パラレルワールド

 

相対性理論『ミス・パラレルワールド』のPVから

 

 

 

両親および弟と同乗し、東北自動車道を北上した。

母方の祖母の一周忌に参列するために。

往路だけで優に七時間かかるが、一度もハンドルにふれなかつた。

かつて日本政府はボクの運転能力を評価し、

免許證を発行したのに、疑りぶかい家族のおかげで楽ができる。

奥州でのみじかい滞在のあいだ、おもしろい話もすこし聞けた。

年忌は慶事でこそないが、生を全うしえた死者を、人はあかるい気分でかたる。

祖母の入院中、医師が脳の状態のよさに感嘆した。

研究のため、もしその時がきたら、なきがらを検体にまわしたいと依頼される。

遺族には六百万円がしはらわれる、という。

わるくない話によろこんだ叔母が医師に確認したところ、

それは完全に妄想だとわかつた。

だれだつて、脳の機能が低下するのはおそろしい。

対処のしようがない。

世界の崩壊をふせぐには、自分にウソをつくしかない。

祖母の名誉のため書いておくけれど、臓腑が病巣におかされ、

ベッドに横たわることすら苦痛でうずくまつていた最期の日々でも、

極一部の発言はのぞき、彼女の分別は明晰なままだつた。

 

 

 

東京にもどる幹線道路で、戦場とみまがうほど、

陸上自衛隊の装甲車が列をなし、迷彩柄をみせびらかす。

世捨て人の様な日常をおくるボクはしらなかつたが、

日支両国の政府が、ひどく神経を尖らせているらしい。

ボクは、栗のソフトクリームをなめつつ、

戦争またはクーデター前夜の空気をあじわつた。

翻訳家の伏見威蕃が、騒動についてブログで講釈する。

 

ところで、今回の船長解放騒動だが、これは外交上の敗北などではありえない。

むしろ逆で、恥をかいたのは中国のほうだろう。

首相という地位にある人間が、雑魚である漁船船長の解放を「要求」し、

こちらが地方の官憲レベルでそれに応じたという構図を考えてみるといい。

首相の「要求」というのは、国家レベルの視点で考えるなら、「懇願」にひとしい。

アメリカ大統領ならそんなことをするだろうか? ありえない。

 

『本と音楽と翻訳 by 伏見威蕃』

 

そして、「物事はつねに裏からも眺めるべきだ」と。

ちなみに、ウインカーの出しかたを忘れたボクの政治信条は、ど真ん中の王道。

ネット右翼などとちがい、愛国心などカケラももたない。

開戦したら、自分および縁者の生命と財産をまもることを優先し、

あとはひたすら逃げまわるつもりだ。

しかし愛国者を自称するネトウヨは、いまごろ竹槍をしごきながら、

人民解放軍をむかえうつ支度に余念がないはず。

 

 

 

助手席のボクは、DJの役を志願した。

相対性理論の『シンクロニシティーン』をかける。

人を食つた歌詞は、事故をおこさない程度に、

息子と冷戦状態にある父の神経を逆撫でした。

 

 

ひみつの組織が来て

8時のニュースが大変

都会に危機がせまる

巨大な危機がせまる

 

相対性理論『ミス・パラレルワールド』

作詞:真部脩一 ティカ・α

 

「秘密」でなく「ひみつ」なのが、まるえつ流。

やくしまるえつこは素つ頓狂な声で、

「東京都心は、パラレルばられるパラレルぱられるワ~ルド♪」と口ずさみ、

聞きての脳髄を攪拌し、平行世界のリアリティを礼讃する。

まるえつは哲学者だ。

世界なんて妄想にすぎないと知つている。

肉体とか、民族の誇りとか、守りたいものが多すぎて、

あまりにウソをつきすぎて、悲しみを噛みしめながら、

ボクらは今夜も夢のなかのハイウェイを疾走する。


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「カポディモンテ美術館展」

パルミジャニーノ『貴婦人の肖像(アンテア)』(一五三五~三七年)

 

ナポリ・宮廷と美

カポディモンテ美術館展―ルネサンスからバロックまで―

 

東京展・会場:国立西洋美術館

会期:平成二十二年六月二十六日~九月二十六日

 

 

 

貂の毛皮が、右の肩をあたためる。

 

 

指にかけているのは、貂の鼻にとおした鎖。

ちいさくとも鋭い牙が、持ち主の高い身分を暗にしめす。

視線を一度分、上にあげよう。

 

 

左手は、金のながいネックレスにそつと絡まる。

アヌラーレ(薬指)でなく、ミンニョロ(小指)にルビー。

 

 

 

髪留めは紅玉と、それにしだれる真珠だが、

雪花石膏のごとき肌と見くらべられ、いささか損な役まわりだ。

むしろ二重にめぐらされた編み髪が、

どんな宝石よりも端麗に、顔をひきたたせている。

かぞえきれないほどのリングが、そこにある。

 

 

 

 

 

ホイールをまわし冒頭にもどるのも億劫でせうから、

パルマの淑女に再登場ねがいました。

アンテアは実は、正面をむいていない。

貂にみちびかれ右肩がせり出し、左側はかすかに闇にしづむ。

反時計まわりに、総身が円環をえがく。

美術史をふまえていうと、画家パルミジャニーノは、

ルネサンスの息苦しいプロポーションの規範からはなれ、

マニエリスムの流儀を物にしようと精励していた。

いまさら誰が、レオナルドやラファエロの様な肖像画をかけるだろう。

でも、わたしにしか描けない絵だつてあるはずだ!

