墜ちたカワセミ ― JFL 前期第13節 町田ゼルビア-アルテ高崎
JFL 前期第13節 FC町田ゼルビア-アルテ高崎
結果:2-3 (1-2 1-1)
得点
【町田】37分 雑賀友洋 64分 雑賀友洋
【高崎】28分 秋葉勇志 (PK) 45+1分 一柳穣 58分 一柳穣
会場:町田市立陸上競技場
[現地観戦]
予想をはづすことに定評のある当ブログだが、第11節に、
沙漠化する野津田のフィールドをあやぶんで、
「ガイナーレ鳥取の呪いだ」と書いたため、また恥をかいた。
首位をとりもどすべく鳥取に遠征したゼルビアを、
灼熱の砂丘ではなく、なんと暴風雨がむかえうつ!
日本海の荒波に飲みこまれた水鳥。
ぬかるみで二点差をひつくり返され、息もたえだえ町田に舞いもどる。
つまりスタジアムを支配するのは、呪いではなく、ただの偶然だつた。
七連勝でむかえた五月、ゼルビアは「一勝四敗」という成績をのこした。
だれも予測できない、おそるべき急降下だ!
きのうの試合も、あきらかに力量不足の武部陽介主審が、
町田市民の週末を不毛なものにした。
くわしくは「今日のゼルビア」で紹介されているブログを参照してほしいが、
個人的には、ボールが目の前でサイドラインをわつたのに、
主審に無視された相馬監督が、下をむいて首をふる様子が印象にのこる。
「こんなバカに真剣勝負を託している、自分が哀れだよ」
どちらかというと大人しい野津田の観客だが、
鬱屈が次第に罵声として暴発し、ちかくの席のママをふるえあがらせ、
幼い娘をだきしめつつ、二度とここには来ないと誓わせた。
あと何度か羽ばたけば天頂に達するとおもわれたカワセミは、
竜巻につかまり、唐突に錐もみ降下をはじめた。
大量失点をとめられず、「町田ザルビア」と悪口をいわれる。
ボクが首をかしげたのは、ボールガールの不手際ぶり。
どこから連れてきたんだ?
球を拾えなかつたり、見当ちがいの方向に投げたり、
選手がもとめても大事に抱えたままだつたり。
下部組織の男の子にまかせれば、引き分けに持ちこめただろうに。
地域密着の理念をかかげ、アットホームな空間を提供するゼルビアだが、
スタジアムでは天気予報に関係なく嵐がふきあれ、
ピクニック気分の家族をモミクチャにする。
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ドゥルー・バリモア世代 ― 『ローラーガールズ・ダイアリー』
ローラーガールズ・ダイアリー
Whip It
出演:エレン・ペイジ マーシャ・ゲイ・ハーデン クリステン・ウィグ
監督:ドゥルー・バリモア
制作:二〇〇九年 アメリカ
[TOHOシネマズ シャンテで鑑賞]
縁があつて、よくテレビに出ている男の子と話したことがある。
おもわず見とれる美少年だが、その顔に不幸の陰がきざしていた。
子役ほど、子供らしくない子供はいない。
年相応に見えても、それは大人が期待する「コドモ」の役を演じてるだけで、
「本当の自分」は別のどこかにいるが、その場所を自力でさがすには幼すぎる。
だれも助けてはくれない。
オーディションで落とされるのもつらいが、
むしろ子役として成功すればするほど、彼らはより不幸せになる。
ギョーカイ人がチヤホヤしてくれるのに、
いまさら学校の勉強や、友人との遊びなんてバカらしくて。
そもそも周りが、自分を「ゲーノー人」としてしか見ない。
そして年齢が「子役」にふさわしくなくなつたとき、世界が崩壊する。
ただひとり、傷ついた心をかかえて。
一九八二年の映画『E.T.』の撮影風景。
左がスピルバーグ監督、右が六歳のドゥルー・バリモア。
監督はよい映画をつくろうと力をつくしただけだが、
完成した作品は、金髪の美少女を破滅にみちびいた。
くわしくは知らないが自伝によると、九歳で酒、
十歳でタバコとマリファナ、十二歳でコカインに手をだし、
子役の定年となる十四のとき自殺をはかるが、これは未遂におわつた。
母とは絶縁し、いまだ和解できてないらしい。
以上は、ドゥルー・バリモア監督作『ローラーガールズ・ダイアリー』を、
深いところまで理解するのに、欠かせない情報です。
「カナダの蒼井優」ことエレン・ペイジは、テキサスの田舎町でくらす地味な十七歳。
偶然みかけたローラーゲームの選手の姿に衝撃をうけ、
自分もスケーターとして試合に出ようと発心する。
しかし古風で石頭のママが、許してくれるはずがない!
母役のマーシャ・ゲイ・ハーデンと、妹役のユーレイラ・シール。
ママがなにより情熱をかたむけるのは、地元の美人コンテスト(ビューティ・パジェント)で、
娘二人をかつての自分とおなじ様に、優勝させること。
ミスアメリカを夢みるオシャマな妹は、巨大なトロフィーを獲得するが、
不器用な姉はカラッキシで、怒られてばかり。
それにしてもユーレイラちやんは、『E.T.』のガーティみたいに愛くるしい!
実はこの画像のふたりは、本当の親子。
ママと一緒で安心だから、あんなにイキイキしているのだ。
子役で苦労したバリモア監督の優しさが、銀幕からつたわる。
帰りの車内でお説教。
この構図は、子供のころの監督の胸中そのものだろう。
左が「子役」としての自分、右がママの「期待」。
仕事は嫌いではないし、現場で大人に褒められれば嬉しい。
なによりママに喜んでもらうのが、わたしの一番の望み!
でも「本当の自分」は、後部座席にいる。
気持ちをどう表現すればよいかわからず、途方にくれながら。
親にかくれて古いスケート靴をもちだし、チームにくわわる。
コーチもおどろくスピード。
なんだ私つて、ローラースケートが得意だつたのか!
