花散るまえに ― 『ディア・ドクター』

 

ディア・ドクター

 

出演:笑福亭鶴瓶 瑛太 余貴美子

監督:西川美和

制作:日本 平成二十一年

[京成ローザ10で鑑賞]

 

 

 

ロケ地は茨城県常陸太田市だが、作中での所在は藪のなか。

撮影監督・柳島克己がきりとる暗緑色が、しづかに心の襞にしみこむ。

ニセ医師を演ずる、笑福亭鶴瓶のキツめの訛りは、

どこでもなくて、どこにもありそうな、現代の寓話をつむぐ。

医者がいない僻村にあらわれ、老人たちから崇められ、

ずるずると深入りするセンセイ。

あまり見たことはないが、鶴瓶が出演するNHKの番組、

『鶴瓶の家族に乾杯』そつくりの舞台装置らしい。

医学より他者への思いやりを優先する、その献身ぶりが仇となり、

やがて谷あいの村に、ちいさな悲劇の波紋がひろがる。

 

 

 

テレビそのままの佇まいで移植された鶴瓶を、藝達者なワキがささえる。

 

 

まづ、研修医役の瑛太がよい。

はじめは、トウモロコシのような髪でチャラチャラふるまうが、

過疎の村に奉仕する先輩に、次第にひかれる純情がにじむ。

うまい。

おくゆかしい八千草薫は、村民として物語の鍵となる。

鶴瓶が彼女を診察する気配に、官能の匂いがただよう。

おそろしいほど。

肉体をこえた、至上の愛のかたち。

なんて、自分でもかいていて恥づかしいけれど、

ホントにそう感じたのだから仕方ない。

 

 

余貴美子は、しらずにニセ医師をささえる看護婦。

気胸の緊急治療をするよう、果断に進言する場面は、

何年も語りつがれるべき名演だ。

 

 

 

かのように傑作となつた『ディア・ドクター』において、

八千草薫の娘役である井川遥が、間のびした印象なのが残念。

東京の大学病院につとめる医者で、鶴瓶と衝突するが、

出番がふえる終盤になるにつれ、興がさめる。

年まわりは監督の西川美和にちかく、

作家の分身となるべき、重要な役どころなのに。

戦後日本映画の「神話」を体現する、八千草薫の世代。

したたかで、どんな芝居でもできる、余貴美子の世代。

だけど、その後がつづかない。

どうしようもなく人材難。

わかい男の役者は、イキがよいのが大勢いるのに。

理由として考慮すべきは、以下の写真。

 

『シネマトゥデイ』

 

西川美和監督の御真影です。

はつきりいつて、井川よりうつくしい。

人となりを、鶴瓶の言葉からさぐろう。

 

外見はああいう可愛らしい女性だけど、

接した感覚はむしろ男に近いというか……

ツレ(男友だち)みたいな感じがするんですよ。

撮影現場でも、その印象は変わらなかった。

瑛太もそない言うてました(笑)。

 

プログラム「笑福亭鶴瓶インタビュー」

 

いまの世の中、「男」が多すぎる気もする。

それでも神話時代の女たちは、銀幕の花をはぐくむ秘密を、

なんとか次の世代につたえてほしい。

邦画界が、過疎の村と化すまえに。

花のない映画なんて、みる価値がないもの。


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