神は二度死ぬ ― スティグリッツ『フリーフォール』

 

 

フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか

Freefall

America, Free Markets, and the Sinking of the World Economy

 

著者:ジョセフ・E・スティグリッツ (Joseph E. Stiglitz)

訳者:楡井浩一 峯村利哉

発行:徳間書店 二〇一〇年

原書発行:アメリカ 二〇一〇年

 

 

 

第一章の冒頭から引用する。

 

二〇〇八年の経済危機にかんしてただひとつ驚かされたのは、

あまりにも多くの人々が危機の発生に驚いたというその事実だった。

事態をしっかり見守っていた少数派からすれば、

あの危機は教科書どおりの実例であり、

予測することは当然可能だったし、実際に予測はなされていた。

 

知力をひけらかす癖がある、コロンビア大学のスティグリッツ教授だが、

ここまでくるとイヤミをとおりこし、むしろ清々しい。

世紀のおわり、一九九九年。

投資銀行と商業銀行を分離するグラス・スティーガル法が廃止され、

「大きすぎて潰せない」独占的な銀行がうまれる。

そして、「潰されない」ことを知つた銀行は、

過剰なリスクテークにはしるインセンティブをもつた。

自我にめざめたロボットの様に。

貧困者を餌食にする住宅ローン商品は、金融市場そのものに牙をむけ、

結果としてアメリカ政府は、世界最大の自動車メーカーと、世界最大の保険会社と、

世界最大級の銀行数社を所有する、おそるべき社会主義国家に変貌した。

「悪の帝国」の開闢だ。

金融大手九社がうけとつた1750億ドルの公的資金のうち、

330億ドルがボーナスとして重役に支給された。

勿論、収益がないので業績ボーナスがつくはずもないが、

余人をもつて代えがたい彼らは、「会社残留ボーナス」をもらう資格がある。

のこりの「利益」は、配当として株主に還元した。

 

 

 

ブッシュ大統領が行動の大半を、「9.11」(同時多発テロ)の恐怖で正当化した様に、

ブッシュ・オバマ政権下の財務省は、「9.15」(リーマン・ブラザーズ倒産)を利用する。

ウォール街に良いことは、アメリカと世界にとつても良いという信条にもとづき、

規制緩和の哲学を輸出し(住宅ローン債権の四分の一が海外に販売された)、

最後は不況を全世界に輸出した。

外国の金融機関をだまさなければ、アメリカの状況はもつと深刻になつたろう。

プロパガンダは、国内の亀裂も覆いかくす。

この三十年のあいだ、上流階層が栄耀栄華をきわめる一方、

ほとんどのアメリカ人の所得は停滞、もしくは下落してきた。

この不平等を取り繕うため、大衆に消費を奨励する。

消費すれば、自由になる。

かれらは借りた金で、巨大なスーパーの巨大なカートを満杯にした。

シャボン玉がはじけるまで。

 

 

 

足枷のない自由な市場は効率的で、過失は即座に自力で修正できる。

最良の政府は小さな政府であり、規制はイノベーションを阻害するだけだ。

いま言えば失笑をかうお題目だが、一年半まえまで、

各国の政治と経済の選り抜きはそう大合唱しながら、

地上に楽園をきづかんと新秩序建設に邁進した挙句、混沌だけをもたらした。

カール・マルクスにかわり、ミルトン・フリードマンが神となつた。

だがふたたび、神は死んだ。

神なき世界で、われわれがどう生きればよいのかは分らない。

スティグリッツ先生も、いくつか処方箋をかいている。

「大きすぎて潰せない」銀行は、組織を分割すればよいとか。

赤子によだれ掛けをつかわせる程度の幼稚さだが、

しかし、人間社会はそれすらできなかつた。

ボクは先生の口ぶりに、言うことを聞かないわがままな患者にあきれ、

ついに匙をなげた医者がみせる、あの冷淡さを感じる。





フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのかフリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか
(2010/02/19)
ジョセフ・E・スティグリッツ

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