水の王国 ― たかみち『ゆるゆる』

 

ゆるゆる

 

作者:たかみち

掲載誌:『月刊ヤングキング』(少年画報社)平成二十年九月号~

[単行本は第一巻まで刊行]

 

 

 

狂犬病患者は、水をみただけで怯える恐水症状を発するが、

高校一年の仲良し三人娘の漫画をかいた、

作者たかみちは逆に、「愛水病」にかかつているのだろうか。

強迫観念の様に、全篇にわたり水がほとばしる。

あらゆるコマがうつくしい。

水泳部のみさきが、ながい足の爪先を波にひたす。

それは乙女が、みづからにほどこす洗礼だ。

 

 

天真爛漫なハルカ。

青鳩高校一年、美術部所属。

ラベルをはがしたペットボトルにたたえた真水、という画題は、

『COMIC LO』(茜新社)の表紙ですでに展開されていた。

ボトルの水滴が、少女の額の汗とまじりあう。

盛夏の湿気が、空中にエロスの火花をちらす。

 

 

しつかり者の、写真部のユキ。

ハルカのブラウスの裾がはさまつているのを、さりげなく直す。

自分はベストを着こんでいるのに、すずしい顔。

水はかすかに波うちつつ、ゆるやかに流れ、やがて平かになる。

 

 

 

 

 

本作のマスコットであるアオバトを、みさきが救助した。

この鳥にはなぜか、海水をのむ習性があるらしい。

海辺の町の、守り神でもある。

 

 

カメラとアオバトとハルカが直列になる、皆既日蝕よりまれな奇跡。

ところで写真では、画角のせまい望遠レンズで撮影すると、

背景が被写体にちかづく、「圧縮効果」という錯覚がある。

たかみちは、この働きを絵に多用する。

黒澤明がセットの撮影でもズームをつかい、切迫感を表現したのとおなじだ。

コンピュータ時代の空気が、焦点に凝縮される。

 

 

ある日、ハルカのせいで犬のフンをふんだユキが怒り、喧嘩になる。

しばらくして、落ちつきをとりもどしたユキがケータイをひらくと、

デジカメでとつたハルカのおもしろ写真が、待ち受けていた。

 

 

気が利くみさきは、ユキのケータイをもつてコンビニにとびこみ、

プリントサービスを利用して、即席のアルバムを二冊つくる。

なんという時代なのだろう!

少女は数々のガジェットをつかいこなし、世界をきりとり、

自分たちだけの王国を、しづかな湖面の上にうつしだす。

 

 

 

【関連記事】

「水はうそをつく ― たかみち『LO画集 TAKAMICHI LOVE WORKS』」



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(2010/04/19)
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