銃とウォッカ ― 『フェイクシティ ある男のルール』

キアヌ

フェイクシティ ある男のルール
Street Kings

出演:キアヌ・リーヴス フォレスト・ウィテカー ヒュー・ローリー
監督:デヴィッド・エアー
制作:アメリカ 二〇〇八年
[新宿武蔵野館で鑑賞]



真の酒飲みが愛するのが、ウォッカだときいたことがある。
無味無臭で、純粋に酔うことだけを目的とする酒。
主人公である刑事トム・ラドローは、ウォッカのミニボトルをあおりながら、
ただひとり凶悪犯の潜伏先に突入。
勇敢というよりは、いのちしらずな暴走だ。
犯罪とのたたかいの最前線にあっては、
みづからが純粋な暴力そのものでなくてはならない、
とかたく信じるかのようだ。
少女を監禁しなぶりものにした韓国系の悪党に、
人種差別的な暴言をはき、銃を手にしては無論、躊躇なくころす。
どちらが本当の悪なのか、不安になるほどだ。
ラドローが拳銃の分解清掃に没頭する、冒頭にもしびれた。
ステンレスの外装がしぶくひかる、S&W M4506らしい。
この映画は銃にこだわってますよ、という暗示だ。
ふるくても、入念にみがきあげた大口径の銃に、
おとこは自分の存在証明をたくす。



あつく血をたぎらす警官を演じるので、
十五年まえのキアヌの出世作、『スピード』を連想した。
ロサンゼルス市警の腐敗が主題である本作とは、
筋だてがかなりことなるが。
しかし映画において、ものがたりはある種の不純物だとおもう。
正直、刑事ものがすきな人間なら、
この映画の結末は、みるまえから容易に想像がつくけれど、
だからといって駄作とはおもわない。
そこに、ひとをよわせる成分があればよい。
キアヌ・リーヴスはある意味、ヘタクソな役者だ。
表情がとぼしいし、いつもにたような演技をする。
なのにジャック・トラヴェン、ネオ、コンスタンティン、クラトゥなどは、
到底同一人物にはおもえない。
役柄への接近方法が特殊なのだろう。
役のなかにはいりこみ、内側からその人物像をくいやぶって、
観客の胸ぐらをつかんでひきずりたおすように演じる。
うえの写真の、銃のかまえのうつくしさ!
そこには、トム・ラドロー刑事がいる。



このひとが発散する不思議な説得力の源泉は、
肉体の安定感にあるとおもう。
首まわりが丸太みたいにふとく、
コイツなら少々無理をしても死にはしないと、
おちついて筋をおうことに専念できる。
ぶあつい胸板や、ひくくざらついた声もたくましく、
あらい息づかいがきこえてくるかのよう。
それでいて、端正な顔だちにつよい信念がこもる。
秩序をまもるための警察が不正にそまり、
ラドローは、うしろだてをうしなったまま、
おそろしい権力においつめられる。
この町には、悪党と、それに利用される弱者の、
二種類しかいない。
どちらにつくべきか、えらびようのない二者択一。
われわれがいきる世界も、それににたものだとおもうが、
すぐれた演技者は、そんななまぐさい現実を蒸留し、
一杯の酒としてさしだしてくれる。


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苑田 謙

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