エンジェルの系譜 ―― 遠藤保仁『明日やろうはバカヤロー』

 

明日やろうはバカヤロー

 

著者:遠藤保仁 高村美砂

発行:日本スポーツ企画出版社 平成二十二年

 

 

 

左から、拓哉十二歳、保仁六歳、彰弘十歳。

桜島町立桜州小学校のマラソン大会の歴代記録は、

一年から六年まで、すべて遠藤家が独占していたとか。

長兄拓哉は、鹿児島実業高校にはいり「選手権」に出場した。

次兄彰弘は、プロとして横浜マリノスと契約、

背番号10をつけてアトランタオリンピックに出場し、ブラジルをたおした。

すこし年のはなれた三男坊にかかる重圧は相当だが、

当人はどこふく風、一家の最優秀選手賞を獲得した。

動じない性格は桜島の風土がはぐくんだと、ヤット自身がみとめている。

鹿実にはフェリーで通学したが、海が荒れると欠航になり、学校は休み。

人生は、風まかせ。

窓から火山灰をながめつつ、殺人的なシゴキの疲労をいやしたろう。

 

 

 

『週刊サッカーダイジェスト』に約半年連載された、

聞き書きのコラムをまとめただけの軽い本だが、

それでも遠藤の不易流行の哲学を、行間から感じとれる。

たとえば。

ペナルティキックを二度止められた立石智紀を、相性が悪いとおもわない。

サッカーでは、まつたく同様な状況は再現されないから、

ゴールキーパーがおなじだけで、相性をかたるのは無理がある。

はたまた。

サッカーとは「チーム」という括りのなか、各人のイメージを融合させる競技。

その過程で勝てなくて焦り、自分のプレースタイルをかえるのは「ひとりよがり」だ。

個人としてもチームとしても、結果自体に固執しない方がよい。

言説は、するどく正鵠をうがつ。

ただのガチャピンに似たお人よしではない。

 

日常生活ではほとんど怒らない僕だけど、サッカーになると話は別よ。

相手にボールを取られたら、全力で取り返しに行くし、

ラフプレーに対して怒りを露わにすることもある。

『やられたら、やり返す』じゃないけど、勝負の世界では

善と悪がハッキリしているんだから、『悪』には立ち向かって当然でしょ?

 

泰然たる山のしたで、沸々と煮えたぎる溶岩。

「正義」のために闘うサッカー選手など、ほかにいるか?

 

 

 

 

 

イヴィツァ・オシムが日本代表監督について間もないころ、

遠藤に「オマエは走る量がすくなすぎる。もつと走れ」と命じた。

統計資料などの客観的な根拠にもとづく発言というより、

遠藤をかえることで、チームの進化をうながす意図があつたらしい。

すくなくとも、ヤットはそう推察する。

ガチャピンですら手の内をはかりかねる、食えないジイサンだが、

7番はのちに、数値としてもチーム最長の走行距離をはじく様になつた。

比較的仲のよい、中村俊輔との違いについて。

 

シドニー・オリンピックの時は同部屋だったんだけど、シュンって基本、

試合を振り返って反省したり、考えたりするのが好きなタイプだからね。

シュンはよく「あの場面は、こっちの選択のほうが良かったかな~」

とか言ってたけど、それに対して僕は、

基本的に終わったことは深く考えないタイプ(笑)。

 

性格でサッカー選手の優劣はつけられないが、

南アフリカ大会で、ヤットの平常心が功を奏したのは明らか。

病にたおれたオシムの代役である岡田武史が、

大会直前に方針をくつがえしたことをうけ、

スイスでの合宿中、選手だけでひらいたミーティングでは、

守備を重視する戦術の是非をめぐり、はげしい議論がなされた。

勿論、ヤットは神学論争に関心をもたない。

ボールをうばう位置を二十メートル下げたからつて、

「相手に走り勝つ」という目標に変りはないから。

遠藤保仁。

桜島がうみ、オシムが完成させた、ポーカーフェイスの天使。

 

 

 

 

 

単行本に収録する対談の相手に、遠藤は岩渕真奈を指名した。

シャビやイニエスタでなく、十七歳のドリブラーを大阪まで呼びつけたのは、

自分の同族、すずやかな佇まいの陰でマグマをたぎらせるサッカー選手が、

かれの知るかぎり、ひとりしかいないからだ。

 

 

日曜、ぶっちーを見に麻溝公園競技場にでかけた。

世界一のストライカーをめざすと公言する少女は、

片田舎の工事中のスタジアムで、椅子に腰かけていた。

あのクレーンがたおれて、森カントクの頭にあたればよいのに!

ボクのなかで悪魔がささやく。

60分、天使は降臨。

残暑のこもるフィールドに電撃がはしり、同輩の血相がかわる。

ハイエナの群れが、手負いの獲物にくらいつく。

エンジェルというより、いさましきヴァルキリーのごとくヴァルハラを駆けめぐり、

やがて戦乙女は、天の意思を民草にことづけた。

 

なでしこリーグ 第10節 日テレ・ベレーザ-ASエルフェン狭山FC

結果:3-0 (2-0)

得点:5分 伊藤香菜子 45分 須藤安紀子 90+2分 大野忍

会場:相模原麻溝公園競技場

[現地観戦]

 

ぶっちー情報は、掲示板「岩渕真奈 閃光の天使」でも紹介しています。



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(2010/09/02)
遠藤 保仁

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