こころの大掃除 ― 高野陽太郎『「集団主義」という錯覚』

鏡

「集団主義」という錯覚 日本人論の思い違いとその由来

著者:高野陽太郎
発行:新曜社 二〇〇八年



著者が十一件の調査研究と、八件の実験結果を検証したところ、
「日本人は集団主義的、アメリカ人は個人主義的」という通説に反し、
十三件の研究は、両国民のあいだに明確な差をしめさない。
五件は、「アメリカ人のほうが集団主義的」という結果に。
通説に一致するのは一件のみ。
結論。
日本人は、たとえばアメリカ人などとくらべても、
個人より集団を優先しない。
それはそうだ。
このくには、わがままなひとで一杯だもの。
きょうも電車のなかで、背広のおとこが携帯電話片手に、
おおごえの関西弁をわめいていた。
でもみかたをかえれば、関西弁男は、
会社という「集団」のために行動していたかもしれない。
かるくにらむくらいで、注意をしなかったとなりのオレは、
車内の秩序をまもる義務をはたさない「個人主義者」だ、ともいえる。
こころのなかは、あべこべの世界。



東京大学の心理学の教授である著者は、
よせばよいのに専門分野以外の俗説もゆさぶる。
たとえば、「いじめ」は実はアメリカの学校のほうがおおい。
日本企業は、欧米とことなる集団主義的な経営をするといわれるが、
「年功賃金」や「終身雇用」は、
統計においてもわがくにに特有の制度ではない。
などなど。
ではなぜ、「日本人は集団主義的だ」という説が、
圧倒的に支持されるのか。
著者はその発端を、第二次世界大戦中の軍国主義にみる。
強大な敵と対峙しつづけるために、
日本は国内の結束をたかめる必要があった。
それは単に歴史状況が要請したもので、
国民の本質を反映するわけではない。
ふむふむ。
理解はできるが、説得されるほどではないかな。
歴史のどの時代においても、
各地域の最強国以外は、よりつよい相手との競争にたたされる。
そういうすったもんだのなかでの、日本の特殊性があるかもしれない。
よい本だとおもうが、話題のひろげすぎはこまる。
余計なおしゃべりに耳をかすには、
こころに余裕がたりない年の瀬なのです。



このブログでは、すでに二十五本のサッカーに関する記事をかいたが、
いつもいらいらさせられる通説がある。
「日本人は個人技でおとるから、組織力で勝負するべき!」
本書は、こんな大雑把なものいいをするひとに、
効率よく反駁するための参考文献につかえそう。
肩肘はった連中はいつも、「甲は乙だから、丙するべき」とほえる。
そして、われわれは議論のなかで、
乙と丙の関係にきをとられがちで、
前半の前提をなんのきなしにうけいれる。
だが、急所はしばしば甲と乙のあいだにあるのだ。
たとえば、「日本人」というくくりはゆるすぎる。
あなたは、一億二千七百万人のなにをしっているの?
平気な顔で、他人に否定的な札をはるひとには、
遠慮せず「あんた何様?」とたしなめよう。
われわれの発言の九割九分はしったかぶり。
大学の先生ほどひまではないから、
あらゆる論文に目をとおすことはできない。
もちろん、東大教授ですら本をかけば、
ききかじりでものをいって恥をさらす。
大掃除をする時間も気力もないけれど、
せめて、こころの鏡を綺麗にみがき、
偏見をひとつでもへらしたいとねがう、師走の暮れ。



「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来
(2008/06/25)
高野 陽太郎

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