父をたづねて三千里 ― 『イントゥ・ザ・ワイルド』

ワイルド

イントゥ・ザ・ワイルド
Into the Wild

出演:エミール・ハーシュ ウィリアム・ハート クリステン・スチュワート
監督:ショーン・ペン
制作:アメリカ 二〇〇七年
[早稲田松竹で鑑賞]



まえにもかいたけれど、いわゆる「ロードムービー」が、
ひとつの様式として支持されたときから、
映画の堕落がはじまったとかんがている。
つくりこんだ舞台装置のまえで役者同士が火花をちらす、
演劇的な映画が、オレはすきなのだ。
旅さきでカッコイイ風景をみつけたら、
そこで役者にカッコイイせりふをつぶやかせ、
カッコイイ音楽をのせたあと、編集者につないでもらう。
そんな藝のない旅日記にかぎって、
ゲージュツをきどりたがるから、こまったものだ。
いつも自己陶酔癖が鼻につく、おくれてきたヒッピー、
ショーン・ペンが監督した本作も、
旅映画のみじかくて不毛な伝統に属する。
ただ、主人公の行く手が、
「道」のないアラスカの荒野なのが興味ぶかい。
背景が不毛すぎるので、かえってゆたかな詩情が喚起される。
フランス出身のエリック・ゴーティエによる撮影もうつくしい。



実話にもとづく本作の主人公のアレックスは、
大学を優秀な成績で卒業したあと、
家族との連絡すらたって、放浪をはじめる。
要するに、適応力のないお坊ちゃんの、
身勝手な旅日記にすぎないのだが、かれの念頭に、
つねに父の影がちらつくのが、注目にあたいする。
原作は未読だが、ここには、
ショーン・ペンの解釈がつよくあらわれているとおもう。
人里はなれて、きびしい自然にただひとり翻弄され、
孤独をかみしめるたび、傲慢な父へのにくしみがわきおこる。
この親父は、どうもひどいおとこらしく、
正妻との婚姻関係を解消しないまま、あたらしい家庭をきずき、
アレックスと妹は、法的には私生児であることをしらないままそだつ。
そして子どもがみるまえでの、妻への暴力。
だからかれの失踪は、現実逃避というより、明白な復讐だ。
手にしたのは自由ではなく、のがれられない宿命。



六十年代にまにあわなかったヒッピーは、
どこにゆこうが、楽天的に自由を謳歌することなどできない。
アレックスは旅の途中で、トレーラーぐらしの集団にまぎれこむ。
綺麗なむすめともいい仲に。

クリステン

ギター一本で味のあるうたをきかせる、クリステン・スチュワート。
やせっぽちで目鼻だちがするどく、ニワトリみたいにかわいい。
トレーラーのなかでこんな子にさそわれたら、
ヒッピー万歳てな調子で相手するのが当然だが、
アレックスはなにもしない。
なのに、別の場所でであう皮職人の老人には、
理想の父親像をみいだして、犬のようになつく。
父のいる家をでて、まぼろしの父をたづねる旅路。
その無目的な目的意識に、かなしくなる。


関連記事

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
01 | 2009/02 | 03
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
月別アーカイヴ
02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03