喜劇役者の人生相談

『KEY of DREAMS』(発行:玄光社/撮影:石川信介)

 

 

 

けふは、よそのブログの話題を紹介します。

多忙ゆえ、軽めの記事でお茶を濁そうかと。

取りあげるのは、女優である北乃きいさんのブログ、

『チイサナkieのモノガタリ』

 

昨日、コメントで、
『生きるのが辛いです。どうしたらいいですか?』

という質問がありました。

 

「暑さに負けない」(七月二十八日投稿)

 

これまた重い題材だな!

 

 

 

ケータイでコメントを読むのが彼女の日課だと、

以前書いていたし、それが嘘でないのもわかつていた。

ファンに媚びて、追従口をつらねる人ではないから。

でも、毎回数百件のコメントが寄せられる藝能人ブログだよ?

呻吟して地味なヨーロッパ映画の評文を書いては、

結局なんの反応ももらえず、むなしく涙にむせぶ、

泡沫ブログの管理人とは立場がちがう。

憂鬱な言葉をおくつた本人が一番、この反応におどろいたはず。

 

私の思う事なので、

共感されない方は沢山いらっしゃると思いますが、

人生は喜劇だと私は思います。

 

その場は悲しかったり苦しかったり

つらかったりあると思いますが、

きっとその人生には楽しかったり嬉しかった事も

沢山あると思います。

 

それを人生という一つのストーリーで見てみると、

また楽しいもので、今だけ今だけだと思えるのです。

 

同記事より引用

 

「人生は喜劇」。

十八歳のセリフではない。

うるんだ瞳の奥にひろがる、荒涼たる沙漠。

 

 

 

彼女のやさしさを賛美したいのではない。

会つたこともないし、彼女の人柄なんてボクには分からない。

ただ見ず知らずの、しかも人生に絶望した相手に、

おのれの仮借ない哲学を、正面から投げつける度胸に感服。

 

ここで自分から『完』にしてしまったら

笑えないし、つまらない。

 

だから、今、落ちるならとことん落ちる!

 

そして、笑える日がきたら表情筋が痛くなって、

笑いジワができるくらい笑うV(^□^)V

 

同記事より引用

 

北乃きい。

ホントに不思議なコだ。


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罰金バッキンガム ― なもり『ゆるゆり』

 

ゆるゆり

 

作者:なもり

掲載誌:『コミック百合姫S』(一迅社) Vol.5~

 

 

 

「娯楽部」を称し、廃された茶道部の部室を不法占拠する、

女子中学生四人の日常をえがくギャグ漫画。

 

 

右が主人公格の「赤座あかり」、一年生。

『カードキャプターさくら』の木之本桜にそつくり。

著作権法に抵触するほど。

ちなみに外見同様、性格も独創性にとぼしい。

寝そべつているのが、二年生の「歳納京子」。

重度のオタクで、少女愛の趣味があり、

一番上の鼻血をこぼす姿でもわかるように、

新入部員の「ちなつ」を、その毒牙にかけんと狙う。

 

 

手前の黒髪が、二年生の「船見結衣」。

容赦ないツッコミをいれつつ、娯楽部をたばねる。

たばねたところで、するべき活動はないけれど。

後ろ向きでわかりづらいが、制服の内側はワンピース。

朝鮮学校のチマチョゴリ制服に似ている。

スカートの襞や上着の皺に、入念の描きこみがなされ、

抵抗不能の官能性が横溢する。

 

 

 

『ゆるゆり』は、「萌え」と「笑い」が核融合をおこす傑作なのだが、

画期的な作品が往々にしてそうであるように、

本作の船出も、順風は帆に満ちなかつた。

以下は、第一話初出時の反応。

 

なもりって作家に

「百合姫のカラーにあってない。

もっと読者のニーズを考えて描いたほうがいい。

きらら系と違って女の子がただ

じゃれあってるだけじゃ食い付きませんよ。

オチがおにいちゃんでなく

おねえちゃんならまだよかったでしょうが」

って送った

 

『2ちゃんねる』「レズ・百合萌え」板への、匿名の投稿

(平成二十年六月二十三日)

 

補足説明がいるかな。

いとけない少女同士の恋愛を理想化しておもしろがる、

「百合」とよばれる流派が存在するのだが、

『ゆるゆり』はそこに、雑誌『まんがタイムきらら』と似たり寄つたりの、

下世話な色情を持ちこんだ、と匿名氏は批判している。

要するに、縄ばり争いみたいなものです。

 

 

 

第五話。

オタクのゴタクを粉砕する名言が暴発!

 

 

「罰金バッキンガム」。

結衣ですらツッコミようがない、ゼツミョーな言いまわし。

「罰金バッキンガム」のどこがどう面白いのか、

論理的に説明せよと求められても、往生する。

でもそういうアナタは、「テツandトモ」や「波田陽区」の、

どこが面白かつたのか説明できますか?

笑いは、リクツぢやないんです。

 

 

 

秘密の合言葉を手にした作者なもりは、まさに天衣無縫。

鎖を解かれた分身、歳納京子が暴れまわる。

 

 

されどひるがえり、単行本描きおろしの第八・五話。

中学生の身でひとり暮らしをはじめた結衣の部屋に、

京子が強引にお泊りする。

十四歳が、理由なく独居するなど絶対ありえないが、

もともと文化会館だつた建物を改装したという、

居心地よい住まいを見たら、これもアリかなつて。

 

 

やりたい放題の京子が見せる、トモダチおもいの素顔。

胸がしめつけられる。

これぞ百合漫画。

『2ちゃんねる』の匿名氏も、さぞかし満足したことだろう。

 

 

 

ついでに京子の大好物、ハーゲンダッツのラムレーズン。

 





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赤い裏地 ― 『バーダー・マインホフ 理想の果てに』

 

バーダー・マインホフ 理想の果てに

Der Baader Meinhof Komplex

 

出演:マルティナ・ゲデック モーリッツ・ブライブトロイ ヨハンナ・ヴォカレク

監督:ウーリー・エデル

制作:ドイツ・フランス・チェコ 二〇〇八年

[シネマライズで鑑賞]

