『英国王のスピーチ』

 

英国王のスピーチ

The King's Speech

 

出演:コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム=カーター ガイ・ピアース

監督:トム・フーパー

制作:イギリス 2010年

 

 

 

後ろの席からクスクス笑い声がきこえる。

外人さんだつたのかな?

オーストラリア訛りでシェイクスピアのセリフをいう場面がおかしい。

……のだとおもう。

コメディで笑いどころを理解できないと、くやしくなる。

 

 

本作の主人公は、吃音症になやむアルバート。

職業は海軍将校。

父がジョージ五世だから、王子さまでもある。

仕事柄、演説をする機会がおほいので、ドモリは克服せねばならない。

 

 

藁にもすがる思いで、専門家の扉をノックする。

父のきびしい躾や、王太子である兄デイヴィッドの存在が、

発症の原因らしいと、治療の過程であきらかに。

ボクは世界史が苦手科目だが、親子や兄弟のケンカなら万国共通、よくわかる。

 

 

ふたつの世界大戦のはざま。

ふるきよきヨーロッパの最後のかがやき。

崩壊寸前の世界をまもるという重責。

 

 

 

 

 

ハンサムで女好きの兄貴は、「エドワード八世」として即位するが、

人妻への愛におぼれ、在位わづか十一か月で王冠をなげうち家出した。

国王は国教会首長も兼ねるからウンヌンと、

ややこしい事情はあるけれど、まあ要するに無責任なだけ。

 

 

ドーヴァー海峡のむこうでは、チョビヒゲの男が猛威をふるう。

ヒトラーは、言わずとしれた演説の天才。

あらゆるメディアを駆使し、ドイツ国民を扇動した。

その裏庭のロシアでは共産主義国家が成立、世界を転覆せんとたくらむ。

 

ティモシー・スポール

 

ウィンストン・チャーチルは海相や首相として、

「ジョージ六世」になつたアルバートを補佐する。

総力戦の時代は、ドモリだろうと王様だろうと、犬馬の労をとらされる。

ヒトラーほど巧みではないが、アルバートはラジオで国民を鼓舞し、

戦乱にまきこまれたイギリスの精神的支柱となつた。

 

 

 

 

 

人により、戦争のたたかい方もさまざまだと肝銘したが、

印象的なのは、長女エリザベス役のフレイア・ウィルソン(Freya Wilson)。

右の女の子ですよ。

聡明で、ちよつとナマイキで、かわいらしい。

映画のあとの出来事だが、体のよわいアルバートは1952年に死歿。

二十五歳の娘が、「エリザベス二世」として王位をついだ。

バケツリレーの様にあわただしく手渡された冠は、ドモリの親父以上に、

若い女には重荷だつたはずだが、のちの活躍は周知のとおり。

父の誠実な仕事ぶりから、すでに多くを学んでいたのだろう。

 

 

『クィーン』(2006年)や本作は、王族を辛辣な笑いの対象にするが、

親愛の情に満ちあふれ、見ていてうらやましくなる。

この家族が祖国をまもつてくれたと、恩に着ているのかな?

けふもイギリス人は、あらたな王室の喜劇をつくり、シェイクスピアを暗誦する。

ボクももつと、歴史や文学を勉強しなければなあ。


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セルジオ・タッコーネ『ザッケローニ 新たなる挑戦』

イタリアの自宅で

 

ザッケローニ 新たなる挑戦

 

著者:セルジオ・タッコーネ

訳者:利根川晶子

発行:宝島社 2011年

 

 

 

サッカーとは科学でなく芸術だ。

優秀な監督とは、選手の創造力を大事にする。

決して戦術のほうを重んじてはいけないのだ。

 

監督とは、その選手にいちばん合ったシャツを作り、

着せてやることに長けていなければならない。

 

アルベルト・ザッケローニという腕ききの仕立て職人について、

ふかく知ることのできる一冊。

 

 

 

 

妻フルヴィア、息子ルーカと

 

ザッケローニは十六歳のとき肺病をわづらい、プロ選手の道をあきらめた。

監督業は、セリエD所属のアド・ノヴァスからはじまる。

アマチュアもアマチュア、どこにでもいるサッカー好きのオジサンだつた。

極東に流れつくまで、二十七年で十四のチームをひきいた。

シーズン途中の就任は五回、途中の解任も五回。

酸いも甘いも嘗めつくしている。

元名選手のグアルディオラや、名選手の息子のモリーニョらとくらべ、

別人種というほかない、カリスマ性ゼロのしがない工匠だ。

その経歴の最高潮は、94-95シーズンに、

セリエBのコゼンツァを十五位に導いたこと。

不正が発覚し、勝ち点9を剥奪されたクラブをすくつた手腕はめざましいが、

それでも「十五位」が勲章になるのが彼らしい。

 

 

98-99シーズン、前年十位だつたACミランの再建をまかされる。

なにかと保守的なイタリアでは稀なことに、

前衛的な「3-4-3」システムを、このビッグクラブに導入した。

 

 

微調整をほどこしながら、シーズン終盤には、

ズヴォニミル・ボバンを中核にすえる布陣にゆきつく。

ユヴェントス時代は、たとえばトーマス・ヘルヴェグの様な、

運動量豊富なサイドプレイヤーを缺くため、「4-3-1-2」を採用した。

理想からの、一歩後退。

たとえ完璧なシャツでも、寸法があわなければ切るべし!

