透明少女 ― なでしこリーグ 第7節 ベレーザ-マリーゼ
なでしこリーグ 第7節 日テレ・ベレーザ-東京電力女子サッカー部マリーゼ
結果:3-1 (0-0)
得点
【ベレーザ】47分 原菜摘子 66分 南山千明 90分 大野忍
【マリーゼ】56分 鮫島彩
会場:ひたちなか市総合運動公園
[現地観戦]
一選手の横断幕製作にかかわつた縁だけをたよりに、
ベレーザのコアサポーター二十名によるバスツアーに闖入。
はるか太平洋にのぞむ、茨城県ひたちなか市をめざす。
あこがれの天使に紹介してもらえるかもしれないと聞けば、
見知らぬ人々にまぎれての大遠征だつて、苦にならない。
二時間ほどで到着。
生ぬるい潮風が、緊張と車酔いでよわつた自律神経をさらに傷つける。
それでもボクは、この地にきた。
けふが人生最大の正念場だ!
サッカーに興味をもたない読者には退屈だし、
きたない手書きで申しわけないけど、布陣図をいくつか掲載します。
閃光の天使・岩渕真奈が、この日の戦術の鍵だつたから。
自分を軸に宇宙がめぐる、そういう星のもとに生まれた人らしい。
両軍の基本フォーメーション
マリーゼは、攻撃的と評される「3-4-3」の配置。
しかし「攻撃的サッカー」の看板をみたら、眉を唾でぬらそう。
「守備的サッカー」を自称するチームなんてないのに、おかしいでせう?
攻守が混然一体となつたトワイライトゾーンに、サッカーの本質はある。
種明かしをすると、相手がボールをもつときは、
マリーゼの4番、二十八歳の中村真実に対し、
ぶっちーを監視するため最後尾にもどれと指令がでていた。
ちよつと若くてカワイイからつて、テレビにでたりして、
調子にのつてる小娘に好きにやられてたまるかという、
女の意地がぶっちーを悩ませる。
ボールをうばえば、アラサーの4番が右側面をかけあがる。
後手をふんだ閃光の天使は、ちいさな体で守備に忙殺され、
水色の「攻撃サッカー」の洪水に飲みこまれてオシマイ。
反面、「3バック」でも「4バック」でもあるマリーゼの守りは、
攻守がきりかわる瞬間に隙が生じる。
「3.5バック」のときにドリブルをしかければ、主導権をにぎれる。
智恵と技術を駆使した、かけひきのおもしろさ。
さて、机上の空論はここまでにしよう。
実際の勝負はどうだつたのか?
微妙な展開だつた。
なんでもベレーザは、「ドリブル禁止令」が発されているらしく、
十七歳のドリブラーにあたえられた選択肢はかぎられている。
ジメジメした空気のまま迎えた後半、ベレーザは布陣をかえ、
バタバタと両軍に点がはいり、ケリがついた。
三枚も図を描いておいてなんだが、このデタラメさもサッカーの一側面。
なにより驚いたのは、試合後のサイン会の盛況ぶり。
主催者も心得たもので、天才少女は最後に顔をださせるが、
待ちかまえたファンの大行列は、三十分たつても絶える気配がない。
並ぶのが嫌いなボクは、脇から横顔を観察した。
近くで見るのははじめてだが、この世のものと思えぬほどうつくしい。
みなぎる精気が、顔色にあらわれている。
机の下で足をくむ、行儀の悪さはいただけないが…。
ユニフォームをきた、地元のサッカー少女の憧憬のまなざしは、
まさに夢見心地で、瞳孔がひらいてないか心配になる。
吸血鬼に魅入られた女の様だ。
もしぶっちーが噛みついたら、よろこんで首筋をさしだすだろう。
彼女のサポーターを見くだす態度にも、カルチャーショックをおぼえた。
完全にタメ口で、鼻の先であしらう。
岩渕真奈は、女子サッカーという王国のお姫さまなのだ!
そしていよいよ、ボクも対面の時をむかえる。
御意見番として、わがままプリンセスにガツンと直言しなくては。
意識がとんだ。
視野は、ぶっちーの肩幅とおなじになる。
清川村選抜さん、ゴメンナサイ。
スパイクのこととか聞こうとおもつてたんだけど、
ムリムリ、あのかたと会話なんてできません。
年嵩が半分の女子高生をまえに、茫然自失する三十男。
彼女に一対一の勝負をいどむには、まだ力不足らしい。
ほろ苦い邂逅がおわり、透明少女はきえた。
ボクはひとり、常磐自動車道をはしるバスで泣きぬれる。
そもそもあれは、本当に岩渕真奈だつたのか?