三十二歳の藝術家の情炎が、カンヴァスにこもつている。

ちなみに女の正体は、いまだ謎のまま。

「アンテア」とは世にしられた高級娼婦の名だが、證拠はない。

地位ある人間、特にそのわかやぎから花嫁とも推測されるが、

そもそもモデルなどいない可能性もある。

ひとつだけ確かなのは、がんじがらめに身をしばる、

幾重もの鎖の重みにたえながら、そこから一歩踏み出すという素志を、

女と画家と鑑賞者のあいだで共有できること。

 

 

 

 

フセペ・デ・リベーラ『悔悛するマグダラのマリア』(一六一八~二三年)

 

リベーラはスペインうまれだが、おもにナポリで活動した画家。

殺人をおかして逃亡中のカラヴァッジョも、かの町に滞在しており、

マリアの横顔の極端な明暗法に、直接間接の影響をみてとれる。

この暗くて小さな油彩画(78×71cm)は、個人的な祈祷のために描かれたらしい。

注文主は、女だとおもつた。

されこうべと向いあい、おのれの罪をきびしく責めるマリア。

財産ある女は人目につかない部屋で、夜ごと険しい面持ちをみて畏服し、

みじかくない生涯でおかした過ちを、ひとつづつ思いだしたろう。

人の一生は円環をなし、孤独な寝室の闇にとけてゆく。

 

 

 

 

 

フィレンツェのトスカーナ大公の工房による小箱(十七世紀第四四半世紀)


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ロクロイチ『くちびるに透けたオレンジ』

 

くちびるに透けたオレンジ

 

作者:ロクロイチ

発行:一迅社 平成二十二年

[百合姫コミックス]

 

 

 

ある山村に、東京の高校二年生が越してくる。

 

 

虹彩まで色素を拭いさつた様な、その少女の名は「叶」。

当然、派手な連中に合流するとおもわれたが――

 

 

――クラスでもつとも地味な集団にくわわつた。

右下のコマで卵焼きを口からおとしたのが、「千鶴」。

このみじかい物語は、彼女のパースペクティブでえがかれる。

 

 

駅ビルによつたり、パフェ屋さんによつたり、

放課後が千鶴の暮らしのすべてとなつた。

まぶしすぎて、叶の顔を直視することさえできないが、

服や鞄や化粧品やアクセサリー、あらゆる彼女の持ち物を、

当人には内緒にして身のまわりにそろえる。

オレンジ色のリップをためしたとき、自分の心が修復不可能なほど、

叶の色調で塗りかえられたことに気づく。

 

 

 

 

 

陽のかたむいた山麓をあるく。

単色に塗りつぶされる風景。

浸食される感情。

 

 

茶色のカラーコンタクトは、橙にみえる。

「おいしそう」

目のプリズムをとおして、欲望が屈折する。

錯覚は――

 

 

――沈黙にかわる。

 

 

千鶴の家で。

かくしていたオレンジのリップを見咎められる。

へたな弁明は、沈黙より苦痛がおほきい。

鑓となつて心臓をつらぬく、グレーの瞳。

世界がこなごなに砕け散るとおもわれたその刹那、

自分がみていたのが、あわせ鏡にうつる像だと知つた。

 

 

視線をかわす必要もないほど、ちかづいたふたり。

それぞれの唇の色で、たがいを染める。

ようやく見出された、欲望のレンズの焦点距離。

その網膜にうつるのが虚像だとしても、ただ慈しみあう。

 





ロクロイチ『女の子×女の子コレクション』第一巻



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シュシュを歌う

 

 

 

 

人混みが苦手なオレは、新宿にゆくにも十円高い私鉄に乗るほどで、

頭数だけがウリのアイドルグループには、生理的嫌悪をおぼえる。

Perfumeすら、人員削減の余地があると密かにおもつていた。

あ~ちゃんゴメン……。

そもそも秋元康と、彼の属する文化が、鼻持ちならない。

何十年たつても削減できない体脂肪、いかにも権威に弱そうな言動、

自身がてがける商品の主要購買層である庶民を、

心底から軽侮しているのは明白な、眼鏡の奥の冷たい瞳。

アキモトを倒さねばオレが世に出ることはない、とすら思える仮想敵であり、

神田だか御茶ノ水だかでアイドルグループを発足させたと聞いたときは、

その時代錯誤ぶりを嘲笑し、これでヤツも終りだと快哉をさけんだ。

しかし一発逆転、アキモトはますます肥え太りだす。

 

 

 

 

 

ボクサーむきの頑丈そうなアゴをもつ、前田敦子。

水色のシュシュでたばねたポーニーテールをいじる。

たしかに旬のアイドルだけがもつ華があり、ステキだと認めてもかまわない。

しかし、五十万枚以上売り上げたこの曲の、

歌詞のトンチンカンさに気づいた人はいるのだろうか?

 

ポニーテール(ほどかないで)

変わらずに

君は君で(僕は僕で)

走るだけ

ポニーテール(ほどかないで)

いつまでも

はしゃいでいる 君は少女のままで

 

『ポニーテールとシュシュ』

作詞:秋元康

 

ポニーテールを馬の尾にたとえる、まことに秀逸な比喩をもちい、

遠くから後ろ姿にあこがれる少年の淡い恋情を、

当の少女の口から歌わせる、いりくんだ趣向をこらす。

作詞家・秋元康、四十年の職歴は伊達ではない。

 

 

グアムの陽光に照り映える下顎骨。

それにしても、この歌詞は無意味だ。

歌うものも、聞くものも、だれも歌の世界を意識していない。

女の大群が飛び跳ねている、ただそれだけだ!

 

 

 

この夏に活躍したシュシュなる装身具も、理解にくるしむ。

便座カバーみたいにモコモコした外観はともかく、

いちいち外して、手首にまいて見せびらかすのが目障り。

しばるのか、しばらないのか、ハッキリしてほしい。

 

 

女児のアイドル、『ハートキャッチプリキュア!』のふたり。

ことしの二月、すでにシュシュは歌われていた。

 

 

イメチェンだって 大成功!(Yes!)

シュシュに フリル チュニックで

乙女チックに はじまる ショータイム!

 

「ハートキャッチ☆パラダイス」

(アニメ『ハートキャッチプリキュア!』エンディング曲)

作詞:六ツ見純代

 

 

やつぱシュシュつてカワイイし、一応おさえとかないとね!

そんで、デニムにこのチュニックをあわせて、それから靴は……。

胸のワードローブを掻き混ぜて、けふもはじまる私だけのファッションショー。

歌声から、映像から、そしてなにより歌詞の世界から、

乙女心のウキウキが、AKB48の四十八兆倍つたわる。

ここには、ウソやゴマカシがない。

 

 

 

 

 

残念ながら前田敦子は、第二回「選抜総選挙」で王座をうしなつたが、

身長百六十八センチの篠田麻里子は、悠然と三位をまもつた。

顔か体か歌かダンスに自信をもつ女ばかりの集団で、

生存競争に晒されている様にはみえぬ、浮世離れした二十四歳だ。

 

 

そびえたつ長身痩躯。

朱にまじわれども染まらない、高貴なる微笑。

ポニーテールやシュシュが、何ほどのことか。

真の麗人は、あまりにうつくしすぎて正視にたえず、

その髪や服など、男の記憶にかすかな痕跡さえとどめない。

オレたちは膝をつき、視線をおとし、ただ永遠の忠誠を誓うのみ。

いつ竣工するとも知れぬ「スカイツリー」のかわりに、

篠田麻里子が、「新・東京タワー」として世界を睥睨している。


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片翼の堕天使・ダークプリキュア

 