 

パオロ・マルディーニと

 

こうして苦労人は、優勝の印となる盾をかちとつた。

その後はラツィオ、インテル、トリノ、ユヴェントスと渡り歩き、

傍若無人なオーナーに振り回されながらも、たしかな実績をのこす。

なのにイマイチ貫禄がないのは、ダービーに弱かつたから。

スタディオ・オリンピコでは、ローマに「1-5」でやぶれ、

サン・シーロでは、古巣のミランに2点差をひつくり返された。

ダービーとは、スポーツ以上のなにか、おそらく戦争に似た難物で、

サッカー職人の手には余るものらしい。

 

 

 

 

 

選手時代は「タチの悪いサイドバック」だつたと、ザックはかたる。

ディフェンダーが持ち場をはなれたら、コーチが激怒した時代、

アルベルト少年は果敢に攻め上り、むなしく空回りをつづけた。

のちの革新的戦術の萌芽を、見て取れなくもない。

ウディネーゼを指揮していた1997年4月13日、

ユヴェントス戦の開始3分でDFジュノーが退場処分にあう。

定石に反し、ザックはのこり87分間をディフェンダー三人でたたかい、

アモローゾとビアホフの得点により「3-0」で勝利した。

ひそかに「3-4-3」をためす機会をうかがつていたザックは、

窮地に好機をみいだした。

だが彼の前傾姿勢は、わがままオーナーに疎まれる原因となる。

最近も買春で世間をさわがす、ACミラン会長のベルルスコーニ(現首相)は、

ザックが「左翼」だから嫌いで、それで解任したと、いまだ信じるものが多い。

政治に手を染めたことなどない、ノンポリのサッカー馬鹿がかんがえたのに、

「3-4-3」は一種の共産主義とみなされている!

イタリアにおいてカルチョは、宗教であり、藝術であり、戦争であり、政治でもある。

 

 

 

 

 

簡潔な3ライン。

ぶあついサイド攻撃。

前線の三人が、即興でかなでるヴァリエーション。

 

もし3-4-3が本当にうまく機能したら、

GKさえ、ときにはいらなくなるだろう。

本当に優秀なアタッカーがいれば守備の不安もなくなる。

それが3-4-3の真骨頂なのだ。

 

ザックは日本代表にも、お家藝を伝授しようと企んでいるはず。

いくつかのピースさえ揃えば。

 

 

見本となるのが、97-98シーズンのウディネーゼ。

ヘルヴェグのかわりは、長友佑都がつとめるだろう。

 

 

オリヴァー・ビアホフ。

このシーズンのセリエA得点王。

かれに空中戦で競り勝つには、エレヴェイターが必要といわれた。

繊細で安定したポストプレイ。

またたく隙ものがさない、激烈なシュート。

ヴァチカン美術館の所蔵品なみに貴重な才能だ。

前田遼一は優秀だが、身長が191cmあるわけではない。

アルベルト・ザッケローニの裁ちバサミが、するどくキモノを切り裂いてゆく。





ザッケローニ 新たなる挑戦ザッケローニ 新たなる挑戦
(2011/02/10)
セルジオ・タッコーネ

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テーマ : サッカー日本代表
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鈴木伸元『加害者家族』

蕗谷虹児『私の画集』挿画(1925年)

 

加害者家族

 

著者:鈴木伸元

発行:幻冬舎 2010年

[幻冬舎新書 193]

 

 

 

息子が逮捕されて一か月、宮崎勤の父は東京新聞の記者に対し、

天をあおぎながら言葉をしぼりだした。

……針の筵にすわる様な毎日だ。

こんなに苦しむなら、死んだ方がどれほど楽か。

死ぬのは数秒でおわる。

死にたい……死にたい……。

四歳がふたり、五歳がひとり、七歳がひとり。

その死の責を背負つて生きられる男はすくない。

かたや女は、修羅場でも胆がすわつている。

連続殺人者の母は、憔悴した伴侶をたしなめる。

「死んだら、また笑いものになる」

電話線は抜いたが、郵便物はとめられない。

「死ね」、「殺してやる」……。

勤のふたりの姉妹を攻撃するものが、特に多かつた。

長女の婚約は破談になる。

死ぬに死ねない母の心情は当然だ。

公判がはじまつても、父は傍聴におとづれない。

弁護士をつけてくれという、息子の願いもこばんだ。

それは自分を守ることを意味し、被害者や遺族に申しわけないから。

作家・佐木隆三が父の態度を批判する。

弁護人をえらばなければ、結果的に国選弁護人がつけられる。

まづしいものを救済するための制度を、

支払い能力のある宮崎家が利用するのはおかしい。

それが佐木の意見らしいが、バカげたイチャモンというほかない。

要するに殺人者の父は、息をすることも許されない。

1994年11月、逮捕から五年。

宮崎勤の父は、橋から多摩川に身をなげ死んだ。

 

 

 

2003年。

川崎市の古書店で漫画六冊を万引きした十五歳の少年が、

店長の制止をふりきつて逃げる最中、電車にひかれて死亡した。

被害者から加害者への、大逆転。

「人殺し」という抗議が殺到したため、店長はやむなく閉店を決意する。

たとえ自分に非はないと信じていても、

「こうすれば死は避けられた」と言われたら、反論できない。

ところがビックリ、最逆転。

店長の意向が明らかになつた途端、今度はメールやら電話やら、

「店を閉める必要はない」との激励が千件以上寄せられた。

きまぐれな群集がなす濁流に、個人はただ翻弄されるのみ。

 

 

 

NHKの報道番組ディレクターである著者は、

小学生の息子をもつ女性会社員に直接取材した。

夫が隣町で、自分のしらない男を殺すという目にあつた人。

実行犯によるものを除き、殺人事件における最大の損害は、報道機関がもたらす。

まづ容疑者の顔写真をもとめ、あたり一帯の呼び鈴をならす。

となりのオジサンの写真など、誰が所持するだろう?