透きとおって見えるのだ 狂った街かどきらきら…
気づいたら俺は夏だった風景
街の中へきえてゆく
ナンバーガール『透明少女』
作詞:向井秀徳
ぶっちー情報は、掲示板「岩渕真奈 閃光の天使」でも紹介しています。
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なでしこジャパン・田畑智子 ― 『さんかく』
さんかく
出演:田畑智子 高岡蒼甫 小野恵令奈
監督:吉田恵輔
制作:日本 平成二十二年
[池袋テアトルダイヤで鑑賞]
そのむかし、「結婚したい有名人ランキング」なんてのが、
藝能ニュースで取り沙汰されたものだ。
沢口靖子や富田靖子などが一位だつた記憶があるけれど、
最近は耳にしない(おもえば上位者は婚期が遅れがち?)。
理由はわかる。
いま同様の調査をしたら、田畑智子がダントツの首席となり、
競争が成立しなくなるから。
気立てがよく、聡明で、どこか古風なたたずまい。
恋人ではなく、嫁にしたい、そんな女だ。
炊事・掃除・洗濯を怒涛のいきおいで片づけ、家のなかはいつもカンペキ!
外面がよいので、御近所や親戚との交際もソツがない。
冠婚葬祭は、トモコにまかせておけば安心だ。
仕事にでれば、夫より稼いでくれる。
週末くらいは手伝つてやろうと台所にちかづけば、
「ジャマだからむこうで待つてて」とことわられ、
ビールを飲みつつワールドカップをみているうち、
食卓には高級料亭なみのディナーがならぶ。
トモコはそんなできた嫁だが、惚れた男には滅法よわく、
ふたりだけの時間はいつも、子猫の様に甘えてくるのだつた。
以上はすべてワタクシの妄想ですが、
観客の想像力を刺激するのが役者の才能なので、
女性読者が文章に不快感をおぼえても、責任は田畑智子氏にあります。
映画『さんかく』では、田畑智子と宮崎あおいのダンナが、
同棲二年目のマンネリカップルを演ずる。
トモコとひとつ屋根のしたで暮らしながら、退屈だとか飽きたとか、
バチあたりな男もいるものだが、銀幕でベタベタされるよりマシかな。
彼女が愚痴をいうとき、かまつてほしいという願望がありありで、
尖らせたくても尖らないアヒル口がいとおしく、頭をなでたくなる。
口論のキツい言葉にさえ、関係を修復しようとする配慮が感じられ、
怒れば怒るほど、かわいくみえる。
しかし、アルファベット三文字の泡沫グループの小娘が目障りな本作は、
途中から、「抱腹絶倒」と「意味不明」が交互に顔をだす大乱戦に。
トモコさんも、『アメリ』のオドレイ・トトゥになつたり、ゾンビ映画のゾンビになつたり。
まあ傑作かどうかはともかく、田畑智子が日本女性の鑑なのは事実で、
個性かがやく邦画として全世界に推奨したい。
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エナジー
2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ
グループE 第3節 デンマーク-日本
結果:3-1 (2-0)
得点
【日本】17分 本田圭佑 30分 遠藤保仁 87分 岡崎慎司
【デンマーク】80分 トマソン
会場:ロイヤル・バフォケン・スタジアム
[テレビ観戦]
スロバキア対イタリアの試合をみながら、なるはさんとツイッターでお話しした。
「なるはさんは日本戦見ますか?(ボクは見ません)」
「見ないですねぇ…イタリアに懸けてたので……(^-^;」
しばらくして、なるはさんの「つぶやき」がとだえる。
イケメンぞろいのイタリアが敗色濃厚で、フテ寝したのかな?
目覚ましの設定はいじらず、ボクも床についた。
そして、しづかな明け方に目をさます。
時計の表示は、五時まえ。
南アフリカでは、アイツラが奮闘している。
なるはさんの眼中に日本代表がうつらないのは、
お眼鏡にかなうイケメンがいないから。
一方のボクは、ただ臆病だから。
思い人が痛めつけられるのを直視できない、ボクサーの恋人の様に。
だが目をとじても、頭のなかでサッカーボールがはねる。
おのれの心身が、睡眠を拒絶する。
「オマエはそれを見るべきだ」
しかたなく、布団から這いでた。
ワールドカップの国際映像は、ヨーロッパの企業が製作するのだろうが、
彼らは王族が大好きだから、東洋からの来賓も見のがさない。
やけに大きなカメラをかまえるのは、高円宮の妃殿下。
女ひとりで気軽にたちよれる国ではないが、くつろいで見える。
上機嫌の理由は、岡崎が三点目をとつただけでなく、
スタジアムで、亡き夫の存在を平生よりつよく感じるからだろう。
高円宮が生きていれば、万難を排して観戦したはずの試合。
まして肉体がほろび身軽になつたいま、その場にいないわけがない!
