静かな嵐 ― 『エル・カンタンテ』

 

エル・カンタンテ

El Cantante

 

出演:マーク・アンソニー ジェニファー・ロペス ジョン・オルディス

監督:レオン・イチャソ

制作:アメリカ 二〇〇七年

[シネスイッチ銀座で鑑賞]

 

 

 

ことし観たなかで一番の駄作。

あきれはてた。

四十六歳で非業の死をとげたサルサ歌手、

エクトル・ラボーの軌跡をたどる伝記映画だが、

出しやばりな製作者が、すべてをブチコワシに。

 

 

 

右のかたです。

エクトルの(悪)妻である「プチ」に扮する、ジェニファー・ロペス。

しかし、自分が軍資金をあつめたからつて、

主役より画面を占有してよいという決まりはない。

天才歌手の浮き沈みを、繊細に演じたマーク・アンソニーではなく、

ジェニロペの巨大な尻ばかりが印象にのこる。

 

 

 

ちなみにこの二人は、実生活でも夫婦。

身も蓋もない公私混同ぶり。

これがラテン女のズーズーしさか。

それでも、当代最高のサルサ歌手とされるアンソニーは、

この役に特別な愛着があつたらしい。

 

でも彼はドラッグや酒に溺れた歌手という

解釈しかされていないのが現状なんだ。

僕はそういった風潮が嫌で、

エクトルが実際に日々感じていたことや、格闘していたことを、

僕なりに表現してみたいと思ったんだ。

1年のうち300日以上もツアーをしていたという事実を、

余すことなく伝えたかったんだ。

 

『シネマトゥデイ』

取材・文:細木信宏

 

残念ながら映画は、ヤクがどうの女がどうのと、

たわいない夫婦ゲンカの記録に終始する。

不良気取りのラテン男も、所帯をもつた途端、

女房のデカい尻にしかれるものらしい。

 

 

 

後半に、どうしようもなく美しい場面がある。

照明が落ち、閑散としたクラブで、

ルーベン・ブラデスがギターを爪弾きながら歌う。

パナマでついていた弁護士の職をすて、

憧れのエクトルがいるニューヨークにやつてきた男。

先輩歌手を題材にした自作曲を、本人のまえに捧げる。

曲名は、「エル・カンタンテ」。

 

街を歩くたび呼びとめられる

連中は言うのさ

ようエクトル、大した出世だな!

女にもてて、結構な御身分だよ

 

でも、こう聞くやつはいない

苦しいのか、泣いているのか

悲しみに暮れているのか

胸をえぐるほどの


(訳は評者による)

 

「歌手」という意味を持つこの曲が、

エクトル・ラボーを象徴する一曲になる。

夏の嵐のような束の間に、男の哀愁がほとばしる。

称賛はしなくても、忘れがたい映画がある。

欠点の多い相手ほど、ふかく愛してしまうものだから。


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