『てぃだかんかん』

 

てぃだかんかん

 

出演:岡村隆史 松雪泰子 吉沢悠

監督:李闘士男

制作:日本 平成二十二年

[新宿バルト9で鑑賞]

 

 

 

沖縄の珊瑚礁をみたダイバーが、「真つ白でキレイ!」と叫ぶのをきき、

主人公を演ずる岡村隆史は、言葉もなく幻滅する。

サンゴの白化は死を意味することさえ、しらないのかと。

そして彼は、「サンゴの養殖」という前代未聞の企てにとりくむ。

本作は、金城浩二氏の実際の活動にもとづく物語だが、

登場人物が、金の心配ばかりするのがおかしい。

環境をまもるには金がいるが、地球は銀行口座をもたないから。

いまはやりのエコロジーなのに、奇麗ごとではない。

舞台が沖縄なら、それでよいのだ!

CGではえがけない、エメラルドの海。

どんな照明器具より重宝する、太陽光。

たとえ身も蓋もない話でも、水と光がすべてをつつみ、うつくしく輝かせる。

 

 

 

われらヤマトンチュは、なぜかウチナンチュを理想化し、

沖縄は善人だけが住む島とおもいたがる。

ありがた迷惑とは、まさにこのことだ。

だから沖縄ヤクザの抗争が題材の、北野武監督作『ソナチネ』(平成五年)は、

偏見を逆手にとつた映画として評価できそうだ。

あの日差しのしたで人は苛立ち、そして暴発する。

 

 

ヤクザ顔の國村隼は、本作では漁業組合の組合長の役。

島中の愛人にうませた子供が四十人いて、

全員あつめて一つのマンションに住まわせる、剛の者だ。

六月公開の北野監督のヤクザ映画、『アウトレイジ』にも出演した。

 

 

 

ちなみに岡村隆史には、すでに三つの主演映画がある。

お笑い稼業の片手間に、アルバイト気分でつとまる仕事ではない。

撮影初日。

午前三時にオールナイトニッポンの生放送をおえ、

六時の便で羽田をたち、九時に沖縄に上陸。

その足で知念漁港にむかい、國村隼と対決した。

セリフが頭からとんで、なにもできなかつたらしい。

 

 

高利貸しの店先で、涙する岡村。

子供から「お腹いつぱい御飯をたべたい」といわれ、

サンゴをそだてる夢をすてるべきか迷う。

多忙なテレビの人気者ゆえ、たしかに散漫な芝居だつたが、

さえないけれど、ひたむきな男の生きざまが共感をよぶ。

これは、たけしには出せない味だとおもう。


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源氏新喜劇 ― 女三宮と浮舟をめぐつて

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小生、『あさきゆめみし』さえ読んだことのない源氏知らずだが、

一月に書評の形で、『源氏物語』に関して皮肉つぽく書いた。

「古典文学にも造詣が深いなんて!」と思われたかつた。

しかし投稿したその日に、miriさんからコメントがよせられる。

「今回、男性の解釈に、ただただ驚くばかりです」と。

PCのまえで愕然とした。

博識を自慢するどころか、作品世界、文学、そして女について、

自分はなにも分つていないことが露呈した。

だから今回は、敗者復活戦です。

 

 

 

問題は、女三宮がよんだ和歌にある。

 

夕露に袖ぬらせとやひぐらしの鳴くを聞く聞く起きて行くらむ

 

源氏のわかい正妻である彼女は、強引にせまる柏木をこばめず関係をもつ。

ついに懐妊にいたるが、それが判明したばかりのころ、

なにもしらぬ寝取られ亭主がおとづれ、のんきに昼寝をする。

やがてひぐらしの鳴き声がきこえ、帰り支度をはじめた源氏に対し、

女三宮は媚態もあらわな歌をつくつた。

あなた、帰らないで。

丸谷才一の解釈によると、「ひぐらし」は閨での嬌声のたとえだ。

さつきあんなに激しく抱いたくせに、泊つてくれないなんて、ひどい人ね。

そう口をとがらせる彼女の胎内には、ほかの男とのあいだの子がいた。

無論、女三宮がおかれた境遇は同情にあたいする。

光かがやくスーパーマン、源氏の君の怒りをかうことは、

宮廷からの母子ともどもの追放を意味するから。

それでもやはり、ボクは彼女のヌケヌケとした態度が理解できない。

あまりに芝居じみていて、異星人のふるまいにおもえる。

 

 

 

あきれるほど理知的な女流作家は、この哀切なライトモティーフを、

「宇治十帖」で反復し、長大なオペラを完璧なものにした。

浮舟のことだ。

東国そだちの姫君は、源氏の子の薫にかこわれる身だが、

薫のふりをして忍んできた匂宮に、力づくで犯される。

生きるのがつらい、出家したいが口癖の高貴な人物が、

言葉と裏腹に愛欲にまどい、道をあやまるのが『源氏物語』。

浮舟はただおびえ、動顛するばかり。

波にもまれる、一艘の小舟。

ボクはそんな浮舟がすきだ。

この世に存在することが悲劇だとおもつていそうな女。

毛量がゆたかで、洗い髪が乾かないのがつらいだけで、絶望する女。

もらわれた子犬が、ふるえながら一夜をすごしたあと、

翌朝は元気に尾をふつて、あたらしい飼い主にとびつくことがある。

浮舟も、あれほど恐れていた匂宮になつく。

あつさりと情にほだされる性格も、かわいらしい。

 

降り乱れみぎはに氷る雪よりも中空にてぞわれは消ぬべき

 

この歌をしるした紙は、匂宮に破り捨てられる。

「中空」という語が、中ぶらりの三角関係を連想させるのが不快だから。

ボクはよくできた歌だとおもうが、皇子にしてみれば、

暗黒地帯からきた女の教養など、一顧だにする価値もない。

 

 

 

中空に消える願いがやぶれた浮舟は、宇治川に身をしづめる。

第五十二帖にしてはじめて、宮廷人は現実を目のあたりにした。

仏の教えでは糊塗できない、ありのままの人生を。

身分いやしい姫君の蛮行が、王城を恐怖でゆすぶる。

でもボクは、彼女の行為は理解できる。

どうにもならないなら、選択肢はひとつだ。

余計な小芝居をうつ必要などない。

大長編の最後のヒロインを、東国出身として造形したのは、

作者の天賦の才ゆえとしか言い様がない。

これがなければ『源氏物語』は、吉本新喜劇などとおなじく、

関西ローカルの小説として読まれるだけで、

「日本の大古典」して珍重されることはなかつたろう。

敷島を切り裂く深淵がそこにあり、千年後の東国の読者すら戦慄させる。


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