『ハートキャッチプリキュア!』 第十話

 

出演:水樹奈々 水沢史絵 高山みなみ 久川綾

脚本:米村正二

演出:長峯達也

作画監督:馬越嘉彦

アニメーション制作:東映アニメーション

放送:ABC・テレビ朝日系列 平成二十二年四月十一日

 

 

 

プリキュアを名乗りながら、プリキュアに矛をむけるもの。

片翼、閉じられたままの右目、左のみの手套。

 

 

全身を非対称性が支配するが、そこには完璧な様式美がある。

裏地は、鮮血のごとき深紅。

寡黙なダークプリキュアは、その風貌が存在意義を代弁する。

いびつな物こそ、何よりうつくしいのだと。

 

 

 

 

 

妖精のシプレとコフレをかどわかし、プリキュアを罠にさそう。

 

 

卑劣な敵に対し、勇敢にたたかうキュアマリン。

 

 

合体技の「フローラルパワー・フォルテッシモ」を撃ちこむ。

片翼を盾とするが、花の生命力の勢威に、さしものダークプリキュアも後ずさりする。

 

 

平素はかくしている、まがまがしい黄金の瞳。

 

 

かすかに瞼を持ちあげただけで、爆発的な魔力が解き放たれる。

 

 

一撃で無力化された、つぼみとえりか。

心技体のすべてにおいて、力の差は隔絶している。

 

 

 

 

 

ダークプリキュアの因縁の宿敵、月影ゆりが出した助け舟のおかげで、

かろうじてトドメを刺されるのはまぬがれた。

 

 

しかし希望ヶ花の住民は、安心できそうにない。

とても伝説の戦士にみえぬ、ノンキなふたりの女子中学生に、

町の、そして世界の運命を託してよいのかと。

 

 

ふたりの他にも盟友はいる。

言動に矛盾のおほい、キュアサンシャインこと明堂院いつき。

美人だが陰気な、キュアムーンライトこと月影ゆり。

だがキュアムーンライトさえ、あつけなく片翼の堕天使に敗れたのではなかつたか。

こだかい丘によせる海風に、不吉な予感の微粒子がまじる。

 

 

おそらくダークプリキュアには、秘めたる弱みがあるのだろう。

いびつで完璧な美という假面に、いつか亀裂がはしるとき、

どれほどの怒りが世界を揺るがすかとおもうと、戦慄が脊髄をかけおりてゆく。





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任天堂の世界戦略

 

 

 

 

 

任天堂が「スーパーマリオ25周年キャンペーン」をはじめたとかで、

公式サイトでテレビCMをみたら、そこに見覚えのある少年がいた。

いくつか食い違いはあるけれど、カレはボクだ。

飲みものを用意して、テレビの前にすわるカレ、またはボク。

 

 

カセットをいれる空き箱。

色や汚れ具合をみれば、ラベルなど見ないでソフトを判別できた。

 

 

主婦むけの番組など一顧だにせず、2チャンネルをえらぶ。

「RF接続」時代の風習だ。

有名なネット掲示板の名称の由来かもしれない。

このチャンネルが、世界のすべてだつた。

 

 

接触をよくしようと、息をふきかける少年。

たのしい数時間をすごすための、まじないでもある。

おもえばボクのはじめてのキスの相手は、ファミコンのカセットか。

いまだゲームより魅力的な恋人を見つけられないから、

成長のなさに我ながら呆れるばかり。

 

 

プラスチックがきしむ音!

任天堂株式会社が保有する最良の資産は、少年少女の記憶だ。

やすつぽい摩擦音ひとつで、ボクらの脳は、

宙にうくブロックみたいに無数のコインを噴出する。

 

 

京都の老舗は、ぼろい商売をしている。

決して目減りすることのない元手があるのだから、

世界一のバカが経営しても、倒産することはない。

 

 

 

 

 

ただ、さつきのカセットの箱を熟視しよう。

『アイスクライマー』『バルーンファイト』『エキサイトバイク』などの傑作群。

任天堂だけの小宇宙。

実にあの会社らしいCMだ!

ナムコやハドソンなど、まるで視野にはいらない。

今世紀でも彼らはそうだ。

任天堂のハードに、任天堂のソフトを装着すれば、みんなハッピー。

だつて、ウチよりおもしろいゲームをどこが作れます?

モチロン、独占禁止法とかで訴えられても困るので、

どうしてもこのハードで出したいなら、あえて拒否はしませんが。

でも娯楽の世界は苛酷ですから、

率直に言いますけど、商売がえをオススメしますよ。

 

 

11月20日位にオイラがデザインした3DS用商品が一斉に11商品発売されます。

3DS買う人は同時に買ってねー!

その内ホームページでも公開予定。

ってもう関係ないんだけどねwよろしくでーす。

http://www.keysfactory.co.jp/index.html

 

天野剛寛氏の、ツイッターでの発言(アカウントは削除ずみ)

 

ゲームの周辺器具などを販売する、静岡市のキーズファクトリーの元社員が、

十二日にツイッターでもらした、「ニンテンドー3DS」の発売日と推察できる情報。

失礼ながら末端のさらに末端、ゲーム業界の一員ともいえぬ小者が、

世界でもつとも知られた企業のひとつである任天堂の、

数年かけて練りあげた戦略の要石を、やすやすと一蹴した!