 

 

 

起承転結がない百五十分。

無慈悲な暴力から物語がはじまり、そのあとは報復につぐ報復。

最後の一秒まで。

喜怒哀楽もない。

まれに幻滅や絶望が、色にでるくらい。

一九六八年設立の「ドイツ赤軍」の活動を追う本作は、

人間が為しうるあらゆる犯罪が、「犯人」の視点から記録される。

銀行強盗、放火、脱獄、誘拐、ハイジャック。

そして、数えきれないほどの暗殺や爆弾攻撃。

 

 

 

指導者アンドレアス・バーダーに扮するブライプトロイもよいが、

なんといつても、銃をとる女闘士に目がひきつけられる。

 

 

パレスチナ解放人民戦線に合流し、

戦闘訓練をうけるグドルン・エンスリン。

バーダーの恋人でもある。

演ずるヨハンナ・ヴォカレクの謎めいた風貌は、

動乱の時代に似つかわしい。

革命がより映えるのは、女だ。

純度のたかい正義感の持ち主が、男より多いから。

 

 

赤軍の最初の死者となつた、ペトラ・シェルム。

ボクの好きなアレクサンドラ・マリア・ララが好演。

複数の警官に追いつめられるが、

気丈にも反撃をこころみたところを射殺される。

以後、赤軍の活動は激化した。

 

 

さらにもう一枚。

乳母車から取りだしたAKライフルを撃つ。

うつくしき戦士たちの雄姿に、心ふるえた。

 

 

 

銃弾と爆薬の使用量があまりにも多すぎるので、

殺伐としたイマドキのアクション映画の悪影響を感じたが、

はなはだしい誤解だつた。

そこは正確さを重んずる、ドイツ人の仕事ぶり。

シュライヤー誘拐事件では百十九発。

ブーバック暗殺では十五発。

発砲数まで史実どおり。

むしろハリウッドのほうが、残虐な現実世界のアオリをうけた。

 

 

 

映画は、獄中のバーダーらの自殺で幕をとじる。

急進的な左翼はおとろえ、ドイツの反体制運動は、

環境保護を党是とする「緑の党」に吸収されてゆく。

赤から、緑へ。

ドイツは、エコロジーの分野で世界を先導することに。

無数の屍を踏みこえて。

赤軍の無残な敗北は、のちの社会運動の「地ならし」でもある。

政府は、大衆をより恐れるようになり、

国民は、政治的にすこしだけ賢くなつた。

さわやかな緑の外套の裏地は、きつと血で染まつている。


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伊達男の資格 ― 『湖のほとりで』

 

湖のほとりで

La Ragazza del Lago

 

出演:トニ・セルヴィッロ ヴァレリア・ゴリノ アレッシア・ピオヴァン

監督:アンドレア・モライヨーリ

制作:イタリア 二〇〇七年

[銀座テアトルシネマで鑑賞]

 

 

 

九州周辺を豪雨がおそうなか、銀座ではビル風が舞つていた。

スイッチがこわれたドライヤーが、熱気を吹きあげる。

暑いだけなら我慢もできるが、

しぶとい梅雨前線のせいで、泥沼の底のように息苦しい。

そんなわけで、この街には不似合いだけど、

七分丈のパンツにサンダルで、毛脛をさらしつつ歩いた。

北イタリアの湖の村でおきた殺人事件をめぐる、

このしづかなサスペンス映画は、

連日満員のようだが、それもよくわかる。

空調をきかせた劇場で、涼を楽しめそうだから。

 

 

 

湖のふちで見つかつた、裸の女の死体。

『ツイン・ピークス』。

「世界一うつくしい死体」とかいうやつ。

 

 

小児性愛や近親姦といつた、倒錯性の記号をちりばめる冒頭は、

デヴィッド・リンチへの敬礼なのだろうか。

ただそんな耳障りなノイズも、深沈とした森に吸いこまれてゆく。

ちいさな村の、いくつかの家族の内側の軋轢が、

さざ波のようにひろがり、ゆつくりと消える。

 

 

 

 

トニ・セルヴィッロは、警部として捜査を指揮する。

苦虫をかんだような芝居が、味わいぶかい。

ことさらに伊達者の役ではないが、

仕立てのよいスーツをさりげなく着こなす。

われら日本男児が、もつとも不得手とする分野だ。

ボクなんてこの季節、ネクタイを結ぶたびに憂鬱になるもの。

最近は政治屋連中が「クールビズ」と称しては、

自分たちだけラクをして、だらけた風采を衆人にさらしている。

支持率低下の原因のひとつだ。

 

 

 

中盤、セルヴィッロが娘と食事中に口論する。

憤慨して席をはなれ、台所に立つ娘に投げたセリフが印象的。

 

なぜ女は、喧嘩をするとき男に背をむけるんだ?

 

そう言われてみれば。

イタリア男も、あゝ見えて苦労しているのだろう。

事情聴取の際、男に対しては高圧的なのに、

女から話をきくとなると、腫れものにさわるような物腰になる。

帰すときは、わざわざ椅子をひいてやつたり。

スーツが似あうだけでは、色男になれない。


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国を割つて ― 鳩山由紀夫と、その身辺

『夜討ち朝寝坊日記』から借用

 

 

 

戦中戦後のいつとき、権勢をうしなつた鳩山一郎をなぐさめた、

軽井沢の別荘地をおさめる。

幽冥たる、苔むす庭園。

広大な敷地は、いまは孫兄弟に属する。

境界線をひいて。

 

莫大な相続税を払って、兄貴と二人で親父の土地を分けたのですが、

最初、兄貴に線引きを任せたら湿地帯ばかりを私のほうに入れていた。

遊泳術に長けている人は油断も隙もないんだな(笑)。

それで私がやり直した。

 

『文藝春秋』平成二十一年八月号 「鳩山邦夫 大いに吼える」

インタビュア:佐野眞一

 

どこか象徴的だ。

兄は民主党、弟は自由民主党。

国土を、ふたつに割るかのように。

 

 

 