それは自明でも、他社に出し抜かれたら立場がない。

町全域が、「被害者」になる。

「加害者家族」の居場所はない。

息子は理由を知らされず、同級生に別れも告げずに、転校した。

教頭先生はつめたく、学校を移るよう母に示唆する。

学校は「被害者」だ、だから「加害者家族」に関りたくない。

子どもを守るのが、かれらの仕事のはずだが……。

裁判は茶番だ。

刑が確定しても、殺害にいたつた動機は結局わからない。

借金が絡んでいるらしいというだけ。

苗字をかえる目的もあり離婚したが、

元夫は「出所したら家族一緒にくらしたい」などという。

囚人は国家に庇護されているから、ノンキなものだ。

 

 

 

なぜ家族の異変に気づかなかつたのか。

ひとつ屋根の下で生活しながら、兆候を見逃すなんて。

人はそういう。

しかし「あした殺人をします」という信号があるなら、警察はいらない。

 

 

 

太平洋のむこうの、犯罪超大国のお話。

アーカンソー州のウェストサイド中学で、1998年、

生徒ふたりが銃を乱射し、教師ひとりと女生徒四人が落命した。

のちに段ボール二箱分の手紙が、加害者の母のもとにとどく。

すべて激励の言葉だつた。

「頻繁に面会にいつてあげてね」

「つらい思いをしている兄弟のケアも忘れずに」

「日曜の教会で、村中であなたがた家族のため祈つています」

だからアメリカはすばらしいと言うつもりはないが、

犯罪先進国のあり様に学ぶべき点はある。

起きたことは、どうしようもない。

あとから正義面で憤慨して、なんの意味があるのか。

弱きものが助けあえないなら、世界はあまりに悲惨すぎる。





加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)
(2010/11/27)
鈴木 伸元

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『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎』

 

ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~

 

 

ディレクター:前田耕平

開発:インテリジェントシステムズ

発売:任天堂 2010年

対応機種:ニンテンドーDS

 

 

 

『ファイアーエムブレム』の美点は、主人公がパッとしないところ。

上で精一杯カッコつける、アリティアの王子マルスだが、

みづから前線にたち剣をふるうことはまづない。

総帥が斃れれば全軍崩壊するわけで、

王子に出しやばられても、兵卒にしたらありがた迷惑。

必然マルスは、靴底を擦り減らしつつアカネイア大陸をねりあるき、

西で援軍をもとめ直談判し、東で財宝をあつめる日々をおくる。

いつも取引先や銀行でペコペコする、零細企業の社長みたい。

 

『ファイアーエムブレム大全』(小学館)

 

島国タリスの王女シーダ。

献身的な社長秘書として、自転車操業の会社をささえる。

 

 

ペガサスを駆り、かるがると山嶽をこえて。

強く美しき姫君は、こわいものなし!

 

 

……とはゆかず、天敵のアーチャーにねらわれる。

 

 

矢につらぬかれたシーダ。

銀の胸当てのうちを、おのが血潮で満たしながらも、

その口からもれるのは、婚約者の無事をねがう言葉だけ。

……マルスさまには大切な使命があるから、

もし命を召されるならわたしが代りにつて、神さまに祈つたの。

わたしは、それくらいしかお役にたてないから……。

島国日本のOLは、ちよつと美人だつたりするとそれを鼻にかけ、

ろくに残業もしない高慢ちきな女ばかりなので、感にたえない。

花嫁修業は、お花やお茶より、ペガサスナイトをすすめたい。

 

 

 

 

 

ビデオゲームは、「据置機」と「携帯機」のふたつに分類される。

本質的にことなるものだ。

据置機である、Wiiの『ラストストーリー』に没頭しながら痛感したのは、

この溝は天馬でも容易にこえがたいこと。

たとえるなら、据置機は映画で、携帯機は本。

映画の観客は、作品世界にひきこまれ、感情を揺りうごかされる。

本の読者は、行間を想像でうめようと、頭をつかう。

前者はだれかと共有すると興がますが、

後者は好きなとき好きな場所で、ひとりでたのしみたい。

両方の機種で成功した『ファイアーエムブレム』シリーズは、

しいていえば、携帯機むきのゲームだろう。

囲碁や将棋の様に熟考をもとめるし、たしかに舞台は壮大だが、

「死んだらそれまで」のシステムにおいて、筋書きは装飾にすぎない。

DSの『新・紋章の謎』は、そう結論づけられる完成度をほこる。

 

 

 

 

『ファイアーエムブレム メモリアルブック アカネイア・クロニクル』(アスキー・メディアワークス)

 

「英雄戦争」が終結し、マルス王子が一同のまえで、

婚約を履行するとちかう場面を、西村キヌがかいたもの。

感慨ぶかげな、歴戦の勇者たち。

ハンカチを噛んでくやしがるマリーシア。

マケドニア白騎士団所属、三姉妹の長女パオラはひかえめに祝福。

次女カチュアは無表情だが、かなしみが透けてみえる。

三女エストはお祭りさわぎ。

西村のFEへの愛があふれる作だ。

しかしふと気づいたのは、この絵にかかれたマルス以外の全員が、

どこかで戦死したとしても、支障なくゲームをクリアできること。

FEの底知れなさが、ここにある。

 

 

トライアングルアターック!!!

誰もがみとめるFEの象徴、「ペガサス三姉妹」。

かつてインテリジェントシステムズと任天堂は、

「ペガサスナイト」を商標登録し、加賀昭三や浜村弘一らの魔手から、

数年におよぶ暗黒戦争、もとい裁判をへて、天駆ける乙女をまもつた。

智的なのに心を鷲づかみにする、本作の魔力の源泉だから。

馬でありながら、鳥でもある。

天使のごとく可憐ながら、おそるべき戦士でもある。

大いなる矛盾をかかえたまま、FEはゲーム界の謎でありつづける。





ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~
(2010/07/15)
Nintendo DS

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テーマ : ファイアーエムブレム
ジャンル : ゲーム

タグ: 任天堂  ファイアーエムブレム   

『バレッツ』

 

バレッツ

L'immortel

 

出演:ジャン・レノ マリナ・フォイス カド・メラッド ジャン=ピエール・ダルッサン

監督:リシャール・ベリ

制作:フランス 2010年

 

 

 

南仏マルセイユ。

地中海がなすM字型のくぼんだ部分に位置し、

交易でさかえる、パリにつぐフランス第二の都市だ。

 

 

そんな港町の地下駐車場で、穴だらけになるジャン・レノ、六十二歳。

まだ息はあります。

 

 

小生、おフランスの裏社会に無智な者だが、

二十二発の銃弾をうけて死ななかつたという、

実在するヤクザ、シャルリ・マテイの体験にもとづくと聞いた。

ちなみに日本を代表するマフィアの山口組は、

かつては神戸で荷役人夫を斡旋するのが本業だつた。

物産が集散する土地は、あまたの荒くれ者を必要とし、

いつしか彼らは、港湾の路地裏に暗黒街をきづく。

洋の東西をとわず。

 

