天使の第一歩 ― 東アジア女子サッカー選手権 人民共和国戦

 

東アジア女子サッカー選手権2010 決勝大会

日本 対 中華人民共和国

 

結果:2-0 (1-0 1-0)

得点者:前半19分 宮間あや 後半16分 近賀ゆかり

会場:味の素スタジアム

[現地観戦]

 

 

 

足の裏がこおりつく。

クソ、こんなところまで守りようがない。

ティンバーランドのブーツは、ちいさな冷凍庫になつた。

うちで一番ダサイが、一番ぶ厚いコートにエネループカイロをしのばせ、

手袋に膝かけ、胃のなかにはアルコールが充満。

体の内も外も末端も、入念に防寒仕様をほどこしたが、

結局のところ、なんの意味もない。

ボクは空をとべないから。

おそろしい勢いで、体熱がコンクリートに吸収されてゆく。

歯をくいしばり、震えを最小限にとどめ、消耗をおさえた。

帰ることはできない。

視線のかなたのベンチで、ダウンコートのなかに隠れている、

キミの初見世をみとどけるまでは。

流刑地と化したスタジアムで、ボクは時の流れが一定であることを呪つた。

 

 

 

 

 

後半20分。

閃光の天使・岩渕真奈が、日本代表選手としてサイドラインをこえた。

歯の根もあわぬ身震いは、武者震いにかわる。

体の芯が白熱する。

キミがうすいジャージ一枚でたたかつているのに、

椅子でやすむボクが「寒い」だなんて、冗談でもいえない。

さつきまで身を切り裂いた強風も、そよ風に感じられる。

夢幻のごとき二十五分はまたたく間にすぎ、ながい笛がなり、

ボクは、自分がまだ極寒の地にいることをおもいだした。

ここらが臨界点だろう。

つづく男子の試合は無視し、熱い風呂がまつ自宅へいそいだ。

 

 

 

 

 

おそらく会場には、十六歳の人間国宝の両親もいたはずだ。

娘の最大の夢のひとつが実現する瞬間をみんと、

たとえ来るなといわれても、こつそり忍びこんだにちがいない。

小学二年生からサッカーをはじめた彼女は、

しばらくして、この自由な競技の美しさにとりつかれる。

そして十歳ごろには幼いなりに、将来の目標が具体化したろう。

いつかわたしも「なでしこジャパン」にはいつて、

ワールドカップやオリンピックで活躍したいな!

卒業文集に「ケーキ屋さんになりたい」と書きのこした、

甘いもの好きな、ボクの同級生たちとおなじ様に。

少女たちは、本当のケーキ屋は毎日ケーキを食べないし、

もしそうすればデブになる、なんてつまらぬ実情は考慮にいれない。

ただ岩渕真奈の似て非なるところは、その夢を数年でかなえたこと。

あの場に肉親はいなかつたかもしれない。

身長以外の、娘の成長があまりに早すぎるので、

さすがについてゆけないと、あたたかい部屋でため息をついたりして。

あくまでそれは、はじめの一歩にすぎないのだから。


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テーマ : 岩渕真奈
ジャンル : スポーツ

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苑田 謙

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