蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語』

 

日本人の知らない日本語

 

著者:蛇蔵&海野凪子

発行:メディアファクトリー 平成二十一年

 

 

 

日本語教師のなぎこ先生が、個性ゆたかな外国人生徒と一緒に、

日本語について真剣にかんがえるコミックエッセイ。

内容は勿論、絵もかわゆいので、自信をもつてオススメ!

ちなみに、上のフランス人のマリーさんは、

任侠映画で日本語をおぼえたという、剛の者。

お国では、シャトーにすむ上品なマダムなのだが、

ヤクザ言葉でしやべつて、先生をこまらせる。

それはともかく、あれを「あかよろし」と読むとは知らなかつた。

 

 

スウェーデン出身、時代劇映画を愛するエレーンさん。

お近づきになりたい。

「武士は無闇に人を斬らないわ!」といつて、

渡日に反対する周囲をときふせることに成功。

生徒たちは、出身地も学習動機もさまざまで、

おしえるのは大変だろうけれど、たのしそう。

 

 

ジャックさんは、マジメそうなイギリス人。

とても優秀なので、するどい質問がとんでくる。

「頂けますか」と「下さいませんか」の違い。

ボクは一応日本人ですが、かんがえたこともありません。

 

 

 

向学心にもえる生徒たちに対抗するため、

なぎこ先生は、万全に予習してから授業にのぞむ。

いわゆる「コミックエッセイ」は、食わず嫌いで生ぬるい印象をもつていたが、

なかなかどうして、本書はかなりタメになる。

 

 

「です・ます」の普及の起源が藝者だつた、という話。

「~であります」は、もとは山口の方言で、

軍の上層部におほかつた長州人がひろめた。

警察の代名詞となつた「オイコラ」をひろめたのは、薩摩出身の警官。

かくして日本語通となつたなぎこ先生は、

ファミレスにゆけば、おかしな「バイト敬語」にイライラ。

「お飲みものは、紅茶で大丈夫ですか?」

「(あなたこそ大丈夫なの…?)」

どうみても、職業病。

 

 

 

 

近くて遠い隣人である支那人は、手ごわい強敵のようだ。

日本と支那では、漢字の字体がちがうので、

かれらでも、おぼえるのに苦労させられるとか。

でも、「漢字は中国の方がただしい!」は正論だよね。

オレだつたら、タジタジとなるな。

趙文明さんは、ロシア美人のダイアナさんに恋したので、

日本語でラブレターをかくことにする。

 

ああ

全てを照らし出す月の女神よ

貴女の光が私を苦しめ

貴女の光が私を生かす

 

かの国の人の文章は、何語でかいても美文調になる。

難解すぎて、日本語初心者のダイアナさんには、

恋文であることさえ気づいてもらえない。

 

 

 

かのように、日本語学校の裏話が満載の一冊。

勉強熱心で生徒おもいな、なぎこ先生の人柄にほれた!

いまどきめづらしい、先生らしい先生なのです。

続編もでるそうなので、期待したい。




日本人の知らない日本語日本人の知らない日本語
(2009/02/18)
蛇蔵&海野凪子

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ちなみに著者のおふたりは、FC2でブログを運営されている。

 

蛇蔵さん

『未確認蛇行物体』

 

海野凪子さん

『まめじゃない日本語教師がまじめに日本語を考える』




第二巻についての記事は、以下を御参照ください。

 

蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語 2』


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ジャンル : 本・雑誌

「草なぎ剛」に関するフォントの話

「IBM PC ROM FONT」 (nike6)

 

 

 

今月二十三日に、SMAPのメンバーである「草なぎ剛」が、

公然わいせつ罪の容疑で、警視庁に逮捕されたという知らせには、

おもわず目をうたがつた。

なんだよ、「なぎ」つて。

草なぎ、草なぎ、草なぎ。

新聞を購読せず、テレビはサッカー以外みないという、

かたよつたニュース環境なので、PCのモニターでおどる、

漢字かな混じりの人名がわづらわしい。

弓偏の「なぎ」は、環境依存文字だから文字化けするとか。

なんとまあ、ハタ迷惑な男だ。

いや、むしろ草なぎは被害者かもしれない。

草なぎ家の起源は、おそらくコンピュータより古いだろう。

情報技術がどれだけ進化したのかしらないが、

SMAPのメンバーの名前さえ、まともに表示できない。

そんな悲しい現実をおしえてくれた剛クン、ありがとう!

 

 

 

コンピュータによる日本語処理について、前にかいたことがあるから、

これが一筋縄にゆかない問題なのは知つている。

IBMが、日本語から漢字を駆逐することすら、ありえたのだ。

(参考:「市役所が日本文化を防衛した」)

それでも、文章表現者のはしくれとして悩まされている、

「和欧混殖」の難点を指摘しておきたい。

欧文フォントと和文フォントは、構造があまりにちがう。

くわしい説明は以下のリンク先にまかせるが、単純にいうと、

和文フォントが、マス目一杯につめた正方形なのに対し、

欧文フォントは縦長で、文字幅もさまざま。

(参考:『日本印刷技術協会公式サイト』『suzuki-Q』

だから、和文フォントで英数字をあらわすと、間延びした印象になる。

 

[すべて全角]

U-19日本代表のMF岩渕真奈は、身長153cmの16歳。

 

[英数字のみ半角]

U-19日本代表のMF岩渕真奈は、身長153cmの16歳。

 

全角と半角を使いわければ、断然すつきり。

でも面倒だし、ことなるフォントが混在するという問題ものこる。

ちなみにオレは「2ちゃんねる」で、「英数字は半角で書くべき」とおそわつた。

あそこに全角で書きこむと、マヌケにみえる。

文面のうつくしさにウルサイ掲示板なのだ。

 

 

 

マヌケといえば、Vistaのシステムフォントである「メイリオ」だ。

正方形どころか、縦横比95:100の横長の字形で、

好みの問題とはいえ、字間や行間もひろすぎるように感じる。

 

[メイリオの例文]

 

 

ペッタンコで、スカスカ。

格好わるい。

こんなフォントで、自分の文章を読んでもらいたくない。

かといつて、いまさらアンチエイリアスがかからない、

ギザギザの「MS Pゴシック」にはもどれない。

 

[MS Pゴシックの例文]

 

目がいたい。

かくして、PCにおける日本語表現は八方ふさがりだが、

抜け道がないわけではない。

たとえば、「メイリオ」を土台に、横幅だけ「MSゴシック」にあわせた、

「MeiryoKe Gothic」なるフォントが配布されている。

反則技なので、あえてオススメはしませんが。

 

[MeiryoKe PGothicの例文]

 

いわばイイトコ取りで、わるくない。

この記事をかくにあたり、

Windows7に導入される「メイリオUI」をインストールしてみたが、

これは多分つかわないだろうな。

それにしても、マイクロソフトが開発にいくら投資したにせよ、

使用者にここまで負担をかけるようでは、不甲斐ない。

不案内なのでMacなどについては触れなかつたが、

今後も、PCと日本語の関係について考察をふかめたい。


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テーマ : コンピュータ
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天使の牙 ― なでしこリーグ 第3節 ベレーザ 対 アルビレックス新潟

 

なでしこリーグ 第3節 日テレ・ベレーザ 対 アルビレックス新潟レディース

 

結果:0-0

会場:多摩市立陸上競技場

[現地で観戦]

 

 

 

あこがれの天使にあいたくて、緑もゆる多摩をおとづれた。

JR、京王線とのりつぎ、バスにゆられて起伏はげしい山谷にわけいる。

いや本当に、トトロがいつ出てきてもおかしくない、

鬱蒼たる森のまつただなかに会場がある。

試合開始にすこしおくれたが、

お目当ての新高校二年生、岩渕真奈をすぐに発見。

おもつていた以上にちいさい!