夫の遺志を直截に伝えるためにも、自分の姿を若きサムライにみせたい。
戦術、技術、体力、団結心、運、などなど。
日本の勝因を説明しようと、全国民がリクツをこねている。
でもそこで、紋切り型におさまらない不思議な力が働いていたのを、
ボクはいくつかの海をこえて知つた。
自然に涙がながれた。
この日の本田圭佑は、1得点1アシスト。
フリーキックを遠藤にゆづり敵の虚をついた、
前半30分の心理的貢献もふくめれば、全得点にかかわつている。
試合終了直後、フィールドのわきでマイクをむけられ、
「おもつたほど喜べないのが不思議です」とつぶやいた。
嬉しいのに嬉しくないつて、どういうことやねん!?
おのれの心のうごきに、首をかしげるレフティモンスター。
かさねて「優勝したい」と堂々宣言する。
内なる炎が消えるのをおそれ、燃料をのみほす様に。
金髪の暴れ馬をとめるのは、どの国の馭者になるだろうか。
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佐々木希、その魔性について
ロッテのガム、「Fit's LINK」のCMをみた。
ふたりの悪魔と、謎の物体がおどる。
角をはやすこの女は、佐々木希らしい。
でもなんだか滑稽だ。
コスチュームが似合わないだけでなく。
『nozomi』(平成二十年/リバプール)
だつてさ、おかしいでせう?
もともとが小悪魔のくせしてさ。
ヒョウに豹柄の服を着せる様なものだよ!
秋田小町にふさわしいのは、風船ガムでなくシャボン玉。
泡だつ石鹸よりキメこまかい、その肌をかくすに値するコスチュームなど、
すくなくとも下界には存在しない。
彼女が追放された、天国はともかくとして。
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補給線 ― JFL 前期第16節 武蔵野FC-町田ゼルビア
JFL 前期第16節 横河武蔵野FC-FC町田ゼルビア
結果:2-3 (0-0)
得点
【武蔵野】61分 関野達也 81分 高松健太郎
【町田】55分 勝又慶典 78分 木島良輔 90分 勝又慶典
会場:西が丘サッカー場
[現地観戦]
町田ゼルビアのトレーナー・三宅一正が、しきりにボトルの残量をたしかめる。
「ドリンクが一試合もつかな?」と心配そうに。
午後一時開始、気温は三十二度!
陽光は西が丘のうつくしい芝で反射し、ボクの目はくらんだ。
梅雨曇りが消えたかわり、二十二人の汗がフィールドをぬらす。
サッカー選手の心身に強いられる消耗は、あまりに激しい。
実際この試合のあと、原因はわからないが、
武蔵野の冨岡大吾が救急車ではこばれた。
それでも彼らは走る。
走らなければ、負けるから。
傍観者にすぎないボクも、コンビニで大量の補給物資を調達している。
得意の「アトランチススタイル」(どらお氏命名)で、日光の直射をふせぐ。
しかしドリンクの選択をまちがえ、500ml缶三本のアルコールを分解しきれず、
脱水症状をおこしてグロッギーになつた。
いつか専属のトレーナーを雇いたいな。
試合開始まえの握手の場面。
太田康介がほとんどの元同僚から、意味ありげな笑顔で肩をたたかれる。
―太田・斉藤と去年までのチームメイトもいます。
マッチアップする可能性もありますが、自信のほどは?
太田様に関しては、勝てる気がしません。
(村山さんは余裕で勝てる、いつでもかかってこいと言っていました)
マッチデープログラム
「The "Voice"」林俊介インタビュー
「オータさん、お手やわらかに頼みますよ!」とか言われたのだろう。
それを「本音」という言語に翻訳しよう。
ひとりだけJへの近道を見つけやがつて。
正直、ねたましいぜ。
でもJFLが甘くないのは、アンタが一番知つてるだろ?
門番の職掌は、関所破りを縄にかけること。
前半は両軍とも、体力と水分の消費をおさえようと不活発だつたが、
それでも武蔵野は左翼の永露大輔を軸に、あざやかに槍をふるう。
加熱して体感気温四十度となつた後半は、二度失点するが、
怒れる門番はそのたびに、槍先を急所に突きかえす。
そして互いの血にまみれつつ、町田ゼルビアが扉をわづかに拡げた。
試合終了の笛と同時に、相馬直樹監督がボトルをかきあつめる。
大慌てで、バックスタンドの前にいる郎等のもとへ走る。
監督から手渡しされて飲むドリンクは、生涯最高の美味だつたのでは?
