『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』

 

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

復仇 (英題:Vengeance)

 

出演:ジョニー・アリディ アンソニー・ウォン ラム・カートン

監督:ジョニー・トー

制作:香港・フランス 二〇〇九年

[新宿武蔵野館で鑑賞]

 

 

 

「Yahoo!知恵袋」で、おもしろい話題をみつけた。

「復讐殺人が起きないのはなぜ?」という質問に、多数の回答がよせられる。

もし愛する人を殺されたら、ボクならワタシなら、絶対犯人を殺しますよ!

そんなの、あたりまえぢやないですか!

バカがバカをおしえるバカ学校の、失笑必至の授業参観だ。

人間は、そんなに立派なものではない。

死者をとむらい、傷ついた自分の心をなぐさめる手段は複数あり、

そのなかで人は、可能なかぎりリスクの低いふるまいを選ぶ。

あたりまえの話だ。

だからこそ、「英雄」がたたかう物語の需要がある。

 

 

マカオにあらわれたフランス人、ジョニー・アリディ。

娘に瀕死の傷をおわせ、婿と孫をころした連中に復讐するため、

三人の殺し屋をやとい、みづからも銃を手にとる。

 

 

フランス人歌手のしやがれ声と、ジョニー・トー組の役者の視線が交錯する、

はりつめた空間に、失笑をはさむ余地はない。

 

 

 

冒頭でおそわれるシルヴィー・テステューは端役だが、

世界のすべての不幸をせおう様な演技は、

たとえほんの数分でも、否応なく観客の心のトリガーをひいた。

しかしこの奇妙な映画は、話がすすむにつれ、遺恨がうすれてゆく。

老いた父は、脳に障碍をおつているから。

 

 

ジョージ・ファン。

娘を殺させた男の名だ。

仇の顔をおぼえられないので、遊底にメモをした。

ときおり銃に目をおとし、標的が誰かたしかめるために。

もはや「ファン」が何をした男かさえ、記憶にない。

これより滑稽な復讐譚があるだろうか。

英雄が存在しない時代に、あえて映画作家は神話をつむぐ。

 

 

 

 

 

 

盾がわりの、圧縮した紙のかたまりを転がしながらの銃撃戦。

どう見てもこれはサイコロで、死闘も所詮は遊戯にすぎないことを、

ジョニー・トー監督は意地わるく強調する。

 

 

オモチャの要塞が包囲され、殺し屋はひとりずつ射止められる。

なんのために死ぬのか、当人もわからないまま。

依頼人はすべて忘れているから、契約をやぶられても困らない。

たとえ任務を完遂したところで、だれも幸福にできない。

それは、アガリのないすごろくの様なものだ。


関連記事

テーマ : 映画
ジャンル : 映画

エレクトロ・ベイビー

「風俗求人・高収入アルバイト情報 バニラ」

 

 

 

人混みが苦手なので新宿にゆくときは私鉄にのるが、

駅をでると、悪趣味な宣伝カーがボクをむかえた。

上にのせた高円寺駅の看板と、ほぼおなじデザインだつたはず。

甲高い女声で「バ~ニラ、バニラ、高収入!」と、

テクノのリズムにのせて、ひたすらくりかえす。

右の女はいかにも水商売の格好だが、左はグレーのセーターに眼鏡で、

どうも女子大生かOLを釣ろうとしているらしい。

そして彼女たちの目には、「¥」マークがかがやく。

むかしの少女漫画なら星を描くところだが、

無論この二十一世紀に、古くさい子供だましは通じない。

不快には思わなかつた。

むしろ薄汚れた街にあまりに似合いで、感動したくらいだ。

 

 

 

紀伊国屋の八階、児童書売り場にむかう。

普段は無縁の地だが、甥の三度目の誕生日をいわうため、

「絵本を買つてこい」と母がボクに命じたのだ。

父とはいまだ冷戦がつづいているが、自分の人生のなかで、

なぜか母の命令にそむいた記憶がない。

今度は、つかれた顔のエレベーターガールにむかえられる。

失礼を承知でかくが、それは風俗嬢よりいくらかマシ、

というグレードの職業ではないだろうか。

せまい箱に閉じこめられての、はてしない上下運動。

でもエスカレーターのないこのビルでは、エレガの助けが必要だ。

 

 

 

ボクは絵本がきらいだ。

児童書売り場にくると、心底ウンザリする。

母はボクにたくさん絵本を読み聞かせたろうが、

それに十分満足したとは思えない。

子供だましを許せない子供だつたから。

どうせ読むなら、一番よい本を読みたい。

絵本の名作、たとえば『はらぺこあおむし』の全篇より、

『渋江抽斎』や『アンナ・カレーニナ』の一節を読んでほしかつた!

そんなボクがえらんだのは、「音の出る写真絵本シリーズ」の一巻、

『うんてんしよう! やまのてせん E231けい』(交通新聞社)だ。

 

「グッズステーション traindo」

 

右下の七つのボタンをおすと、発車ベルやらアナウンスやら、

電車に関する音がなり、運転手の気分をあじわえる。

予想どおり三歳児は、くるつた様に熱中した。

「いまから電車(小田急線)に乗りにゆこう!」とさわぎ、

夕食の準備をはじめた家族をこまらせる。

子供が本当に好むのは、心やさしいアオムシではなく、

首都を驀進する鉄のカタマリなのだ!

しかしポツリと、「アナタは乗り物に全然興味なかつたわね」と母がいつた。

たしかに、いまだに鉄道も車もエレベーターも好きではない。

なんでもケン少年は、電車にのつても本ばかり読んでいたらしい。

だれの教育の成果なのかは、わからない。

 

 

 

ひさしぶりに弟夫婦の家をたづねたのは、

先週の日曜日にうまれた姪をみるためだ。

これが初顔合わせなのに、彼女の瞼は閉じたまま。

まあ目をあけても、なにも認識はできなかつたろうけど。

それにしても赤ん坊の目には、一体なにが映るのか?

視力検査をするには早すぎるのが、残念だ。

ただその瞳に、「¥」マークが浮かんでないのは確かだ。

彼女が成人するころ、世界はどうなつているだろう。

ボクに予測は不可能だが、かしゆか風に妄想するなら、

街ゆく猫が空を飛んだりするのではないかな。

 

見えるものの全てが 触れるものも全てが

リアリティーがないけど 僕はたしかにいるよ

 

Perfume『エレクトロ・ワールド』

作詞:中田ヤスタカ

 

この曲を、生後一週間の彼女にささげたい。

いつかキミに、聞かせてあげたいな。

 


関連記事

テーマ : ひとりごと
ジャンル : 日記

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
04 | 2010/05 | 06
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
月別アーカイヴ
02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03