『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』

 

ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ

Nowhere Boy

 

出演:アーロン・ジョンソン クリスティン・スコット・トーマス アンヌ=マリー・ダフ

監督:サム・テイラー=ウッド

制作:イギリス・カナダ 二〇〇九年

[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]

 

 

 

ジョン・レノンの母であることは、楽な仕事ではない。

ドイツ空軍の爆撃による痛手から、いまだ立ち直れない、五十年代のリヴァプール。

ビートルズ誕生以前の、この港町を舞台とする物語。

 

 

ジョンの生い立ちはすこし複雑で、生母ジュリアから引き離され、

伯母であるミミによつて育てられた。

そこは愛情にとむ中流家庭で、とりたて不幸だつたわけではないが、

繊細すぎる少年の精神が、屈折しても無理はない。

ミミは妹の子をひきとるくらいだから、犠牲心のつよい人物であり、

過保護な教育方針をふくめ、性格の面でもソリはあわなかつたろう。

 

 

十六歳のとき、行方をしらなかつたジュリアと再会。

まるで恋人同士の様に、腕をくんでボードウォークであそぶ。

彼女は姉とことなり、恋と音楽にいきる奔放な女で、

実の親子だけに通じる共感を、ジョンはおぼえたはずだ。

ギターを手にする前の息子に、バンジョーの弾きかたもおしえる。

でも人生は、砂糖菓子みたいに甘くない。

ジュリアには、支えを必要とする少年を支える力がなかつた。

 

 

 

 

 

どうしようもなく甘つたれで、人には全幅の愛を要求し、

すこしでも冷たくされると傷つき、ヘソをまげてしまう。

そのくせ街で一番誇りたかく、十二歳で自分は天才だと確信した夢想家で、

いつか世界をひつくり返してやると、なんの根拠もなく企んでいた。

 

 

それでも保護者に泣きつかないと、ギター一本買うことすらできない。

ジョン・レノンも人の子だという当然の事実が、やけに心にしみる。

 

 

「クオリーメン」をひきいて活動していた、ある七月に、

見てくれはダサいが、音楽のことならなんでも知つている男とであう。

ポール・マッカートニー。

傷だらけの心と、左ききの友人を両翼にして、ついにジョン・レノンは羽ばたいた。

 

 

 

 

 

ポールは十四歳のとき、乳癌で母をうしなつており、

悲しみがふたりの天才をより結びつけたと言われている。

ジョンによる、「ジュリア」や「マザー」。

ポールによる、「レット・イット・ビー」。

母がいないという孤独は、ボクがおもう以上に、

ビートルズ周辺の音楽に影をさしているらしい。

 

 

一九五八年七月十五日、生母ジュリアは車にはねられて死ぬ。

ロックンロールを愛した彼女は、「ビートルズ」を見ることはできなかつた。

このバンドは、どこか哀調をおびている。

ジョンは自分の人生でも、生命のはかなさを表現してしまつたが、

元不良少年による、最後の抗弁だつたのだろうか。


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