メインスタンドにすわる酔つぱらいは、つまりボクのことだが、
アルコールと勝利による酩酊で、太田ファンを自称するくせに顔をみていない。
翌日に公式サイトをひらくと、彼は号泣していた。
九十分豪雨の様に発汗しても、まだ排出できる水分が残つているとは、
人体の不可思議に驚嘆せざるをえない。
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ケン・オーレッタ『グーグル秘録』
グーグル秘録 完全なる破壊
Googled: The End of the World As We Know It
著者:ケン・オーレッタ (Ken Auletta)
訳者:土方奈美
発行:文藝春秋 平成二十二年
実業家のバリー・ディラーが、グーグル創業者のふたりと対面したときのこと。
ラリー・ペイジは、PDA端末から目をはなさない。
無礼な若造をたしなめても、かえす言葉は「ボクはいつもこうなんだ」。
視線は、ディスプレイに釘づけされたまま。
遅刻癖のあるサーゲイ・ブリンは、姿もみせない。
しばらくして誠意のあらわれか、ローラーブレードで颯爽と登場した。
エンジニアが君臨するその帝国で、広告主に敬意が払われることはない。
グーグル社員だけで百五十回、社外では百五十人にインタビューした本書は、
その手の挿話で分厚くふくれあがつた。
CEOとして招かれたエリック・シュミットの勤務初日、
彼の部屋は、下つ端のエンジニアに乗つ取られていた。
一九九九年にブリンは、「社の目標は収益の最大化ではない」と断言している。
ユーザーのために開発した最先端の技術で、世界をかえる。
カネなんて、問題ではない。
救世主めいた自覚をうながすほど、彼らの検索エンジンはすぐれていた。
だがここで、視線をディスプレイから離そう。
創業から四年。
広告嫌いのふたりが開発した技術は、まるで利益をうまなかつた。
ついに導入したのが、検索結果に連動させた「アドワーズ」とよばれる広告。
この「発明」が、世界はともかくグーグルをすくう。
例のページ右側の目障りな文字列は、稼ぎ頭に生長したカネのなる木だが、
オーバーチュア社の着想を盗んだものだ(訴訟となるが二〇〇四年に和解)。
「技術革新が世界をかえる」なんて、理系オタクの妄想にすぎないし、
特にグーグル社の短い歴史にはあてはまらない。
帝国が版図を拡げるにしたがい、敵もふえてゆく。
アップルやアマゾンはかつての同盟国だが、
前者とは携帯電話、後者とは電子書籍をめぐり、抗争をはじめている。
もつとも恨みをかつている相手は、新聞社だ。
「カネをはらつて新聞をよむこと」は、陳腐な古習と化した。
グーグルの創業者はそう言つているし、
新聞を購読していないボクの本音も、別のものではない。
指がインクで汚れるのは嫌だしね。
検索エンジンのおかげで、豊富すぎるほどの情報がタダで手にはいる。
その対価として、グーグル社は広告収入をえる。
広告主には、合理的なビジネスチャンスがもたらされる。
これぞ「ウィン-ウィン」の関係、IT革命万歳!
しかしタダの情報つて、そんなに新しいだろうか。
CMつきの民放テレビとくらべて、どこに新味があるのか。
なになに、ユーザーが能動的に選択できるところ?
笑止千万。
PCユーザーが好むのは、エロ・グロ・ナンセンス。
新聞社のサイトの人気記事は藝能ネタばかりだ。
「岩渕真奈」の四字を、グーグルの検索窓にうつた。
最上段は、あやまつた記述を放置したままのウィキペディア。
ゾロゾロとロクでもないサイトがつづき、当ブログがようやく八ページ目にあらわれる。
「次へ」を七回クリックする暇のある方のみ、お越しいただけるわけだ。
掲示板「岩渕真奈 閃光の天使」にいたつては、どこに隠されているのやら。
客観的にみて、当ブログの岩渕関連記事の質と量は世界一だ。
ゴホン、傲慢にきこえました?
ほかに競争相手がいないだけで、他意はありませんよ。
彼女を専門にあつかう掲示板も、世界で唯一だろう。
でもグーグルは、文体の良し悪しを鑑定できない。
掲示板によせられたファンの熱気も、はかれない。
いつかロボットが総理大臣になる時代が来るかもしれないが、
世界中のコンピュータをあつめても、編集者の役はつとまらない。
ためしにグーグル社でもつとも優秀なエンジニアに、ソフトを作らせてみてはどうか。
コンピュータがボクより美しい文章を書けたら、その場で腹をきつて死んでやる。
それは、プログラムを書くほどたやすい仕事ではない。
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本田圭佑のバンカーショット
2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ
グループE 第1節 日本-カメルーン
結果:1-0 (1-0)
得点:39分 本田圭佑
会場:フリーステイト・スタジアム(ブルームフォンテーン)
[ダイジェストのみ視聴]
昨晩は、いつもより数時間はやく床についた。
眠気などないが、本を読むうち夢の世界にはいれた。
褐色の戦士が、歓喜のダンスに興ずるのを見たくなかつた。
オフサイドの規則さえしらない連中が、
「日本サッカーの弱体化」を嘆くのを聞きたくなかつた。
なにより本田圭佑が、実戦で一度もためしていない部署で孤立し、
敗戦の責をおわされる悲劇の、観客になりたくなかつた。
そして翌朝にみた、YouTubeにアップロードされたダイジェストで、
ブルームフォンテーンで何がおきたのか知つた。
遠藤保仁が、右側面にパスをはなつ。
弩弓の様な速度。
ヤットは、より近い長谷部誠を経由することもできた。
でもそれでは、鹿児島実業の二年後輩の松井大輔に、
生のメッセージがつたわらない。
おいダイスケ、オマエがなんとかせえ!