公式資料では、エースでキャプテンマークをつける大野忍より、

一センチだけひくい百五十三センチだが、

まるで、小動物が一匹まぎれこんだよう。

キビキビとしたうごきが、小気味よい。

 

 

 

女子サッカーをみるのは初めてだが、サッカーの型が、

兄弟チームのそれに似ているのがおもしろかつた。

新潟は、正統的な4-4-2。

若干ひきぎみに強固なブロックをつくり、

相手をさそいこみつつ、はげしく圧力をかける。

攻撃は、ふたりのフォワードに簡単にあづけてから、側面をくづす。

昨季、四連覇をなしとげた王者は、苦戦をしいられた。

ベレーザは、個人技術を土台とするようだ。

武蔵野の森のような新潟の守備に、行く手をはばまれるが、

それでも、ひたすらせまい空間にパスをとおそうとする。

遠距離からシュートをうつとか、ほかに選択肢はあるのだが。

相手にあわせるのを潔しとしないのが、ヨミウリの遺伝子なのか。

 

 

 

ドリブルと俊足が売りの背番号20だが、

四畳半の部屋しかあたえられないようでは、お家藝をみせられない。

それでも、効果的なシュートをだれよりも多くうつていた。

かの女にしかみえない道標があるかのように、

橙色の密林にするすると侵入。

ワンタッチプレーの正確さも、目をひく。

ボールを奪いにゆくときは、かならず背後の状況を一瞥する。

残念ながらゴールはみれなかつたけれど、

そういう、サッカー選手としての知性を確認できた。

後半16分に、高橋彩織と交代。

スタンドから、「エエー」と不満の声があがる。

つねにとは言わないが、観客がもらす心情は、

指揮者の判断よりも真実にちかいことが多い。

実際、みづから牙をもいだベレーザの攻撃は、

終了の笛がなるまでの30分間、活性化しなかつた。

 

 

 

ユニフォームの裾をだしながら、

トボトボとベンチにかえる真奈がかわいかつた。

あきらかにサイズがあつておらず、緑のワンピースみたい。

その後は、こつんと後頭部をパネルにあづけながら観戦。

あまり行儀はよろしくない。

会場には、ユニフォームをきたサッカー少女が沢山いたが、

真奈は、年齢も見た目もそれとかわらない。

というか、サッカー少女そのもの。

ちょつと才能がとびぬけているだけで。

うつくしい森林をわたる風に頬をなでられつつ、

サッカー少女たちの、現在と未来に思いをはせた。







岩渕真奈についての記事は、以下のリンクを参照のこと。

 

「キラキラ☆エンジェル岩渕真奈」


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オールドマンを殴つた男 ― 『レイン・フォール/雨の牙』

 

レイン・フォール/雨の牙

 

出演:椎名桔平 ゲイリー・オールドマン 柄本明

監督:マックス・マニックス

制作:日本 平成二十一年

[ユナイテッドシネマとしまえんで鑑賞]

 

 

 

椎名桔平が演ずるのは、アメリカ海軍の特殊部隊出身の殺し屋。

どえらい難役にいどんだなあ。

顔が小綺麗なジェイソン・ボーンという印象で、格好よかつた。

原作者はアメリカ人、監督はオーストラリア人、

共演者は、国際的にしられるイギリス人俳優ゲイリー・オールドマン。

それでも、制作はソニー・ピクチャーズ日本支社だから、

名目上は、日本の資本による日本映画になる。

「一体オレは、どこの国の映画をみてるんだ?」と、

客席で混乱せずにおられなかつた。

「アメリカ映画」の『スラムドッグ・ミリオネア』が、

八つのオスカーを獲得する時代にふさわしい作品か。

撮影手法も、日本映画のそれと大分ちがうらしい。

二台のカメラで同時撮影し、しつこく何度もテイクをかさねる。

 

芝居の途中でキャメラが急に方向を変えたり、

バンバン動いていく。

今どこを撮っているとか、アップだとか引きの画だとか、

役者が気にしていても仕方ないんですよ。

結局、大切なのは芝居のテンションで、

そうすると役者は集中しやすいですよね。

 

『キネマ旬報』二〇〇九年五月上旬号

「椎名桔平インタビュー」

取材・文:進藤良彦

 

いわゆる「ニホン映画」は、芝居を型にはめすぎて、

勢いをそぐという弱点があるのかもしれない。

 

 

 

椎名に殴りたおされるオールドマンに、驚愕。

椅子からずり落ちかけた。

役柄はCIAのアジア支局長で、

巨大モニターをみながら指図し、暗殺者をおいつめる。

かれの経歴においては大した役ではないが、

ピリピリした空気をかもしだすのは、さすがにうまい。

すくなくとも、シリウス・ブラックやゴードン警部補より数倍よい。

 

ジャズの即興演奏という感じ。

対決シーンは台本で8ページもあって、

ゲイリーの英語はめちゃめちゃ速いし、

ものすごい緊張感でした。

ゲイリーが長台詞の途中で間違えたことがあって、

彼はイライラしながら『Fuck!』って

つぶやいているんだけど、キャメラは止まらない。

そのうちゲイリーは不思議な笑みをうかべて、

また芝居を始めるんですよ。

 

同インタビュー記事から引用

 

ヘソ曲がりのオールドマンは、

悪役の出演依頼が多すぎるのに嫌気がさしたとかで、

ここ十年くらい善人を演じてばかりだが、

だれでも向き不向きがあることに、ようやく気づいたのか。

有楽町かどこかの薄汚いガード下に、「シット!」と甲高い声がひびく。

 

 

 

 

柄本明は、年期のはいつた警視庁の刑事。

飄々として、滋味ゆたかな演技だ。

去年の『ハッピーフライト』は、綾瀬はるかの父として端役で出演したが、

ただ無言でたつているだけで、無性におかしい。

五代目古今亭志ん生の藝の域に、ちかづいている。

残念なのは、柄本とオールドマンが一度も顔をあわせないこと。

もつたいないなあ。

わかつてないなあ。

上目づかいで、いたづらつぽい笑みをうかべながら、

オールドマンにアドリブをしかける柄本を見たかつた。

言葉のちがいなんて、どうでもよいのに。

結局オールドマンは、格下相手の芝居をそつなくこなし、

わづか二週間の拘束期間をおえて、帰国する。

このあたりのヌルさをおもうと、本作はやはり「ニホン映画」だ。


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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

おいでよ ブログの森

「無題」 (Kevin Steele)

 

 

 

ブログに書く材料がないから、ブログについて書いてみる。

「Brief」というFirefoxのアドオンをつかい、毎日よんでいる、

山ほどあるブログのなかから、四つえらんだ。

選考はあくまで恣意的なものですから、

「なんでウチのがないの?」なんて思わないでくださいね。

逆に、とりあげたブログの管理者のみなさま。

ことわりなく記事にするなど、大変失礼いたしました。

事実関係の誤り、不快な表現などありましたら、遠慮なく御指摘ください。

できるかぎり速やかに、修正します。

 

 

 

『陽面着陸計画』

管理者:「なるは」さん

分野:映画、音楽

 

「好きなもの」を「好き」ということは、案外むつかしい。

なのに、どれだけインターネットの中心で愛をさけんでも、

あつけらかんとして、まつたく嫌味がない「なるは」さん。

人徳のゆえなのか。

ことに男優の魅力をかたらせたら、右にでるものはいない。

ロバート・ダウニー・Jr(なるは語では「ロバダニ」)の熱狂的ファンで、

『トロピック・サンダー』の記事では、

鼻から大量出血しながら、ロバダニへの熱情を吐露する。

なのに、さびしげな表情がちらり。

インタビューの引用のあとの記述。

 

最後「(笑)」だけど、

これはそうとう精神を切り詰めてる気がする。

なんかこの…悲しさ。

俳優としてロバダニを崇拝したい気持ちの反面、

それくらい役を演じ込んでるロバダニが悲しい。

とんでもない距離感を感じるからなんだろうな。

 

『トロピック・サンダー』

 

ボクがこの映画の観評を書いたときに、

言葉にするのをあきらめたことが、みごとに表現されている。

ちなみになるはさんは、ボクのブログの最初の「読者」でもある。

はじめたばかりで不安定な文章だつたけれど、

ヘタなりに文体をほめてくれて、とてもはげみになつた。

普通、タダでよめるブログの文体など、だれも気にしない。

それだけ、感性がするどいのだろう。

 

 

 

『音楽+カワイイ÷どうぶつ=ユニゾン』

管理者:「なじいち」さん

分野:音楽・アニメーション制作

 

これはもう、動画をみてもらうしかない。


「うぃ~♪きゃっちゅ~♪」

 

かわゆいでせう?