自分から挑戦してみて、はじめて気づいた。
バンドをやつてる、イケメンの彼氏もできたりして。
楽しいこと、幸せなこと、身近にこんなに隠れてたんだ。
やりたいことをやるだけで、世界はこんなに違つて見えるんだ。
個性あふれるチームメイト。
ちなみにバリモア監督の藝歴は三十五年で、年齢とおなじだ。
生後十一か月のころから仕事をしているから。
なので初監督作でも、配役や演技指導の腕前については、
だれもケチをつけられそうにない。
特にたよれる先輩、クリステン・ウィグ(後列左端)がよかつた。
エレン・ペイジとじやれあう。
妹分の魅力を引き出してあげたい、という思いが感じられる。
本作はお気楽なコメディで、爽快感のあるスポーツ物だが、
それでもあちこちでホロリとさせられる。
人生とは、愛であり、笑いであり、友であり、
そしてそれを手に入れる過程で得る家族からの支えであると思う。
つまりこの作品なら、そのすべてがローラーゲームという
すごくユニークな背景の中で描けると思ったの。
私が語りたかったテーマが、
ここにはまるで惑星が一列に並ぶように完璧に揃っていたの。
映画プログラム「ドリュー・バリモア インタビュー」
取材・文:中村明美
ドゥルー・バリモアにとつて「母と娘の関係」は、ありふれた主題ではない。
どれだけ華やかな業界にいても、夜ごとに彼女をなやませ、
そのたびに身を切られる様な痛みをおぼえる話だろう。
それでも元子役は、それなりに経験をつんで、
ようやく自分自身の心に向きあう勇気をもてた。
プレミアでスピルバーグ氏と肩をならべる。
今度のツーショットは、「同業者」として。
なんとも感慨ぶかい。
ボクらは『E.T.』みたいな大がかりなファンタジーをみて育つたのに、
現実世界は年々ひどくなる一方で、丸眼鏡の爺さんにだまされた気もする。
でもいまだに心のどこかで、さすがに異星人ではないにせよ、
奇跡が世界の片すみで起きるのではないかという、希望をすてられない。
そんなボクは「ドゥルー・バリモア世代」の一員なんだと、ふと気がついた。
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真説・本能寺の変 ― ZAZEN BOYS「Honnoji」
Honnoji
ZAZEN BOYSのアルバム『ZAZEN BOYS 4』収録曲
作詞・作曲:向井秀徳
発行:平成二十年 MATSURI STUDIO
男子大学生の「へりおん」さんは、ある日アニメイトで、
チョコン帽(ドレスハット)をかぶつた大柄な女を目撃した。
もうアニメイト行きたくない。
こんな御方がいた。
![]()
(中略)
以前アニメイトに腐女子が多すぎると文句を垂れたけど、
ここにきてついにボスが現れたといったところでしょうか。
相変わらず店内の一角どころか五角、六角を占める勢いの
腐女子向けコーナーに、以前にもまして多い女性客。
感じる居心地の悪さ。
『From あした』(へりおんさんのブログ)
世間から邪険にあつかわれるオタク男子だが、
最近では、オタクショップにすら居場所をうしないつつある。
我が軍は「腐女子」に蹂躙された。
個人的におそろしいのは、敵が「歴史」を作戦目標にすえたこと。
これはPSP用ソフト『戦国BASARA バトルヒーローズ』の待ち受け画像。
伊達政宗と真田幸村が鍔ぜりあいをする。
ふたりは「大阪の役」で対陣したが、そのころは五十歳ちかい老人だ。
だが脳が腐敗した女子は、都合のわるい史実を黙殺する。
武将は箸も持てそうにない、華奢な美青年でなくてはならない。
たまにチャンバラしたら、あとは男同士でベタベタイチャイチャ。
さらに腐女子軍は、調子にのつて主従関係を拡大解釈し、
忠誠心を同性愛にすりかえ、戦国武将のホモ行為を妄想する。
なんという冒涜!
ボクが数万の軍勢をうごかせるなら、すべての腐女子を比叡山にあつめ、
ひとまとめに焼き討ちしてやるだろう。
ZAZEN BOYSの曲に、戦国時代のゲームの映像をのせたもの。
鼓膜をやぶる大音量で、腐女子にきかせたい。
いななく悍馬の様に、リズムが駆けぬける。
急所をねらい突きこまれる、みじかいギターリフの折り重なり。
向井秀徳は、うつろな面持ちで謡いをものす。
本能寺で待ってる…
本能寺でずっとずっとずっとずっと待ってる
「本能寺の変」に、新説あらわる。
織田信長はそこで、明智光秀の謀反をまつていた。
ウィキペディアの該当ページをひらくと、なぜ光秀は叛乱をおこしたか、
野望説に怨恨説に黒幕説など、なんと十五もの解釈が列挙されている。
そのすべてが、あきれるほど説得力がない。
ボクはあのヘボサイトのいじりかたを知らないので、
どなたか「信長誘導説」を追記してくださいませ。
委細は、つぎの段落にかきます。
『戦国合戦 詳細地図』(インフォレスト)
天正十年六月二日、一万三千の兵をひきいて光秀が丹波亀山城をたつたとき、
京は本能寺に駐留する信長のまわりには、百人程度の小姓しかいなかつた。
赤子の様な無防備ぶりだ。
毛利攻めにてこずる羽柴秀吉を支援するため、配置がえをするなか、
偶然うまれた軍事的空白を見逃さない、光秀の智謀をほめるべきか。
しかし「Honnoji」を聞いていると、信長の覚悟のほどがわかる。
風雲児は、家臣をけしかけていた。
下剋上は上等。
兵はいくらでもくれてやるから、できるものならやつてみろ。
オレは、逃げも隠れもしない。
うつけの殿の狂気にあおられ、郎等は血眼になりたたかい、
怒涛のいきおいで天下に武が布かれた。
唯一の誤算は、マジメな光秀が挑発を真にうけたこと。
アメリカの伝説的バンドのミニットメン(Minutemen)が、
本能寺の変のちやうど四百年後、
つまり一九八一年にに発表した「サーチ(Search)」。
この切迫した前のめりのリズムは、ZAZEN BOYSの音づくりに、
おそらくヒントをあたえたはずで、蛇足かもしれないが紹介した。
ミニットメンとはなにか?