ボールを頭上にはねさせ、勢いを殺す。
サイドラインをせおう松井の向きは、完全に九十度。
フィールドのすべてを視野におさめている。
そこのアフリカ人、このボールを取れるもんなら取つてみな。
レフトバックのアスエコトは、腰がひけていた。
松井の間合いに入りたくないから。
たやすくキックフェイントにかかり、左足からクロスがあがる。
大久保嘉人を囮につかい、単身となつた本田。
しかし止めたボールは軸足にぶつかる。
この試合のおそらく最大の好機は、水泡に帰しかけた。
それでもボールは、絶好の位置に。
つまるところ、すべては運次第。
左の爪先が後ろをむいている!
骨折したのではない。
それは直接ピンをねらう、精密きわまるバンカーショットだ。
我が子に粥をスプーンで口にはこぶ様に、やさしく。
少女が紙風船でたわむれる様に、無邪気に。
本田圭佑はゴールエリアで、得点にいたる唯一の経路をみつけた。
彼にあたえられた思考時間は、百分の一秒もない。
時差七時間の距離にいるボクが、見物をためらう重圧の下で、
なぜ得意のドライバーのかわりに、サンドウェッジをえらべたのだろう?
サッカー選手に、キャディはついていないのに。
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「広場の統治者 ― 『松井大輔のサッカードリブルバイブル』」
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サイド6 ― JFL 前期第15節 武蔵野FC-ソニー仙台
JFL 前期第15節 横河武蔵野FC-ソニー仙台FC
結果:1-0 (0-0 1-0)
得点:50分 冨岡大吾
会場:武蔵野陸上競技場
[現地観戦]
今季だけで六試合を観戦。
J2昇格をねらう町田ゼルビアには、それなりに思い入れがある。
しかしこの一週間、ブログやツイッターから聞えるゼルビアファンの動静が、
オレの神経を逆撫でした。
ホンダロックのコスプレ男を、町田市民は歓迎するらしい。
この人物が何者なのか説明した方がよさそうだが、
率直にいつて煩わしいし、第一オレもくわしく知らない。
知りたくもない。
『機動戦士ガンダム』は嫌いではないが、「ガンダム世代」とは距離をおきたい。
若いころアニメを見すぎて、心的外傷をおつた人ばかりだから。
ゼルビアファンの中核をなすのは、小学生くらいの子をもつ年齢層。
地元の運動会の様な、野津田の雰囲気はすばらしい。
一方で彼らは、ジーク・ジオンなニュータイプ思想で洗脳されている。
「ファミコン/ジャンプ世代」のオレは、つきあいきれない。
諸君の愛してくれたゼルビアは死んだ、なせだ!?
そんなこんなでオレはジャブロー、もとい野津田に背をむけ、
近場のムサリクでゆつくり骨休めをした。
坊やだからね。
それは、悪い意味でJFLのサッカーだつた。
対面する門番は、たがいの持ち場にひたすら貼りつく。
通行者はいない。
なにやつてんの、弾幕うすいよ!
しかし、ハーフタイムに救世主があらわる。
クッキーズキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
三鷹のキッズチアチーム「Cookies」が降臨。
え、よく見えないつて?
望遠レンズなんて飾りです。
偉い人にはそれがわからんのですよ。
クッキーモンスターの大軍が襲来。
かけぬける蒼い彗星。
その五分後、冨岡大吾がフリーキックをポストにからめて得点。
フラウ・ボゥやキッカが、ホワイトベース隊の士気をたかめた様に、
クッキーモンスターが勝ち点3をもたらした。
案の定、といつたら怒られるだろうが町田ゼルビアは、
口蹄疫騒動でくるしむ宮崎のホンダロックに勝てなかつた。
来週土曜日に、最低最悪のチーム状況のまま、
最強の門番である武蔵野にいどむ絶体絶命の難局。
しかも武蔵野には、主力二人を町田にうばわれた遺恨がある。
ララァ・スンなら、「青いユニフォームが勝つわ」というだろう。
まあ、どちらも青いですけどね。
『ウィザードリィ・V 災渦の中心』(アスキー)
サイド6のカムラン審査官よろしく中立をきめこみたいが、
不器用なオレは、おそらくゼルビアに肩入れすることになる。
全世界が注目する東京ダービー。
当ブログ読者のみなさまも、南アの金満イベントなど無視して、
十九日の西が丘で、本物のサッカーをみてほしい。
槍がふるか、血の雨がふるか、それともコロニーが落ちてくるか。
悲しいけどこれ、戦争なのよね!