これまた、任天堂らしい。

独善的な社風が取引先に伝播して、水面下の軋轢をうみ、

斯様な不面目の火種となつたとしても、おかしくない。

それでも任天堂は、かわらないだろう。

「やはりヨソは信用できない」と、秘密主義という弾幕を、

以前よりもくまなく画面に敷きつめるだけ。

そして無限1UPでえた残機がつきるまで、世界を撹乱しつづける。


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エンジェルの系譜 ―― 遠藤保仁『明日やろうはバカヤロー』

 

明日やろうはバカヤロー

 

著者:遠藤保仁 高村美砂

発行:日本スポーツ企画出版社 平成二十二年

 

 

 

左から、拓哉十二歳、保仁六歳、彰弘十歳。

桜島町立桜州小学校のマラソン大会の歴代記録は、

一年から六年まで、すべて遠藤家が独占していたとか。

長兄拓哉は、鹿児島実業高校にはいり「選手権」に出場した。

次兄彰弘は、プロとして横浜マリノスと契約、

背番号10をつけてアトランタオリンピックに出場し、ブラジルをたおした。

すこし年のはなれた三男坊にかかる重圧は相当だが、

当人はどこふく風、一家の最優秀選手賞を獲得した。

動じない性格は桜島の風土がはぐくんだと、ヤット自身がみとめている。

鹿実にはフェリーで通学したが、海が荒れると欠航になり、学校は休み。

人生は、風まかせ。

窓から火山灰をながめつつ、殺人的なシゴキの疲労をいやしたろう。

 

 

 

『週刊サッカーダイジェスト』に約半年連載された、

聞き書きのコラムをまとめただけの軽い本だが、

それでも遠藤の不易流行の哲学を、行間から感じとれる。

たとえば。

ペナルティキックを二度止められた立石智紀を、相性が悪いとおもわない。

サッカーでは、まつたく同様な状況は再現されないから、

ゴールキーパーがおなじだけで、相性をかたるのは無理がある。

はたまた。

サッカーとは「チーム」という括りのなか、各人のイメージを融合させる競技。

その過程で勝てなくて焦り、自分のプレースタイルをかえるのは「ひとりよがり」だ。

個人としてもチームとしても、結果自体に固執しない方がよい。

言説は、するどく正鵠をうがつ。

ただのガチャピンに似たお人よしではない。

 

日常生活ではほとんど怒らない僕だけど、サッカーになると話は別よ。

相手にボールを取られたら、全力で取り返しに行くし、

ラフプレーに対して怒りを露わにすることもある。

『やられたら、やり返す』じゃないけど、勝負の世界では

善と悪がハッキリしているんだから、『悪』には立ち向かって当然でしょ?

 

泰然たる山のしたで、沸々と煮えたぎる溶岩。

「正義」のために闘うサッカー選手など、ほかにいるか?

 

 

 

 

 

イヴィツァ・オシムが日本代表監督について間もないころ、

遠藤に「オマエは走る量がすくなすぎる。もつと走れ」と命じた。

統計資料などの客観的な根拠にもとづく発言というより、

遠藤をかえることで、チームの進化をうながす意図があつたらしい。

すくなくとも、ヤットはそう推察する。

ガチャピンですら手の内をはかりかねる、食えないジイサンだが、

7番はのちに、数値としてもチーム最長の走行距離をはじく様になつた。

比較的仲のよい、中村俊輔との違いについて。

 

シドニー・オリンピックの時は同部屋だったんだけど、シュンって基本、

試合を振り返って反省したり、考えたりするのが好きなタイプだからね。

シュンはよく「あの場面は、こっちの選択のほうが良かったかな~」

とか言ってたけど、それに対して僕は、

基本的に終わったことは深く考えないタイプ(笑)。

 

性格でサッカー選手の優劣はつけられないが、

南アフリカ大会で、ヤットの平常心が功を奏したのは明らか。

病にたおれたオシムの代役である岡田武史が、

大会直前に方針をくつがえしたことをうけ、

スイスでの合宿中、選手だけでひらいたミーティングでは、

守備を重視する戦術の是非をめぐり、はげしい議論がなされた。

勿論、ヤットは神学論争に関心をもたない。

ボールをうばう位置を二十メートル下げたからつて、

「相手に走り勝つ」という目標に変りはないから。

遠藤保仁。

桜島がうみ、オシムが完成させた、ポーカーフェイスの天使。

 

 

 

 

 

単行本に収録する対談の相手に、遠藤は岩渕真奈を指名した。

シャビやイニエスタでなく、十七歳のドリブラーを大阪まで呼びつけたのは、

自分の同族、すずやかな佇まいの陰でマグマをたぎらせるサッカー選手が、

かれの知るかぎり、ひとりしかいないからだ。

 

 

日曜、ぶっちーを見に麻溝公園競技場にでかけた。

世界一のストライカーをめざすと公言する少女は、

片田舎の工事中のスタジアムで、椅子に腰かけていた。

あのクレーンがたおれて、森カントクの頭にあたればよいのに!

ボクのなかで悪魔がささやく。

60分、天使は降臨。

残暑のこもるフィールドに電撃がはしり、同輩の血相がかわる。

ハイエナの群れが、手負いの獲物にくらいつく。

エンジェルというより、いさましきヴァルキリーのごとくヴァルハラを駆けめぐり、

やがて戦乙女は、天の意思を民草にことづけた。

 

なでしこリーグ 第10節 日テレ・ベレーザ-ASエルフェン狭山FC

結果:3-0 (2-0)

得点:5分 伊藤香菜子 45分 須藤安紀子 90+2分 大野忍

会場:相模原麻溝公園競技場

[現地観戦]

 

ぶっちー情報は、掲示板「岩渕真奈 閃光の天使」でも紹介しています。



明日やろうはバカヤロー (NSK MOOK)明日やろうはバカヤロー (NSK MOOK)
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『終着駅 トルストイ最後の旅』

 

終着駅 トルストイ最後の旅

The Last Station

 

出演:ヘレン・ミレン クリストファー・プラマー ジェームズ・マカヴォイ ポール・ジアマッティ

監督:マイケル・ホフマン

制作:イギリス・ドイツ・ロシア 二〇〇九年

[TOHOシネマズ シャンテで鑑賞]

 

 

 

晩年の文豪トルストイと、「悪妻」として有名なソフィアの物語。

 

 

ソフィアはおそるべきヒステリーの持ち主で、

不和になやまされた文豪は、なんと八十二歳にして家出を敢行。

道中で肺炎にかかり、十日後にちいさな駅で死ぬ。

カネで揉めたのが理由らしいから、悲劇というより喜劇だ。

ただ悪妻にも言い分はある。

『戦争と平和』と『アンナ・カレーニナ』の二大傑作をものした作家は、

小説執筆に興をうしない、社会運動にのめりこんでゆく。

その教義が「私有財産の否定」とくれば、伯爵夫人もだまつていられない。

悪筆の夫のため、長篇の『戦争と平和』を六回も清書したのはだれ?

ある意味、作品はわたしたちの共有財産であるはず。

なのに印税を放棄するなんて!