 

 

 

 

仇役のカド・メラッド。

親友にして、裏切り者。

よく映画通は気取つて、犯罪映画を「フィルム・ノワール」とよぶ。

「ブラック・フィルム」とか「ダーク・シネマ」では、ムードがナッシング。

この手の映画の常として、一匹狼のジャン・レノは、

最後に敵のボスと一対一の見せ場をむかえる。

ふてぶてしい死に様こそが、悪役俳優の花道。

殺すならさつさと殺せ。

悪は悪だ。

オマエもおなじ穴のムジナだ。

だからオレに道徳を説くのはやめろ。

……ノワールな気分にひたりました。

 

 

 

 

 

だが、しかし。

南仏の陽光は、おだやかでやさしく、そしてまぶしい。

追われてアジトにひそむレノさんも、なんだかのんびり。

 

 

母役のCatherine Samieの芝居は、味わいがあつた。

息子が極道になつたのは、自分にも責任があるので仕方ないが、

ただひとつだけ許容できないことがある。

「わたしより先に逝かないでおくれ」。

金、欲望、裏切り、暴力、復讐。

うすぎたない暗黒街で生きのびようと、息子たちが見苦しくあがくのは、

彼らは不器用で、ほかに老母への孝行の手段をしらないから。

ノワールな男の人生が、波にきらめく光と対照をなし、うかびあがる。

 


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テーマ : 映画
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たかみち『りとうのうみ』


りとうのうみ

 

作者:たかみち

発行:ワニブックス 2011年

 

 

 

主人公の小波間海(こはま・うみ)。

精悍な顔だちの十八歳だが、性格はクラゲの様にゆらゆらのんびり。

スキューバダイヴィングの指導員をしている。

すこし頼りないけれど。

 

 

久良慶(くらげ)島と那間古(なまこ)島。

琉球の離島ふたつを焦点とする、ちいさな楕円におさまる一冊だ。

でも青い空と碧い海は、無限にひろがる。

 

 

「海」の泳ぎはギクシャクして、レギュレイターもうまく使えない。

経験不足だからではなく、素潜りになじみすぎたから。

ダイヴァーというより、人魚姫だ。

 

 

 

 

 

内地で生まれ育つたボクが、空気同様になじんでいるのは、

ダイヴィングではなく漫画で、漫画家はずつと憧れの職業だ。

でもたかみちの描く、空と海と少女をみると、別の仕事についてよかつたと思う。

作品をたかみちと比べられるのは、津波よりおそろしい。

色彩が精緻に、水分子のごとく共有結合する。

漫画という媒体は、手塚治虫がはじめ、たかみちが完成させた。

 

 

もはや登録商標となつた、「たかみちブルー」。

言葉は無力と、みとめざるをえない。

ただ「製作ノート」から、作者自身の言をひく。

 

自分は水中の色をまともに表現してしまうので

かえって透明感が失われてしまいます。

もっと絵の有利部分を利用しなければ。

 

透明なものを、透明にあらわす。

この哲学的難問に、たかみちでさえ悪戦苦闘している。

みなが彼の青を称讃するが、水面下にはすさまじい渦巻がある。

 

 

 

 

 

たかみちの作風は、トーテム信仰とかかわりをもつ。

『ゆるゆる』では相模湾のアオバトが、物語に神韻をおびさせた。

本作のトーテムは、那間古島に一頭しかいない「いんぐわー」。

きわめて忠実で、たかい学習能力をもつ珍獣だ。

 

 

那間古島にある「民宿古城」の娘、十二歳の菜央。

案内役をつとめたりもする。

この絵では、岩場ですべつたのかな?

ワンピースからしたたる海水。

やけつく陽光のもとの頽廃。

神々しいまでのエロス。

 

 

海の姉・洋子は、横浜でOLをしている。

すこしくすんだ蒼。

おなじ国と思えぬほどだが、それでもそこに海はある。

右上のプロフィル欄に書いたとおり、ボクは南関東の人間で、

今後どこに転居するにせよ、内陸部に住みたくない。

別に海は好きぢやないし、海水浴やマリンスポーツなど真つ平御免だが、

それでも山の麓にいると落ちつかない。

ただそこに、海があつてくれれば、それでよい。

 

 

 

 

 

岩間におちた観光客のカメラをひろつたとき、こつそり自画撮り。

マグネットボードに絵までかいて。

天然のエアタンクは空にちかいが、満面の笑みをうかべる。

そのおだやかさが、うつくしい。





りとうのうみ (WANIMAGAZINE COMICS)りとうのうみ (WANIMAGAZINE COMICS)
(2010/12/09)
たかみち

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テーマ : 漫画
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美の日英同盟

 

白夜行

 

出演:堀北真希 高良健吾 船越英一郎 戸田恵子

監督:深川栄洋

原作:東野圭吾

制作:日本 2011年

 

映画『白夜行』は、東野幸治とかいう男の三文小説を原作とする。

ファンのかたには申しわけないが、たわいない筋書きだつた。

 

 

船越英一郎はこうかたる。

 

僕のライフワークであるサスペンスは、

“人間の闇を映し出すことで光を見出す”ものなんですね。

少なくとも、僕はそう理解してやって来た。

 

映画プログラム

 

彼は殺人の現場に立ちすぎ、見当識が麻痺している。

殺人事件なんて、闇、闇、闇、闇のまた闇、はてしなき暗黒の世界だ。

すくなくとも、ボクはそうおもう。

 

 

細面の高良健吾は、殺人を美化することに貢献した。

わかくて、うつくしくて、クールで、智的で、やさしくて。

勝手にしやがれ。

醜悪で無智で野卑な殺人者がいたら、なにか不都合でもあるのか?