人前でアニキの人格を腐す六十歳ほど、見苦しいものはない。

死ぬまで兄弟ゲンカ。

クリスマスや正月に、祖父の妾と、その子が出入りするような、

「音羽御殿」でそだつたので、肉親への感情が屈折したのかな。

 

兄は努力家です。

しかし信念の人ではまったくないと思います。

自分の出世欲を満たすためには

信念など簡単に犠牲にできる人です。

この点は兄に対して非常に辛口にならざるを得ない。

いまは虚像が前面に出すぎていますよ。

実像はしたたかを絵に描いたような人で、

自分のためになるのなら、

どんな我慢もできるんですよ、あの人は。

 

同記事から引用

 

邦夫の経歴をおほまかに追うと、

「新自由クラブ→自民党→無所属→改革の会→自由改革連合→

新進党→旧民主党→離党し都知事選に立候補→自民党に復党」。

政治家の「信念」を語るのに最適の人物ではないが、

それでも公私にわたり、兄を観察しつづけて六十年。

評価は折り紙つきだ。

つまり、血族にまで「宇宙人」呼ばわりされる鳩山由紀夫は、

風評どおりの奇人にちがいない。

で、それが最大の要因なのさ。

軽挙妄動をつつしみ、政界の大波小波をじつと耐え、

偉大な祖父でさえ経験しなかつた、気運を手につかむ。

 

 

 

麻生太郎が「解散」(実質的には任期満了)と、

つづく衆院選の日程をあきらかにした翌日に、

民主党がひらいた役員会でのお話。

新代表・鳩山由紀夫は、「暑い夏で大変だが頑張ってほしい」とのべる。

もうすこし気の利くセリフはないのか、

と脱力させられるが、宇宙人だから已むを得ない。

一方、降格の憂き目にあつたばかりの、前代表・小沢一郎の弁。

 

小沢氏は14日の役員会で

「マイクでがなり立てることができないお盆休みの期間もある。

実際は選挙までそう時間はない」と引き締めを図った。

 

『Web東奥』

 

ブアイソにもほどがあるのでは。

都議選で圧勝をおさめた二日後だよ?

お盆がどうとか、神経質すぎやしないか。

その立ち居振る舞いは、ひたすら「参謀」然としており、

「大将」にふさわしい気質ではない。

いまや総理の座への未練など、霞のごとく消え失せ、

三百の選挙区の分析に淫する。

ある種のビョーキだ。

近年のプチ流行語、「国策捜査」の影響による玉突きで、

鉄壁の布陣が完成したのは、政治史の皮肉か。

運命?

それとも、まつりごとの森に、だれかが巧妙な筋道を引いたのか?

鳩山邦夫なら、「それはアニキの仕業だ」とうつたえるだろう。

 






小沢一郎に関する拙文は、以下を参照のこと。

 

「小沢一郎、ホンモノの言葉」


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天使の重量 ― なでしこリーグ第14節 ベレーザ 対 INAC

 

なでしこリーグ 第14節

日テレ・ベレーザ 対 INAC神戸レオネッサ

 

結果:1-0 (0-0 1-0)

得点者:後半42分 小林弥生

会場:稲城中央公園総合グラウンド

[現地観戦]

 

 

 

ひとたび惚れると自制がきかないタチなので、

本日もボクの天使、岩渕真奈のもとに馳せ参じた。

先週は「さいたま」とかいう、変換機能いらずの町に出かけ、

トマト色の軍団に返り討ちにあつた。

しかし、けふの稲城駅は「よみうりランド」のお隣。

日本のクラブスポーツ発祥の地だ。

これより盤石な本拠はない。

 

 

 

 

稲城駅ホームから撮影。

電車をおりると、そこは山奥だつた。

登山の趣味はないので、バス停にむかう。

するとなんと、対戦相手INACのユニフォーム上下をきた行列が!

日焼け具合からして、選手のようだ。

まさか、神戸から電車とバスをのりつぐ遠征の途上なのか?

ただよく見ると顔が幼いので、事情があきらかに。

東京支部である、「INAC多摩川」所属のサッカー少女たち。

公式ホームページで日程をしらべると、八時から九時半まで練習し、

そのあとお昼をたべてから、神戸のお姉さんを応援にきたらしい。

車内は敵地と化した。

 

 

 

元気ありあまる小中学生数十名にハイジャックされたが、

決して騒々しくはない。

空気をよめる子たちだ。

料金、二百十円ねー!

Suicaは降りるときもやるんだつてー!

身動きとれない車内で、伝言ゲーム。

引率する大人もいないのに。

クラブチームで日々をすごす子どもは、大抵マセている。

練習がおわれば、高校生にアソビをおそわつたり。

逆の立場からすれば、つねに甲斐性を見せないと、

すぐ後輩に地位をうばわれる、という緊張感があつたり。

自分のことは、自分でやる。

状況に応じて、人に手も貸す。

そうしないと、勝てないぢやん?

「中央公園」に到着。

INACガールズに、どうぞと先をゆづられた。

意外だつたので、お礼の言葉をモゴモゴと口ごもる。

まつたく、どつちがオトナなんだか。

 

 

 

つい情にほだされ、INAC側の席につく。

ベレーザは、前節とことなる布陣。

岩渕真奈が中央で、大野忍が左側。

しかしぶっちー、公称百五十三センチ、四十五キロ。

実際はもう一回り小さく、軽く見える。

ミニマム級のセンターフォワードだ。

それでも先週より、彼女にとつて酸素より大切なもの、

すなわち「空間」がひろく与えられた。

ボールをもてば、雷神が大鎚をふるうがごとく、

フィールドに稲妻がはしり、ゴールキーパーをおびやかす。

関西弁の観客が、「うまいなあ」ともらした。

マッチデープログラムをみて、さらに一驚。

一九九三年うまれ?

てことは十六歳、マジで?

