サムライとは ―― 『半次郎』

 

半次郎

 

出演:榎木孝明 AKIRA 白石美帆 津田寛治

監督:五十嵐匠

制作:日本 平成二十二年

[シネマート六本木で鑑賞]

 

 

 

ブログで映画のレビューを書くとき、予告篇を貼りつける風習があるが、

いままで真似しようとおもわなかつた。

動画をみる方がはやいなら、文章を書く意義はない。

なにかを書くことは、一対一のたたかいだ。

題材が名作であればあるほど、書き手の力量がためされ、

それを上回る文章をかく義務が生じる。

できないなら、沈黙した方がよい。

しかし本作『半次郎』には、どうしても言語化しえない部分があつた。

 

 

中村半次郎、のちの陸軍少将・桐野利秋が、示現流の演武をする。

柞の木刀をつきあげ、脳天からでた様な声で大喊。

あえてカタカナでしるすなら、「ケーッ」か。

たしか司馬遼太郎がそう書いていた。

掛け声としては「エイ」だが、はげしすぎて言葉をなさない。

いささか滑稽ではある。

だがそれが一撃必殺の剣法の型としれば、笑いもひきつる。

切先が天をむくのは、斬撃の威力を最大にたかめるため。

防御は一切しない。

雲耀のごとく先手をうばい、受太刀もろとも切り捨てる。

薩摩にうまれ、古武術をおさめたという榎木孝明のほかに、

だれがこの役を演じきれたろうか。

 

 

 

 

 

血をまぜた泥流が西海道の山肌をあらう。

その損耗のすさまじさにおいて、西南戦争はきわだつている。

おもだつた薩軍幹部はみな、戦死または自刃して果てた。

 

 

左の赤い髪が、広島光が演ずる辺見十郎太だが、

作中での活躍は期待したほどではない。

辺見は薬丸自顕流にまなんだ、身の丈六尺の偉丈夫で、

四尺あまりの野太刀をふるい、昼夜問わず八面六臂の奮闘をみせたのに。

戦争映画ではなく、伝記映画なのか。

 

 

白石美帆は京の町娘に扮し、半次郎と懇ろになる。

極貧にたえた実方の「イモ侍」の時代から、風雲急をつげる京の日々をすぎ、

功なり少将閣下とよばれる栄達にいたる生涯を、女の目から一本の糸につむぐ。

だけど、京言葉がどうもねえ。

常州うまれの白石に、みやびな抑揚をならう時間は足りなかつた。

田畑智子にやらせたらと思うと、ひたすら惜しい。

企画者である榎木孝明の、サムライの魂を蘇らせんとする情熱は買うが、

結局「歴史もの」は、歴史オタクに重箱の隅をつつかれて終りがちで、

本作もその弊をまぬがれてはいない。

 

 

 

 

桐野は負けると知りつつ、大義のために挙兵した。

そう言いたげな映画だが、三島由紀夫の崇拝者の様に弁解がましい。

連中は頭が悪いから、負けただけだ。

熊本城には少数の抑えをおき、小倉を一挙に落せばよかつた。

しかし、チンダイ兵など鎧袖一触して蹴散らせるという驕りが、

稚拙な戦略をえらばせ、全軍を惨敗にみちびいた。

小倉を攻めれば勝てたわけでもないが、戦域はグンとひろがり、

さしづめ南北戦争ならぬ東西戦争とでも呼称されたはず。

 

 

総司令官をつとめ言動は不如意となり、どこか精彩を欠く桐野にかわり、

従弟の別府晋介が、薩摩のボッケモンらしさを体現する。

演じるのは津田寛治。

 

 

官軍に包囲された城山で、晋どんは西郷隆盛の介錯をした。

神のごとく崇める巨人を、おのが手であやめるという絶望感。

天をあおぎ、桜島をゆるがすほど激しく咆哮する。

だがそれは、名誉ある務めでもある。

西南の役なかりせば、別府景長晋介など、歴史に名を残さなかつたろう。

その魂が平成の役者の体をかりて、あらあらしく吼える。

やはりサムライとは偉いもの、と慨嘆せざるをえない。


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