コメント欄でしつたかぶりして、「モータウン・サウンドですね」と書いたら、

「モータウン昭和歌謡です」とおそわつた。

さらにもう一本。


「ブーブーぶたっちゃん」

 

つけたす言葉は、なにもない。

家族全員でたのしめる、世界最高のブログです。

 

 

 

『自分成長記』

管理者:「ニコニコニー」さん

分野:日記、プログラム、イラスト

 

都内の大学を半年間休学しているときに、

その様子を記録するためにはじまつたブログ。

いうなればただの日記であり、

趣味に特化して、日常生活を一切かたらない、

わがブログなどとは対極に位置する。

でもときどき、趣味の世界にいきるボクでも、

藝術や思想なぞツマラン、と空しくなることが。

Perfumeについて、どれだけ美辞麗句をつらねても、

興味のない人にとつては、意味不明なただの文字列。

一方、誠実につづられる日記には、普遍性がある。

ニコニコニーさんは、向上心がつよい。

料理の腕の上達は目ざましく、はじめはいかにも「男の料理」だつたのに、

数か月で、全国の主婦に引けをとらない域に達した。

親戚の家にいつたときは、おさないイトコとWiiであそぶなど、

やさしい人柄がつたわつてくる。

ところが、去年の大みそかに事件が。

帰省中に、家族にブログのことを知られてしまう。

 

姉にキモいと言われ。

親にも、描いているイラストは絵じゃないと言われてしまったし

料理も別に作らなくてもいいよみたいに言われた。

他にも、家族会議みたいな感じで、

いろいろ言われ、恥ずかしながら、泣いてしまった。

 

「今日から実家だ」

 

まつたく、はづかしいことではないと思う。

ニコニコニーさんは、いやなことがあつても、

事実だけを淡々とのべて、決して他人の悪口などはいわない。

その正直さと心のつよさを、ボクはみならいたい。

 

 

 

『バーチャルコンソールクエスト』

管理者:「なかじマダオ」さん

分野:ゲーム、アニメ

 

なかじマダオさんは、『銀魂』を愛する三十八歳、二児の父。

ボクのしるかぎり、ここまでゲーム色にそまつた人生はない。

むかしのゲームをあつめた、Wiiの「バーチャルコンソール」が中心で、

たとえば、『スペースインベーダー』(一九七八年)をかたると、

iMacは熱をおびはじめ、「匂い立つ記事」と称される名文となる。

もつとも「モンスターハンター」など、あたらしいゲームにもくわしい。

 

 

昨年は、一見女児むけで、実はやりこみ要素たつぷりの名作、

『わがままファッション ガールズモード』に、いちはやく反応。

カリスマ店員めざして、タッチパネルをつつきまくつた。

三十八歳、二児の父だが。

夏には怖がりなのに、ホラーの『ナナシノゲエム』に挑戦。

 

真夜中に頭の上でリアルにガターンとかいってね。

本気でびびった。

あと娘が寝返った時に壁に当った音とか。

下の娘の夜泣きとか。

そういうアシストプレイは

本気でやめて欲しいと思った・°・(ノД`)・°・

うえーん、ほんと怖かったよう。

 

「ナナシノゲエム三日目を終えて」

 

無意識の「アシストプレイ」でゲームをもりあげる、

ふたりの娘さんの活躍にわらいころげた。

ゲームづけの日常にあつては、家族ですら、

ときに作品の一部となるのがおもしろい。

 

 

 

とまあ、実に多種多様。

自分のブログがどれくらい続くかわからないけれど、

いまのところは、読んだり書いたり、

ブログなしの生活なんて、かんがえられない!


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オレならこう撮る ― 『スラムドッグ$ミリオネア』

 

スラムドッグ$ミリオネア

Slumdog Millionaire

 

出演:デーヴ・パテール フリーダ・ピントー アニル・カプール

監督:ダニー・ボイル

制作:イギリス 二〇〇八年

[ユナイテッドシネマとしまえんで鑑賞]

 

 

 

まず、邦題の「$」が気にいらない。

アメリカの通貨記号ではないか。

米国人がでてくるのは一瞬で、しかも通りすがりの観光客。

インド・ルピーをあらわす、「Rs」にかえるべき。

もしくは、本作はおもにイギリス資本でつくられ、

監督と脚本家もイギリス人だから、「£」でもよい。

『スラムドッグ£ミリオネア』。

あれ、なんかしつくりこない。

ところでみなさん、みのもんたが司会をつとめる例の番組、

構成をあみだし、ライセンスを世界中にうつているのが、

イギリスのセラドール社(本作の制作も担当)だと、知つてました?

ボクはてつきり、アメリカうまれの番組なのかと。

それでも、『クイズ$ミリオネア』。

「$」という記号は、金銭的欲望の象徴つてことか。

まあ、総製作費1500万ドルのうち500万ドルを、

ワーナー・インディペンデント(完成間近に閉鎖)が負担しただけなのに、

本作を勝手に「アメリカ映画」とみなし、オスカー像を大盤ぶるまい。

そんなアカデミー会員の図々しさをおもえば、

意外と似合いの命名かもしれない。

 

 

 

オレはカレーは大好きだけど、それ以外のインドには無関心。

インド経済、インド文化、インド哲学。

よくわからない。

珠のように愛くるしい、女の子の笑顔をながめるのは楽しいけれど。

実際にムンバイのスラムにすむ子どもたちを起用して、

「インドの現実」をうつしだす、というのが本作の売り。

でも、なんかウソくさい。

英語をはなせるインド人は、中流階級以上だときくが(参考:『インド新聞』)、

この映画のスラムの子犬たちは、オレより百万倍上手にはなす。

それに、主役のジャマールの青年時代を演ずるデーヴ・パテールは、

ロンドンうまれのイギリス人。

濃い顔のマッチョがもてはやされるインドでは、

線のほそいインテリ青年をみつけられなかつた。

女主人公に扮するのは、ファッションモデルのフリーダ・ピントー。

無駄にゴージャスな、典型的インド女優とは毛色がちがう。

ダニー・ボイル監督がつくつたこのカレーは、

西洋人の口にあうよう、香辛料をかなり減らしている。

わりと辛いもの好きのオレには、ものたりない。

 

 

 

それでは三文ブロガー・ケンが、この映画をつくりなおします。

まずは舞台を、ウクライナに変更。

いや、ウィキペディアのクイズ番組のページをよんでいたら、

ウクライナ版のルールについての記述をみつけまして。

 

ウクライナ版

 

「オーディエンス」ライフラインが存在しない。

その理由は、観客たちがうその解答を教えて

解答者を騙すためである。

 

ウィキペディア 『フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア』

 

解答者を妨害するウクライナ人!

「美人がおほい」くらいしか、この国のことを知らなかつたが、

しらべてみると、ムンバイのスラムが楽園におもえた。

キエフ在住の「cossack_ua」さんのブログから、引用させていただく。

 

私の前の彼女(日本在住ウクライナ人)は、

日本にいながらを食べなかった。

理由は初めて食べたときに

お腹痛くなったかららしい・・・

日本人なら一度おなかが痛くなっても、

もう一度トライしただろう!

今から思えばこのモト彼女も

典型的なウクライナ人の性格だ!


『キエフに住んでる生きてるウクライナのブログです!』

 

これなぞ序の口か。

たとえば、かの国で手術をうけるときは、メスからなにから、

手術道具を患者が全部そろえる義務がある。

滅多に病気にもなれない。

家をたてるときは、ノコギリや釘を大工のために用意するのが常識。

あつというまに、大工にぬすまれるが。

参考:『縁の花』第221号「ウクライナ国との縁結び」

あいた口がふさがらないが、ネタとしてはおいしい。

現地の美女を大量出演させつつ、

意地悪な観客に解答者がいじめられる、ドタバタ喜劇にしあげる。

ウクライナ風味の、『スラムのミリオネア』(邦題)。

お気にめしますでせうか?


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江戸川をこえて ― 第六節 FC東京 対 ジェフ千葉

『J's GOAL』

 

J1 第6節 FC東京 対 ジェフユナイテッド千葉

 

結果:1-2 (1-0 0-2)

得点者

【東京】前半18分 石川直宏

【千葉】後半41分 巻誠一郎 後半44分 深井正樹

会場:国立競技場

[現地観戦]

 

 

 

ところはコクリツ。

ソウルオリンピック金メダル獲得者の鈴木大地が、炎をともす。

スタジアムにとぐろをまく白煙。

五輪誘致の宣伝だ。

オレの都民税が燃えている。

むかいのスタンドには、「TOKYO 2016」とかかれた巨大な横断幕が。

試合前にオリンピックの心配をするとは、随分と余裕がある。

リヴァプールFCで有名な、「You'll Never Walk Alone」がひびく。

敵将のアレックス・ミラーが9シーズン、

かのクラブで指導していたことは知つているだろう。

内心はづかしかつたりして。

「愛してる東京 ララララララ」の歌も苦手。

よく人前で、愛してるとか歌えるなあ。

東京都民になつて大分たつけれど、魂はまだ隣国にのこつているようだ。

 

 

 

千葉は第5節をおえて、3分2敗の勝ち点3。

東京は、2勝3敗の勝ち点6。

現在の力関係をなぞるように、試合がながれる。

東京は、長友と徳永の両サイドバックがつよい。

相対するのは、右の米倉と、左の深井。

率直にいつて、見劣りする。

外側の空間に、まるで侵入できない。

のこされた選択肢は、巻誠一郎にむかつて放りこむことだが、

屈強な佐原秀樹に幾度となく撃墜される。

陸空ともに、FC東京が制圧。

わが千葉の側面をまもるのは、右に坂本、左に青木。

これまた風下にたつ、といわざるをえない。

前半18分、石川直宏が糸をひくようなドリブルで坂本をかわし、

内側にしぼりながら、サイドネットをゆする。

そのまま前半終了。

 

 

 

