほしくない。

尻ばかり注目されるからね」

アルマーニがこのむのは、二三十年代の謎めいた官能。

ある意味で禁欲的。

女嫌いだから、と悪口も囁かれる。

 

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ジョルジオ アルマーニ プリヴェ 2006-07年秋冬コレクション

 

混沌の渦からのがれ、窮極の成功をおさめた男の宇宙は、錯綜する。

創造者であり、経営者でもある。

毎日、自分で自分を裏切るという。

世界有数の富豪だが、金をつかう暇がないのが悩み。

子どもはいない。

 

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五十年代のミラノで、母と

 

僕の仕事はすべてを呑みこんでしまう暴君のような存在なんだ。

僕の手から何もかも奪っていく。

愛情ですら制限されてしまう。

自分が愛情に多くのエネルギーを注げないとわかっている以上、

相手から多くを受けとるのは躊躇してしまう。

それで、孤独という代償を支払うことになるんだ。

 

立志伝中の人なのに、さびしいことをいつているが、

ポケットに母の写真があれば、不幸ではないのだろう。





ジョルジオ アルマーニ 帝王の美学ジョルジオ アルマーニ 帝王の美学
(2007/07/21)
レナータ モルホ

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