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『アウトレイジ』
アウトレイジ
出演:ビートたけし 椎名桔平 加瀬亮 國村隼 三浦友和
監督:北野武
制作:日本 平成二十二年
[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]
冒頭の総会の場面、黒塗りの車列にたたずむ北野武をみて、
この男は根つからのヤクザ好きなのだとあきれた。
極道に足をふみいれずにすんだのは、教育熱心な母のおかげだ。
それでも結局、カタギではない稼業に身を染めたけど。
俺としては、こういうバイオレンスは得意だから、
いつでもできるって感じなんだよね。
和食にうるさいオヤジが、カツ丼つくれと言われて、
バカヤローそんなもんいつでもつくれるよ、
っていうようなもんでさ(でも、そのカツ丼がすごくうまい、ってね)。
映画プログラム
「北野武『アウトレイジ』を語る」
毎週『TVタックル』では、阿川佐和子や大竹まこととつるみ、
国の政治の行く末を案じている北野監督だが、
本作でえがく抗争の発端は、ボッタクリバーでのいざこざ。
次元がひくい。
料亭のオヤジがつくるカツ丼は、素材にこだわる。
マル暴の刑事に、「コヒさん」こと小日向文世。
ヤクザの相手ならコワモテがふさわしいが、相場どおりの配役ではつまらない。
本家の若頭には、百恵のダンナを。
『悲しきヒットマン』(昭和六十三年)がヒットし、ヤクザ映画への出演依頼が殺到したが、
極道を美化する作品が嫌いで、ことわり続けたらしい。
実写映画の悪影響は、ゲームより大きいから。
しかし北野武のなまなましい暴力描写の中なら、自分がでる意義がある。
会長の北村総一朗に頭をはたかれても、じつと我慢。
その無表情が不気味だ。
百恵のダンナを三十年つとめる苦労に比べれば、親分の叱責など屁でもない。
北野武もすでに六十三歳で、組を跡目にゆづるべき年まわりなのに、
あいかわらず最前線にたちドンパチに興じる。
山本耀司の服ですごむ姿はクールだが、年寄りの冷や水にもみえる。
カツ丼をつくる様に淡々と、注文どおりに殺す。
そのむなしさ、徒労感。
捌け口を見いだせず、ただ鬱屈する怒り。
そもそも彼は、本気で怒つているのか?
香港のジョニー・トーは、北野武からの影響を公言する映画作家だが、
トー監督の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』と本作の主題が、
東シナ海をこえて共鳴するのが聞えた。
一見造作もないドンブリに、時代の憂鬱な空気がこもつている。
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香取郡のスティーヴ・ジョブズ ― 岩澤信夫『究極の田んぼ』
究極の田んぼ 耕さず肥料も農薬も使わない農業
著者:岩澤信夫
写真:鳥井報恩
発行:日本経済新聞出版社 平成二十二年
あえて耕さない田に、冬も水をはる。
かたい田んぼでそだつたイネはつよく、多収穫をもたらす。
上の写真は、イネ刈り後に繁殖するイトミミズ。
排泄物が肥料になるだけでなく、雑草の発芽もおさえる。
無肥料・無農薬だから生物多様性がたかまり、
メダカ・アカトンボ・カエル・ガンなどの生きものの集う、
心やすらぐ田園風景がそこにひろがる。
トラクターと野鳥の共存。
まさに楽園だ!
七十八歳の著者は、一生涯をかけこの農法を開発した。
iPhoneやiPadの革新性への讃辞は聞き飽きたのに、
わが国で、これほどのイノベーションがおきていたと知らず、
ボクなど読んでいて恥づかしくなつた。
ほそながい山岳国家の日本には、滝みたいな急流しかなく、
表土が流出して、ギリシャ風の岩山になりはてる可能性がある。
しかし山裾をとりまく田んぼが、降雨量の七十五パーセントを貯水し、
ダム機能をはたすことで、緑ゆたかな景観をまもつている。
特に棚田は、不耕作地となり人の管理がなくなれば、崩壊しかねない。
また千葉県には、印旛沼という日本一汚い水源がある。
小学校のときバスでつれられ、ボクも汚染ぶりを眺めにいつた。
著者によると「不耕起・冬期湛水」の田は、生物濾過により水を浄化できるのだとか。
印旛沼周辺の六千ヘクタールの水田に、この農法を導入すれば、
浄水場をたてなくとも、たちどころに水が奇麗になる。
その様に県知事と交渉をかさねたらしい。
「百姓」の通念を一変するほどの、壮大な企図だ。
技術革新をテコにして、社会をかえんとする情熱。
さらに風呂敷はひろげられる。