アメリカ独立戦争では、ライフルをあやつる民兵が活躍した。
森にひそみ、イギリス兵を狙撃する。
召集されて一分でかけつける兵士を、ひとは「ミニットマン」とよんだ。
かの国で知らぬものはいない、建国の英雄。
洋の東西をとわずミュージシャンは、ロックの神話をつむぐとき、
戦場に命をかけた男たちを参照する。
そしてそれは、腐女子の妄想にホモとして配役するより、
いくらか名誉あるはからいだろう。
女たちよ。
現在と未来は、あんたらにくれてやる。
だが歴史は、オレたちのオモチャだ。
指一本だつて、ふれさせはしない。
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『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』
冷たい雨に撃て、約束の銃弾を
復仇 (英題:Vengeance)
出演:ジョニー・アリディ アンソニー・ウォン ラム・カートン
監督:ジョニー・トー
制作:香港・フランス 二〇〇九年
[新宿武蔵野館で鑑賞]
「Yahoo!知恵袋」で、おもしろい話題をみつけた。
「復讐殺人が起きないのはなぜ?」という質問に、多数の回答がよせられる。
もし愛する人を殺されたら、ボクならワタシなら、絶対犯人を殺しますよ!
そんなの、あたりまえぢやないですか!
バカがバカをおしえるバカ学校の、失笑必至の授業参観だ。
人間は、そんなに立派なものではない。
死者をとむらい、傷ついた自分の心をなぐさめる手段は複数あり、
そのなかで人は、可能なかぎりリスクの低いふるまいを選ぶ。
あたりまえの話だ。
だからこそ、「英雄」がたたかう物語の需要がある。
マカオにあらわれたフランス人、ジョニー・アリディ。
娘に瀕死の傷をおわせ、婿と孫をころした連中に復讐するため、
三人の殺し屋をやとい、みづからも銃を手にとる。
フランス人歌手のしやがれ声と、ジョニー・トー組の役者の視線が交錯する、
はりつめた空間に、失笑をはさむ余地はない。
冒頭でおそわれるシルヴィー・テステューは端役だが、
世界のすべての不幸をせおう様な演技は、
たとえほんの数分でも、否応なく観客の心のトリガーをひいた。
しかしこの奇妙な映画は、話がすすむにつれ、遺恨がうすれてゆく。
老いた父は、脳に障碍をおつているから。
ジョージ・ファン。
娘を殺させた男の名だ。
仇の顔をおぼえられないので、遊底にメモをした。
ときおり銃に目をおとし、標的が誰かたしかめるために。
もはや「ファン」が何をした男かさえ、記憶にない。
これより滑稽な復讐譚があるだろうか。
英雄が存在しない時代に、あえて映画作家は神話をつむぐ。
盾がわりの、圧縮した紙のかたまりを転がしながらの銃撃戦。
どう見てもこれはサイコロで、死闘も所詮は遊戯にすぎないことを、
ジョニー・トー監督は意地わるく強調する。
オモチャの要塞が包囲され、殺し屋はひとりずつ射止められる。
なんのために死ぬのか、当人もわからないまま。
依頼人はすべて忘れているから、契約をやぶられても困らない。
たとえ任務を完遂したところで、だれも幸福にできない。
それは、アガリのないすごろくの様なものだ。
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エレクトロ・ベイビー
人混みが苦手なので新宿にゆくときは私鉄にのるが、
駅をでると、悪趣味な宣伝カーがボクをむかえた。
上にのせた高円寺駅の看板と、ほぼおなじデザインだつたはず。
甲高い女声で「バ~ニラ、バニラ、高収入!」と、
テクノのリズムにのせて、ひたすらくりかえす。
右の女はいかにも水商売の格好だが、左はグレーのセーターに眼鏡で、
どうも女子大生かOLを釣ろうとしているらしい。
そして彼女たちの目には、「¥」マークがかがやく。
むかしの少女漫画なら星を描くところだが、
無論この二十一世紀に、古くさい子供だましは通じない。
不快には思わなかつた。
むしろ薄汚れた街にあまりに似合いで、感動したくらいだ。
紀伊国屋の八階、児童書売り場にむかう。
普段は無縁の地だが、甥の三度目の誕生日をいわうため、
「絵本を買つてこい」と母がボクに命じたのだ。
父とはいまだ冷戦がつづいているが、自分の人生のなかで、
なぜか母の命令にそむいた記憶がない。
今度は、つかれた顔のエレベーターガールにむかえられる。
失礼を承知でかくが、それは風俗嬢よりいくらかマシ、
というグレードの職業ではないだろうか。
せまい箱に閉じこめられての、はてしない上下運動。
でもエスカレーターのないこのビルでは、エレガの助けが必要だ。
ボクは絵本がきらいだ。
児童書売り場にくると、心底ウンザリする。
母はボクにたくさん絵本を読み聞かせたろうが、
それに十分満足したとは思えない。
子供だましを許せない子供だつたから。
どうせ読むなら、一番よい本を読みたい。
絵本の名作、たとえば『はらぺこあおむし』の全篇より、
『渋江抽斎』や『アンナ・カレーニナ』の一節を読んでほしかつた!
そんなボクがえらんだのは、「音の出る写真絵本シリーズ」の一巻、
『うんてんしよう! やまのてせん E231けい』(交通新聞社)だ。
右下の七つのボタンをおすと、発車ベルやらアナウンスやら、
電車に関する音がなり、運転手の気分をあじわえる。
予想どおり三歳児は、くるつた様に熱中した。
「いまから電車(小田急線)に乗りにゆこう!」とさわぎ、
夕食の準備をはじめた家族をこまらせる。
子供が本当に好むのは、心やさしいアオムシではなく、
首都を驀進する鉄のカタマリなのだ!
しかしポツリと、「アナタは乗り物に全然興味なかつたわね」と母がいつた。
たしかに、いまだに鉄道も車もエレベーターも好きではない。
なんでもケン少年は、電車にのつても本ばかり読んでいたらしい。
だれの教育の成果なのかは、わからない。
ひさしぶりに弟夫婦の家をたづねたのは、
先週の日曜日にうまれた姪をみるためだ。
これが初顔合わせなのに、彼女の瞼は閉じたまま。
まあ目をあけても、なにも認識はできなかつたろうけど。
それにしても赤ん坊の目には、一体なにが映るのか?