 

 

 

 

 

ウォール・ストリート

Wall Street: Money Never Sleeps

 

出演:マイケル・ダグラス シャイア・ラブーフ キャリー・マリガン ジョシュ・ブローリン

監督:オリヴァー・ストーン

制作:アメリカ 2010年

 

グラス片手にふんぞりかえり、葉巻をくゆらすマイケル・ダグラス。

株屋さんは偉いものだとわかる。

『ウォール・ストリート』は、その名のとおり金融市場をめぐるドラマだが、

いくらひねくれ者のボクでも、「金儲けを美化するな」とはいえない。

人様に迷惑はかからないから。

ただ殺人以上に、自分とは無関係の話とおもうだけ。

 

 

強欲親父にふりまわされる、娘役のキャリー・マリガン。

男物のシャツからのぞく、かぼそい首筋がいとおしい。

二十五歳だが、『十七歳の肖像』ではJKを堂々演じきつたほどで、

憎悪や欲望と縁をきつた、無垢な童顔がきよらかだ。

 

 

犬顔なのに猫背で、正装してもどこか頼りなげ。

ボクが好きなのは、銀行強盗の映画であり、投資銀行の映画ではない。

金庫の破りかたには興味があるが、その中身はどうでもよい。

どうせ他人の金だし。

 

 

 

 

 

『白夜行』の宣伝文句は、「堀北真希が濡れ場に挑戦!」というもの。

出し惜しみの彼女なら、背中をみせるだけで「濡れ場」になる。

でもその背は、ギリシア彫刻の様になまめかしい。

映画館は、女神のまします神殿だ。

犯人あてゲームは、よそでやつてくれ。

 

 

イギリスうまれの仔犬が、顔をクシャクシャにする。

美のリーマン・ショック。

 

 

うるんだ瞳で、飼い主をみつめる。

この視線に抵抗できる男は、地球上に存在するか?

 

 

あえなく陥落。

美のモラル・ハザード。

 

 

ちなみに下にいるのは女です。

ギャガ宣伝部によると「濡れ場」ですが、実際は義妹をなぐさめただけです。

いえ、怒つてるわけぢやありません。

うつくしければ、なんでもアリです。

いくらでも賽銭をなげますよ!

ひとつの顔、ひとつの体を資本に、数億ドルをうごかす。

女優なる仕事は、窮極のレヴァレッジといえよう。


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テーマ : 映画
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『ラストストーリー』

 

ラストストーリー

 

ディレクター:坂口博信

サウンド:植松伸夫

コンセプトアート:藤坂公彦

開発:ミストウォーカー AQインタラクティブ

発売:任天堂 2011年

対応機種:Wii

 

 

 

サントラを聞く趣味はないのに、『ラストストーリー』の特典である、

七曲入りのCDがリピートをつづけている。

音だけでも、その世界に触れていたいから。

戦闘曲の「秩序と混沌と」は、植松伸夫が手がけたものだが、

初期の『ファイナルファンタジー』の様にキャッチーな旋律をもたない。

ハリウッドのアクション映画にちかい。

本作のシステムが、音楽に影をさしている。

詰将棋よろしく、敵味方が順序よくうごく「ターン制」ではなく、

獰猛な傭兵たちが、リアルタイムで戦場を駆けずり回る。

殺伐とした空気を、激烈なリズムが煽る。

 

 

しかし最後の「翔べるもの」が流れると、涙腺はゆるむ。

ルリ島をおさめるアルガナン家の姫君・カナン(声:折笠富美子)の、

秘めたる恋心が音の波となり、胸をしめつける。

右は主人公の傭兵、エルザ(声:宮野真守)。

 

 

陰謀が渦をまく宮廷から逃げだしたい女と、

騎士になる野心をもつ男の思いが交錯し、流星とともに夜空をかける。

ふたりは、たがいの運命の糸を縒りあわせる様にして、

本来接点をもつはずのない夢を、ひとつのものにかえる。

民のため、友のため、おのれの生命を賭けながら。

 

 

 

ディレクターの坂口博信(以下「ヒゲ」と呼称)が、

「自己犠牲」の物語を偏愛することは、よく知られている。

金太郎飴だと批判する者もいるが、ヒゲのゲームに自己犠牲がなかつたら、

バカップルがイチャつくだけのギャルゲーに堕すだろう。

男女がイイ感じにできあがると、プレイヤーは「こいつ死ぬかも」と不安になる。

ヒゲは「死」に憑かれているから。

 

 

「ギャザリング」というシステムが、本作のすべてだ。

リアルタイムでの殴りあいは、アクションゲームとの境を曖昧にする。

だからこのRPGでは、戦場で「ロールプレイ」するためCボタンをおす。

敵の視線が、黄色にかがやく。

殺意のシャワー。

 

 

それは味方の魔法使いのための、時間稼ぎだつた。

苦節二十五年。

ヒゲは自己犠牲の主題を、ゲームシステムの根幹に組みこむことに成功した!

魔法使いに建造物を破壊させて地形を有利につくりかえ、

ボウガンで遠くのメイジを狙撃し、ギャザリングで敵を死地にさそいこみ、

完全に主導権をにぎつたと見るや、雄叫びをあげて斬りこみ殲滅する。

まあボクはヘタだから、そう奇麗にたたかえない。

いつもモミクチャにされ、ボロボロになる。

だけど自己犠牲の崇高さにかわりはない。

「秩序と混沌と」。

Cボタンをおすたび、ボクらはヒーローになれる。

 

 

 

このゲームを語り尽すには、あと数十倍の字数を要する。

とりあえず今回は、エルザ以外の傭兵団の面々を紹介しておわろう。

前衛三人、後衛三人。

すぐにでも『ウィザードリィ』をはじめられる鉄壁の編成だ。

 

 

一党をひきいるクォーク(声:石塚運昇)。

剣の腕だけでなく、権力者を相手とする交渉ごとにも長け、

「傭兵風情が」と侮蔑されながら、逆に手玉にとる。

いつかエルザとともに、騎士に叙任されるために。

 

 

エルザは弟分だが、互いに互いの背中をあづけられる戦友でもある。

しかし飛龍のごときエルザの栄達にとまどい、

頭目は次第に感情をかくし、内に籠りがちになる。

嫉妬したのだろうか。

 

 

炎をあやつる魔法使い、ユーリス(声:下野紘)。

無愛想で嫌味なキャラとはじめは思つたが、

死んだ父への追慕や、意外と子どもに好かれる様子がえがかれ、

もし続篇をつくるなら彼を主人公にしてほしくなつた。

 