ビールでふくらんだ膀胱の中身を排泄していると、

となりで男の子が予言をはじめた。

父親に下着をおろしてもらつていたから、幼稚園児かな。

とはいえ利発そうな子で、早口ではなす。

昨季最終節の、おなじ顔あわせによる、

あの逆転劇の再現をねがつていた。

いわゆる、「フクアリの奇跡」。

「後半に谷澤と新居がでれば、4点とれるよね!」

やさしげな父親は、相槌をうつ。

しかし皮肉な独身者のオレは、こころのなかで忠告した。

ぼうや。

けふは、キミが人生の厳しさをしる日になりそうだね。

あたらしいビールを手に、席にもどる。

昼間は半袖がふさわしい暑さだつたが、

八時ともなると、厚手のブルゾンの前をあわせても寒い。

体内の水分を排出したからか。

ビールのつめたさにガタガタふるえつつ、

オフサイドと判定された徳永のシュートに、肝までひやす。

 

 

 

ジェフ千葉より、自分の体調のほうが不安になるが、

アルコールがまわつたのか、しばらくして体があたたまる。

後半18分に、谷澤達也を投入。

選手交代が直接効果をあらわしたようには見えないが、

千葉のシュートが急にふえだす。

クロスバーではねる、巻のヘディングシュート。

もはや暑いとか寒いとか、いつてられる形勢ではない。

現金なものだ。

だが、のこりは5分。

クソ、やはり人生は厳しいのか。

41分、左のアレックスからコロコロとクロスがころがる。

ペナルティマークあたりで一人ぼつちの巻をみて、目をうたがう。

同点。

あとで動画をみても、なぜ佐原が目を離したのかわからない。

忍耐力の差か。

空中戦で86分間優勢でも、佐原には負荷が蓄積していた。

巻誠一郎は、よろこぶ素振りすらみせず、

ボールをかかえてセンターサークルに全力疾走。

追加時間に、深井が裏にぬけて勝ちこしゴール。

 

 

 

「オレたちの誇り ジェフユナイテッド」と、

まわりのFC東京サポーターにきこえないように歌いながら、

都営大江戸線で帰宅の途につく。

トイレで隣りにいた少年は、この試合からどんな教訓をえただろう。

きつとその脳裏には、試合終了後にゴール裏でほえる巻の姿が、

焼きついているにちがいない。


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テーマ : Jリーグ
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戦慄の哲学者 ― フリクション『DEEPERS』

「新宿154」(urasimaru)

 

DEEPERS

 

フリクション(FRICTION)のEP

制作:TRIPPIN' ELEPHANT RECORDS 平成二十一年

 

 

 

『ゾーン・トリッパー』からかぞえて、十四年ぶりの作品。

よいギタリストが見つからなかったとか。

 

結局オレとか大鷹くんとかはロックの歴史を

そのまま見てきてるからあらゆるタイプを知ってるわけじゃん。

いま弾いてる人って何か足りないんだな。

ノイズっていわれるものが出てきて、

ノイズを意識しなくても身体でそれをわかってる人もいるけど、

そうするとリズムがダメとか。

オレとしては全部が欲しいわけ。

 

『ミュージック・マガジン』四月号

大鷹俊一による、レックのインタビュー記事から引用

 

ノイズとリズム、両方をだせるギタリスト。

いまの東京で、ジミヘンをさがすようなもの。

十数年も沈黙するわけだ。

そんなレックがゆきついたのは、ベースとドラムの二人編成。

なんたるいさぎよさ。

ベース音をエフェクターにとおした「ニセギター」で、ノイズをばらまく。

ライブではベースをサンプリングしてからエフェクターにきりかえ、

その上でニセギターソロを展開と、器用な真似をする。

それは、「ソニック・ユース以降、ロックバンドはどうあるべきか」

という難問に対する、ひとつの明快な解答だ。

現代のギタリストはノイズとたわむれ、混沌たる光景を巧みににえがく。

反面、ギター特有のリズムがうみだす快感がかろんぜられ、

ギターヒーローがうまれなくなつた。

そんならギターいらねえわ、つてことか。

 

 

 

このEPの五曲でもつとも気にいつたのは、

ジミ・ヘンドリックスの「Fire」のカバー。

ベースでヘンドリックス!

レックが側溝にツバでもはくように"Right"とつぶやき、

中村達也のドラムが、つんのめりながら加速。

"Let Jimi take over"のソロも、ベースで。

鼓膜にささるスネアをふみしめて、

ニセギターが中央特快のごとくかけぬける。

カラカラに乾ききつた音は、いまの時代ならでは。

レッチリも「Fire」をカバーしているが、

"Let my man, John Frusciante take over"みたいに、

歌詞をかえて歌つているはず。

レックはそのまま。

ジミ、いないのに。

ギタリストさえいない。

いなせだ。

インタビューでは、いま一番すきなギタリストにフルシアンテをあげる。

「レッチリを見てると、アーティストなのはフルシアンテだけだよね。

あとの人たちはミュージシャンだけど」。

ふかい、ふかすぎる。

ちなみに、フルシアンテについての拙文は、以下のリンクから。

「最後のロックンローラー ― ジョン・フルシアンテ『ザ・エンピリアン』」

 

 

 

以下のライブでの「Zone Tripper」は、本作の収録曲ではないが、

この二人による共闘の破壊力が一目瞭然なので、のせた。

みないと損しますよ。

平成十九年の、フジ・ロック・フェスティバルかな。



速度、重量、密度。

すさまじい。

中村が、飢えた虎のようにあばれる。

レックは軽やかにいなしつつ、ときにその背にのつて吠える。

この堅密な音塊にわりこめるギタリストは、はたして世界に存在するのか。

 

たぶん怖いんだよ。

安心できる場所なんだよライヴ・ハウスが。

そこが平和なんだよ。


昔はライヴ・ハウスで暴れるやつとかいたけど

今いないんだよね(笑)。

いろんな不安が広がっているから

ライヴ・ハウスに行くとホッと出来るんじゃないかな。

 

同記事から引用

 

ふかすぎる。

十四年の沈黙の季節にも、音楽と時代について、

徹底的に思索をつづけたことがわかる。

安穏と居眠りする音楽業界に、

ニセギターという血刀をひきさげてもどつたレックは、

ライブハウスで、露骨な現実をさらけだすつもりらしい。




DEEPERSDEEPERS
(2009/03/25)
FRICTION

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テーマ : ロック
ジャンル : 音楽

内戦の果てに ― 鳥集徹『ネットで暴走する医師たち』

 

ネットで暴走する医師たち

 

著者:鳥集徹

発行:WAVE出版 平成二十年

 

 

 

オレのしらないうちに、戦争がはじまつていた。

すくなからぬ医師が、ウェブ上の医師専用掲示板やブログで、

医療による被害をうつたえる遺族や、その支援者を、名指しで誹謗中傷。

「クレーマー」、「モンスター患者」、「自称被害者」、「医療テロリスト」。

そんなおぞましい実態を告発する本の存在をしつて、

Amazon.co.jpのページをひらいた。

カスタマーレビューは二十四件投稿されている。

星は平均でふたつ、という低評価。

「お金儲けのためなら何でもする人」

「許されざる出版」

「医療崩壊に一役買った「マスゴミ」の本領発揮」

「医療界に巣くう寄生虫」

これらのレビューに、「参考になった」の票が大量に投じられる。

センセーがたは、一体なにがしたいんだ?

みづからの「暴走」を、わざわざ証明している。

感情を剥き出しにすれば、オレみたいな野次馬をふやすだけなのに。

 

 

 

医師軍の根拠地となるのが、医療専門サイト「m3.com」。

会員登録する医師は十七万一千人で、なんと日本の医師の半数を優にこえる。

医療界の輿論形成に、おほきな役割をはたす。

平成十八年の「奈良県大淀病院事件」。

十九の病院から受けいれを拒否され、「たらい回し」にされた妊婦が死亡、

という痛ましい報道が世をにぎわせた。

m3.comは当然、専門家の立場から反論する。

議論はなされるべきだが、その手法に問題があつた。

独自の経路で入手したカルテの内容や、患者や遺族の個人情報まで公表。

不正確な記述をもとに、言論はさらに過熱する。

結局、奈良県警による捜査がはいり、複数の医師が遺族に謝罪した。

 

 

 

かれらは、一般に公開される掲示板「2ちゃんねる」も利用する。

他者の尊厳をふみにじる文言をかきなぐるが、

まあ、2ちゃんねるではめずらしいことではない。

おもしろいのは、「医師が寄ってたかってWikipediaをいじくり回すスレ」

このスレッドで仲間をあつめ、ウィキペディアの記事を改変。

たとえば、「医療崩壊」のページ(現在はすこしマイルドになつている)。

 

産科医療そのものが日本の各地で消滅し、

結果的に「産科医療ミスによる被害者」がいなくなりつつある。

(一方で助産院による昭和初期かと思える

低レベルな出産が奨励されているのはさておき)

