マイセンという錬金術

陶版画《横たわる若い女性》原画:フランソワ・ブーシェ(原型・製造:19世紀前半)

 

陶器です。

ええ、そうなんです。

ちなみに額縁まで陶器で、サントリー美術館でボクは唖然とした。

磁器絵具は焼成後に変色するから、油彩画を再現するのはきわめて困難。

つめたくひかる磁器板から、尋常でない情熱がほとばしる。

ヨーロッパではじめて硬質磁器をつくつた名窯、マイセンの来歴をたどつてみよう。

 

 

 

 

[左]宣興写し瓶(原型・製造:1715年ごろ)

[右]白磁瓶(原型・製造:1715年ごろ)

 

メシなど胃袋を満たせればそれでよいというボクは、

食器になんら関心をもてない野蛮人だが、かつてのヨーロッパも大差なく、

十八世紀にようやく、ヨハン・フリードリッヒ・ベットガーが見様見真似で、

黄味がかつた石灰の磁器をつくることに成功した。

このベットガーさん、もとは錬金術師を自称していたのですが、

金の製造は失敗ばかりで(当り前か)身が危うくなつたところ、

この逆転ゴールで歴史に名声をのこしました。

1710年、磁器きちがいのアウグスト強王の布告により、「マイセン磁器製作所」が設立。

 

インド文様花卉文蓋付壷(原型:1725年ごろ 製造:1730-35年ごろ)

 

どうみても支那または日本風の絵柄だが、「インド文様」。

磁器を輸入した東インド会社にちなみ、東洋はみな「インド」あつかい。

しかし十数年で、技術が洗練されてきた。

 

「玉葱文様」(通称「ブルー・オニオン」)皿(原型:1730年ごろ 製造:1730-40年ごろ)

 

コバルト・ブルーの絵具による下絵つけという、マイセンの特徴がはやくも完成。

しかしなぜタマネギなのか?

支那の豊饒のシンボルである、ザクロやウリをよく知らなかつたので、

ヨーロッパ人はそれがタマネギだと勘ちがいした。

テキトーさがおもしろい。

 

 

ワトー・セルヴィス、大皿

(原型:1741-45年ごろ、ヨハン・フリードリッヒ・エベライン 製造:1760-75年ごろ)

 

ヴァトーの賀宴画に想をえたディナー・セットの一部。

こんな食器のあるテーブルをかこめば、さぞかし華やいだ気分になるでせう。

浮彫りもみごとで、東洋の模倣から完全に抜け出している。

 

スノーボール貼花装飾ティー・ポット

(原型:18世紀中ごろ、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーに帰属 製造:18世紀中ごろ)

 

焼成前の磁器表面に、手捻りによる花をひとつひとつ、

泥漿で貼りつける装飾がほどこされた。

日本人にはつくれそうにない。

いや、マイセンを愛好するかたには申しわけないけれど、

ボクは間近でみて気持ち悪くなつた。

グロテスクだ。

 

 

 

半世紀経たずに独自の様式をきづいたのだから、マイセンおそるべし!

だがここらで満足すればよいものを、

アウグスト強王は白く透きとおつた野望に身を焦がす。

すべての部屋を磁器でみたす、エルベ河畔の「日本宮」造営の構想に。

 

メナージュリ動物彫刻、アオサギ

(原型:1732年、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 製造:20世紀中ごろ)

 

まずは「磁器の動物園」から。

宮廷彫刻家ケンドラーに原型をつくらせ、最先端の技術で焼成する。

ため息がでるほど、うつくしい。

しかし、わざわざ磁器で実物大の動物をつくる意味があるのか?

 

アウグスト三世騎馬像の頭部

(原型:1750-57年ごろ、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 製造:1922年)

 

これは等身大の二倍もある。

造形の巧みさより、王の面がまえの傲岸さが不快だつた。

白磁とは、もつと繊細な工藝品だとおもつていた。

誇大妄想的な時代精神の暴発。

 

アウグスト三世騎馬像(雛形)

(原型:1745年、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 製造:1924-34年ごろ)

 

完成すれば、高さ十一メートルの彫刻になつた。

ザクセンは銀の生産で豊かで、強王はその富を新技術に投じる。

国家財政を傾けながら。

たしかに産業育成の名目があり、各国の要人によろこばれる贈答物として、

マイセン磁器は外交手段にも用いられた。

でもまあ、どうかんがえても王さまの道楽だ。

 

 

 

 

 

マイセンの窯印である、コバルト・ブルーの双剣。

アウグスト強王の紋章からとられ、現在も受け継がれている。

世界最古の「商標」といわれる。

三百年つづくブランドを立ち上げたのだから、道楽も捨てたものではない。

 

鉱夫のテーブル・センターピース

(原型:1750年ごろ、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーに帰属 製造:19世紀後半)

 

鉱山の街でうまれた夢。

それはインチキ錬金術師(正直な錬金術師がいるか知らないけど)がはじめ、

贅沢好きの王がそだて、無数の職人の手でまもられ、世界中の富家に愛されてきた。

豊かさをもとめる人々の、キラキラかがやく俗つぽい願望が、

マイセンの三百年という宝箱につまつている。


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