 

 

 

ヘレン・ミレンとクリストファー・プラマー、ふたりの名手による夫婦ゲンカは、

ゴジラとキングギドラが激突する様に、ロシアの大地をふるわせる。

 

 

中心議題はカネだが、さすがはドストエフスキーとならぶ文豪、

たわいない口論ですら傾聴にあたいする。

妻は小説、つまり藝術に、なによりも価値をおく。

 

 

もと作家は、あらゆる藝術、そして今そこにある生活に空しさをおぼえ、

わかい弟子たちと社会を変革することに、のこりの人生をついやしたい。

 

 

白樺の森を馬車で駆けぬけながら、夫の秘書がかかえる恋愛事情の相談にのる。

「わたしは、ロマンスが大好きなのよ」

 

 

コミューンの先輩であるマーシャは、ちよつとワケアリな女。

演じるのはケリー・コンドン。

世界をかえるよりステキなことが、世界にはある。

藝術は、それをおしえてくれる。

 

 

 

 

 

どんな天才でも、藝術家の絶頂期はながくない。

ボクの持論だけど、わかい情熱と世慣れた知性に調和がうまれ、

真に創造的な仕事ができるのは四十代のとき。

四十九歳で『アンナ・カレーニナ』を書きあげた作家が、

つぎに何を書くべきかわからず絶望しても、不思議ではない。

以降の百三十三年間、だれも越えられない峻嶺なのだから!

そして老いた藝術家は、人生というキャンバスに絵をかく。

 

 

トルストイは、三種の日記をつけていた。

第一は、公表するつもりの日記。

第二は「秘密の日記」にみせかけていたが、

実はさらに極秘の、第三の日記の存在を隠すために書いた。

第四の日記だつて、あつたかもしれない。

藝術家とは、救いがたい稼業だ。

創作のために内面を曝け出し、臓腑の底まで陽光をあびながら、

核の部分に他者にみせられぬエゴがのこり、

それに突き動かされて喜劇の主人公となるが、

自分は特等席にすわり、腹をかかえて笑いころげる。

御婦人がた、結婚するならカタギの男がよいですよ。


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レビルの野望 ―― 安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』

 

機動戦士ガンダム THE ORIGIN

 

著者:安彦良和

原案:矢立肇 富野由悠季

メカニックデザイン:大河原邦男

掲載誌:『ガンダムエース』(角川書店)二〇〇六年六月号~

[単行本は第二十一巻まで刊行]

 

 

 

『機動戦士ガンダム』の登場人物は、みな矛盾をかかえている。

初回放映時は視聴率や物品販売がふるわず、たび重なるテコいれを余儀なくされ、

されども結果はサッパリで、全四十三話で打ち切りとなつた制作上の混乱ゆえだ。

後からオタクが、「奥行きのある人物像」とか褒めそやすのが滑稽でもある。

 

 

 

地球連邦軍総司令官・レビル大将は、その最たるもの。

ルウム戦役で「黒い三連星」の奇襲をうけて捕虜となるが、

なぜか脱出に成功してからぶちあげたのが、「ジオンに兵なし」演説。

彼のせいで、「一月戦争」は「一年戦争」になつた。

国民を泥濘にひきずりこむ前途をしりつつ、なぜレビルは煽つたのか?

それをかんがえたい。

 

 

 

 

 

ジャブロー防衛戦で敵将ガルシアを評していわく、「定見のない男のようだ」。

自分には定見があるというに等しいし、

あくまで前線指揮官としてなら、その自己評価はただしい。

ズゴックを駆るシャア・アズナブルらの侵入をしりぞけ、反攻への足がかりをきづいた。

基地ひとつ落とせないシャアなど、青二才にすぎない。

 

 

 

みんな大好き!

補給部隊ミデア隊隊長の、マチルダ・アジャン中尉。

総司令官が、「ガンダム」とよばれる試作機にやけに執着し、

その意思を末端の補給部隊が共有していることに感心する。

オジサンとしては、美人すぎる中尉と話したかつただけかもしれないが。

 

 

開戦まえ、ジオン公国総帥ギレン・ザビとの交渉の席につく。

根つからの軍人だが、もとめられれば外交官の役もつとめた。

 

 

話は前後するが、ソロモンに入城するレビル将軍。

うかれた様子はない。

高官の特権を、かるがるしく享受する俗物とはちがう。

 

 

 

そして、部下をみる目はきびしい。

作戦部長エルラン中将の内通を、なにげない物言いから察知する。

敵にしても味方にしても、手強い男だ。

 

 

 

 

 

ここまでは、「戦術家」としてのレビルしか語つていない。

月と七つのコロニー群をふくむ地球圏全体を視野におさめ、

悪逆無道のジオン軍をおいつめる反攻作戦を構想した、

偉大なる「戦略家」の横顔について、これから考察しよう。

 

 

のちに「コンペイトウ」と改称される、ソロモンでの作戦会議。

ア・バオア・クーではギレン総帥が籠城し、月面都市グラナダにキシリアが、

そしてジオン本国ではいまなおデギン公王の影響力がつよい。

したがつて、磐石とはいえないザビ家の反目に乗じ、

各個撃破するしか策はないが、資産も時間もたりない。

レビル将軍の概況説明はなんだか冴えないし、

幕僚の面々も小首をかしげるばかり。

 

 

カイ・シデン伍長の様な皮肉屋にかかると、脱出劇の英雄も形なしだ。

しかし『機動戦士ガンダム』において、カイの発言はおほよそ真実だ。

ではレビルとは、なにものなのか?

 

 

これもジャブローでの一コマ。

キッカたちを追いかけるフラウ・ボゥは転倒し、レビルにのしかかる。

準軍属あつかいの医療ボランティアが、大将の上にいる。

フラウに飛びつかれて嬉しくない人間などいないが、

それにしても、こまつた顔ひとつ見せないのは異常だ。

階級や軍紀に、関心をもてないタチらしい。

 

 

ゴップ元帥による人物評。

軍上層部においても、レビルは理解をこえていた。

 

 

 

要するに、ヨハン・イブラヒム・レビルはデタラメな司令官だつた。

 

 

 

奸智にたけたデギン公王にしてから、「貸しがある」などと寝言をいつて、

ノコノコと和平交渉の場にひきずり出される。

 

 

だからジ オリジンでは「ジオン本国に向かう!」と

あえて言い切っているんですよ。

これは「さあ手を上げろ!和平したいんだろ?」というジェスチャーです。

この時点ではむしろア・バオア・クーには行かないつもりで。

まさにレビルとデギンのチキンレースみたいなものです。

その結果デギンが手を上げてしまった。

 

単行本二十一巻での、安彦良和の発言

 