マジなんです。

近畿にも評判をひろめてくださいね。

 

 

 

ベレーザの星川監督は、前半33分に原菜摘子を投入。

陣形がかわる。

後半アタマには、ぶっちーが右側に。

いじりすぎだ。

ふかい意図があるにしても、客席まで伝わらないし、

目まぐるしい鬼ゴッコのさなかの選手なら、なおさら。

かんがえるヒマはない。

徐々に埋没する十六歳は、ベンチにもどされた。

ボクとしては、感情を投射しながらの観戦はオシマイ。

すね当てをとり、アグラをかく姿をながめてすごす。

不純かな。

チームとの精神的な一体化に没入するより、

個人の才能が火花をちらす様を、目に焼きつけたい。

ボールを保持した刹那、ゴールへの直接経路をしめす、

かがやく一本の線が、脳裏にうかぶときの恍惚。

モーセが海を割るかのように。

それを目撃するために、丘をこえたのさ。

 

 

 

終了まぎわに、交代ではいつた小林弥生が得点。

ぶっちーは控え選手の背中にとびつき、歓喜する。

オンブしても負荷は知れたものだけど。

まことに無邪気だ。

でも守護天使が嬉しければ、ボクも嬉しいかというと、

そう機械のように心は作動しない。

「個人」を尊重しすぎると、ときに疎外感にさいなまれたり。

きつとボクは、見当ちがいをしていたのだろう。

十六歳に沢山おしえられた、夏の午後。


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ヨゴレ役 ― 『サンシャイン・クリーニング』

 

サンシャイン・クリーニング

Sunshine Cleaning

 

出演:エイミー・アダムズ エミリー・ブラント アラン・アーキン

監督:クリスティン・ジェフズ

制作:アメリカ 二〇〇九年

[TOHOシネマズシャンテで鑑賞]

 

 

 

ホラー映画の一幕ではございません。

主人公がお掃除中です。

ちなみに洗面台には、散弾銃でふきとんだ指がころがる。

ハウスクリーニングの薄給では、息子を私立校にやれないので、

彼女たちがはじめた新事業が、「事件現場の清掃」。

絶妙なヨゴレ具合。

キレイキレイなだけの映画では、嘘くさくて、つまらない。

 

 

 

 

エイミー・アダムズは、独身ながら子持ちの清掃婦で、不倫中。

高校時代は、町で評判のチアリーダーだつたのに、

やることなすこと裏目にでる、負け犬人生が身につまされる。

それでもエイミー姫、ヨゴレ役にそまらない清潔感が素敵。

血まみれのお掃除を「成長産業」と売りこみ、

一旗あげんと立ち回るド根性が、こころの琴線をならす。

無垢な乙女のようで、生活につかれた気配もあり。

いつみても不思議なひと。

 

 

妹役のエミリー・ブラント。

全身に刺青をいれた不良娘で、

職もなくフラフラするところを、姉の仕事にさそわれる。

先日財布をなくし、おほくの読者にあきれられたボクですら、

呆気にとられるほどの、おそるべき粗忽者。

マジメな姉とは、反りがあわず喧嘩ばかりだが、

時折みせる寂しがり屋の横顔がせつない。

 

 

 

妹エミリーの粗相は、しまいに笑えない水準に達し、

ハッピーという形容詞をつかえない結末をむかえる。

それでもやけに後味がよいのは、

主演ふたりの掛け合い漫才が、楽しすぎるから。

ディズニープリンセスに、ロンドンうまれの才媛。

こんな器量よしの姉妹に、田舎町で滅多に出会えるはずもなく、

もし住んでいても、落ちこぼれではないだろう。

まあ、作りごとですからね。

ヨゴレてミジメなだけでも、映画は成り立たない。

汚しては、また磨き。

輝いたり、曇つたり。

つねにうつろう、こころの鏡。


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擬態の本能 ― 北乃きい写真集『KEY of DREAMS』

 

北乃きい写真集 KEY of DREAMS

 

撮影:石川信介 清水隆行 コンドウミカ

発行:玄光社 平成二十一年

 

 

 

老練な漫画家がかいたような目鼻立ち。

すつきりした、迷いのない線で構成される。

小ぶりで丸つこい鼻は愛嬌があつて、

何時間みつめても飽きない気がする。

本人は顔の部品では、耳、口のホクロ、くちびるがすき。

くちびるをこう語る。

 

女の人によく言われます。

自分はあまり好きじゃないんですけど、

薄くていいよねって言われます。

自分としてはヒアルロン酸を入れて、

もっと厚くしたいんですけど(笑)。

 

はやりの「プチ整形」か。

くちびるがポッテリふくらんでいると、女性的にみえるが、

当の女から「薄い方がよい」と言われるのが、興味ぶかい。

女は、ほかの女に、女らしくあつてほしくない。

ただこのひと自身、女らしさへの執着は皆無。

髪型について。

 

実はこだわりはあまりないけれど、

ラクだから坊主とかがいいかなって思ってます(笑)。

全部ボディソープで洗えるくらいがいいんで、

お仕事がなければ坊主がいいです。

 

十三歳からこの稼業に身をおいていると、

自分の外見を、無闇に合理的にとらえるようになる。

そこがおもしろい。

 

 

 

 

体の中で好きな部分、「骨盤」。

 

大きくてヤだなって思うこともあるけど、

安産型だからいいかなって。

嫌いでもあるし、好きでもあるんですよ。

プラスマイナスゼロ、みたいな。

でもやせてもスカートが

入らなかったりするんですよ~(笑)。

 

毒にも薬にもならない容色の北乃きいにとつて、

そのお尻の大きさが、性的な指標になる。

腰まわりのふくよかさは、豊饒な印象をあたえる。

それを「安産型」と、機能面から評価するのがキタノ流。

 

 

メガネJK。

茶色の縁が、ときにまぶしすぎる瞳の光を中和し、

顔の造形の端麗さをきわだてる。

 

 

 

本書は、雑誌『CM NOW』で連載されている、

北乃きいが、美容師、ネイリスト、パティシエといつた、

さまざまな職業にいどむ企画をまとめた部分が中心。

要するに、コスプレ写真集だ。

 

「極真空手篇」(平成十九年十月)

 

ふるえるほど胴着が似あう。

勝手ながら、人間国宝に認定いたしました。

 

 

左下の蹴りの体勢の、ゆるぎない平衡ぶり。

下半身の重量感がきいている。

 