視力検査をするには早すぎるのが、残念だ。
ただその瞳に、「¥」マークが浮かんでないのは確かだ。
彼女が成人するころ、世界はどうなつているだろう。
ボクに予測は不可能だが、かしゆか風に妄想するなら、
街ゆく猫が空を飛んだりするのではないかな。
見えるものの全てが 触れるものも全てが
リアリティーがないけど 僕はたしかにいるよ
Perfume『エレクトロ・ワールド』
作詞:中田ヤスタカ
この曲を、生後一週間の彼女にささげたい。
いつかキミに、聞かせてあげたいな。
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若宮弘明『蹴球少女』
蹴球少女
作者:若宮弘明
掲載誌:『good!アフタヌーン』(講談社)第一号~
[単行本は第二巻まで刊行]
『GIANT KILLING』(ジャイキリ)という漫画が、アニメ化されるなど、
ちかごろサッカーオタクのあいだで人気を博しているらしい。
公式サイトをひらいてみた。
サッカーを、試合を面白くするのは監督だ!
おもわずマウスを握り潰しそうになる。
この宣伝文句は、「監督無用論」をとなえる当ブログへの挑発なのか!?
サッカーの監督の力量は、勝敗や試合内容の魅力の大小に、
いささかも影響をおよぼさない。
ジャイキリをありがたがる輩は、サッカーも漫画もわかつてないし、
この二つは世界最高の文化なのだから、
つまり彼らは、世界そのものを理解できていない。
さて大きく出たところで、『蹴球少女』の話をはじめよう。
流血する黒髪ポニーテールは、藤咲鈴。
名門・栖鳳学園の「男子」サッカー部をのつとり、
女子主体の混成チームを組織した、天才蹴球少女だ。
こちらは主人公の、榊原優希。
わかい世代の代表チームにも選ばれた、実力ある男子選手だが、
色じかけで見事にころび、入部を強制される。
栖鳳学園サッカー部の練習風景。
裸エプロンの股ぐらに、優希が顔をうづめる。
スポ魂の王道をゆく漫画なので、十一名の部員をそろえるため、
バスケ・空手・文藝など、他部のエースを引き抜きにかかる。
旧ユーゴやゴン中山がどうとか、たまに傾けられる蘊蓄がおもしろい。
結局罠にかかつた、元バスケ部の相原洋子。
足をつかえないので、巨乳でたくみにボールコントロールする。
『キャプテン翼』のスカイラブハリケーンに匹敵する、
驚異の必殺技「おっぱいリフティング」の完成だ!
シロウトの女子部員たちに二週間の訓練をほどこし、
強豪・龍洞高校の「男子」サッカー部との練習試合にいどむ。
女の武器も駆使しながら。
ちなみにスカートのユニフォームは、オランダで実際に採用されている。
作者はエロを描きたいのか、サッカーを描きたいのか。
そもそもなぜ、女子と男子であらそうのか。
意図を容易につかませない、混沌とした物語だ。
たとえば安藤早苗さんは、ブログでこんな感想をのべている。
おっぱいは・・・そんな風に使うもんじゃないだろう・・・
勝つ為に女の魅力を使うというのは別にいいのですが
恐喝に多用されると切ない気持ちになるです。
男子部員を追い出したのも恐喝であり、
代わりの女子をひっかけるのも恐喝であり
嫌悪感しかない。
『ただの独り言』(安藤早苗さんのブログ)
率直な意見で、ボクとしても共感できる。
だが賛否両論、むしろ多数に嫌われてこそ、作品は存在価値がある。
読むものを困惑させ、ありのままの世界を暴露する。
ダイキリだかモヒートだか知らないが、
サカオタに媚びた漫画など、蹴散らしてしまえ!
オコチャやドログバやエトーなどのアフリカ人選手を愛する、
「ななみん」こと九条七実。
身軽なので、オーバーヘッドなどの派手な技を多用するが、
部長のリンから、自重しろとたしなめられる。
なんと作者はここで、「必殺技」を否定した!
なかなかどうして、『蹴球少女』はリアリティをおもんじる。
マラドーナでさえ、悪い手本とされる。
マニアが陥りがちな、有名な選手や監督の偶像視とは無縁。
ワールドカップ開催をまえに、実在する天才蹴球少女の岩渕真奈が、
「マラドーナ監督で平気なんですかね」と、大胆に評した様に。
では、そろそろ纏めます。
本作の主題は一体なんなのか?
夕暮れの河川敷であそぶ、少年少女たち。
男女の区別などおもいもよらず、ただ楽しむことだけ考えた、あのころ。
そんなうつくしい原風景を、作者・若宮弘明はとりもどしたい。
蹴球少女はポニーテールをふりまわしながら、
崇高な使命をはたすため、たたかいつづける。
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野津田砂丘 ― JFL 前期第11節 町田ゼルビア-流経大FC
JFL 前期第11節 FC町田ゼルビア-流通経済大学FC
結果:5-1 (3-0 2-1)
得点者
【町田】
2分 木島良輔 40分 太田康介 45分 川邊裕紀
70分 星大輔 88分 山腰泰博
【流経大】
58分 早稲田昂平
会場:町田市立陸上競技場
[現地観戦]
首位をあらそうガイナーレ鳥取が呪いをかけたのか、
緑もゆる野津田公園は、砂丘と化していた。
四隅にまばらに草が生えるだけの、だだ広い沙漠。
スパイクが突き刺さるたび、足もとに砂塵がまう。
比較のため、三月二十一日の画像をはつておこう。
とりあえず全面に、植物らしきものの存在を確認できる。
町田ゼルビアは、ゆるい地盤に組織を築くのをあきらめ、
大学生相手に、単なる蹴りあいを挑んだ。
これではドッジボールとかわらない。
入場料には、青々とした芝生を維持する努力がふくまれるし、
それよりなにより、片道一時間半かけて野津田へゆくのは、
うつくしい「フットボール」を見たいからなのに!