これらは「市民運動」による「医療崩壊」の成果であるが、

「被害者」もいなくなり初期の市民運動の目的を達したので

喜ぶべきことと言えるかもしれない。

 

医療崩壊は市民団体の活動が原因だ、という主張だ。

結構な御高説だが、百科事典にしるすべきことではない。

 

 

 

一連のながれは、医師のブログに波及する。

たとえば、「神戸のしがない開業医」による『新小児科医のつぶやき』

大淀病院事件についての「マスコミ許すまじ」というエントリでは、

「非常に信用の置ける人物からの情報提供で、

内容、質とも超A級」のネタを提供する。

 

1. 事件当夜から記者は取材を開始していた

2. 記者は家族に例の団体を紹介した

3. 記者と例の団体は乗り気でない家族を訴訟に引きずり込んだ

4. 乗り気でなかった原告の夫及び弁護士を

  マスコミ報道に引きずり込んだ

 

鳥集の直接取材によると、すべてデタラメらしい。

ブログからブログへ、ウソが飛び火する。

『へろへろポスドクのリハビリ日記』では、

上の箇条書きをコピーして、こう続ける。

 

自分たちに都合の良い事実を作り上げ、それをスクープとし、

さらには自分たちは表に出ず、

大淀事件の被害者を前面に押し立てて、

何の落ち度もない医師を叩き、

しまいには奈良県南部の産科を壊滅させる。

マスゴミ、恐るべし。

 

ノリノリのポスドクは、遺族を訴訟にひきずりこんだと元凶とされる、

「陣痛促進剤による被害を考える会」を一刀両断。

 

実はこの会のメインのお仕事は

「陣痛促進剤の被害にあわれた(?)方が

医師から損害賠償をふんだくるのを手伝う」

ことだったりする。

 

報道関係者を罵倒するくせに、電話一本かけて裏をとる手間をおしみ、

「マスゴミ」の表面だけ真似するのが滑稽だ。

 

 

 

お次は、m3.com最大の人気ブログである、『医畜日記・楽屋篇』

十八万以上のアクセス数をほこり、

閑古鳥がなくブログの管理人としてはうらやましい。

ただ、その評判の理由が同業者に迎合することなら、見習いたくはない。

 

少し前に、奈良の妊婦さんが、不幸にもなくなったときは、

毎日新聞を始めとする、マスゴミどもは、鬼の首か、

加藤鷹のちんこを取ったかのような大騒ぎをこいて、

大淀町立病院の担当医の先生を虐めて歓びました。

 

ふむふむ、こういう文体にすれば、ウチも人気がでるかな。

舛添要一を「正真正銘のバカ」、「ハゲ大臣」とよび、

医療事故被害者の遺族の実名をあげては、「あほは、死ね!」とののしる。

万事快調な管理人「akagama」だが、「マスゴミ」の代表格である鳥集から、

取材をもうしこまれたのは意外だつたようだ。

「時間がない」と理由をつけて、会見を拒否する。

その月だけで、ブログを三十三回更新するヒマはあつたようだが。

腐敗したマスゴミに、持説をひろめるよい機会なのに。

 

 

 

かれらの主張を、簡潔にまとめることができる。

「シロウトは、医療に口をだすな」。

一面の真理ではある。

専門職が専門分野にくわしくなかつたら、おしまいだ。

ただ、それをいうなら、医師が言論にかかわるのも慎むべきでは?

白衣をきたシロウト記者は、直接取材など一切おこなわず、

憶測に憶測をかさね、さらに事態を悪化させる。

いうまでもなく、報道機関や裁判所は、

医療機関と同様、われわれの社会に必要な道具だ。

それによつてはじめてわかる真実もおほい。

すくなくとも、子をうしなつた母に「死ね」ということはない。

不特定多数が閲覧するウェブ上に、被害者の診療情報をながし、

さらには事実無根のウソや、誹謗中傷までかきつらねる。

それでも大物医師は、暴徒と化した末端医師の肩をもつ。

かれらは、荒廃した医療現場でくるしむ被害者であり、

その精神的重圧がいわせた言葉は、大目にみなくては!

もはや医療界は、秘密結社の様相を呈す。

 

 

 

「医療崩壊」という合言葉をとなえれば、なにをいつても許される。

そう信ずる人間と、建設的な議論はなりたたない。

でもだれかが、この暴れ馬をとめなくてはならない。

言葉というのは、ときに便利な道具であり、

今回の事例では、一部の人間の医師としての不適正を歴然としめす。

免許を剥奪すべきだ。

ただ、この特異な職業集団に、自浄作用がはたらく見込みはない。

公的機関が介入するしか、事態を収拾するすべはなかろう。

不幸なことに、内戦はもう始まつてしまつた。





ネットで暴走する医師たちネットで暴走する医師たち
(2008/12/16)
鳥集徹

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テーマ : 医療と行政
ジャンル : 政治・経済

瞳をとじないで ― 市原結『HANI-KAMI』

 

HANI-KAMI 密着マル秘デート

 

出演:市原結 小田切ジュン

監督:高野平

発行:マックス・エー 平成十七年

媒体:DVD

 

※注意! この記事は、露骨に性的な表現をふくみます。

 

 

 

八景島シーパラダイスにむかう、シーサイドラインの車窓をみつめる市原結。

漂白され、あらいざらしたような頬に、ほくろがうかぶ。

おほきな瞳は曇天の光をあつめ、デートの期待感でかがやく。

アダルトビデオの撮影なんですけどね。

なんでも熱海にゆく予定だつたのが、

かの女が遅刻したため、水族館に変更したとか。

職業意識の面で判断するなら、結はダメ人間だ。

とはいえ「AV女優」は、往々にして社会不適応者がえらぶ職であり、

制作者たちは、主演女優の遅刻くらいでうろたえない。

そもそも女の子には、デートにおくれても許されるという特権がある。

 

 

 

 

シーパラダイスのレストランで、料理をまつ。

オレンジジュースが底をつく。

はじめてのデートの、ソワソワする感じ。

白いコートとブーツ。

マフラーはうすいピンクだが、インナーはすこし派手なピンク。

どれもよく似あう。

スタイリストがえらんだ服だとおもうが、

すらりとした体つきなので、なにを着ても見ばえする。

こんな娘をつれてあるけたら、鼻高々かな。

店の外をながめる瞳は、やはり手もとのグラスより数倍まぶしい。

 

 

ジェットコースターで。

おちついた雰囲気の娘だが、ごく普通にキャーキャーさわぐ。

 

 

おまちかねの水族館。

だれがどうみても、仕事中におもえない横顔。

無防備すぎる。

それにしても結は、本当によく「みる」。

「みられて」金をもらう商売なのに、

それ以上の熱心さで、つねに何かをみつめている。

 

 

 

 

TBSの『恋するハニカミ!』になぞらえた作品だから、

あいびきする二人の携帯電話に突然、指令がとぶ。

内容は、「オナニーしろ」。

結はあからさまに顔をしかめ、「エー、ヤダ」とにべもない。

邪魔するな、といわんばかり。

同伴する小田切ジュンは気をきかせて、

トイレに結をつれこみ、手と口で射精にみちびくようたのむ。

あつさり承諾。

むしろ、なんだかうれしそう。

げにむつかしきは、女心かな。

なんでも小田切は、まえの共演以来、お気にいりの男優だとか。

 

 

デートだから、遊んだあとはホテルへ。

つかれたので、まずはひと眠り。

なんの自慢にもならないが、オレはAVを沢山みたけれど、

ベッドがまず、「睡眠」を目的につかわれるのは、これだけ。

 

 

ちよつとよい雰囲気に。

結がだいているのは、シーパラダイスで買つたイルカのぬいぐるみ。

おみやげ持参でAV出演中。

 

 

 

 

ようやくベッドが、その副次的機能をはたす。

ほそながい首にかかるネックレスが、

うきでた鎖骨にからみつつ、きめこまかな肌で音をたてる。

うめくような、おしころした声がもれる。

感じていないのではない。

呼吸はみだれ、断続的に身をよじる。

シーツの上をさまよう両腕。

そのあいだも瞳は、自分をだく男にじつとむけられる。

 

 

背後からおかされるときも、「みる」のをやめない。

ハンディカメラに記録される、みづからのあられもない姿が、

いづれ商品として全国に流通することは、わかつているだろうに。

漆黒の瞳、そのかぎりなくうつくしいレンズをとおし、

すべてが脳裏にやきつけられる。

事情はしらないが、本作をもつて市原結は引退し、

とりたて人気者でもないから、DVDはすでに廃盤となる。

こんな記事は、結にしたら迷惑にちがいない。

それでも、かの女の遅刻からはじまつたこのデートは、

いまも甘美な記憶としてあるのではないか。

部屋の片すみのイルカとともに。






残念ながら、いまのところ市原結の出演作をみるには、

レンタル、中古、ダウンロード販売などにたよるしかないようだ。



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(2005/08/22)
市原結

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テーマ : 女優
ジャンル : アイドル・芸能

奥州のユダ ― 『平泉 ~みちのくの浄土~』

平泉 ~みちのくの浄土~

 

