奥州のユダ ― 『平泉 ~みちのくの浄土~』

平泉 ~みちのくの浄土~

 

会場:世田谷美術館

 

 

 

平泉。

国史や国文学に関心あるものなら、その名をきくだけで心ときめく。

いや、オレは全然ですけどね。

なのに、アクセス最悪の世田谷美術館にでかけたきつかけは、

ポスターの意匠にひかれたから、かもしれない。

 

 

 

実にあざやか。

いつものんでる「金麦」の缶に、よくにている。

 

 

このポスターは、デザイナーが金麦好きなのではなく(ありうるが)、

展示の目玉のひとつ、『紺紙金銀字一切経』を模したもの。

 

 

紺地に、一行ごとに金銀と色をかえて、しるされた経文だ。

なんて洗練されたデザインなのだろう。

 

 

 

『重文 聖観音菩薩立像』

 

状況がゆるすかぎり、すべての宗教から距離をおきたい人間なので、

オレは、仏像をありがたがる趣味は一切ない。

憎悪すら、いだいている。

ただ、本展でみた仏像のいくつかは、なぜか心にうつたえる。

在地のカツラやケヤキをあらあらしく削り、

あえてノミの跡を縞模様にのこした立像の力づよさ。

修学旅行で素通りした、下卑た笑みをうかべる、

あのにくたらしいホトケ連中とは一味ちがう。

そこには土地の人間の、樹木に対する敬意が投影されているようだ。

鉄をおりまげてつくつた『鉄樹』など、

みちのくの自然を髣髴させる工藝は、魅力にとむ。

 

 

 

『平泉全盛古図』

 

山河にかこまれ、平泉は軍事の要衝だとわかる。

なかば独立国として栄華をほこつたのも、むべなるかな。

まあ、藤原秀衡の死後、わずか二年でほろびるが。

藤原氏四代の遺体をおさめた『金箔押木棺』などという、

珍品も目にすることができた(中のミイラはない)。

金箔がはげおち、朽ちかけた木棺のすさまじさ。

壮麗な権力の幻想と、血で血をあらう闘争の記憶が、

棺の闇のなかから浮かびあがり、鳥肌がたつ。

ここにおさめられた首のひとつは、

もともと藤原忠衡のものとみなされていた。

しかし調査の結果、眉間と後頭部にちいさな穴があり、

それが『吾妻鏡』の記述と一致するため、泰衡の首だと判明。

かれは、庇護をもとめて平泉にいた源義経を殺し、

鎌倉軍に命乞いをするが、総大将の頼朝にはねつけられる。

進退きわまり、結局、家臣に殺されるはめに。

その首は眉間に八寸の鉄釘をうつて、柱にかけられた。

頭蓋骨の穴は、そのときのもの。

 

 

 

この国の歴史で藤原泰衡ほど、自己保身の欲望の醜さと、

空しさを感じさせる人物はいない。

そんな負の記憶も、平泉はその懐のなかにかくしている。

ほかには、坂上田村麻呂の肖像と、その佩刀とされる、

ギラリとかがやく『黒漆剣』にも、興味をひかれた。

奥州のひとびとにとつて田村麻呂は、ある面で征服者であるが、

当地ではながく崇拝されてきたとか。

ウィキペディアによると、そもそも戦前までの田村麻呂は、

菅原道真とならんで、この国の文武のシンボルだつた。

道真はいまでも受験生から頼りにされているが、

田村麻呂はわすれられつつある。

なぜなのだろう。

どうも歴史雑談になつてきたので、切りあげるか。

なんにせよ、平泉はおもしろい。


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