 

この期におよんで、仇敵の立場をおもんばかるレビル将軍。

真意をはかりかねる。

宇宙一の無責任男にふりまわされた御隠居は、息子にレーザーで焼き殺され、

ドラ息子は妹に射殺され、覆面の女は弟の様に面倒をみたシャアに討たれた。

一年戦争の、戦塵がおさまる。

レビルは、自身と国家の運命を見通してはいない。

ただ誰よりも負けず嫌いで、戦争にしか興味のないジイサンで、

デタラメな言動が狂騒をまねき、ついに地球圏に平和をもたらした。

ほんのひとときでは、あるけれど。





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ブーイング ―― 天皇杯 二回戦 町田ゼルビア-東京ヴェルディ

 

天皇杯 二回戦 FC町田ゼルビア-東京ヴェルディ

 

結果:1-0 (0-0)

得点:73分 山腰泰博

会場:西が丘サッカー場

[現地観戦]

 

 

 

ヴェルディ側のゴールの後背から、藤田と木島への拍手がおこる。

かつての在籍選手が下位リーグで奮闘していることに、

いまは敵対する立場とはいえ、敬意を表したのだろう。

日が落ちても摂氏三十度を下まわらない、

ぬるま湯みたいな空気がくすぐつたくて、ボクは身悶えした。

相馬直樹が指揮する、町田ゼルビアの攻勢の犀利さを、

緑のサポーターは一度も見ないまま、無防備なほほえみを曝している。

相馬監督に対してまで、再会を祝すのにあきれた。

二〇〇二年に一年在籍しただけなのに、律義なことだ!

ゼルビアの観戦はひと月ぶりだが、その哲学はさらに精度をたかめ、

洪水のごとく平原を洗いながし、なごやかな気分を一掃した。

優雅なる独裁者・太田康介が、攻防のすべてを差配する。

斎藤広野が敵の右わきをえぐり、刺傷をおわせ、出血をしいる。

愚かにも以前ボクが扱きおろした深津康太は、

あの秋田豊より荒々しく、平本一樹との空戦を制した。

 

 

 

 

 

「daysworld9」氏がアップロードした動画。

撮影者自身の絶叫からわかるとおり、日本サッカー史の、

二〇一〇年の項目に大書すべき得点だ。

 

 

左側面でねばる勝又がのこしたボールを、太田が直にはたく。

太田、ここでも太田。

 

 

太田がキックで不覚をとれば、むしろその稀少価値によろこびたくなる。

それにしても、ヴェルディに退場者が出ているとはいえ、

誰ひとり足をとめないゼルビアの前傾姿勢がここちよい。

 

 

ボールと人が錯綜するなか、山腰の鼻のさきに好餌が。

 

 

百七十七センチ、七十五キロのすべてを乗せて、右足をふりぬく。

ゴールまえの人数は、ゼルビアが三、ヴェルディが二。

左に太田康介が長駆しているのも、見逃せない。

 

 

青の9番が、土肥洋一をやぶる。

 

 

おもえば河野広貴が退場となり、かえつて平衡が保てなくなつた60分、

相馬監督は山腰をおくつて、3トップで苛烈に攻めたてた。

山腰のシュートはチーム最多の四本、うち一得点。

いつもながら、憎らしいほど時宜にかなう判断だつた。

 

 

 

 

 

一仕事おえて家路をいそぐ審判団に、ゴミの雨がふる。

ヴェルディファンを喜ばせるため出資する企業が見つかることを、

ボクは切にのぞむけれど、先行きは明るくなさそうだ。

四週連続で西が丘に通い詰めたからわかるが、

このスタジアムのゴール裏は観覧にむかない。

『リベログランデ』(ナムコ)より劣悪な視界なのだから!

だがサッカーのスタジアムには、ワラジムシが多数生息している。

石の下にかくれ、なにも見ず、なにも考えず、ただ群れをなし、

ちつぽけな領土を支配することにしか興味がない。

 

 

この日の朝、Jリーグから「入会予備審査」ではねられたという一報をきき、

青い観衆がどれほど嘆いたか、緑の観衆はすこしでも思いやつたのか?

涙をこらえ、屈辱に耐えながら、小田急線にゆられて来たことを。

上位リーグ所属のくせにブーブー騒ぎ、嘔吐をもよおす見苦しさだつた。

ブーイングが悪いとはいわない。

うつくしくはないが、まあ男同士なら黙認してもよい。

ただ、その方向がまちがつている。

試合まえ、相馬直樹をよぶ声を怒号で掻き消していれば、

勝利の確率は数パーセントあがつたかもしれない。


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指環をめぐつて ―― ロナルド・L・マレット『タイム・トラベラー』

 

タイム・トラベラー タイム・マシンの方程式を発見した物理学者の記録

Time Traveler

 

著者:ロナルド・L・マレット ブルース・ヘンダーソン

訳者:岡由美

監修:竹内薫

発行:祥伝社 二〇一〇年

原書発行:アメリカ 二〇〇六年

 

 

 

一九四八年、ブロンクス公園での一コマ。

長じて理論物理学者になる息子の肩に、うつくしい母が手をそえる。

父はハンサムで知的な、働き者の電気職人だつた。

第二次大戦のヨーロッパに遠征した退役軍人なので、

復員後は学資援助をうけ、電気系の専門学校で技術を身につける。

いわゆる「GIビル」は、人種にかかわらず職業選択の幅をひろげ、

マレット家みたいに幸福な中流家庭を大量生産した。

戦争は忌まわしいが、ときに社会を変革するエンジンになる。

歴史の皮肉といえよう。

だが、父ボイドは三十三歳で亡くなつた。

本書に死因はかかれていない。

当時十歳のロナルドの時間はとまり、いまだ溯ることができないらしい。

彼の性格は一変し、鬱でながく苦しみつづけた。

社会から孤立した少年は、一冊の本とであう。

H・G・ウェルズの『タイム・マシン』。

読後いてもたつてもいられず地下室におり、父の工具箱をひらいた。

運命をかえるために。

 

 

 

人を平気で「黒んぼ」呼ばわりする南部に移り住んだロナルドは、

空軍にはいり、父と同様にGIビルの助けをかりて、

ペンシルバニア州立大学アルトゥーナ校に入学した。

家族以外にはじめて心をひらける相手、つまり恋人として、

ハイデガーの『存在と時間』を研究するマージョリーをしる。

ハイゼンベルクの不確定性原理について解説するかわり、

彼女からハイデガーの時間論をおそわるという取り引きをした。

時間は直線でなく、存在の本質はすべての時間と一挙に遭遇する。

その哲学では、時間の概念がもつ多様な可能性のすべてが考慮されている。

 

 

数理論理学者のゲーデルは、熱心に宇宙論の研究もしており、

一般相対性理論から奇妙な解をみちびいた。

ゲーデルの回転宇宙では、閉じた時間線があらわれる。

このループにそつてゆけば、未来は過去につながる。

タイムトラベルのカラクリが、宇宙にそなわつていた事実に興奮しませんか?

