ヒロインの資格 ― 『機動戦士ガンダム』

『BLOG ホージャな人々(編集部編)』から借用

 

機動戦士ガンダム

 

出演:古谷徹 池田秀一 鈴置洋孝

監督:富野喜幸

制作:日本 昭和五十六年

[新宿ピカデリーで鑑賞]

 

 

 

その偉大な神話は、永井一郎の語りからはじまる。

目下の戦乱が、手短に概括される。

 

この戦いでジオン公国と連邦は、

総人口の半分を死にいたらしめた。

ひとびとは、そのみづからの行為に恐怖した。

 

恬淡とした口跡が、戦慄を脊髄にはしらせる。

その後のシークエンスは、比類なき精緻さ。

偵察のためサイド7に潜入するザクの、巨大なモノアイが画面をよこぎる。

監視されるフラウ・ボゥのミニスカート。

たわいない日常と、不穏な暴力が交錯する。

母をうしない錯乱するフラウ。

開始数分で、ボクの目尻から涙がこぼれそうに。

三十年まえの作品にこめられた、膨大な熱量にたじろぐ。

 

 

 

本作の白眉は、大気圏での戦闘だ。

ザクが四機いると知らされ、アムロでさえ動顛する。

戦史上はじめて、大気圏突入時に奇襲をかけたシャアだが、

大胆不敵のようでいて、その用兵は綿密。

必勝を期して、補給をうけていた。

話がちがうとわめくアムロに対し、

「あなたならできるわ」と、やさしく諭すセイラさん。

感受性するどいアムロに、しらじらしいゴマスリは通じない。

医学生でもあるセイラは明晰だから、

彼我の戦力差と戦域の危険性を、十分しつている。

それでもわたしは、あなたの才能を信じているわ。

一瞬で、アムロの全身にアドレナリンがゆきわたる。

ホワイトベース隊を心理面で主導していたのは、

マス家の養女セイラ、そのひとだ。

 

『THE SIRENS OF JUPITER』から借用

 

昭和五十四年においても、古くさく響いたにちがいない、

「アムロ、聞こえて?」といつた、新劇調のセリフまわし。

きわだつ気高さ。

ガンダムの影響下にある作品は無数にあり、傑作もすくなくない。

それなのに、どれもがモノマネじみた拙劣さを感じさせるのは、

セイラのような言い草を、再現できる役者が絶えたから。

 

 

 

ガンダムと心中するように、大気の摩擦で燃えつきんとする、

部下クラウンに対しシャアは、

「無駄死にではないぞ」と、手向けの言葉をおくる。

仮面ごしに、痛恨の念をあらわにして。

いろいろ欠点のある男だが、戦場にあつては人間味あふれる。

連邦の新兵器が大気圏を突破したことは、想定の外だが、

軌道をずらし、友軍が制圧する地域にみちびいた。

鬼神のごとき知謀。

だが、このあとが目もあてられない。

逆恨みでしかない怨念にとらわれ、旧友のガルマ・ザビをあざむき、

戦局どころか、公国全土をゆるがす損失をもたらす。

奇襲作戦を立案するとき、シャアの頭に復讐心はなかつたはず。

連邦の「V作戦」を妨害し、戦局を有利にするため全身全霊をかけた。

みづからが大気圏で危険をおかし、部下の命も犠牲に供し、

ようやく捥ぎとつた果実を、非情にも足蹴にする豹変ぶり。

狂人としか、いひやうがない。

よくいえば、この複雑さがシャアの魅力なのだが。

 

 

 

アムロと母の今生の別れの場面も、認識をあらたにした。

ホワイトベースにもどる息子の背中を、母はただ茫然と見おくる。

かえりみるのは、フラウ・ボゥだけ。

まえはフラウの表情に優越感を読みとつたが、見当ちがいだつた。

フラウにとつてアムロは、仲間であり、恋愛感情のむかう先でもあるが、

それ以上に、うちひしがれた女にふかく同情する。

多分このとき、アムロから心が離れはじめたのだろう。

『機動戦士ガンダム』のヒロインは、セイラか、ララァか、フラウか。

三通りの見解があるなか、フラウ・ボゥは例外的な立場にある。

宇宙世紀七十九年のたたかいの、ヒロインたる資格があるのに、

進んでそれを返上したように思えるから。

アドレナリンがもたらす、戦争の醍醐味をしりながら、

忌まわしい狂気に身をそめるのをためらう。

そんな心やさしいフラウを、ボクは愛している。




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古谷 徹池田秀一

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