 

 

本書では、十二の職業になりきる北乃きいだが、

毎日接する相手のとき、観察眼がもつともいかされる。

 

「スタイリスト篇」(平成二十年八月)

 

無造作なTシャツとデニム。

くちびるを噛む仕草もどことなく中性的で、

ショウビジネスの裏手を、幽霊のようにただよう。

 

「カメラマン篇」(平成二十年十二月)

 

誇張ぎみの身ぶり手ぶりが、

あまりにカメラマンらしくて、現場は大ウケだつたとか。

撮つているところを撮られるという、錯綜する視線の密林で、

女の子は目まぐるしく変身しつづける。




北乃きい写真集「KEY of DREAMS」初回特典:生写真付き (玄光社MOOK)北乃きい写真集「KEY of DREAMS」初回特典:生写真付き (玄光社MOOK)
(2009/06/19)
石川 信介

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FPMの時代 ― 『ノウイング』

 

ノウイング

Knowing

 

出演:ニコラス・ケイジ ローズ・バーン チャンドラー・カンタベリー

監督:アレックス・プロヤス

制作:アメリカ 二〇〇九年

[新宿ピカデリーで鑑賞]

 

 

 

この週末に電車にのると、各車両にかならず一人か二人が、

必死の形相でニンテンドーDSをかかえている。

種々の報道で御存知のように、みな『ドラゴンクエストIX』に夢中。

大のオトナが人様の面前でゲームなんて、と言われそうだが、

ドラクエが流行したころの子どもたちも、すでに三十歳前後。

二十年まえの熱病がたまにぶり返すことくらい、大目にみよう。

え、そういうアンタはどうなのつて?

小生まさしく「ドラクエ世代」ですが、ゲームより映画をえらびました。

安上がりですし。

 

 

 

『ノウイング』は、「9.11」などの災害を正確に予知した、

得体のしれない紙片をめぐる、SFサスペンス映画。

謎が謎をよぶ筋書きを、たつぷり楽しめる。

でもボクは、あらすじを述べるのが格別にヘタだし、

なにに触れてもネタバレになりそう。

それなら、幽玄な絵づくりの巧みさをほめようか。

うえの静止画は、高速道路を通行中のニコラス・ケイジが、

予言どおり飛行機事故に巻きこまれたところ。

ジェット旅客機の接近に気づくショットからはじまり、

墜落、爆発炎上、救助活動までを、一カットでつなぐ。

主人公の視点にそつて。

最近おほいんだよね。

これ、ゲームからの影響でせう。

 

『モダン・ウォーフェア2』のトレイラー

 

兵士の視点をかりて、バンバン撃ちまくる、

「first person shooter (FPS)」という種類のゲーム。

ゲームは映画をめざした挙げ句、一歩うしろまで追いついた。

それどころかゲームは、作品世界の運命にじかに関われるから、

没入度の面で、はるか先に抜きんでる。

前作は千三百万本以上売れたそうで、北米で人気の各種FPSが、

ハリウッドの映像表現に影響をあたえるのも当然。

そんな映画を、「first person movie」とよびたい。

 

 

 

映画は二時間でおわるが、ゲームは長いものは数十時間あそべるから、

費用対効果においても、映画は圧倒的不利。

勝ち目はないのか。

いやいや、とんでもない。

両者とも好きなボクにいわせれば、

「映画みたいなゲーム」なんて子どもだまし。

だつて、役者がいない「映画」なんてありえない。

かつてCG屋は、「役者はこの世から消える」と豪語したが、

彼らがのぞんだ未来は、いつやつてくるのかしらん?

 

 

ケイジの妹役の、ナディア・タウンゼンド(Nadia Townsend)。

兄をうしろからワッと脅かす登場場面から、虜になつた。

妻に先立たれ、傷ついた兄をおもいやる愛情を、

憎まれ口の合い間ににじませる、天の邪鬼。

ボクの脳の「お気にいり」に登録完了。

さあ、御真影をさがすぞ!

 

 

 

これとか。

ウーン、もつと可愛いかつたけど。

 

 

あとは精々これくらい?

なんで背をむけているのかは不明。

この服も、女優としてどうなのか。

歯がゆい。

オーストラリア出身の二十九歳らしいが、

『IMDb』にさえ生年月日は書いてない。

とにかく、彗星のようにあたらしい才能があらわれ、

銀幕で閃光を放つさまは、なににも代えがたい。

これこそが映画の、予知不能な醍醐味だ。


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天使と王女 ― なでしこリーグ 第13節 浦和レッズ 対 ベレーザ

 

なでしこリーグ 第13節

浦和レッドダイヤモンズレディース 対 日テレ・ベレーザ

 

結果:2-1 (1-1 1-0)

得点者

【浦和】前半28分 安藤梢 後半32分 北本綾子

【ベレーザ】前半40分 永里優季

会場:さいたま市駒場スタジアム

[現地観戦]

 

 

 

あれ、もう浦和駅?

所要時間は三十分と少々。

出しなに聞きはじめたマイルズ・デイヴィスの曲は、まだ終わつていない。

横浜、千葉、東京。

つねに海岸ちかくの町にすんできたボクにとつて、

埼玉県は最果ての地におもえる。

一時間半かかる蘇我のほうが、ちかく感じるのが不思議。

徒歩で駒場スタジアムへ。

ビルケンシュトックのサンダルで。

スニーカーのほうが良かつたかな。

土地勘のないところを、二十分以上進軍するのは疲れる。

ちらちらと目にはいる、真紅のユニフォーム。

そのたびに落ちつかない気分に。

しまいには、赤い服をきた通行人すべてに過剰反応。

これが敵地か。

 

 

 

 

席はあまつているのに、こんなところに隔離されました。

見づらいことこの上ない。

別に、ベレーザのファンではないのだけど。

随分ななもてなしですね。

 

 

かといつて、ここに混ざるのは死んでも御免です。

マッカッカぢやないですか。

たしかにあの赤色は、郵便ポストや消防車には似あいますが、

個人的には一生涯、身にまとう気になりません。

 

 

 

最悪のホスピタリティ。

酒がどこにも売つていないので、強制収容所をぬけだし、

「レッズサポーター」のふりをしてメインスタンドに侵入。

ウィーアーレッズとつぶやきつつ、ビールをかう。

となりには長蛇の列。

小野伸二のブロマイドでも売つてるのかな?