会場:世田谷美術館

 

 

 

平泉。

国史や国文学に関心あるものなら、その名をきくだけで心ときめく。

いや、オレは全然ですけどね。

なのに、アクセス最悪の世田谷美術館にでかけたきつかけは、

ポスターの意匠にひかれたから、かもしれない。

 

 

 

実にあざやか。

いつものんでる「金麦」の缶に、よくにている。

 

 

このポスターは、デザイナーが金麦好きなのではなく(ありうるが)、

展示の目玉のひとつ、『紺紙金銀字一切経』を模したもの。

 

 

紺地に、一行ごとに金銀と色をかえて、しるされた経文だ。

なんて洗練されたデザインなのだろう。

 

 

 

『重文 聖観音菩薩立像』

 

状況がゆるすかぎり、すべての宗教から距離をおきたい人間なので、

オレは、仏像をありがたがる趣味は一切ない。

憎悪すら、いだいている。

ただ、本展でみた仏像のいくつかは、なぜか心にうつたえる。

在地のカツラやケヤキをあらあらしく削り、

あえてノミの跡を縞模様にのこした立像の力づよさ。

修学旅行で素通りした、下卑た笑みをうかべる、

あのにくたらしいホトケ連中とは一味ちがう。

そこには土地の人間の、樹木に対する敬意が投影されているようだ。

鉄をおりまげてつくつた『鉄樹』など、

みちのくの自然を髣髴させる工藝は、魅力にとむ。

 

 

 

『平泉全盛古図』

 

山河にかこまれ、平泉は軍事の要衝だとわかる。

なかば独立国として栄華をほこつたのも、むべなるかな。

まあ、藤原秀衡の死後、わずか二年でほろびるが。

藤原氏四代の遺体をおさめた『金箔押木棺』などという、

珍品も目にすることができた(中のミイラはない)。

金箔がはげおち、朽ちかけた木棺のすさまじさ。

壮麗な権力の幻想と、血で血をあらう闘争の記憶が、

棺の闇のなかから浮かびあがり、鳥肌がたつ。

ここにおさめられた首のひとつは、

もともと藤原忠衡のものとみなされていた。

しかし調査の結果、眉間と後頭部にちいさな穴があり、

それが『吾妻鏡』の記述と一致するため、泰衡の首だと判明。

かれは、庇護をもとめて平泉にいた源義経を殺し、

鎌倉軍に命乞いをするが、総大将の頼朝にはねつけられる。

進退きわまり、結局、家臣に殺されるはめに。

その首は眉間に八寸の鉄釘をうつて、柱にかけられた。

頭蓋骨の穴は、そのときのもの。

 

 

 

この国の歴史で藤原泰衡ほど、自己保身の欲望の醜さと、

空しさを感じさせる人物はいない。

そんな負の記憶も、平泉はその懐のなかにかくしている。

ほかには、坂上田村麻呂の肖像と、その佩刀とされる、

ギラリとかがやく『黒漆剣』にも、興味をひかれた。

奥州のひとびとにとつて田村麻呂は、ある面で征服者であるが、

当地ではながく崇拝されてきたとか。

ウィキペディアによると、そもそも戦前までの田村麻呂は、

菅原道真とならんで、この国の文武のシンボルだつた。

道真はいまでも受験生から頼りにされているが、

田村麻呂はわすれられつつある。

なぜなのだろう。

どうも歴史雑談になつてきたので、切りあげるか。

なんにせよ、平泉はおもしろい。


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テーマ : art・芸術・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

クリスティン・アイデンティティー ― 『トワイライト ~初恋~』

 

トワイライト ~初恋~

Twilight

 

出演:クリスティン・スチュワート ロバート・パティンソン ビリー・バーク

監督:キャサリン・ハードウィック

制作:アメリカ 二〇〇八年

[新宿ピカデリーで鑑賞]

 

 

 

世界一うつくしいメンドリ、クリスティン・スチュワートに、

心を炭火焼きにされる百二十一分。

カミソリのような鼻梁のするどさ!

恋人はクリスティンに口づけするたび、

自分の鼻から血がでていないか、たしかめるのだろう。

その顎も、吸血鬼の牙より鋭角。

二等辺三角形をどこまで縦にのばせるか、数学者がためしたかのように。

 

 

神がある種の彫刻家だとしたら、かれはクシャミをして、

鑿をもつ手もとを、くるわせたにちがいない。

「彫りがふかい」は通常ほめ言葉だが、このひとの場合、

横顔にみえる断崖絶壁は、恐怖さえいだかせる。

対照的に、ふもとの眼窩にある湖は、しづかにたゆたう。

時おりみせる、おだやかなほほえみ。

かの女を修飾する語としては、無表情、無愛想、不機嫌などが、頻度がたかい。

声も若干雑音がまじり、ざらついて、その印象をつよめる。

でも、それだけの役者ではない。

 

 

 

すこしは映画のこともかたるべきか。

「くまのパディントン」のように毛ぶかい、ロバート・パティンソン扮する吸血鬼と、

クリスティンさんが恋仲になります。

おしまい。

そもそも、パディントンは血液が大好物なくせに、

最後の一滴まで血抜きしたニワトリのような、

貧相なクリスティンを狙つたのが、まちがいのもと。

本気で血を吸う気はない、と見すかしているから、

鶏ガラむすめは余裕綽々だ。

逆に、吸血鬼一家をいいように手玉にとる。

ヴァンパイアさえ、女にみくびられる時代なのか!

本作は、原作、脚本、監督がみな女。

北米では、『マンマ・ミーア!』や『SEX and the CITY』などが興行的に好調で、

『トワイライト』は、ハリウッドをすくうウーマンパワーの象徴でもある。

ちなみにわが国では、なんと『ザ・バンク』より下の初週十位(興行通信社しらべ)。

剛毛の熊では、目の肥えた大和撫子を騙せなかつた。

 

 

 

クリスティンが演ずるベラは、移動中iPodを手ばなさない。

大容量の、シルバーのiPod classicがよく似あい、

内向的で、音楽を愛する性向とわかる。

おそらく映画史上はじめて、iPodは「小道具」になつた。

クリスティンは、アップルのCMにでれるくらい垢ぬけているが、

それでいて、どの町にもいそうな素朴さがある。

寝床で携帯電話をハンズフリーでつかい、母とはなす様子も小粋だ。

それを使いこなす演技者がいなければ、「小道具」は意味をなさない。

ところで、この映画には元ネタがある。

おなじく二〇〇八年公開の、『ジャンパー』だ。

パディントンの造形と立ちまわりには、

ヘイデン・クリステンセンのそれが影響している。

そのまま、といつてもよい。

近所の華奢な美男子が、超能力を駆使して獅子奮迅。

ダグ・ライマンは、知的で説得力ある『ボーン・アイデンティティー』で、

アクション映画をアップデートし、本家ジェームズ・ボンドまで別物にかえた。

新作の『ジャンパー』は、観客の評価がひくくてムカついたが、

ライマンの構想に、最新バージョンの女優がインストールされ、

また、あたらしい映画の潮流が起動したみたい。


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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

ヴィアゼムスキー革命 ―― 『ウイークエンド』

 

ウイークエンド

Le Week-end

 

出演:ミレイユ・ダルク ジャン・ヤンヌ アンヌ・ヴィアゼムスキー

監督:ジャン=リュック・ゴダール

制作:フランス・イタリア 一九六七年

[早稲田松竹で鑑賞]

 

 

 

上の静止画は、『バルタザールどこへ行く』(一九六四年)から。

ゴダールはきらいなのに、なぜか「ふたりめのアンヌ」、

つまりアンヌ・ヴィアゼムスキーがすきだ。

出演作は、六本くらいしか見てないけれど。

小麦畑をまもるのに疲れたカカシのように、

猫背でとぼとぼと銀幕をよこぎるアンヌ。

腕のなかのロバよりながい顔に、子犬の瞳がたれさがる。

好奇心の光をやどして。

そのくせ、半びらきの口もとは倦怠感がありありで、

革命前夜にうかれる同級生を、せせらわらう。

『ウイークエンド』での出番は、わずかに三つ。

ペンキをかけられ、ピアノ・ソナタをきき、タバコを片手に本をよむ。

それだけ。

冒頭の場面が後半にくりかえされるが、

青だつたワンピースが、ピンクになつている。

色彩にうるさいゴダールとクタール(撮影監督)は、埒もない寸劇を、

わざわざ衣装をかえて撮りなおしたようだ。

 

 

 

ゴダールの映画をみたあと、笑顔で劇場をでるバカはいない。

みな悄然としている。

その映像はどうしようもなく隙だらけで、

内心ツッコミをいれずにはおられず、しまいに疲れはてるから。

そもそも、作者自身が映像に文字を多用し、無内容な筋がきを糊塗する。

動画配信サイトの「ニコニコ動画」は、

映像に視聴者のコメントを表示することで人気を博した。

凡庸な動画も、みなでツッコミながらみれば、たのしめる。

ゴダールは、「ニコニコ動画」の元祖だ。

 

 

ミレイユ・ダルクは、炎上する車からはいだしながら、

「わたしのエルメスのバッグが!」と泣きさけぶ。

ゴダールがこの映画にこめた主張は単純明快で、誤解の余地はない。

資本主義体制と、ブルジョワ文化。

フランス共産党と、伝統的な労働運動。

そういう既成の政治姿勢を全否定し、あらゆる価値を転覆する。

そして革命の精神を、全世界にひろめよう!

