「ウフィツィ美術館自画像コレクション」

ウフィツィ美術館自画像コレクション

巨匠たちの「秘めた素顔」1664-2010

 

東京展・会場:損保ジャパン東郷青児美術館

会期:平成二十二年九月十一日~十一月十四日

 

 

 

集めも集めたり、フィレンツェのウフィツィ美術館には、

千七百点をこえる自画像のコレクションがある!

その一部を新宿で見せてもらつた次第だが、

画家が画家をえがくという、息づまる密室劇に胸がさわいだ。

 

 

 

 

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『自画像』(一六五五年頃)

 

レンブラントによるレンブラントは、どうしようもなくレンブラントだ。

荒々しくもみえる筆触のなか、まるで幽霊の様に、

それでいて瞭然と、画家の表情がうかぶ緻密な構成。

一六五五年頃といえば、死の四年まえ、ちやうど彼が破産した時分だ。

身代を棒にふることを恐れているのか。

すでに無一文になり、絶望しているのか。

それとも財産や名声など関係なく、ただ自分自身をみつめるのか。

いづれにせよ、巨匠の視線はこの上なく厳しい。

レンブラントですら破産するのだから、画家になどなるものではない。

 

 

 

 

 

アンニーバレ・カラッチ『イーゼル上の自画像』(一六〇三~〇四年頃)

 

うすぐらいアトリエ。

イーゼルに置かれたちいさなカンヴァスに、四分の三正面の画家の像がある。

ぶらさがるパレットには、絵具が乾いてこびりついている。

完成したばかりの作品ではないらしい。

このいりくんだ自画像は、四十四歳ごろの作だとか。

当時ローマの画壇は、大胆不敵な天才カラヴァッジョに席巻され、

時代遅れとなつたカラッチは引け目を感じていた。

肖像は四十代の男に見えないから、画家は自身をえがくにあたり、

ふるい自画像を持ちだしたのかもしれない。

鬱屈している。

 

 

 

 

マリー=ルイーズ=エリザベート・ヴィジェ=ル・ブラン
『マリー・アントワネットの肖像を描くヴィジェ=ル・ブラン』(一七九〇年)

 

女の自画像は、華やかでよい。

ヴィジェ=ル・ブランは、フランス王妃マリー・アントワネットに寵愛され、

彼女の肖像を二十点以上ものしている。

瑞々しい面持ちの女流画家が、絵筆を片手に注文主を観察する。

奇抜な衣装も、見ていてたのしい。

しかし実はこの作品、フランス革命の真つただ中、亡命先のイタリアでかいたもの。

囚われたとはいえ、王妃が処刑されるなど夢にもおもわなかつた。

肖像画の新作をかきたいという願いは、裏切られた。

身分はちがえど、うつくしいものを愛する同い年の女として、

ふたりは友情をはぐくんでいたらしい。

 

 

 

 

エリザベート・シャプラン『緑の傘を手にした自画像』(一九〇八年頃)

 

エリザベート・シャプランはフランスにうまれ、イタリアでまなんだ画家。

こちらは革命さわぎに巻きこまれたのではなく、

父の仕事の都合による移住であり、平和なものだ。

十七歳のシャプランが、雨雲をとおした弱い光のもと、

すこし憂鬱そうに、目線を絵を見るものと共有する。

彼女は「マッキアイオーリ」の影響をうけた画家だ。

印象主義に似ているが、むしろそれ以上に豊潤な魅力をもつ運動。

自画像という主題に、虚心に自然光の効果をとりこみ、

世界を、より深みをました色彩でたちあげる。

しかし少女の知的な瞳には、革命の季節のつぎに到来する、

戦争の世紀がうつると書いたら、深読みにすぎるだろうか。


関連記事

テーマ : 絵画
ジャンル : 学問・文化・芸術

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
10 | 2010/11 | 12
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
月別アーカイヴ
12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03