 

戦闘での観察眼もするどく、ボソリとつぶやく一言にたすけられる。

ちなみに眼帯は飾りではなく、下はお約束どおり。

それでこそヒゲだ。

 

 

二刀流の女剣士、セイレン(声:豊口めぐみ)。

投票をつのつたら一番人気になりそう。

大酒飲みで、豪放な性格の彼女がいれば、

ジメジメしたダンジョンにいても、気分は暗くならない。

戦場で逃げてばかりのボクのかわりに、多くの敵を斃してもくれる。

 

 

そんなセイレンも、女の顔をのぞかせる場面があつたりして。

極限状況での恋の進行に、チャンバラよりヒヤヒヤした。

 

 

氷の魔法使い、ジャッカル(声:藤原啓治)。

最前線で剣を振り回すことも得意。

ゲームの前半では出番がすくなく、ちつともレベルが上らないので、

「赤魔道士」の成長の遅さに倣つたのかと、おかしかつた。

 

 

いわゆる軟派な色男キャラ。

『スタ-・ウォーズ』のハン・ソロを思いだした。

ただし炭素冷凍はされないので御安心あれ。

 

 

癒しの魔法をつかう、マナミア(声:能登麻美子)。

森で神獣にそだてられた女で、立ち居振舞いは神秘的。

それにしても能登麻美子の台本には、音符が記されているのか?

抑揚はとぼしいのに、旋律を感じる。

その声はまるで音楽の様に、ヌンチャクをもつボクらを癒し、

ゆるがぬ美を、この前衛的なRPGにもたらす。

 

 

 

「声優」というガラパゴス島的な文化に、ボクは関心ないし、

任天堂はそれ以上に冷淡だとおもつていたが、

『零~月蝕の仮面~』『ラストストーリー』『パンドラの塔 君のもとへ帰るまで』と、

やけに能登を重用している。

彼女の清潔さが、好みにあうのだろう。

死を連想させるほどの透明さが。

京都の老舗は、みづからの声でささやきはじめる。

 

 

 

 

 

今回ダメなら引退する覚悟で、『ラストストーリー』と名づけた。

ヒゲはそう語つている。

彼一流のカッコつけ発言だが、さすがに餘生を楽しむには時期尚早か。

この最新作は、ゲーム史上最高傑作のひとつだから。





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デルガドズ『エヴリバディ・カム・ダウン』

 

エヴリバディ・カム・ダウン

Everybody Come Down

 

ザ・デルガドズ(The Delgados)のアルバム

『ユニヴァーサル・オーディオ(Universal Audio)』収録曲

 

作曲:ザ・デルガドズ

発行:イギリス 2004年

 

 

 

 

 

 

 

 

大切な場所があり 古傷がある

see a place see a sore

 

信じあうだけの理由もある

see a reason to believe in more

 

そろそろ出かけよう

better still take a walk

 

あそこでみんなを拾つて

take a pick up from the only stop

 

あのコはおかしい

she is ill

 

アイツはおとなしい 前からそう

he is still just as trying as he was before

 

おしやべりしながらやつと到着

comes around with some chat

 

でもキミは短剣を隠してる

with a dagger hanging in your back

 

それつて正気ぢやないよね だつてさ

it's insane because

 

 

 

 

みんなあつまつて

everybody come down

 

街をかけめぐり お祭りをはじめる

we can drive we can race we can celebrate space

 

みんなおいでよ

everybody come down

 

わたしが忘れようとしたこの場所へ

to the place I'd erase

 

キミを信じたかつたけど それは不可能だつた

I started to believe but I never did believe in you

 

 

 

 

 

 

「あいまい訳詞クラブ」の第二弾です。

デルガドズはすでに解散した、スコットランドはグラスゴウのバンド。

訥々とうたうエマ・ポロックの声が忘れられません。

「ワイワイ楽しもう!」というパーティチューンだとおもってたら、

歌詞をたしかめると浮世離れした内容でビックリしました。

どんだけちゃんと聞いてないのかと……。

さりげなく毒を忍ばせるのが、「ロック」っぽいです。

それでも、春の足音がきこえる今の時期にあう曲じゃないかな?





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(2004/09/28)
Delgados

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タグ: あいまい訳詞クラブ 

よつばとせいちょう

 

よつばと!

 

作者:あずまきよひこ

掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(アスキー・メディアワークス)2003年3月号~

[単行本は第十巻まで刊行]

 

 

 

昨年十一月末にでた、『よつばと!』第十巻を語らないことには。

もう八年つづいている漫画だが、物語の進行は一話ごとに一日。

よつばは五歳なのに、永遠に成長しない。

時のながれを封印した空間であそぶ快楽。

 

 

お隣さんの綾瀬風香の制服姿だけが、大人びてゆく。

限界までたくしあげ、腹巻の様になつたスカート。

やわらかそうな腿は、大胆に尻との国境をこえて。

清雅な黒ソックス。

人の心をまどわす、ブラウスのふくらみ。

 

《八巻五十一話》

 

風香る少女が、紫陽花西高の制服を披露するのは四年ぶり。

残念なことに八巻では、小岩井親子が「紫陽祭」に突撃するも、

「cafe フランス人」とプリントされたTシャツを着用していた。

わるくないが、ブラウスの繊細な曲線とは比較にならない。

 

《六巻四十話》

 

さかのぼつて六巻。

散文的な筆づかい。

ただJKが突つ立つている、それだけ。

作者のエロスは、この四年でさらなる発達をとげた。

 

 

また十巻にもどります。

ヤマダ電機のテレビ売り場で、よつばが戯れる。

ビデオカメラをつないだテレビに、自分の顔の正面をうつそうと悪戦苦闘。

でもボクらの視線は、風香の胸の谷間をとおる鞄のストラップへ!