いうまでもなく、歴史はゴダールが期待したようには進歩しなかつたが。

 

 

 

革命戦争の前線に身を投じたゴダールは、三十七歳。

トウがたちすぎている。

普通なら、退職後の余生を計画する年まわりだ。

おそらくかれは、花もはじらうハタチのパリ大生、

アンヌ・ヴィアゼムスキーの気をひこうとしたのだろう。

若さを誇示する、アラフォー男。

ヴィアゼムスキーのインタビュー記事をよんだことがあるが、

「当時からわたしは、ゴダールより教養があつた」とか、

前夫を歯牙にもかけない風情にしびれた。

アンヌさん!

たしかにボクは無学かもしれないけれど、

それでもボクたちは、革命の同志ぢやないか!

しかし、ボリシェヴィキにおわれた亡命ロシア貴族の娘は、

映画が過激さをましてゆくのを、無関心にながめる。

ため息まじりで。

はやるゴダールは、さらに常軌を逸する。

こんな具合にヴィアゼムスキーに扇動された数作は、

それ以前よりあざやかに発光し、

それ以降は、虫のぬけがらのように貧弱になる。

能天気なひとびとは、ゴダールの映画が五月革命を予言したというが、

その伝でゆくと、革命の真のみなもとは、

ほかならぬアンヌ・ヴィアゼムスキー、てことになるのでは。


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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

広場の統治者 ― 『松井大輔のサッカードリブルバイブル』

 

松井大輔のサッカードリブルバイブル DVD抜き技&魅せ技スペシャル

 

監修:松井大輔

構成・文:北健一郎

発行:カンゼン 平成二十一年

 

 

 

松井大輔が四十二の技を実演する、DVDつきの本。

現役選手が、ここまで手の内をさらすのはめずらしい。

「ベーシック編」と名づけられた第一章から、

オレには到底真似できない美技が目白おしで、引き出しのおほさにおどろく。

かれの哲学の全貌も、これであきらかになつた。

さすがはクールな熱血漢、手抜きのしごとはしないのだ。

 

 

 

松井は、公園でそだつた。

いや、赤ん坊のときにそこにすてられたのではなく、

練習のない日は公園でサッカーをしたということ。

ひとりのときはリフティング、ふたりなら一対一、人数がふえればミニゲーム。

フランスでも、なやめる折は公園でボールをけるとか。

広場を愛する男は、相手にかこまれるのを苦にしない。

むしろ、好きらしい。

かれにとつて、一対二は突破の好機。

守備者の役割分担は曖昧になり、しかけられたときに譲りあうことがある。

まもる範囲の、境目をねらえばよい。

中央突破を警戒されたら、各個撃破。

上の写真の「ダブルカットイン」が、それだ。

クロスをあげるとみせかけ、左インサイドできりかえし、前方の敵をかわす。

「自分がぬかれてもカバーがいる」という意識があるから、

キックフェイントにかかりやすい。

そして、あわてて寄せる二人目との勝負は、優位にたてる。

右イン→左インで翻弄し、空隙をつく。

一対二は、不利ではない。

 

 

 

「ダブルヒールリフト」

 

サッカー漫画『シュート!』の平松和弘の必殺技にあこがれて、

小学生のころに公園で修得した。

一回浮かせるだけでもむつかしいが、

タメをつくつてからもう一度、踵でけりあげるのがコツ。

本人がいうには、「ダブル」のほうが二度目のヒールがあたりやすいので、

むしろ確実性があがるとか。

 

「おとりバックスピンループ」(矢印は評者による)

 

これは傑作。

漫画でもみたことがない。

ゴールキーパーとの一対一で、ボールをこすりあげて、

バックスピンをかけた浮き球をける。

キーパーの手前で着地したボールは、松井の足もとへ逆走!

 

 

そのまま、とびだしたキーパーのはるか頭上をゆくシュート。

中学生のとき、実際に練習試合できめたんだと。

やられた相手は、生涯きえないトラウマを背負つたのでは。

 

 

 

「パラレラパス」

 

地味だが、松井らしさが感じられる技。

右側のせまい空間でボールをうけようとする松井のもとに、

サイドバックがかけつける。

左足でボールを保持するようにみせかけて、足裏でひきこみ、

右アウトサイドですくいあげて、前方にながす。

 

 

宙にうかせれば、敵にとめられない。

また、体を前にひらく一秒をおしみ、

数の優位ができる瞬間を、最大限にいかす狙いがある。

その場から一歩もうごかずとも、三次元の空間と時間をあやつりながら、

フラミンゴのように優雅に、広大なあそび場を支配する。

それが、松井大輔だ。





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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

あまりにハリウッド的な ― 『フロスト×ニクソン』

(これは舞台劇の写真です。)

 

フロスト×ニクソン

Frost/Nixon

 

出演:フランク・ランジェラ マイケル・シーン マシュー・マクファディン

監督:ロン・ハワード

制作:アメリカ・イギリス 二〇〇八年

[新宿武蔵野館で鑑賞]

 

 

 

アメリカで年末に大量発生する、賞ねらいの映画だ。

訴追をまぬがれた元大統領を、対話の場にひきずりだし、

国民への謝罪のことばをひきだす。

どうにも地味な題材だが、それで作品としてなりたつのか確かめるべく、

新宿武蔵野館にむかつた。

そんな物好きは少数派とおもつたら、初回なのに空席はほとんどない。

みなさん、ニクソンやアメリカ政治に興味があるのですかね?

ボクは、まつたくありません。

自分の生活に関係ないし。

勉強熱心な人は沢山いるのだなあ。

とぼしい知識で想像すると、例のウォーターゲート事件は、

偉大な「革命」の神話なのではないか。

あたえられた権限から逸脱した為政者を、選挙以外の手段で失脚させる。

ニクソンはいわば、マリー・アントワネットの役。

 

 

 

フランク・ランジェラは、権力の毒が骨の髄までまわつた怪物を演じきる。

ひとつの質問に対し二十三分の長口舌をふるい、つけこむ隙をあたえない。

会話を記録したテープを、いつどこでどう処理したかとか、

むつかしいセリフを覚えただけでも感心する。

ニクソンはオバマ同様、弁護士あがりで口が達者。

ポーカーの名手でもあり、頭の回転がはやい。

その場を支配しようとする威圧感が、ものすごい。

ランジェラは、ニクソンに顔がまるで似ていないけれど、

そんなことはすこしも気にならない百二十二分だ。

インタビュワーのフロストは、初顔あわせの前に飛行機で女をひつかけ、

ニクソンのところへ連れてゆく。

バカな女たらしとおもわせ、油断をさそつたのだろう。

それをニクソンに逆手にとられ、撮影開始数秒前に、

「きのうはあの女とやつたのか?」などと、ゆさぶられる。

そういう頭脳戦がたのしい。

 

 

 

勝負の分かれ目は、最後の撮影の前日、

すこし酔つたニクソンが、フロストがいるホテルに直接電話をしたこと。

翌日にフロストは電話での話題にふれるが、ニクソンはおもいだせない。

みづからの最大の武器である「頭脳」を、信じられなくなる。

どんな怪物も、時のながれには勝てない、という結論だ。

ハワード監督は、『リア王』のような権力者の孤独をえがいた。

というか、どうもハリウッドの連中は、ニクソンが好きみたい。

ロサンゼルス近郊の中流の家庭にうまれるが、

東部の上流社会にくいこもうと奮闘し、大統領の地位にのぼりつめる。

結局、石をもつて追われるはめになるが。

その不遇の人生が、ガキ相手にアメコミ映画でどれだけ稼いでも、

イマイチ尊敬されない映画屋の心境にかさなるのでは。

残念ながら本作は、オスカーはわけのわからないインド映画にうばわれ、

興行的にも大コケしたようだ。

ただ、ハリウッド映画のいびつな横顔がかいまみえて、

捨てがたい複雑なあじわいがある。


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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

水羊羹をめぐつて ― 岡田コウ『恋するぱんつ』

 

恋するぱんつ

 

作者:岡田コウ

発行:ヒット出版社 平成二十一年

[セラフィンコミックス]

 

※注意! この記事は、露骨に性的な表現をふくみます。

 

 

 

 

連作の一部、「そこに愛は?」から。

モエは、冷蔵庫の水羊羹をたべられたことへの報復として、

ねむつている兄の性器にかぶりつく。

一番上の立ちションと同様、遊戯的なふるまいだ。

兄の独白は、こんな具合。

 

セックスへの関心は大いに結構

が!しかしだ

TVゲームや何かと同じ感覚でやられてはたまらない

もっとこれは背徳な行為なんだ

 

しかし、内心でどれほど道徳的であろうと、意味をなさない。

お兄ちゃんが先に水羊羹をたべたのに、

なんで私が、おちんちんたべたらダメなの?