 

『URAWA REDS LADIES』

 

正解は、いちご味のかき氷(四百円)。

なんだよ、赤ければなんでもよいのか、と思いきや。

 

 

今月九日に二十七回目の誕生日をむかえた、

浦和の「王女」(U.M.E.さん談)こと、

安藤梢がプロデュースした商品でした。

王女のたまわく、

 

私の出身地栃木県の名産、

大好きなイチゴにこだわってアイデアを出しました。

とってもおいしく、暑さを吹き飛ばす一品です。

 

夏はやつぱり、かき氷ですね。

ボクはビールをいただきますが。

 

 

 

試合の話もしたほうが良いですかね?

正直、億劫ですけど。

ボクの天使、岩渕真奈が守備に忙殺されたとか書きたくない。

左サイドバックの須藤安紀子が中にしぼりすぎ、

本来、最前線にいるべき「ぶっちー」が、

レッズの右ハーフ、日本代表九十一試合出場の、

柳田美幸の尻をおいかける窮境に。

フォワードだが、わりと自由にうごく安藤梢を、

ベレーザ守備陣がつかまえられなかつたのが原因。

前半28分には、梢姫に得点までされる。

あくまで憶測だが、木曜日にカレシから、

よほど素敵な誕生日プレゼントをもらつたのかも。

あるいは、大好物の苺をたべてゴキゲンだつたとか。

 

 

 

『日本女子サッカーリーグ』

 

お口なおしのデザートです。

第1節のマナティーン。

背に羽をはやすかのように、かけぬける。

でも、天がさずけた才能だつて、ボールをもらえなければ意味をなさない。

色黒のエンジェルも、いつかプリンセスに進化してくれるかな。


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タグ: 岩渕真奈 

欲望の街で ― iPod shuffle(第三世代)

 

 

 

 

ブログの題を、「Dream Fighter」という曲からとり、

直接関連する記事を十三も投稿したほどだから、

ボクは、結構なPerfumeファンなのだろう。

だけどさ。

三月にでたシングル「ワンルーム・ディスコ」をきいて、

うつり気の宿痾が、不意にぶりかえす。

あたらしい音が見当たらない。

批判を書く気にもならない。

炎天下のアイスクリームのように、なにかが融けて消えた。

そして六月、メンバーである「のっち」と「かしゆか」の、

交際相手と一緒の写真が、二週連続で『フライデー』に掲載。

なんだそういうことか、と思うぢやない?

いやいや。

男とあそぶのに夢中で、仕事をおろそかにしたとは言わない。

それでも、音楽というソフトウェアは、

肉体というハードウェアなくして存在しえない。

楽曲だけを盲目的に愛するなんて、ボクには無理。

嫉妬?

まあ、そうとも言う。

 

 

 

お見ぐるしいボクの手に乗つているのが、第三世代のiPod shuffle。

別売りのApple In-Ear Headphonesをつないである。

おもさは十・七グラム。

体重は昼夜で一キロは増減するそうだから、

もはや皮膚の一部みたいなものだ。

また御覧のとおり、本体に電源以外のスイッチがない。

「シルバー」だと、ただのクリップにしか見えないので、

若干自己主張が感じられる「ブラック」をえらんだ。

 

 

右のイヤーピースのちかくにある、コントローラ。

アップル社のウリである簡素な操作体系は、一本の紐に単純化した。

音楽プレイヤーの変貌は、終点にたどりつく。

さらに手をくわえるなら、人体に組みこむしかない。

 

 

 

『businessmodel innovation _ design』から借用

 

初代shuffleが登場したときの広告。

随分昔のようだが、わづか四年前のこと。

情報表示画面を割愛したので、楽曲の再生順序はおまかせ。

その不自由さを逆手にとる宣伝文句が、「Enjoy uncertainty」。

不確実性を、たのしめ。

まつたく、物は言いようだ。

ステレオのまえで居住まいをただし、眉をしかめ、

アルバムの全曲をすみずみまで味わう鑑賞方法は、

一夜にして前近代的風習となつた。

だが、しかし。

現世代に搭載された「VoiceOver」機能は、

偉大な祖父の精神に、反旗をひるがえしている。

真ん中のボタンを長押しすると、再生中の曲名につづき、

あらかじめ設定した「プレイリスト」を、アルファベット順に読みあげる。

つまり、iTunesでの作業さえ厭わなければ、

その時々の気分に応じた曲を選択できる。

ある意味、これはカンペキな製品だし、

反面、その趣旨は重大な矛盾をかかえる。

 

 

 

出掛けにベルトループをはさませるだけで、

四ギガバイトの音をもちだせる手軽さ。

その十グラムのクリップで、PCで腐心したプレイリストを制御する。

無造作をよしとするシャッフル主義と、

凝り性なオタク趣味が同居するのが、おもしろい。

二〇〇八年のボクは、iPod classic 80GBをスピーカーにつなぎ、

毎朝、中田ヤスタカの重低音で目ざめた。

Youtubeからライブ動画をおとしては、

のっちの颯爽たるステップに、出先でため息をついたり。

ことしは、マイルズ・デイヴィスだ。

一九六九年から一九七五年までの音源をまとめ、

「Electric Miles」と名づけたプレイリストが、不思議と風景になじむ。

錯綜し、予測不能なハーモニー。

おりかさなる怒涛のリズムの高揚が、

かぼそいマイルズのトランペットで鎮静化する。

彫刻家が、石くれの中に作品を見つけるように、

この街を素材として、音楽をつくりだす感触。

キザすぎるかな。

でもいまなら、東京のどこかでデートするのっちを見かけても、

ニッコリほほえんで、すれちがえる気がする。




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ある思考実験

 

 

 

 

