折れた翼で ―― アジアカップ決勝 オーストラリア戦
AFCアジアカップ カタール2011 決勝 オーストラリア-日本
結果:0-1(延長戦後)
得点:109分 李忠成
会場:ハリーファ国際スタジアム
[テレビ観戦]
日本の優勝がきまつたとき、オレの心境は複雑だつた。
どちらかというと、悲しみの占有率が高い。
損耗が大きすぎたから。
グループステイジ・シリア戦では、松井大輔を。
準決勝・韓国戦では、香川真司をうしなつた。
「日本のデルピエロ」の負傷は、シーズンの残りを無にかえるほどで、
なぐさめの言葉も容易にみつからない。
日本代表は両翼をひきずり、ヨロヨロと決勝の舞台に這いのぼる。
右バックのルーク・ウィルクシャーが、手負いの鴉を猟銃でねらう。
オーストラリアの8番が、この試合の主役といえる。
臆せず敵地に陣取れば、日本の9番・岡崎慎司に空き家を襲われもする。
だがおしなべて、ウィルクシャーが優勢だつた。
アルベルト・ザッケローニ監督の手駒に、飛車角はない。
蒼い鴉は、もう飛べない。
盾として岩政大樹を投じ、ひたすら延命をはかる。
この策があたつたとサッカー通の間で評判だが、
今野泰幸が配置換えをこばんだ結果にすぎず、単なる偶然だ。
このチームに魔法使いはいない。
……ただひとりを除いて。
109分。
遠藤保仁が左の野原でピクニック。
急遽、左翼に転属となつた長友佑都は、この日も粉骨砕身のはたらき。
翻弄されるウィルクシャー。
豪州うまれの猟師の喉笛は、尖つた嘴で食いちぎられた。
デイヴィッド・カーニーを、三方から難詰する。
オーストラリア英語にくわしくないが、罵詈雑言をあびていると想像がつく。
「コアラの糞でも食つてろ!」とか。
戦果をあげた日本代表の監督と選手は、「成長」なる二文字を好んで口にする。
当方サッカーのシロウトだが、そんな美辞麗句を信ずるほどお人よしではない。
チームや選手は、成長しない。
ただ、浮き沈みがあるのみ。
「期待の若手」はおだてられ、セレブ気取りのウスノロになる。
「世界のナニガシ」は、傲慢さゆえ孤立し、チームを瓦解させる。
「名将」は、運を実力ととりちがえ、時代遅れの戦術で敗北をかさねる。
例をあげよう。
2007年、ベトナム。
アジアカップ準々決勝・オーストラリア戦。
手前の遠藤は、画像を捏造したわけではないので、信用されたい。
お気に入りの場所らしい。
世界の中村俊輔があげたボールを、高原直泰がきめて同点。
つづくPK戦は、「4-3」で日本が勝利した。
だれが「成長」したというのか。
あらぶる獅子のごときストライカーを缺く分、退化したくらいだ。
試合後に長友が、香川のジャージをかかげる。
鼻先で力闘をつづけた二十一歳の熱情を、よく知つているから。
うつくしい光景だ。
でも、どこか悲しい。
ザッケローニ監督の契約期間は、本人の希望をうけての「二年」。
単身赴任だそうで、ヨーロッパに帰る気は満々。
だからこそ雑巾をふりしぼる様に、チームのすべての力をフィールドにそそいだ。
ACミランやレアル・マドリーからオファーがくれば最高だし、
カタール代表監督として、いまの十倍の年棒をもらえるかもしれない。
無論、カタールでの仕事なんて暑いだけで最低だが、
すくなくともJFAとの契約延長の交渉で優位にたてる。
要するに、先のことはわからない。
……ただひとりを除いて。
ヤットだけは、荒波に飲まれることなく、フワフワ漂いつづけるはず。
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