食糧が無限でないことを、ほかのどの職業よりも知る著者は、
飢餓がふたたび日本をみまう時代を想定する。
米ではタンパク質をおぎえないから、ダイズの大増収技術の開発をはじめた。
かつてキューバはソ連崩壊後、依然つづくアメリカの経済封鎖のおかげで、
一夜にして飢餓状態におちいつた。
あらゆる空き地を開墾し、道路の分離帯にまで種をまき、
「国民皆農」の態勢で飢えをしのぐ。
資源が皆無なためミミズの力を借りるほかなく、
結果として有機農法の先進国とみなされるにいたつた。
日本では、いつかおとづれる「国民皆農」時代にそなえる第一歩として、
週末に都会からあつめた人に農作業をおしえ、
収穫物を共有する、田んぼの市民農園制度を組織するそうだ。
ここまでくるとスティーヴ・ジョブズどころか、フィデル・カストロもびつくりで、
大躍進政策の失敗で数千人の餓死者をだした毛沢東など、
面目は丸つぶれ、さぞかし地獄で肩身のせまい思いをするだろう。
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フクアリ劇場 ― J2 第16節 ジェフ千葉-愛媛FC
J2 第16節 ジェフユナイテッド千葉-愛媛FC
結果:3-0 (3-0 0-0)
得点:1分 倉田秋 18分 米倉恒貴 38分 米倉恒貴
会場:フクダ電子アリーナ
[現地観戦]
一月に「女子中学生限定」のオフ会を企画したときは、
最少催行人数をみたせず中止となつたが、
今度の「ジェフ戦オフ」には、福井からコゲチャさんがおいでになつた。
遠路はるばる、おつかれさまでした。
両軍イレブンがみづからの持ち場にちらばり、
じつと笛の音をまつとき、スタジアムが騒然となる。
となりの国家公務員はシャッターをきりまくる。
アドレナリンみなぎる二十二人の眼前で、カエルが担架ではこばれた。
ふつてわく様にはじまつたコントに、短気なボクは激怒した。
この目ざわりなカエルは、「一平くん」。
愛媛県の郷土料理店「ゆうゆう亭」のマスコットだ。
クラブの公式マスコットでもないくせに、
折からのゆるキャラブームにのつて全国区人気となり、
ついに千葉での興行権まで手にしたらしい。
笛の残響がきこえる、開始数十秒後。
左側面の倉田秋が、ゴールキーパーの股をぬいて点をうばう。
気をゆるめたのはむしろ、カエルの仲間たちだつた。
ジェフ千葉は、なかば公然とFCバルセロナを模範にかかげ、
清く正しく美しいサッカーの実現をめざすが、
日曜は理想をかなぐり捨て、布陣をかえている。
「4-4-2」。
愛媛のサイドバックが、横にならぶ巻と米倉につられ、
倉田に一秒の余裕をプレゼントした。
士気さかんな米倉は前線をかきまぜ、さらに二点をくわえる。
フクアリの観衆は、季節はづれのミカン狩りをたのしんだ。
今季いまだ無得点と、低迷する巻誠一郎をひさしぶりに見た。
不調も納得の、にぶい動き。
しかし巻はなんの工夫もせず、重い体をひきずり倒す様にはしる。
空中戦で、はたき落され。
ボールを奪いにゆけば、あつさりかわされ。
その愚直な仕事ぶりが、どれだけ戦術的に有効かは怪しいが、
それでも彼はボクらに、「自分はフクアリに来ているんだ」という感慨をもたらす。
ボクはいつも、終了の笛と同時に席をたつセッカチな人間だが、
この日はコゲチャさんと一緒に、からつぽのスタジアムにのこつた。
興奮と喧騒の粒子が、まだかすかに空気にたゆたう。
やはりスタジアムは特別な場所だ。
変な寸劇も、野心あふれる若手も、辛苦にあえぐエースも、
すべて飲みこんで九十分のドラマにしたてる。
北陸からだつて、足をのばさずにいられない。
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『孤高のメス』
孤高のメス
出演:堤真一 夏川結衣 余貴美子
監督:成島出
制作:日本 平成二十二年
[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]
本作は医療ものの映画なので、当然手術の場面がウリだが、
主役の堤真一より、敵役の生瀬勝久によるオペが印象にのこる。
ドタバタして、ホラー映画よりこわい。
手術室は戦場だ。
生死のベクトルが逆なだけで。
また堤真一も、ありがちな天才外科医ではない。
仕事中にながすBGMは、都はるみ。
原作の小説にある設定だとおもつてたら、プログラムによると、
成島監督が現場でためした演出なのだとか。
それこそ天才的な着想だ。
「オペは忍耐が大事だから、演歌があうんだ」と、
同僚に辨明するときの茶目つ気といつたら!