私事にわたることで、おそれいりますが。

小生ただいま、都会の片すみで餓死寸前です。

いえ、ね。

発端は金曜の夜、某店で財布をなくしたこと。

あくる日に気づいて店にゆくと、交番にとどけたと言われ。

一礼し、その足で交番へ。

定年間近の、鼻毛がのびたオマワリサンによると、

財布はすでに警察署にうつされ、でも担当者がいないから、

受けとりは月曜以降になるとのこと。

航空券がはいつているとか、緊急の場合はともかく、

現金くらいで規則はまげられないね。

まあ、みつかつたことで満足しなよ。

みつけたのはアンタらではない、

なんて抗弁を飲みこみ、手ぶらのまま悄然と帰還。

日頃ブログで、尊大な発言ばかりしているくせに、

国家権力の最末端をまえに、しおれる自分がかなしい。

交渉ごとに滅法よわい。

かくして、カード一式もうしなつたまま、貧窮にたえている。

 

 

 

本当をいうと、ファミリーマートでSuicaがつかえるから、

週末分の食料は調達してある。

ただ、ようやく行く段取りをつけられた、

『日本の美術館名品展』(東京都美術館)を断念。

痛恨きわまりない。

けふが最終日で、混むことはわかつていたので、

朝一で突撃せんと、電車の時間までしらべておいたのに。

そもそも警察は、どのような指標にもとづいて、

「緊急性」の度合いをはかるのか。

週末に劇場、美術館、スタジアムをおとづれることは、

ボクにとつては切実な課題だ。

そこで英気をやしない、つづく五日をのりこえる。

自分の鼻毛の長さにすら無関心なオジサンには、

理解できないかもしれないけれど。

 

 

 

自分の過失なのに、警察に難癖をつけるなんて!

と、気に障つた読者もおられるかもしれない。

残念、あなたは事の本質をつかめなかつたようだ。

関連する話題として、「山陰中央新報・江津販売所」の、

所長さんのブログをよんでみよう。

粗忽者は全国あまねく存在し、所長さんの御子息も、

五千円のはいつた財布を紛失された。

運よく発見されたと警察から連絡があり、

拾得者である近隣の奥さんの家へ、親子でお礼に出向く。

そこで聞いたのが、驚くべき話。

 

お財布を拾ったのが、夜の7時30分頃。

用事を済ませて、近くの交番へ届けたと事。

おそらく、8時を少し過ぎた頃でしょう・・・

警察官曰く、

『本日の受付時間を過ぎていますので、

明日もう一度届けに来て下さい』

との事。

(誤字は原文ママ)

 

拾い主は、どれほど憤慨したろう。

この組織にとつては、やつてきたのがオッチョコチョイか、

それとも善意の市民かなど、関心の対象ではない。

なにより大事なのは、帰宅時間。

 

 

 

さて、警察署内を想像しよう。

あなたは、拾つた財布を携えてきた。

受付の警官の言い草は、「また明日きてください」。

ムカッ!

そしてあなたは、こう言う。

なるほど。

それならば、わたしは今からこの財布を、

あそこの玄関で落としますが、よいですか?

警官はどう反応するかな。

多分、怒りだすのではないか。

いづれにせよ、こんな警察署はいやだよね。

思いやりには、思いやりで応えないと、

社会の秩序は保てないと、ボクはおもう。


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裏方として生きる ― 『スティル・アライヴ』

スティル・アライヴ

Still Alive - film o Krzysztofie Kieślowskim

 

監督:マリア・ズマシュ=コチャノヴィチ

制作:ポーランド 二〇〇五年

[ユーロスペースで鑑賞]

 

 

 

十年以上まえに没したポーランドの映画監督、

クシシュトフ・キェシロフスキをあつかう記録映画。

 

 

わかき作家の美青年ぶりに目をみはる。

かれの職業訓練は、舞台美術の学校ではじまつた。

時代物のドレスを縫つたり。

そこが廃校になつたので、しかたなく映画大学に転ずる。

おもわせぶりな作風が、「哲学的」などと評されるキェシロフスキだが、

その本質は誤解されていたのかもしれない。

自作で「思想」をカイチンする趣味は毛頭なく、

脚光をあびることが苦手な、職人肌の男だつた。

そんな粋な立ち振る舞いが、かえつて深遠そうに見えるのか。

機械がすきで、バイクの部品をすべて分解できた。

車が故障した友人は、みなキェシロフスキに修理をたのんだとか。

 

 

 

『地下道』(一九七三年)

 

二十九分の記録映画。

地下鉄のホームで群衆をうまく撮ることができず、

手もちカメラをまわして、人のながれに飛びこんだ。

切迫感のある映像を追いもとめ、はじめは詩的な記録映画、

のちに実際的な劇映画を、共産党支配下のポーランドでつくる。

『地下道』で撮影監督をつとめたスワヴォミール・イジャックは、

渡米してからは、あの撮影技術の精髄のような、

『ブラック・ホーク・ダウン』(二〇〇一年)などに参加。

今世紀に流行中の「ドキュメンタリータッチ」の源は、

案外、キェシロフスキやイジャックにあるのではないか。

 

 

 

『終わりなし』(一九八五年)

 

民主化運動にゆれる社会を背景にした作品。

悲観的な語り口が神経を逆撫でしたのか、

党と反体制派の両面から、はげしく攻撃される。

決して政治に無関心ではないキェシロフスキだが、

党の金で映画をつくつている以上、

あからさまな権力批判は野暮だとおもつていた。

 

 

 

孤立無援となつた職人は、仕事に没頭する。

共産主義より時代錯誤な、「モーゼの十戒」を主題にした、

無謀といえる十連作にとりかかる。

 

『デカローグ』(一九八八年)

 

そして、齢五十をまえにして、ようやく「西側」に迎えられた。

それまでも、カンヌ映画祭などに推薦されていたが、

主催者はなぜか出品を拒絶した。

資本主義国の批評家は、ポーランド共産党より官僚的らしい。

 

 

 

さておまちかね、フランス資本による三部作。

お題目は、三色旗の「自由・平等・博愛」。

陳腐といえば、これほど陳腐な主題もなかろうが、

それは目くらましで、要諦は別のところにある。

女優を、どうやつて美しくみせるか。

つまり、舞台美術をまなんでいた頃の気構えにかえつた。

 