劣情はリモコン操作できない。

 

 

 

 

 

綾瀬家三女、小学四年生の恵那。

動物好きなのでハムスターを飼いたいが、カゴ代が足りなくて悩んでいる。

ペットは情操教育によいし、マジメな性格だから世話もするはずで、

親もよろこんで二千円くらい出すとおもうけれど……。

物をねだるのが苦手な子なのだ。

ボクもそうだつたから、共感する。

 

 

前面、背面、側面。

長姉あさぎ譲りのセンスがひかる、恵那のファッションショー。

膝にフリルのついたレギンスの可憐さといつたら!

ちなみに髪飾りは、みうらのハワイみやげ。

服はすきだけど、アクセサリーは凝らない。

かえつて、普段のおくゆかしさが際だつ。

惚れなおした。

小生、架空の小四にラヴレターをかいた三十男です。

 

 

『よつばと!』の世界は狂気でみちている。

ますます暴走している。

みづからの彫刻に恋したピュグマリオーンのごとく。

それは甘美で、ときに戦慄をもたらす時空。





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あずま きよひこ

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『ザ・タウン』

『webshots』

 

ザ・タウン

The Town

 

出演:ベン・アフレック ジェレミー・レナー レベッカ・ホール ジョン・ハム

監督:ベン・アフレック

制作:アメリカ 2010年

[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]

 

《注意》

以下の記事では、物語の核心にふれています。

 

 

 

ボストンのバンカーヒル記念塔。

独立戦争の記憶をのこすため建てられた、アメリカ最初のオベリスクだ。

映画冒頭でうつされた瞬間、銀幕に電撃がはしる。

この物語には、核がある。

 

 

ボストン北東部チャールズタウンで、腕ききの銀行強盗一味が暴れる。

ゴムマスクごしの発声は、モゴモゴと聞きづらい。

まるで黒澤明の映画をみている様で、血がさわぐ。

犯行の手口の描写はあまりにくわしく、教科書として使われないか心配なほどで、

もはや強盗志望者にとつて、『ヒート』(1995年)はお払い箱になつた。

 

 

煉瓦の三階建ての街並み。

ノースエンドの道はせまく、曲りくねつている。

十七世紀にできた街だから、車の通行など想定していない。

それでも強盗はアクセルをふみこむ。

連邦捜査局(FBI)を撒くには、地の利をいかさなくては。

 

 

 

ボストン・レッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パーク。

元締めのピート・ポスルスウェイトいわく、ボストンの「大聖堂」。

街の象徴を襲撃する映画に、撮影の許可があたえられたのは、

監督・主演のベン・アフレックが、レッドソックスの忠実なファンとして有名だから。

やはりこの物語には、核がある。

 

 

 

 

中央がスレイン、左手前がオーウェン・バーク

 

黒をまとうチャールズタウンの強盗団。

俳優が監督した作品のたのしみは、演技をじつくり味わえること。

役者はカメラのこちら側の同業者を信頼するから、面構えがちがう。

 

 

ジョン・ハムは、FBI特別捜査官の役。

FBIは地元の悪党から「フェッズ」とよばれ、蔑まれている。

連邦政府につとめる役人は、あくまでヨソモノ。

国家を意識するのは、オベリスクだけで十分だ。

……そんな空気がつたわる。

 

 

ジェレミー・レナーは、主人公の相棒。

たがいの人生の闇の部分まで知りつくした腐れ縁で、

あぶないヤマに手をだし、縺れあいながら破滅してゆく。

 

ベン・アフレックとの仕事は最高だった。

彼は自分も俳優だから、俳優が直面するであろう障害を、先にわかっているんだ。

それらを事前に取り払ってくれるんだよ。

 

映画プログラム

インタビュー・文:猿渡由紀

 

役者が尿意をこらえている様にみえたら休憩にするとか、

そういう気配りをアフレック監督はできるのだろう。

 

 

 

 

 

元締めポスルスウェイトの、表の職業は花屋さん。

剪定バサミの手つきがおそろしい。

そして、ふてぶてしい死にざま。

実人生でも、ことし一月二日に死去、享年六十四。

そのあつぱれな役者人生を、網膜に焼きつけた。

 

 

『ハート・ロッカー』では、激戦のイラクから生還したレナーだが、

本作では郵便ポストの脇で、みじめに蜂の巣となる。

だれに記念されることもなく。

なのに監督・主演者は、おめおめと逃げのびて不公平に感じるが、

おいしい役を同輩に譲つたともいえるか。

男の友情は、目立たない形であらわれるとき、一番うつくしい。


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折れた翼で ―― アジアカップ決勝 オーストラリア戦

 

AFCアジアカップ カタール2011 決勝 オーストラリア-日本

 

結果:0-1(延長戦後)

得点:109分 李忠成

会場:ハリーファ国際スタジアム

[テレビ観戦]

 

 

 

日本の優勝がきまつたとき、オレの心境は複雑だつた。

どちらかというと、悲しみの占有率が高い。

損耗が大きすぎたから。

 

 

グループステイジ・シリア戦では、松井大輔を。

 

 

準決勝・韓国戦では、香川真司をうしなつた。

「日本のデルピエロ」の負傷は、シーズンの残りを無にかえるほどで、

なぐさめの言葉も容易にみつからない。

日本代表は両翼をひきずり、ヨロヨロと決勝の舞台に這いのぼる。

 

 

右バックのルーク・ウィルクシャーが、手負いの鴉を猟銃でねらう。

オーストラリアの8番が、この試合の主役といえる。

 

 

臆せず敵地に陣取れば、日本の9番・岡崎慎司に空き家を襲われもする。

だがおしなべて、ウィルクシャーが優勢だつた。

 

 

アルベルト・ザッケローニ監督の手駒に、飛車角はない。

蒼い鴉は、もう飛べない。

盾として岩政大樹を投じ、ひたすら延命をはかる。

この策があたつたとサッカー通の間で評判だが、

今野泰幸が配置換えをこばんだ結果にすぎず、単なる偶然だ。

このチームに魔法使いはいない。

 

 

 

 

 

……ただひとりを除いて。

109分。

遠藤保仁が左の野原でピクニック。

 

 

急遽、左翼に転属となつた長友佑都は、この日も粉骨砕身のはたらき。

翻弄されるウィルクシャー。

豪州うまれの猟師の喉笛は、尖つた嘴で食いちぎられた。

 

