ジョホールバルから町田へ

 

ワールドカップ・フランス大会 アジア第三代表決定戦

イラン 対 日本

 

結果:2-3 (0-1 2-1 延長戦:0-0 0-1)

得点者

【イラン】後半1分 アジジ 後半14分 ダエイ

【日本】前半39分 中山雅史 後半31分 城彰二 延長後半13分 岡野雅行

会場:ラルキン・スタジアム (マレーシア)

[テレビ観戦]

 

 

 

冷静沈着、「アジアの壁」井原正巳が隊伍をひきいる。

薄笑いをうかべた中田英寿は、副将きどりでその後につづく。

国歌斉唱のときは口をつぐんだまま、よそ見をする。

なんとも小憎らしい二十歳だ。

でもあれから十二年がすぎ、傲岸きわまる彼の態度は、

いまにも途切れそうな緊張の糸をたもつための、

精一杯の強がりだつたと、あきらかになつている。

右端では、甲高い声でうたう盟友のゴンのとなりで、

カズが、手を心臓におき必要以上に胸をそらせ、

へたくそな自分の歌声に陶酔する。

このときエースは絶不調にあえでいたが、苦悩は表に出さない。

列の中ほどの目立たぬあたりに、名波浩と山口素弘がいるが、

実際はフィールド上の指揮官として、攻守の全権をにぎつており、

君が代がひびくなか、その日の作戦計画を練りなおす。

どうかんがえても、役者がそろつている。

いまのチームなんてママゴトだ。

 

 

 

試合開始の三十秒後、中盤で名波がボールをうける。

すぐさま奪い返しにくる敵をきらい、三歩後退した。

安堵するイラン陣営。

この左利きのマエストロに、前を向かせるわけにゆかない。

でも彼らは、名波がボールをもつた刹那、

左サイドバック相馬直樹が自陣に侵入するのを見のがした。

名波の左足が一閃し、イランの守備組織は崩壊する。

相馬があげたクロスは、ディフェンダーの頭にあたり、

魔法の様にゴールにすいこまれた。

判定はオフサイド。

それでも一分たらずで、チーム最大の臼砲が火をふいたわけで、

日本の優位は確定したとおもわれた。

だが、相馬は不意に沈黙する。

なんと残りの117分、二度と急襲をしかけなかつた。

 

 

 

イラン代表を指揮したバウディール・ビエイラ監督のインタビューをよみ、

相馬直樹が当時どれほど敵国を畏怖せしめたか、おもいしつた。

 

私が恐れた選手は、2人いた。相馬と名良橋(晃)だ。

彼らのスピードが、日本の攻撃の原動力になっていた。

特に相馬は、攻撃参加のタイミングが絶妙で、

あのようなタイプの選手はイランにいない。

対策として、マハダビキアを相馬のサイドに、

しかもストライカーのような高い位置に置いたんだ。

 

『週刊サッカーマガジン』(ベースボール・マガジン社)

平成二十一年十二月十五日発売号

バウディール・ビエイラ監督インタビュー

取材:田村修一

(引用の都合上、一部を改変)

 

中田やカズは優秀だが、こわくない。

屈強で老練なイランの選手ならおさえられる。

ただひとつ心許ないのは、あの左サイドバックがつかう魔術だ。

そしてビエイラ監督は、相馬の足を釘づけにするため、

韋駄天マハダヴィキアを最前線に打ちこんだ。

相馬は開始数分で、敵将の胸のうちを看破したろう。

そのうえで彼は、あえて相手の意図に順応した。

結構、コイツを道づれにできるなら、心中してやるさ。

 

 

 

後半にイランは、前線の三人の地力だけで二点をもぎとる。

サッカーでこれほどまで、計略が図に当たるのもめづらしい。

なのに彼らは突如、燃料切れをおこした。

日本とくらべて準備期間が不足していたなど、原因は複数あるが、

単純な数量の比較として、イランの中盤の選手が、

いつもの五人から、三人に減つていたことは大きい。

対して日本は、技量ゆたかな四人。

乳酸のたまつた足では、パスの速度に追いつけない。

潮流は一変し、再逆転というエンディングがおとづれた。

なにもしないことで、フィールドを支配する。

この激戦を思いだすたび、ボクは相馬直樹の、

まげて行動しない勇気、そして冷徹な知性に感嘆する。

ちなみに相馬は、ことしからJFLの町田ゼルビアの指揮をとる。

あの抜け目ない戦略家が、凡庸なチームをつくるとは思えず、

野津田で観戦するのが、いまから楽しみだ。

 

 

 

ジョホールバルでの登録選手は、以下のとおり。

 

[先発出場]

GK 20 川口能活 (ジュビロ磐田)

DF 2  名良橋晃 (引退/S.C.相模原ジュニアユース総監督)

DF 3  相馬直樹 (引退/町田ゼルビア監督)

DF 4  井原正巳 (引退/柏レイソルヘッドコーチ)

DF 17 秋田豊 (引退/京都サンガコーチ)

MF 6  山口素弘 (引退)

MF 8  中田英寿 (引退)

MF 10 名波浩 (引退)

MF 13 北澤豪 (引退)

FW 11 三浦知良 (横浜FC)

FW 32 中山雅史 (コンサドーレ札幌)

 

[途中出場]

FW 18 城彰二 (引退)

FW 30 呂比須ワグナー (引退/パウリスタFCアシスタントコーチ)

FW 14 岡野雅行 (ガイナーレ鳥取)

 

[控え]

GK 25 楢崎正剛 (名古屋グランパス)

DF 5  小村徳男 (引退)

DF 29 中村忠 (引退/東京ヴェルディユースコーチ)

MF 7  本田泰人 (引退)


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