 

 

 

マレット博士は、タイムマシンをつくりたいという夢を隠しつづけた。

いつか教授になり、終身在職権をえるまで、

変人と思われかねない言動は御法度だつた。

ただでさえ科学や工学の分野では、黒人の教員が稀少だから。

 

(Lがレーザー光源で、ABCDがそれを反射する鏡)

 

はれて教授職についた博士は、強力でほそい光線を発生させる、

「リングレーザー」という装置が有望なことに気づく。

循環する光線は、回転する物質の様な重力効果を生むのでは?

果てしなくつづく計算に悪戦苦闘する数週間をへて、

すくなくとも式の上で、空間のねじれを作れることを立證した。

現在の地球に存在する部品で、タイムマシンは実用化できる。

壮絶な死闘にあけくれる彼は、オペラ好きの父にあやかり、

ワーグナーの『ニーベルングの指環』でおのれを奮い立たせたそうだ。

 

 

 

種明かしになるかもしれないが、マレット博士は理論上、

一九五五年のニューヨークに戻ることはできない。

最初のタイムマシンが稼働する瞬間までしか、タイムトラベルは到達しない。

われわれが道端で、未来からの客人に出会うことがないのは、

まだタイムマシンの電源がはいつてないからなのだ!

その意味で、ロナルド少年の夢は水泡に帰したわけだが、

彼の語り口に後悔の苦味は感じない。

人の心も、時間とおなじく一筋縄でゆかないものだから。





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(2010/07/27)
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タグ: 近未来 

検証・なでしこリーグカップ 決勝戦

なでしこリーグカップ 決勝

浦和レッドダイヤモンズレディース-日テレ・ベレーザ

 

結果:2-3 (0-0)

得点

【浦和レッズ】55分 庭田亜樹子 62分 藤田のぞみ

【ベレーザ】60分 大野忍 87分 伊藤香菜子 90分 岩渕真奈

会場:西が丘サッカー場

 

 

 

 

2ちゃんねるの「なでしこリーグ」スレッドなどで、

いささか白熱した議論をよんだ判定に関して役に立ちそうな、

格好の資料が「YouTube」にアップロードされたので紹介します。

ちなみに上のスレッドにはこのブログのリンクが張られていますが、

ボクの仕業ではないことを強調しておきたいです。

そこまで神経は太くありません。

さて、動画の「0:50」あたりを確認しましょう。

 

 

試合終了直前、ベレーザの原菜摘子が左サイドに抜け出す。

浦和レッズで応対するのは、左が藤田のぞみ、右が岩倉三恵。

 

 

フィールドの妖精は、インサイドで左・右と簡単にあてて左側の藤田をかわす。

 

 

右の岩倉は、ジャージを引っぱるしか止める手立てはなかった。

華奢な原には勿体ないほど、ビヨーンと伸びきっている。

 

 

よろけながらも、なんとか左足を着地させる。

その足は、しっかりラインを踏みしめていた。

 

 

あれだけ激しく引き戻されれば、誰でも転ぶ。

スッテンコロリン。

 

 

深野悦子主審が、岩倉に対しイエローカードを提示する。

ぼんやり眺める藤田。

「決定機阻止」と判断され、一発退場でもおかしくない。

 

 

岩倉は21分に「反スポーツ的行為」で警告を受けていたので、退場処分となる。

不自然なところは見当たらない。

 

 

ベレーザにペナルティキックが与えられる。

レッズの選手は、矢野喬子が一言いっただけで、まったく抗議しない。

納得の判定だったのだろう。

伊藤が決めて同点、ロスタイムに岩渕が逆転ゴールをして、試合がきまった。

 

 

 

浦和レッズのサポーターであるハンドルネーム「SHOW」氏は、

深野主審が試合を壊しただけでなく、勝敗まで左右したと批難しています。

正当な引用権にもとづき、ふたたび例に引かせてもらいましょう。

 

一番の誤審は岩倉の退場とベレーザのPK獲得。

逆のゴール裏からでも、笛が鳴ったとき伊藤と競っていたのは

藤田で岩倉ではないと認識していたし、

元より笛を吹くまでのプレーだったか疑問に感じた。

 

「SHOW」氏のブログ『feeling for the glory』

 

くりかえしますが、反則を犯したのは藤田ではなく岩倉

「反スポーツ的行為」の被害を受けたのが、伊藤ではなく

「SHOW」氏はハイライト映像で何度も確認したと主張するけれど、

それがウソなのか、視力に問題があるのかはわかりません。

ただ、何も見ていない人間が、下のような暴言を吐いてよいのでしょうか?

 

二度と浦女の試合で笛を吹いて欲しくない。

むしろ、二度と主審として活動して欲しくない。それ程に怒りを覚えた。

 

ボクも含めて、間違いは誰にもあります。

あとで修正すればよいだけです。

しかし「SHOW」氏は指摘を受けても、主審に対する謝罪はおろか、

映像で確認するまでもない明白なミスすら直しません。

まあ、いいでしょう。

ボクがこの件を気にするのは、翌週の試合に悪影響を及ぼしたからですが、

そのことは当エントリでは詳しく説明しません。

また、他所のブログの運営方針にケチをつけるのもよします。

ボクとしては、深野主審の名誉を回復できたのが本当に嬉しい。

そして、サッカーの正義を少しだけ守れたことも。


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タグ: 岩渕真奈 

五人の侍 ―― 『BECK』

 

BECK

 

出演:水嶋ヒロ 佐藤健 桐谷健太 忽那汐里

監督:堤幸彦

制作:日本 平成二十二年

[新宿ピカデリーで鑑賞]

 

 

 

もし生れ変れるなら、水嶋ヒロになりたい。

長身痩躯。

端正ながら、彫りのふかい顔だち。

その見て呉れだけでも、人生の勝者としての資格がある。

かててくわえて、帰国子女で英語が堪能だとか、

もとサッカー選手で全国高校選手権に出場したとか、

慶應義塾大学を卒業したとか、妻がシンガーソングライターだとか、

彼の履歴書はくまなく、羨望という色のインクでかかれている。

 

 

もとより、カンペキ男にも蹉跌はある。

大学時代に怪我でサッカーをあきらめたことや、妻がわづらう重病が。

でもそんな躓きは、「水嶋ヒロ」という物語をさらに輝かせるため、

周到に配された布石におもえなくもない。

むかうところ敵なしの二十六歳は、映画『BECK』ではギタリストの役で、

熱狂渦まくロックフェスティバルの中心にたつ。

 

 

 

 

 

ロックバンドの物語だから、人集めからはじまる。

たつぷり一時間かけて説きおこすが、これがまあ退屈で!