 

デイヴィッド・カーニーを、三方から難詰する。

オーストラリア英語にくわしくないが、罵詈雑言をあびていると想像がつく。

「コアラの糞でも食つてろ!」とか。

 

 

 

戦果をあげた日本代表の監督と選手は、「成長」なる二文字を好んで口にする。

当方サッカーのシロウトだが、そんな美辞麗句を信ずるほどお人よしではない。

チームや選手は、成長しない。

ただ、浮き沈みがあるのみ。

「期待の若手」はおだてられ、セレブ気取りのウスノロになる。

「世界のナニガシ」は、傲慢さゆえ孤立し、チームを瓦解させる。

「名将」は、運を実力ととりちがえ、時代遅れの戦術で敗北をかさねる。

例をあげよう。

 

 

2007年、ベトナム。

アジアカップ準々決勝・オーストラリア戦。

手前の遠藤は、画像を捏造したわけではないので、信用されたい。

お気に入りの場所らしい。

 

 

世界の中村俊輔があげたボールを、高原直泰がきめて同点。

つづくPK戦は、「4-3」で日本が勝利した。

 

 

だれが「成長」したというのか。

あらぶる獅子のごときストライカーを缺く分、退化したくらいだ。

 

 

 

 

 

試合後に長友が、香川のジャージをかかげる。

鼻先で力闘をつづけた二十一歳の熱情を、よく知つているから。

うつくしい光景だ。

でも、どこか悲しい。

 

 

ザッケローニ監督の契約期間は、本人の希望をうけての「二年」。

単身赴任だそうで、ヨーロッパに帰る気は満々。

だからこそ雑巾をふりしぼる様に、チームのすべての力をフィールドにそそいだ。

ACミランやレアル・マドリーからオファーがくれば最高だし、

カタール代表監督として、いまの十倍の年棒をもらえるかもしれない。

無論、カタールでの仕事なんて暑いだけで最低だが、

すくなくともJFAとの契約延長の交渉で優位にたてる。

要するに、先のことはわからない。

 

 

……ただひとりを除いて。

ヤットだけは、荒波に飲まれることなく、フワフワ漂いつづけるはず。


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ジャンル : スポーツ

BOØWY『Marionette』

 

Marionette -マリオネット-

 

BOØWYの六枚目のシングル

 

作詞:氷室京介

作曲:布袋寅泰

発行:東芝EMI(イーストワールド) 1987年

 

 

 

オレはガキのころからロック一筋、なんて嘘をついてもバレなかろうが、

小学生のときにBOØWYは解散したので、リアルタイムでは知らない。

当時あこがれていたのは、中森明菜だ。

 

 

このバンドは、いま聞いても最高か?

後進に影響を与えすぎたせいか、音は錆ついて響く。

髪型や衣裳は恥づかしいし、氷室京介による歌詞は陳腐だ。

 

 

だがヴォーカリストのうつくしさは、時代をこえている。

いわゆるヴィジュアル系の始祖のひとりだが、

オカマ臭いフォロワーたちとは一線も二線も画す。

身長190cmの布袋寅泰ですら、数々の武勇伝をもつ氷室に恐れをなし、

バンド加入の申し出をことわれなかつた。

鏡を最良の友とするナルシストだが、数秒後にはそれを叩き割りそう。

前のめりの硬質なビートに、尖つた言葉をのせて射ち出す。

 

 

作曲と編曲は、ひとつ下の布袋寅泰による。

導入部のギターのリフが有名だが、これはサビの旋律そのまま。

あきれるほど素朴な構造をもつ曲だ。

 

 

いま聞くと、松井恒松(のちに常松と改名)が演奏の核だつたとわかる。

猛獣の首根つこをつかみ、地に捩じ伏せる様にベースをかかえ、

ひたすら黙々とダウンピッキングをつづける。

手負いの虎の唸り声を背後に聞き、バンドは速度をあげる。

 

 

だからニャンなのさ。

絶頂期に解散する潔さが、かれらを伝説のバンドにした。

その歴史をひもとくのは、もつれた糸を断ち切る様に簡単ではない。

オマエにBOØWYをかたる資格があんのか、と言われるのがオチ。

しかし、まだ奥の手があるんだニャー。

 

 

 

 

 

ユーチューブには、総数はとても確認できないほど多量の、

『Marionette』のカヴァーがアップロードされている。

夜更しして百種類くらい聞いたが、価値あるものは皆無にひとしい。

氷室布袋による再演ですら、そうなのだから!

二十年以上ギターをつづければ、アマチュアだつて上手になる。

しかし『Marionette』は、演奏者に技術をもとめない。

それは魂の問題だ。

女房や子供を食わせるため日々労働にいそしむ中年男が、

「自分のために踊りな」とか、哀れで身につまされるだけ。

 

 

こちらのTEJ0221氏は中学三年生。

ほそい!

オレもこの頃は、毎日ポテチを食つてもガリガリだつたな。

たしかにオッサンギタリストとくらべるとヘタだが、

かれの魅力は、Aメロでのリズムの刻みにある。

CDからひびく松井の低音に煽られ、つんのめる。

つまづき、足がもつれても、前傾姿勢をやめない。

わかるぜ、ロックにかけるその思い。

 

ジョン・テニエルによるジャバウォック

 

全世界が、敵にみえる。

教師には、殺意以外の感情をおぼえない。

趣味のあう友人は好きだが、自分が特別であると認めないのが不満。

父は、世界一ちつぽけな権力をもてあそぶ、世界一滑稽な独裁者だ。

母は、ヒステリックで不幸なケダモノ。

わかい女は、売女か豚のどちらか。

子供じみた偏見?

かもしれない。

なら、真実つてヤツをおしえてくれよ。

どうせアンタもオレも、鏡の世界にとらわれた囚人なのだから、

気分のままに踊るしかないだろ?

 

 

 

『Marionette』。

それは鏡の国に解き放たれた、ナンセンスの怪物ジャバウォック。

あらたな卵がいま、そこで、孵化しようとしている。


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