想像力について ― 「ベルギー幻想美術館」展

ベルギー幻想美術館

クノップフからデルヴォー、マグリットまで 姫路市立美術館所蔵

 

会場:Bunkamura ザ・ミュージアム

 

 

 

「ブンカムラ」とかいう変な村の、乙にすました村役人の間をすりぬけ、

ベルギーの絵画にかこまれた途端、すさまじい便意におそわれた。

出がけにトイレにいつたのに。

ことわるのが遅れましたがスミマセン、お食事中ではなかつたですよね?

尾籠な話ながら小生は、父に似たのか胃腸がよわく、

便秘と下痢という名の友人が、数日おきに交代で訪問してくれます。

ちなみに呼吸器系統を中心とする虚弱体質は、母ゆづり。

父母それぞれの欠陥のみをつぎはぎした、不様なパッチワーク。

それがボクという人間です。

顔面蒼白のまま入口を出口として使い、

その十分後に再入場券をさしだしたときの、

村役人が假面の下にかくす薄笑いが厭わしい。

しかしこの大惨事は、わが一族の呪われた血統だけが原因ではない。

東急本店となりの地下一階にたちこめる、

ひんやりと冷たい死の臭いをかぎとつた神経が、警報をならしたのだ。

 

 

 

 

フェルナン・クノップフ『ブリュージュにて 聖ヨハネ施療院』(一九〇四年ごろ)

 

ローデンバックの小説『死都ブリュージュ』に触発されて、

写真や絵葉書をもとにかいたらしい。

運河の水面をひろめにとる構図が、衰退したふるい港町の不吉さを強調する。

空は画面から追いはらわれ、ひたすら息ぐるしい。

この絵のまえで、ボクの括約筋は重荷にたえきれなくなつた。

 

レオン・フレデリック『春の寓意』(一九二四~一九二五年)

 

図像学に無知なボクでも、三連祭壇画を模したことくらいは分る。

ただ聖マリアが青外套をまとわないなど、新趣向もこらされている。

マリアはうつとりとした面持ちで、頬紅をさした様にほんのり赤らむ。

ノンノモデルみたいだ。

多分カノジョは、男にさそわれるのを待つている。

子持ちとはいえまだ処女だから、別におかしくはない。

そうかんがえると題名も意味深長だ。

英語の辞書をひいたが、残念ながら「spring」に性的なふくみはない。

海外旅行中に「I want to buy spring.」といつても通じないので御注意を。

ベルギーでつかわれるフランス語やオランダ語はしりません。

ただ日本語の「春」はすごいです。

春のめざめ、春をひさぐ、春情、春画、売春、エトセトラ。

つぎの春がまちどおしい。

 

フェリシアン・ロップス『古い物語』(一八六七年)

 

助平な当ブログ管理人に掲載をためらわせるほどの、

悪趣味な版画を沢山つくつたロップスの油彩作品。

淑女の假面の下の、娼婦の素顔。

ありふれた題材にちがいないが、画家の希少な油彩の人物画が、

斯様に卑俗なものであるという事実は重い。

描かずにいられなかつたのだ。

 

 

 

 

ポール・デルヴォー『乙女たちの行進』(一九五四~一九五六年)

 

おほきな瞳の女が、なんら意味なくポロリと乳房をさらす、

デルヴォーの画風はボクの理解をこえている。

ただ例の女たちの、後ろ姿のうつくしさに気づいたのは収穫だつた。

浮世絵師がみたら笑い転げそうな、髪の量感のとぼしさ。

背中からでも、「女らしさ」が意地わるく歪曲される。

 

ポール・デルヴォー『海は近い』(一九六五年)

 

視線のさきに、鉛色の北海がみえる。

嘲弄する様にえがかれる裸婦のはざまで、

影をせおつた白いドレスの女が海をめざす。

その目的は、しるよしもないが。

画家も、作品をみるボクも、彼女を引き留めるつもりは毛頭ないから。

 

 

 

 

 

ベルギーの地図と、画家たちの出生地を照らし合わせるとおもしろい。

てんでバラバラなのだ。

たとえばアンソールとスピリアールトは、北海に面するオステンド。

クノップフは、北部のグレムベルゲン。

フレデリックは、王都にしてEU本部所在地であるブリュッセル。

マグリットは、ブリュッセル近郊のレッシーヌ。

ロップスは、南部のナミュール。

デルヴォーは、ドイツにちかい東部のアンテイト。

もしこれがモグラ叩きなら、プレイヤーが十人必要だ。

九州よりせまい国土で、よくこれだけ都市が機能するものだ。

高度な流通システムのおかげだろうか。

しかし交通の要衝は、つねに軍事の要衝でもある。

ふるくは、ナポレオン一世の百日天下をおわらせたワーテルローの戦い。

二十世紀には、ふたつの世界大戦。

大国同士がベルギーを庭としてたたかい、戦火は王国を焼きつくす。

ベルギーの画家の暗い想像力は、その不条理な歴史と無縁ではないだろう。


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