当ブログはつねづね「監督無用論」をとなえているが、
相馬直樹が指揮するゼルビアは、格好の実例をあたえてくれる。
それは、歴代最高の左サイドバックがつくつたチームで、
一番機能していないのが左サイドバックだという事実。
あくまでボクの憶測にすぎないが、相馬監督は、
チーム在籍期間が最長の、津田和樹の攻撃力に不満の様だ。
なので今年加入した、健脚をほこる二十三歳、
斉藤広野をしきりに試しているが、いまだ適合しない。
けふも埃つぽいフィールドで、両わきの車線は大渋滞。
右翼の流れ星・星大輔は、むなしく落ちる隕石にすぎず、
逆側の半田武嗣は、退場しないだけ9節よりマシという出来だつた。
「5-1」の結果は楽勝におもえるが、砂丘にひそむアリジゴクは、
まさかの二連敗を喫したチームを、さらなる深みに引きずりこもうとした。
それでも自力で這いあがる、町田の軍隊アリ。
体調不振のいえた山腰泰博が後半19分に投じられると、
前線で身を挺し、ドッジボールをラグビーに進化させる。
両ききのスピードスター北井佑季のドリブルも、
キタイをいだかせるのに十分な切れ味だつた。
春夏秋冬がめぐるなか、生物もサッカーも循環する。
ボクも往復三時間をついやし、ゼルビアのこのシーズンを最後まで観察したい。
特に、武蔵野時代から太田康介に惚れこんでいる物好きとしては、
右側面でのパス交換からやにわに発射される、
巡航ミサイルの様に水平飛行するサイドチェンジのパスが、
北井や広野に命中する瞬間を、そろそろ見たいものだ。
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いい国作ろうイラク政府 ― 『グリーン・ゾーン』
グリーン・ゾーン
Green Zone
出演:マット・デイモン グレッグ・キニア ブレンダン・グリーソン
監督:ポール・グリーングラス
制作:アメリカ 二〇一〇年
[新宿ピカデリーで鑑賞]
イラク戦争、そんな騒動もありましたね。
年ごとに覚えるべき歴史的事件が増えるわけで、
記憶力に負担がかかる、未来の子どもが気の毒になる。
2003年。
アメリカとイギリスは、「大量破壊兵器(WMD)」が世界をおびやかす、
などの理由をあげて、イラクに対し攻撃をしかけた。
でも「2003」に、ピタリとはまる語呂合わせがない。
ボクは歴史は好きだけど、年号の暗記が大の苦手。
どれだけ興味があつても、答案に「2004」とかけばバツになる。
同時代の人間でさえ、そんな数字は覚えてないのに。
サル顔の、悪魔みたいな名前の俳優が主役で、
陸軍准尉として、WMDをもとめて宝探しに興じる。
しかし苦労して見つけた情報源を、ヘリで突如あらわれた別の部隊にさらわれる。
名指しこそされないが、この黒ヘルメットの軍団は、
陸軍の特殊部隊「デルタフォース」だろう。
映画『ブラックホーク・ダウン』での獅子奮迅の立ち回りのせいで、
任務に差支えそうなくらい、その恰好が全世界に知れわたつている。
非公式の部隊なのに。
敵にまわすには、あまりに危険な男たち。
一切の感情をまじえず突進し、ためらいなく銃弾をうちこむ。
本物の殺人機械だ。
デーモン小暮閣下が、黒ヘル打線と口論する。
上層部があたえた、内容を聞くだけで身震いしそうな任務を、
カーテンの裏側で処理するための組織に、交渉は通じない。
やるか、やられるかだ。
なまなましく、現代史がフィルムに焼きつく。
八方ふさがりとなつた小暮は、旧イラク軍幹部と接触するため、
バグダードの北にあるアジトに単身のりこむ。
イラク軍の残党に、拉致されるお人よしの閣下。
なんと物騒な平城京、もといバグダード。
当然こうなる。
とはいえ、くさつてもアメリカ映画。
ふるい西部劇の様に、このタイミングで騎兵隊があらわれるはず!
残念、お声がかかつたのは殺人機械でした。
人質もろとも皆殺しにせんと、異国の街角で大暴れ。
それにしても、ややこしい話だこと!
二十二世紀の学生が、「イラク戦争つて一体なんなのよ」と悲鳴をあげ、
教科書を壁になげつける姿が目にうかぶ。
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水の王国 ― たかみち『ゆるゆる』
ゆるゆる
作者:たかみち
掲載誌:『月刊ヤングキング』(少年画報社)平成二十年九月号~
[単行本は第一巻まで刊行]
狂犬病患者は、水をみただけで怯える恐水症状を発するが、
高校一年の仲良し三人娘の漫画をかいた、
作者たかみちは逆に、「愛水病」にかかつているのだろうか。
強迫観念の様に、全篇にわたり水がほとばしる。
あらゆるコマがうつくしい。
水泳部のみさきが、ながい足の爪先を波にひたす。
それは乙女が、みづからにほどこす洗礼だ。
天真爛漫なハルカ。
青鳩高校一年、美術部所属。
ラベルをはがしたペットボトルにたたえた真水、という画題は、
『COMIC LO』(茜新社)の表紙ですでに展開されていた。
ボトルの水滴が、少女の額の汗とまじりあう。
盛夏の湿気が、空中にエロスの火花をちらす。
しつかり者の、写真部のユキ。
ハルカのブラウスの裾がはさまつているのを、さりげなく直す。
自分はベストを着こんでいるのに、すずしい顔。
水はかすかに波うちつつ、ゆるやかに流れ、やがて平かになる。
本作のマスコットであるアオバトを、みさきが救助した。
この鳥にはなぜか、海水をのむ習性があるらしい。
海辺の町の、守り神でもある。
カメラとアオバトとハルカが直列になる、皆既日蝕よりまれな奇跡。
ところで写真では、画角のせまい望遠レンズで撮影すると、
背景が被写体にちかづく、「圧縮効果」という錯覚がある。
たかみちは、この働きを絵に多用する。
黒澤明がセットの撮影でもズームをつかい、切迫感を表現したのとおなじだ。
コンピュータ時代の空気が、焦点に凝縮される。
ある日、ハルカのせいで犬のフンをふんだユキが怒り、喧嘩になる。
しばらくして、落ちつきをとりもどしたユキがケータイをひらくと、
デジカメでとつたハルカのおもしろ写真が、待ち受けていた。
気が利くみさきは、ユキのケータイをもつてコンビニにとびこみ、
プリントサービスを利用して、即席のアルバムを二冊つくる。
なんという時代なのだろう!
