熱帯夜の殲滅戦

 

おそらく「ゴミ屋敷」として近隣で悪名高い、我が家に来てくれるのは、

にぶく黒光りしながら、六本足で疾走する友人だけだ。

月曜の夜、ひさしぶりにヤツと再会した。

仲よく二匹連れだつての訪問。

全身の毛を逆立てながら、ボクはなんとか片割れをしとめた。

しかしその相棒は、闇のなかを悠々と、秘密のアジトに帰投した。

ボクはゴキブリの生態にくわしくないし、くわしくなりたくもないが、

一匹をみれば、のこりの十匹の棲息を覚悟すべきだろう。

すくなくとも二十匹が、この家に。

折れそうな心を奮い立たせながらインターネットに接続し、

自国の防衛手段と、敵軍の弱点をさぐつた。

 

 

 

『Amazon.co.jp』が、悪の温床となつている。

ボクはそう結論づけた。

大々的に予約をうけつけながら、決して発売日に発送しない詐欺的行為を、

「konozama」と揶揄されている、有名な悪徳ネット企業だ。

ボクはほぼ毎週、ときには週二回、konozamaで買い物をたのしんでは、

商品をつつむ段ボールをひたすら部屋の隅に積み重ねてきた。

週一回の計算で年五十個の箱が、数年分。

そしてゴキブリは、段ボールを愛する。

暗くてヌクヌクあたたかい寝床を提供するだけでなく、

腹がへればムシャムシャと食べることもできる。

まさに『ヘンゼルとグレーテル』のお菓子の家だ。

ヤツらがビールの空き缶を好むことも初めてしつた。

甘い匂いに誘われるのだとか。

昆虫の分際で生意気な!

笑つてくれて構わないが、ボクは缶にのこるアルコールが、

虫除けの役を果たすのではないかと、期待していた。

段ボール、空き缶、ペットボトル。

そこはゴキブリの楽園だつた。

 

 

 

「一点に対し火力を集中せよ」とナポレオンも書いている。

次の日、ボクは「バルサン」で反撃をしかけた。

忌まわしい大量破壊兵器ではあるが、そこは太平洋戦争下の米軍とおなじだ。

ヤツらと共存はできない。

前夜はほとんど一睡もできなかつたし、食事も喉をとおらない。

侵入者を撃退しなければ、まちがいなく自分が死ぬ。

そして真夏の夜の大掃除。

千匹を迎えうつ腹づもりでいたが、見つけたのは、

月曜に取り逃がした一匹とおぼしきゴキブリだけだつた。

おどろくべきことに、まだ触角と足をうごかしている。

ガス室をいきのびた兵士をキッチンペーパーでくるみ、にぎりつぶす。

軍手ごしに体液を感じながら、「敵ながらアッパレ」とつぶやいた。

無論、敵軍に情けなどかけない。

バルサンは卵まで駆除できないし、隠れ家は他にあるかもしれない。

秋になるまで、つまりそれは長期戦になるはずだ。


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苑田 謙

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