夏川結衣は、三四本目の腕となり医師をささえる。
きりりと釣りあがる眼、きよらなうなじ。
まさに白衣の天使だ。
女ひとりで息子をそだてる母でもあり、キャピキャピしたコスプレ臭は絶無。
ただひたすら勤勉で忠実で、うつくしい。
外科医長の堤真一に、ほのかな恋心をいだいている様だが、
彼女自身がその思いに気づいてなさげで、それがまた切ない。
一世一代の名演ではなかろうか。
『ディア・ドクター』では看護婦に扮し、ニセ医師をひきずりまわした余貴美子は、
本作ではわが子をうしなう悲しい役どころ。
ただ立場はいづれにせよ、いまの邦画に君臨する女王なのはかわりない。
観客はやすんじて、感涙にむせぶことができる。
撮影監督の藤澤順一は、丁寧な仕事ぶりだ。
ありふれた市立病院が、まるで城塞の様にたたずむ。
どこか不吉な、その威容。
おもえば病院は、われわれを病魔からまもる最後の砦でもある。
僕も赤ん坊の頃から毎日のように一緒にいた
大好きな叔父さんを手術の事故で失った。
メスによって「殺された」のに医師と病院は
絶対に責任を取ろうとしませんでした。
その時の感情が蘇ってきて胸がムカムカしてきました。
どうしたらいいのかまったく見えていなかったけど、
当麻のような医師を描いてみたい、と思いました。
生々しい「怒りと悲しみ」がこの映画作りの原点でした。
映画プログラム
成島出監督へのインタビュー
役者と裏方の本気が、火花をちらしつつ鎬をけづり、
見るもの臓腑をはげしくゆすぶる傑作だ。
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宮下規久朗『ウォーホルの芸術』
『キャンベル・スープ缶』(一九六二年)
ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡
著者:宮下規久朗
発行:光文社 平成二十二年
[光文社新書]
味噌汁という偉大なスープを食す日本人にさえ、
このスープ缶の意匠はよくしられている。
「マルコメみそ」をしるアメリカ人の数とくらべれば、遺憾の念を禁じえない。
すべては、銀髪のカツラをつけた自称アーティストのせいだ。
アンディ・ウォーホルとは何者か。
玉虫色の発言をこのむ彼は、インタビュアーにむかい、
「答えかたを教えてくれたら、そのとおりに答えるよ」とうそぶいた。
相手を煙にまき、おのれを神秘的に演出するかの様に。
ただ見かたをかえれば、ウォーホルがえらぶ題材はありふれてるし、
表現手法も最新でなく、単に語るべき言葉がないともいえる。
家でつねに買い置きしていた缶詰は、いわゆる「おふくろの味」そのもので、
有名普及品を作中にとりいれる流儀も、彼の独創ではない。
『ツナ缶の惨事』(一九六三年)
ツナの缶詰に混入したボツリヌス菌にあたつて、
デトロイト市郊外にすむ二人が亡くなつた事件をつたえる、
『ニューズウィーク』誌の記事を転写した連作のひとつ。
三十代後半の主婦のにこやかな肖像には、
食卓に死をもたらした企業に対する、画家の怒りがこもる。
つまりウォーホルは、本気で缶詰がすきだつた。
『赤いジャッキー』(一九六四年)
ジャッキー、つまりジャクリーン・ケネディを、
夫がダラスで暗殺された翌年にとりあげたもの。
大胆不敵な色彩。
喜怒哀楽を超越したほほえみは、浮世離れして。
この年のニューヨーク万博には、ミケランジェロの『ピエタ』が出展された。
同博覧会に壁画を提供したウォーホルは、
サン・ピエトロ大聖堂からはこばれた大理石像をみたらしい。
ミケランジェロ『ピエタ』(一四九九年)
十字架からおろされた息子をかかえる聖マリア。
冷酷なまでの無表情。
その細面には、永遠の若やぎがほのめく。
『ピエタ』の残像が、ウォーホルというプリズムをとおし投影され、
ジャッキーは現代の聖母になつた。
一九六八年、ウォーホル四十歳。
あるつまらない女が、拳銃を三度うつた。
銃弾の二発がはづれ、一発がウォーホルのいくつかの内臓をつらぬく。
イエスやケネディとちがい、悪運のつよい彼は生きのびたが、
心身におつた傷は、終生癒えることがなかつた。
世界は、藝術家の全盛期を見逃してしまう。
『最後の晩餐(ダヴ)』(一九八六年)
最晩年のウォーホルは、レオナルド・ダ・ヴィンチの壁画から想をえた。
ダヴ石鹸の鳩は聖霊、そして罪の浄化。
GE社のロゴは光背の見立てで、聖性の象徴となる光を示唆する。
なんて解釈があるらしいが、ボクにはよくわからない。
『最後の晩餐』(一九八六年)
「ファクトリー」とよばれるスタジオの隣りにあつた、
韓国系のキリスト教グッズ店でかつた古い複製画を転写し、
あえて安つぽさを強調した作品。
ピッツバーグにあるウォーホルの生家の食堂には、
『最後の晩餐』の複製画がかけてあつた。
画家は死の前年、原風景にたちもどる。
『居間』(一九四六~四七年ごろ)
十代のときにかいた水彩画。
暖炉のうえに十字架がある。
世界をひつくり返し、自身の人生はモミクチャになつたのに、
彼ののこした作品は、ピッツバーグの家から一歩も出ていない。
藝術家という稼業の、ちつぽけさと偉大さを同時に感じる。
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