少女は数々のガジェットをつかいこなし、世界をきりとり、
自分たちだけの王国を、しづかな湖面の上にうつしだす。
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はてしない物語
ウェンディといえば『ピーター・パン』のヒロインだが、
ネグリジェ姿で夜空に舞うイメージだけが鮮烈で、
当人がどんな性格だつたかは、うろ覚えだ。
セリフのないティンカー・ベルの方が、魅力的だつた様な。
でも、最近のミュージカルの広告にうつる少女をみて、
ボクははじめて、ウェンディに出会えた気がした。
演じるのは、神田沙也加。
かつて「SAYAKA」名義で活動していた、松田聖子と神田正輝の娘だ。
意外だつた。
良くも悪くも、聴衆の心臓をわしづかみにする母とちがい、
やけにブッキラボーに歌うSAYAKAは、父親似かと思つていた。
それがいまや、薄い寝間着の裾をひるがえして空を飛ぶなんて!
娘の母への思いは、きつと複雑だろう。
あんまり家にいない、お母さん。
お父さんと仲良くしてくれなかつた、お母さん。
贔屓目にみても今では時代遅れな、お母さん。
でも気づいたら、自分が昔のママみたいになつていた。
マイケル・ジャクソンがこの世から去つて、もうすぐ一年。
ネバーランドの物語は、おわらない。
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春の大三角 ― J2 第12節 ジェフ千葉-アビスパ福岡
J2 第12節 ジェフユナイテッド千葉-アビスパ福岡
結果:1-1 (1-1 0-0)
得点者
【千葉】前半26分 佐藤勇人
【福岡】前半36分 中町公祐
会場:フクダ電子アリーナ
[現地観戦]
親の金でみた試合について、親のPCでかきます。
さらつと纏めますよ。
三部リーグや女子サッカーばかりみて、鑑識眼が衰えたのだろうか、
ジェフ千葉のサッカーは難しすぎて理解できなかつた。
デリダやドゥルーズやフーコーとか、フランス現代思想の翻訳書みたいな感じ?
もともと分りづらい本を、わざわざ晦渋な日本語をえらんで訳した結果、
大型書店の専門書コーナーには、読む気のしない分厚い紙クズがならぶ。
サッカーでも、似た問題はおこる。
ボクのサッカー知識は、観戦記を公表する資格があるか怪しいほどだが、
バルセロナやスペイン代表が、評判のベストセラーであることは知つている。
千葉の出版社は、それを日本語の本として売りだしたい。
パス、パス、パス、パス、パス、パス、パス。
かたむいたピンボール台の様に、みじかいパスをつなぐ。
ボールの行きつく先がどこか、誰もわからない。
千葉の選手の目が血走り、観客は首をかしげ、福岡の選手は苦笑いする。
最大の被害者は扇谷健司主審か。
試合が終るまで、黄色い十一人の意図をつかめないまま、
漫然としたタイミングで笛をふき、一万二千人の怒りをかつた。
ジェフの攻撃をうけもつ六名は、ふたつの三角形をなした。
アビスパ福岡は明確に、外側の布陣をねらう。
物流の中継点となる、中後雅喜の周囲に検問をはる。
谷澤と倉田に前をむかせず、左右の翼をもぎとる。
そして孤立した小三角形、ネト・佐藤・工藤は各個撃破した。
飾り気がなく、わかりやすい。
ジェフよりずつと美しいサッカーだつたと、認めざるをえない。
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彼女のこと
いま両親のすむ家にいるのだけど、夕食の席で、
父が岩渕真奈の話題をふつてきて、動揺した。
このブログの存在がばれたとおもつた。
どうやら、NHKの特集番組をみただけらしい。
「名前なんていうんだつけ、オマエしつてるか?」
「まあ、一応」
「あの子は、代表の10番になれるのか?」
「よく分らないけど、きびしいでせう」
ポーカーの顔つきでのりきつた。
父は息子が、岩渕真奈というサッカー選手について、
世界で一番文字数をついやしている人間だとしらない。
すくなくとも、いまのところは。
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Minuano『ある春の恋人』
ある春の恋人
Minuanoのアルバム
発行:ポリスター 平成二十二年
Minuanoは、パーカッショニストで作編曲家の尾方伯郎と、
Lampのヴォーカリストである榊原香保里の、ふたり組み。
イマドキ音楽を紹介するなら、「MySpace」のリンクをはれば作法にかないそうだが、
今回はあえてiTunesを立ちあげていただこうかな。
そして、「全曲プレビュー」をクリックしてください。
早足のブラジル風のリズムの上を、ふわりと榊原の声がたゆたう。
まどろみながら眺める車窓の風景は、つぎつぎにうつろう。
しらない国の映画の、予告編の様に。
本作におさまる九曲のうち五つは、榊原が詞をかいた。
歌詞カードをひらくと、ほかの芝田那未によるものと比べ、
言葉のひびきが硬質で、陰影にとんだ映像をよびおこす。
イマドキはやらない、文学少女ぶり。
本棚に、思潮社の「現代詩文庫」がならんでいそうな。
以下はアルバムの第一声。
ニコライ堂、聖橋、アテネフランセの道
いつもの待ち合わせ場所へ
御茶ノ水、水道橋、市ヶ谷駅で二人
雨の日は四ッ谷のカフェーで
「宵街」
お茶の水を中心に、千代田区の地名がうたわれる。
地図をみよう。
ニコライ堂・聖橋・アテネフランセは、赤い矢印の通りにある。
人身事故とやらで、スリコギの様に客をつぶす「中央線快速」でなく、
閑散とした車両がのんびりすすむ、「総武線」の駅名なのがうれしい。
スキップされた、飯田橋駅の立場がないけれど。
太古のむかし、「渋谷系」なんてジャンルが持て囃されたが、
あと東京の音楽といえば精々、下北沢とか高円寺とか、
フェイクとしての椎名林檎の「新宿系」とか。
千代田区の曲など、きいたことはない。
「雨の桜田門」や「神保町心中」みたいな歌があつてもよいのに。
天皇の住居のそばだから、ミュージシャンは敬遠するのかな?