その問いに、十分にこたえられる言葉はあるのか。

 

 

 

 

居間のソファで兄妹がまじわるところに、母が帰宅する。

近親相姦をあつかうエロマンガは掃いてすてるほどあるが、

子ども同士の行為への、親の関与の仕方がめづらしい。

冷蔵庫に水羊羹を補充して、量的緩和政策を実施。

それは、3Pのようなケチないとなみではなく、立派な公的介入だ。

母と息子の会話は、「日常」という家庭経済を構成する。

一方、組みしかれるモエの口は、ふさがれたまま。

顔色は、この危機に興奮しているようにみえるが、

言葉をうばわれているので、わからない。

ひとは和菓子については雄弁だが、性愛のこととなると沈黙しがち。

エロマンガのなかでさえ。

 

 

 

 

高校生の兄と中学生の妹がからむ、「目が離せない」から。

小夜子は兄の友人に酒をのまされたあげく、

なすすべなく、だいすきな兄にまでおかされる。

 

え ええ~っ

どうしてこんな事になってるの!?

どうしよう…

本当にしちゃうの?

お兄ちゃんに入れられちゃう…

 

ここでも岡田コウが冷酷なのは、小夜子の独白の打ちきりかた。

兄の友人の、「起きてるんでしょ? さよちゃん」のひとことで、

その無抵抗が、承服を意味することをあばかれる。

登場人物の思考はつねに上滑りし、最終的には、

目をひらいた状態で、ゲームにくわわるよう強制される。

ゲームの規則は漠然として、ゆがんでいるが。

 

 

 

あまりに唐突だが、ヴィトゲンシュタインから引用して、しめくくろう。

 

「つまり君は、何が正しく、何が誤っているかを決定するのは

人間の一致(同意)だというのだね。」

― 正しかったり誤ったりするのは人間の語ることである。

そして言語において人間は一致する。

ただしそれは意見の一致ではなく、生活形式の一致である。

 

『哲学探究』一部二百四十一節

 

思考や言語に確固たる根拠はなく、そこにはただ行為だけがある。

そして、水羊羹がどうとか、入れたとか入れないとか、

愚にもつかぬことを口ばしりつつ、われわれはこの俗世をいきてゆく。

 

 

 

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ヴィトゲンシュタインの引用には、

黒田亘・編『ウィトゲンシュタイン・セレクション』(平凡社ライブラリー)を使用した。


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テーマ : 漫画の感想
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黙示録の四騎士 ― クルーグマン『世界大不況からの脱出』

 

世界大不況からの脱出 なぜ恐慌型経済は広がったのか

The return of depression economics and the crisis of 2008

 

著者:ポール・クルーグマン (Paul Krugman)

訳者:三上義一

発行:早川書房 平成二十一年

(原書初版:一九九九年 第二版:二〇〇九年)

 

 

 

第二次世界大戦と、ケインズ理論のおかげで、

資本主義は一九三〇年代の恐慌から立ちなおつた。

政府がマクロ経済に介入すれば、自由市場を安定させられる、という確信。

われわれは大恐慌をふせぐ術を身につけた。

資本主義は、ふたたび信用にあたいする制度となる。

その四人(一法人をふくむ)が、地上に混沌をもたらすまでは。

 

 

 

「革命家」として、小平があらわれる。

一九七八年。

ベトナムで共産党が勝利してから、わずか三年。

歴史は進歩すると、信じられたり、おそれられた時代。

十億人が、しづかにマルクス主義をすてた。

アジアの資本主義の発展は、ソビエトの言い分をうちくだく。

破砕された、社会主義の夢。

それは一世紀半にわたり、市場の見えざる手をきらう者たちの、

知的な拠りどころとなつてきた。

実業家、愛国主義的な政治家、労働組合。

あらゆる立場の人間が、社会主義の理想を利用した。

しかし今日では、自由市場の不愉快な側面、

つまり不平等、失業、不正は、社会に存在して当然とみなされ、

好かれはしなくとも、容認されている。

第三世界にあたえられる選択肢は、ただひとつに減る。

グローバル資本主義に、可能なかぎり一体化せよ。

 

 

 

「兵士」として、インテル社が。

一九七一年、世界初の商用マイクロプロセッサ「Intel 4004」を出荷。

この新技術を採用したファクシミリ、ビデオゲーム、PCが、

一般社会に浸透してゆく。

九十年代にはいると、情報産業は経済のありさまを劇的にかえる。

労働者の生産量と、職場の風景は急変し、

あたらしい産業は、資本主義への情熱までよびさました。

英雄的な起業家があらわれ、革新的な製品をつくり、

その正当な報酬として、莫大な財産をえる。

ビジネスで成功することは、カッコワルくない。

経済はおもしろくなり、危険になつた。

増大する国際資本移動が、九十年代の壊滅的な金融危機と、

二〇〇八年のグローバル金融危機をひきおこす。

現代の取りつけ騒ぎは、扉をとざす銀行に殺到した群衆ではなく、

血まよつたマウスのクリックによつてもたらされる。

 

 

 

三人目は、「哲学者」のジョージ・ソロス。

投機家にして、ポパーの影響をうけた哲学徒だが、

その著書をよんだ方は御承知のとおり、あわれなほど文才がない。

それでもかれは、哲学的な発言でも尊敬をあつめたい。

一九九二年、すでに億万長者だつたソロスは、

単に金儲けではなく、自身の宣伝にもなる機会をみいだす。

ポンド危機のことだ。

「相場はかならず間違う」という持論にしたがい、

ヨーロッパ通貨統合に二の足をふむ、ポンドに空売りをしかける。

哲学者とは、詐欺師の同義語でもある。

危機で儲けるのではなく、危機そのものをつくりだす。

ヘッジファンドの親玉たちは、ゴルフ場や高級ワインの席などであつまるとき、

慎重かつ抽象的な表現でほのめかして共謀し、

法と税金の網をかいくぐりながら、各国の通貨を下落させた。

 

 

 

最後に、「道化師」アラン・グリーンスパン。

金融の神様、マエストロ、世界をすくつた男。

かつての圧倒的な名声は、よい経済ニュースがおほい時代に、

FRB議長をつとめたことによる。

とはいえインフレを封じ、のちの好景気の御膳だてをしたのは、

前任者のポール・ボルカーだ。

一方、いまグリーンスパンが着せられた汚名は、当人の失政に起因する。

九十年代の株式バブル崩壊による景気後退局面を、

マエストロは、利下げでくいとめたと称賛される。

実際は「株式バブル」が、「住宅バブル」に入れかわつただけなのに。

「パーティが盛りあがつたら、酒を持ちさる」のが、中央銀行のしごと。

損な役まわりだ。

しかしグリーンスパンは、パーティを止めようとせず、

子どもたちを家におくる運転手の役をつとめた。

 

 

 

いま世界をおほふ不況が、このまま大恐慌に進行するのか、

長びいて深刻化するなかで、あらたなイデオロギーがうまれるのか、

それとも、ケインズの名のもとに資本主義が信頼をとりもどすのか。

三つめの選択肢が、もつとも現実的であることは明白だが、

なぜか奇妙な悪寒が、脊髄をはしりぬける。

人の世はかくも、むつかしい。

 

 

 

世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか
(2009/03/19)
ポール・クルーグマンPaul Krugman

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例によつて、著者の主張や本の構成にこだわらず、

勝手な解釈にもとづいて記事をかいた。

書評というより、気ままな随筆としてたのしんでもらえれば。

 

 

ニューディール政策と、ケインズ的経済観の正当性を高らかにうたいあげた、

『格差はつくられた(The Conscience of a Liberal)』は、

本書以上の価値をもつ書物だろう。

以下の拙文は、まだ文体が不安定なころのものでつまらないが、

単なる要約としては、お役にたてるかもしれない。

 

対岸の国事 ― ポール・クルーグマン『格差はつくられた』


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