『トリコロール/青の愛』(一九九三年)

 

女優の自己陶酔につきあうことが、どれほど悦楽をもたらすか、

観客におしえたジュリエット・ビノシュ。

 

『トリコロール/白の愛』(一九九四年)

 

銀幕を切り裂きたくなるほど小憎らしい、ジュリー・デルピー。

 

『トリコロール/赤の愛』(一九九四年)

 

あと千年待つても、これより女優をうつくしく撮る作品には出会えない、

とまで感じさせるイレーヌ・ジャコブ。

 

 

 

祖国の政治のなやましい泥沼からぬけだし、

西方に自由な居場所をみつけたキェシロフスキだが、

そこでは最悪の事態がまちうけていた。

裏方であるはずの自分が、「スター」になる。

映画監督がマスメディアに顔をだし、

自作を宣伝するという、資本主義世界ならではの義務も、

彼にとつては理解しがたい悪夢だつた。

結局、三部作完成をもつて映画制作を廃業。

周囲を唖然とさせたまま、二年後に逝去した。

どんな映画よりも、見事に完結した人生なので、

仕事仲間は、彼の死をまだ実感できない。

スティル・アライヴ。

ビノシュは、ちつとも面白くない思い出話をかたつては、

ひとりで笑いころげる。

ジャコブは、いまでもキェシロフスキを恩師とあおいでいて、

すんだ瞳で、切々と感謝の念をのべる。

デルピーがインタビューに応じなかつたことさえ、らしいというか。

まるでキェシロフスキの新作のようで、たのしい。


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ヒロインの資格 ― 『機動戦士ガンダム』

『BLOG ホージャな人々(編集部編)』から借用

 

機動戦士ガンダム

 

出演:古谷徹 池田秀一 鈴置洋孝

監督:富野喜幸

制作:日本 昭和五十六年

[新宿ピカデリーで鑑賞]

 

 

 

その偉大な神話は、永井一郎の語りからはじまる。

目下の戦乱が、手短に概括される。

 

この戦いでジオン公国と連邦は、

総人口の半分を死にいたらしめた。

ひとびとは、そのみづからの行為に恐怖した。

 

恬淡とした口跡が、戦慄を脊髄にはしらせる。

その後のシークエンスは、比類なき精緻さ。

偵察のためサイド7に潜入するザクの、巨大なモノアイが画面をよこぎる。

監視されるフラウ・ボゥのミニスカート。

たわいない日常と、不穏な暴力が交錯する。

母をうしない錯乱するフラウ。

開始数分で、ボクの目尻から涙がこぼれそうに。

三十年まえの作品にこめられた、膨大な熱量にたじろぐ。

 

 

 

本作の白眉は、大気圏での戦闘だ。

ザクが四機いると知らされ、アムロでさえ動顛する。

戦史上はじめて、大気圏突入時に奇襲をかけたシャアだが、

大胆不敵のようでいて、その用兵は綿密。

必勝を期して、補給をうけていた。

話がちがうとわめくアムロに対し、

「あなたならできるわ」と、やさしく諭すセイラさん。

感受性するどいアムロに、しらじらしいゴマスリは通じない。

医学生でもあるセイラは明晰だから、

彼我の戦力差と戦域の危険性を、十分しつている。

それでもわたしは、あなたの才能を信じているわ。

一瞬で、アムロの全身にアドレナリンがゆきわたる。

ホワイトベース隊を心理面で主導していたのは、

マス家の養女セイラ、そのひとだ。

 

『THE SIRENS OF JUPITER』から借用

 

昭和五十四年においても、古くさく響いたにちがいない、

「アムロ、聞こえて?」といつた、新劇調のセリフまわし。

きわだつ気高さ。

ガンダムの影響下にある作品は無数にあり、傑作もすくなくない。

それなのに、どれもがモノマネじみた拙劣さを感じさせるのは、

セイラのような言い草を、再現できる役者が絶えたから。

 

 

 

ガンダムと心中するように、大気の摩擦で燃えつきんとする、

部下クラウンに対しシャアは、

「無駄死にではないぞ」と、手向けの言葉をおくる。

仮面ごしに、痛恨の念をあらわにして。

いろいろ欠点のある男だが、戦場にあつては人間味あふれる。

連邦の新兵器が大気圏を突破したことは、想定の外だが、

軌道をずらし、友軍が制圧する地域にみちびいた。

鬼神のごとき知謀。

だが、このあとが目もあてられない。

逆恨みでしかない怨念にとらわれ、旧友のガルマ・ザビをあざむき、

戦局どころか、公国全土をゆるがす損失をもたらす。

奇襲作戦を立案するとき、シャアの頭に復讐心はなかつたはず。

連邦の「V作戦」を妨害し、戦局を有利にするため全身全霊をかけた。

みづからが大気圏で危険をおかし、部下の命も犠牲に供し、

ようやく捥ぎとつた果実を、非情にも足蹴にする豹変ぶり。

狂人としか、いひやうがない。

よくいえば、この複雑さがシャアの魅力なのだが。

 

 

 

アムロと母の今生の別れの場面も、認識をあらたにした。

ホワイトベースにもどる息子の背中を、母はただ茫然と見おくる。

かえりみるのは、フラウ・ボゥだけ。

まえはフラウの表情に優越感を読みとつたが、見当ちがいだつた。

フラウにとつてアムロは、仲間であり、恋愛感情のむかう先でもあるが、

それ以上に、うちひしがれた女にふかく同情する。

多分このとき、アムロから心が離れはじめたのだろう。

『機動戦士ガンダム』のヒロインは、セイラか、ララァか、フラウか。

三通りの見解があるなか、フラウ・ボゥは例外的な立場にある。

宇宙世紀七十九年のたたかいの、ヒロインたる資格があるのに、

進んでそれを返上したように思えるから。

アドレナリンがもたらす、戦争の醍醐味をしりながら、

忌まわしい狂気に身をそめるのをためらう。

そんな心やさしいフラウを、ボクは愛している。




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