たとえばお茶の水は楽器屋がならび、学生街でもあり、
思い入れのある人は少なくないはずだけど。
勿論文学少女は、本の外にすむ誰にも気兼ねしない。
ガラスのむこうの、夕闇にとける外堀の水面を、
ただ目にうつるまま、胸の奥の手帳にかきとめる。
木曜の雨行く宛もなく
薄紅色した切符ひらひらとたよりなく
手帳の中で眠る
「曇りガラスに街が流れる」
薄紅色の切符。
自分が鈍感なのは承知だが、まさか切符の色が歌の題材になるとは。
改札口でピッピッと電子音をならすたび、ボクはかなしくなるだろう。
音楽理論や演奏技術をしらないので、つい歌詞の話にそれる。
そんなボクでも本作の音づくり、つまりコード進行やリズムが、
JR東日本のダイヤグラムより精緻に編まれ、円滑に運行しているのは分る。
榊原香保里の歌声は、各駅停車の速度で迷いなくすすむ。
春がすぎてゆくのを、惜しまずにいられないほど。
『ミュージック・マガジン』二〇一〇年五月号(撮影:栗原論)
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東部戦線異状なし ― ベレーザとゼルビア
先月、岩渕真奈をみようと埼玉スタジアム第2グラウンドにいつたら、
前の席に、目障りな厚化粧の女がいた。
となりの男がビデオカメラで、ずつと横顔を撮影している。
あの程度の器量の藝能人もいるのかと、不思議におもつた。
後でわかつたのは、それは「速報!スポーツLIVE」というテレビ番組の取材で、
女は銀メダリスト浅田真央の姉、浅田舞だということ。
疑問は解決した。
しかし放送がなされると、岩渕ファンのあいだに衝撃がはしる。
浅田姉がぶっちーの手帳をパラパラめくり、「バレンタインはどうしてたの?」。
「なんもないです」と、妙にあわてる十七歳。
フィールドでは憎らしいほど堂々としてるくせに……。
オレらが味スタで凍死しかけてるとき、内心はハッピーバレンタインだつたのか!
2ちゃんねるの岩渕真奈スレには、「あれは確実に男がいる」、
「サッカーに専念しないと大成できない」、「澤をみならえ」などなど、
大きなお世話というしかないレスがならぶ。
ちなみに、ボクは書いてませんよ。
木曜日にボクはノイズに耳をふさぎ、大和スポーツセンターにいた。
サッカーそのものは純粋で、フィールドに夾雑物はない。
手帳とか、チョコレートとか、みにくい嫉妬とか。
しかし聞きなれたチャントが響くなか、純白のアウェイ用ユニフォームをまとい、
整然と入場するジェフレディースをみた瞬間、心のスイッチがきりかわる。
はじめて、岩渕真奈が「敵」におもえた。
昨年十一月の悲劇のあと、ジェフの存在など忘れていたのに。
ぶっちーは、身長差十五センチの細川元代に追跡され、
中央車線の渋滞のなかで立ち往生。
複雑な心境だつた。
後半14分、ゴールキーパーに勝ち目のうすい空中戦をいどむが、
あつけなく撃墜されて頭をうち、小林弥生と交代。
気が気でない。
試合は、ジェフの逆転負けでおわつた。
ぶっちー手作りのチョコよりずつと、ほろ苦い結末だ。
なでしこリーグ 第5節 日テレ・ベレーザ-ジェフユナイテッド市原・千葉レディース
結果:3-1 (1-1 2-0)
得点者
【ベレーザ】21分 大野忍 55分 大野忍 61分 宇津木瑠美
【ジェフ】14分 清水由香
会場:大和スポーツセンター競技場
[現地観戦]
まあ所詮、女子サッカーなどママゴトにすぎない。
みじかいスカートをひるがえして回転するフィギュアスケートとか、
女に似合いのスポーツは軟弱なものばかり。
男なら、男同士の真剣勝負に燃えなくては!
日曜はスイーツでなく、スパイスのきいた肉料理をもとめ、
町田ゼルビアが連勝記録を「八」に更新するのを見にでかけた。
これはもう、鉄板だ。
勝敗は時の運だが、いまのゼルビアは不様な試合をしないと断言できる。
充実した戦力、ふえはじめた観客、頭脳明晰な指揮者。
問題は、山奥のスタジアムへのお粗末なアクセスだけ。
野津田に参戦するのも今年で四回目なので、
ノロマなボクもさすがに学習し、一時間まえに到着。
ファラフェルピタサンドをのんびり味わう。
晴天にもめぐまれ万事快調、実によい気分だ。
前半27分、町田ゼルビアのミッドフィールダー、
半田武嗣はレッドカードをしめされ、退場処分になる。
中村太主審がなにをみた、もしくは妄想したかは分らない。
肘打ちの身ぶりをしていたが、いづれにせよ唐突な判定であり、
黒服のテロリストが、6573人の休日を不愉快なものにした。
それでも勝負師の相馬監督は、ゼルビアがほこる二本の鎗、
フォワードの木島と勝又をさげずに、賭けにでる。
合理的なプログラムのはずだが、またバグが顔をだした。
旗あげゲームの様に、副審がオフサイドの判定をくりかえし、
業を煮やした二枚看板は、俊足にたよれなくなる。
試合終了後、無邪気に跳ねまわるFC琉球。
妹の七光りでテレビにでる女とおなじく、実力で得た栄冠ではないのだが。
JFL 前期第9節 FC町田ゼルビア-FC琉球
結果:1-2 (0-0 1-2)
得点者
【町田】90+1分 木島良輔
【琉球】69分 鈴木寿毅 72分 國仲厚助
会場:町田市立陸上競技場
[現地観戦]
ぶっちー情報は、掲示板「岩渕真奈 閃光の天使」でも紹介しています。
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『てぃだかんかん』
てぃだかんかん
出演:岡村隆史 松雪泰子 吉沢悠
監督:李闘士男
制作:日本 平成二十二年
[新宿バルト9で鑑賞]
沖縄の珊瑚礁をみたダイバーが、「真つ白でキレイ!」と叫ぶのをきき、
主人公を演ずる岡村隆史は、言葉もなく幻滅する。
サンゴの白化は死を意味することさえ、しらないのかと。
そして彼は、「サンゴの養殖」という前代未聞の企てにとりくむ。
本作は、金城浩二氏の実際の活動にもとづく物語だが、
登場人物が、金の心配ばかりするのがおかしい。
環境をまもるには金がいるが、地球は銀行口座をもたないから。
いまはやりのエコロジーなのに、奇麗ごとではない。
舞台が沖縄なら、それでよいのだ!