『七人の侍』の尺は三時間以上あるのに、木村功に稲葉義男をおそわせたり、

人材募集の場面でも飽きさせないが、堤監督はみていない様だ。

 

 

ただベース担当の向井理はしらない人だつたけど、

かぼそい声をもつ繊細な美青年で、好きになつた。

 

 

レッチリのフリーばりの熱演。

ベースは重いので、練習するだけで筋肉がついた。

ボクもやろうかな。

バンドの演奏はどれも力がこもり、迫力があつた。

佐藤健の歌だけ無音で、観客の想像にゆだねる演出だけど。

原作者であるハロルド作石の意向らしい。

 

 

音のかわりに洗濯機の中みたいな、抽象的な像でお茶をにごす。

弱い、なんと弱い絵だろう。

こんなラクガキが音楽なのか?

映像作家としての堤幸彦は、絶対にサムライではない。

たとえばケン・ラッセルの様に、音楽やそれをうんだ藝術家に真剣に向きあつていない。

妹への愛をうたう曲では、客席にすわるボクの脳裏には、

雨のふりそぼつ草原で、ワンピースに麦わら帽子の少女が、

さびしげにたつ絵がなぜか浮かんだものだ。

そのむかし、ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』の出だしをきいて、

きのうまでの世界が崩壊する瞬間におののいたことがある。

それは、わかる者にしかわからない経験だ。

 

 

 

 

 

鑿岩機の様なリフに、レイジのザック流のラップをのせる桐谷健太。

はじめは「当て振り」の予定だつたが、監督と原作者にビデオレターをおくり、

自分の声で演じる権利をみとめさせる。

サムライは、ここにいた。

 

 

線のほそい優男ばかりの共演者を尻目に、暑苦しい芝居をする桐谷。

役者は顔ぢやない。

体内の全水分が汗にかわるまで、あばれてやる。

イケメン好きの女子に嫌われたつて、かまうものか。

 

 

終盤、フェスティバル会場をおそう嵐のなかで、ラッパーはサングラスをおとした。

泥まみれの鏡面が晴天をうつしだす。

刹那の夢想のうつくしさ。

いつどこでも燃焼できる男だけに見える世界。

この情景が奏効したのは、あらかた桐谷健太の手柄だが、

二十九の監督作をかぞえるベテラン監督も、最後に意地をみせている。


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ページターナー ―― 峠比呂『Candy boy』

 

Candy boy

 

作画:峠比呂

原作:DRM/2008CP

掲載誌:『コミックフラッパー』(メディアファクトリー)二〇〇九年十二月号~

掲載サイト:『Flapper.mobile』(メディアファクトリー)

[単行本は第一巻まで刊行]

 

 

 

寮生活をおくりながら都内の女子高にかよう、

櫻井奏と櫻井雪乃、双子のうるわしき「姉妹愛」を中心とする物語。

短編Webアニメが原作だが、ここは漫画版について一席ぶちます。

 

 

二段ベッドの下段しか使わない習慣をもつふたり。

うつくしい乙女が、うつくしい乙女に夢中になり、

日ごとに奇麗になりながら、たがいの手をたづさえ、

天空の螺旋階段をのぼりつめるのが、百合漫画という聖典。

そのまじわりは純粋すぎて、密室の息ぐるしさがある。

まして本作の道づれは塩基配列までおなじで、

恋愛感情が成立するかうたがわしいほど、かたく結びつく。

 

 

夜の砂浜で、同日うまれの妹が「百合」の神髄をとく。

大切なのは、「なにをするか」ではなく、「どうするか」。

 

 

もしミミストップで「まるまるバナナ」が売り切れでも、

一緒にいること自体が、この世のすべての財宝より値打ちがある。

キスやセックスなんてしなくても、そつと手をかさねるだけで、

わたしたちは満天の星空よりたかく飛べるから!

全人類をなやませる哲学的難問を、

一瞬で解きあかすのが、百合漫画のおそろしいところ。

裏腹に、これ以上かたるべき何物ももたず、無内容の極みといえるけれど。

 

 

 

 

 

後輩の神山咲夜。

奏に岡惚れし、密着しすぎる頂点をひきはがしながら、

いびつなトライアングルをかたちづくる。

軍や警察風の制服が、サマになつている。

からだの凹凸を強調する姿勢のあでやかさ。

咲夜はモバイルサイトの外伝では主役で、全篇の中軸をなす力戦奮闘ぶり。

作画をうけもつ峠比呂は、主役か脇役かは意に介さず、

少女たちをえがくことに耽溺している。

 

 

奏と雪乃の妹、中学一年生の櫻井雫。

アニメ版とちがい、勝気な性格にかわつたらしい。

かくうちに、漫画家のペンが勝手にはしりだしたのだろう。

衣裳や髪型のはなやかさ。

すらりとのびる、華奢な手足。

ふくよかな体つきの婀娜つぽさ。

コロコロとうつろう表情。

無邪気に愛をもとめる、つよい意志。

ボクは絵をかけないが、これほどたのしい画題はないだろうなと思う。

さて、目ざとい読者のかたはお気づきかもしれないが、

この作家は左むきの構図が得意だ。

 

 

アニメ版にはいない登場人物の、眞澄(名字不明)。

はるか山の頂にむけた人さし指に、

読むものの心ははやり、ページをめくる手はもどかしくなる。

乙女らは、いささか頽廃的な百合の園をかけぬけ、

さらにその先の、だれも見たことのない桃源郷をめざす。

 

 

 

 

 

 

以上の薄気味わるい百合ポエムはともかくとして、

背景にすら男がひとりも出てこない漫画『Candy boy』は、

ゆりゆりしい世界にひたれる傑作としてオススメです!



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