THE女優 ― 『ダウト あるカトリック学校で』

 

ダウト あるカトリック学校で


出演:メリル・ストリープ フィリップ・シーモア・ホフマン エイミー・アダムズ

監督:ジョン・パトリック・シャンリー

制作:アメリカ 二〇〇八年

 

 

 

「Yahoo!映画」には、メリル・ストリープの人物ユーザーレビューが、

現時点で四十五件も投稿されている。

見出しも大袈裟なものばかり。

「現代最高の映画女優」

「THE女優」

「神業」

「天才。」

などなど。

その一方で、このひとの日本語のファンサイトはないはず。

尊敬されてはいるが、愛されてはいないようだ。

本作でのストリープ女史の役は、ところは六十年代のニューヨーク、

カトリック系の学校をしきる、おそろしい校長先生。

日本の校長は、顔もおぼえてもらえないほど存在感うすい連中だが、

さすがはストリープ先生、全生徒の一挙一動に目をひからせる。

女子生徒が髪止めをつけていれば、すぐに取りあげ、

教室でボールペンをみつければ、激怒する。

「この国のペンマンシップ(書法)はどうなつてしまうの!?」

わかい修道女が、クリスマスの礼拝の打ちあわせで、

子どもたちに「雪だるまのフロスティ」を歌わせたいというと、

「異教的な歌だから、ふさわしくありません!」と頭ごなしに否定。

 

異教徒のフロスティ。

 

 

 

ケネディ暗殺の翌年が舞台なので、

冒頭のフィリップ・シーモア・ホフマンの説教では、

その打撃にたえて、団結を強めろとかたる。

アメリカのカトリック共同体が、はげしく動揺した時期だ。

こないだまで、「バラク・オバマが大統領に就任したら暗殺される」と、

真顔でかたるバカが大勢いた記憶があるが、

肌の色など、宗教の違いにくらべれば些細なものらしい。

逆境にたたされた集団のなかで、ストリープとホフマン、

ふたりの聖職者が激突する。

表面上は、ある醜聞の真偽をめぐる口論だが、実質は権力争いだ。

ホフマンがキレたときの声色は本当におつかないし、

教会内部の力関係もえがかれていて、見ごたえがある。

とはいえ観客は、「多分、メリル先生のほうが正しい」という結論をえて、

家路についたはず。

ゆるぎない信念、ときおりみせる滑稽味、同僚に対するやさしさ。

たくみに目をひきつける。

ホフマンも好演ではあるが、結局のところあて豚、

もとい、あて馬にすぎなかつた。

なんだかんだでメリル先生、王座防衛。

 

 

 

 

撮影の合間に子役にかこまれる、エイミー姫。

修道服がよく似あう。

うつすらとそばかすが浮かぶ肌は、化粧の必要がない。

サファイアの瞳が、ベールがつくる影のしたで、静かにかがやく。

その声は素つ頓狂だけど、真綿にくるんだようにやさしく、

学校の先生に似つかわしい。

本作では、ストリープとホフマンの対立に翻弄され、

オドオドと優柔不断なまま、最後まで立場がはつきりしない。

三十四歳だけど、純情可憐な乙女が得意役なのだ。

「「雪だるまのフロスティ」は大好きな歌なのに」と、

校長に泣きながら抗議するときのかわいさといつたら!

名優の熱演にも飲まれない、不思議な個性。

そもそも、老いてますますさかんな、

大女優と同じルールでたたかつたら、勝てるわけがない。

役柄をとことん調査したうえで、感情表現をおさえて分析的に演じ、

見せ場ではためこんだものを激発させる。

俗にいう「リアルな演技」だ。

そんな演技手法を確立した、デ・ニーロやパチーノは隠居状態だが、

ストリープ女史はいまも王として君臨する。

どうみても王座は安泰ではあるけれど、エイミー姫に代表される、

「おとぎ話メソッド」による映画も、オレはすきです。


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苑田 謙

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