CGではえがけない、エメラルドの海。
どんな照明器具より重宝する、太陽光。
たとえ身も蓋もない話でも、水と光がすべてをつつみ、うつくしく輝かせる。
われらヤマトンチュは、なぜかウチナンチュを理想化し、
沖縄は善人だけが住む島とおもいたがる。
ありがた迷惑とは、まさにこのことだ。
だから沖縄ヤクザの抗争が題材の、北野武監督作『ソナチネ』(平成五年)は、
偏見を逆手にとつた映画として評価できそうだ。
あの日差しのしたで人は苛立ち、そして暴発する。
ヤクザ顔の國村隼は、本作では漁業組合の組合長の役。
島中の愛人にうませた子供が四十人いて、
全員あつめて一つのマンションに住まわせる、剛の者だ。
六月公開の北野監督のヤクザ映画、『アウトレイジ』にも出演した。
ちなみに岡村隆史には、すでに三つの主演映画がある。
お笑い稼業の片手間に、アルバイト気分でつとまる仕事ではない。
撮影初日。
午前三時にオールナイトニッポンの生放送をおえ、
六時の便で羽田をたち、九時に沖縄に上陸。
その足で知念漁港にむかい、國村隼と対決した。
セリフが頭からとんで、なにもできなかつたらしい。
高利貸しの店先で、涙する岡村。
子供から「お腹いつぱい御飯をたべたい」といわれ、
サンゴをそだてる夢をすてるべきか迷う。
多忙なテレビの人気者ゆえ、たしかに散漫な芝居だつたが、
さえないけれど、ひたむきな男の生きざまが共感をよぶ。
これは、たけしには出せない味だとおもう。
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源氏新喜劇 ― 女三宮と浮舟をめぐつて
小生、『あさきゆめみし』さえ読んだことのない源氏知らずだが、
一月に書評の形で、『源氏物語』に関して皮肉つぽく書いた。
「古典文学にも造詣が深いなんて!」と思われたかつた。
しかし投稿したその日に、miriさんからコメントがよせられる。
「今回、男性の解釈に、ただただ驚くばかりです」と。
PCのまえで愕然とした。
博識を自慢するどころか、作品世界、文学、そして女について、
自分はなにも分つていないことが露呈した。
だから今回は、敗者復活戦です。
問題は、女三宮がよんだ和歌にある。
夕露に袖ぬらせとやひぐらしの鳴くを聞く聞く起きて行くらむ
源氏のわかい正妻である彼女は、強引にせまる柏木をこばめず関係をもつ。
ついに懐妊にいたるが、それが判明したばかりのころ、
なにもしらぬ寝取られ亭主がおとづれ、のんきに昼寝をする。
やがてひぐらしの鳴き声がきこえ、帰り支度をはじめた源氏に対し、
女三宮は媚態もあらわな歌をつくつた。
あなた、帰らないで。
丸谷才一の解釈によると、「ひぐらし」は閨での嬌声のたとえだ。
さつきあんなに激しく抱いたくせに、泊つてくれないなんて、ひどい人ね。
そう口をとがらせる彼女の胎内には、ほかの男とのあいだの子がいた。
無論、女三宮がおかれた境遇は同情にあたいする。
光かがやくスーパーマン、源氏の君の怒りをかうことは、
宮廷からの母子ともどもの追放を意味するから。
それでもやはり、ボクは彼女のヌケヌケとした態度が理解できない。
あまりに芝居じみていて、異星人のふるまいにおもえる。
あきれるほど理知的な女流作家は、この哀切なライトモティーフを、
「宇治十帖」で反復し、長大なオペラを完璧なものにした。
浮舟のことだ。
東国そだちの姫君は、源氏の子の薫にかこわれる身だが、
薫のふりをして忍んできた匂宮に、力づくで犯される。
生きるのがつらい、出家したいが口癖の高貴な人物が、
言葉と裏腹に愛欲にまどい、道をあやまるのが『源氏物語』。
浮舟はただおびえ、動顛するばかり。
波にもまれる、一艘の小舟。
ボクはそんな浮舟がすきだ。
この世に存在することが悲劇だとおもつていそうな女。
毛量がゆたかで、洗い髪が乾かないのがつらいだけで、絶望する女。
もらわれた子犬が、ふるえながら一夜をすごしたあと、
翌朝は元気に尾をふつて、あたらしい飼い主にとびつくことがある。
浮舟も、あれほど恐れていた匂宮になつく。
あつさりと情にほだされる性格も、かわいらしい。
降り乱れみぎはに氷る雪よりも中空にてぞわれは消ぬべき
この歌をしるした紙は、匂宮に破り捨てられる。
「中空」という語が、中ぶらりの三角関係を連想させるのが不快だから。
ボクはよくできた歌だとおもうが、皇子にしてみれば、
暗黒地帯からきた女の教養など、一顧だにする価値もない。
中空に消える願いがやぶれた浮舟は、宇治川に身をしづめる。
第五十二帖にしてはじめて、宮廷人は現実を目のあたりにした。
仏の教えでは糊塗できない、ありのままの人生を。
身分いやしい姫君の蛮行が、王城を恐怖でゆすぶる。
でもボクは、彼女の行為は理解できる。
どうにもならないなら、選択肢はひとつだ。
余計な小芝居をうつ必要などない。
大長編の最後のヒロインを、東国出身として造形したのは、
作者の天賦の才ゆえとしか言い様がない。
これがなければ『源氏物語』は、吉本新喜劇などとおなじく、
関西ローカルの小説として読まれるだけで、
「日本の大古典」して珍重されることはなかつたろう。
敷島を切り裂く深淵がそこにあり、千年後の東国の読者すら戦慄させる。
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テーマ : 文学作品【小説・戯曲・詩】
ジャンル : 学問・文化・芸術