ホキ美術館という迷宮

 

昭和の森にしづむ三日月。

ホキ美術館は、昨年十一月に千葉市緑区で開館したばかり。

凝つたつくりだが、これ見よがしの低俗さはなく、

遠足の定番コースである公園を後景として生かす。

設計者は日建設計(山梨知彦)。

入口らしき広間で、おほきな一枚ガラスが入館者をさえぎる。

ちかづくとガラスが右にすべり、ひとつめの罠を解除できた。

『ゼルダの伝説 時のオカリナ3D』であそんでるので、例の効果音が心に鳴りひびく。

やはり美術館はダンジョンだ。

 

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館長の保木将夫がウロウロしている。

医療用品をつくるホギメディカルの創業者で、現在は会長。

ジイサン、あんたがしかけた謎を解きあかしてやるぜ!

 

 

 

 

一階は足もとから採光し、渡り廊下の様にあかるい。

制作年をみると「2011」ばかりで、かるく眩暈がした。

古ければ古いほどありがたい美術業界では、ちよつとした価値転換だ。

たゆまぬアップデイト。

ホキジイサンはせつせと新作を買い漁り、客を現実世界に向きあわす。

そのコレクションの特色は、ひとことで表現できる。

写実画。

 

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青木敏郎『オーベルニュの教会』(2000年)

 

「写真みたい!」

「本物みたい!」

地元のドン百姓も大騒ぎ。

そんなに写真が好きなら、写真展にゆけば?

 

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原雅幸『ナローカナルのボート乗り場』(2007年)

 

「まるで本当の川みたい!」

本当の川なら、千葉にもありますよ。

 

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同『狭い橋』(2008年)

 

「……」

老人御一行様は、言葉の在庫がきれたらしい。

でも、それでよい。

藝術の鑑賞者は、饒舌である必要はない。

人と作品のはざまのエモーションこそが、リアルなのだ!

 

 

 

 

 

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落葉のごとく、ゆらゆら下降。

壁と一体化した手摺をなでつつ階段をくだる。

地下一階の「ギャラリー2」は、照明もおぼろげ。

ホテルの一室みたい。

 

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森本草介『裸婦』(1999年)

 

もはや「本物みたい」とだれも言わない。

たしかに優美な裸婦像だが、これは藝術か?

官能小説の表紙となにがちがう?

数世紀むかしの、パリの高級娼婦や江戸の遊女なら許せるのに、

現代の女の写実的なヌードは、目をそむけたくなる。

同行していた母は早足になり、わかいカップルは気まづそう。

 

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同『ペリゴールの村』(1999年)

 

ギャラリー2は、館長自慢の森本草介を数十点そろえる。

風景画も雅やかだが、でもなにか足りない。

 

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同『光の方へ』(2004年)

 

裸にネックレスは、どんな衣装より艶やかだ。

やわらかな尻と、かたい踵のハーモニー。

心ゆさぶるリアリズム!

ボクらは、エロジジイの罠にはめられた。

もう逃げられない。

 

 

 

 

どうにか最下部にたどりつく。

そこは、ケガをしない程度の暗闇。

ギャラリー8は、十五名の中堅・巨匠作家に、

「私の代表作」という題目で依頼した大作をならべる。

藝術家は「代表作は最新作」とカッコつけたがるものだが、

依頼者が口にすると、おそるべき無理難題に!

 

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生島浩『5:55』(2010年)

 

そんな経緯でうまれた「代表作」。

モデルは近所の公民館ではたらく人らしい。

毎日仕事のあと一時間、キャンヴァスの前に坐らせたのかな。

この肖像画に最後の鍵が隠されている。

解答は、読者が訪問したときの楽しみにとつておこう。

……ウソウソ、本当はわかつてません。

 

 

 

 

併設のレストラン「はなう」で、2100円のランチをいただく。

片岡護という人がプロデュースした店だそうだが、

「団子より花」のボクには価値がわからない。

母が皿をひつくり返しては、「全部ジノリよ!」と鼻息を荒くする。

食器など100円ショップで十分とおもうが……。

父がパスタを、豪快な音をたてて啜る。

ドン百姓はここにもいた。

そしてパスタを口につめたまま、あわててパンのおかわりを注文。

いくらなんでも炭水化物を摂取しすぎだが、

浅ましさを指摘されると激怒するのでだまつていた。

とにかく美術館は、子ども以外はだれでも虜にする、不思議な迷宮だ。


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