まよいおおき二十分 ― 米山篤志をたたえて

J1 第三十三節 名古屋 対 札幌

結果:3-1 (2-0 1-1)
得点者
[名古屋] 小川佳純(前半六分) 杉本恵太(前半十二分)
       米山篤志(後半四十四分)
[札幌] ダヴィ(後半二十五分)
会場:名古屋市瑞穂陸上競技場
(テレビ観戦)


ドラガン・ストイコビッチの精神の機能に、「まよい」はあるのか。
あるにしても一瞬だろう。
最終節に、首位の鹿島をおいこすには勝ち点三がいる名古屋だが、
後半二十五分、増川隆洋がペナルティエリアまえで無様にころび、
それをダヴィがきめて一点差。
絶対にゆるされない失策。
ゆえにストイコビッチ監督は、
はやくも一分後に、増川にかえてバヤリッツァをおくる。

Q:増川選手を交代させたのは、
失点シーンでミスがあったのと関係がありますか?
「交代したのはミスが原因ではありません。
ミスというのはゲームの中で起こりうる事故だと思っています。
あの時点で、増川のプレスが
100%フィットしていないのではないかという印象を受けました。(後略)

『J's GOAL』ストイコビッチ監督(名古屋)記者会見コメント

もちろん外交辞令だ。
「おまえはそこにいる資格がない」という意思表示は、
だれにとっても明白すぎるほど。
百九十一センチメートルの巨体をおりまげ、
あおざめた顔で退場する増川があわれだった。
それにこの用兵は、かならずしも最善手とはいえない。
トロフィーをめぐる重圧がかかるとはいえ、
増川はJ1で八十六試合、J2で五十四試合の出場記録をもつ二十九歳。
動揺からたちなおる地力はあるだろう。
また、センターバックの交代は連携面の危険がおおきく、
バヤリッツァがすぐ適応するとはかぎらない。
選手交代の段どりもくるう。
だがくりかえすが、失点の一分後に「懲罰」を断行。
「あと五分だけ様子をみよう」は、ない。
それが妖精ストイコビッチだ。


増川の不覚を擁護するつもりはないが、この試合で、
かれに戦術上の負担がかかっていたのはたしか。
札幌の攻撃で、期待できる場面はほぼすべて、
元気もののダヴィによるもの。
劣勢のなか名古屋守備陣をおいまわし、
無理矢理ボールをうばってシュートにもちこむ。
パスの供給源であるクライトンがいないため、ひとりでサッカーをした。



これは、ダヴィがJ2の徳島ヴォルティス戦でみせたゴール。
闘争心は賞賛にあたいするが、逆にいえば、
屈強なディフェンダーをかれに九十分間密着させれば、
決して札幌に得点機はおとずれない。
たがいうまでもなく、妖精はつねに理想をおう。
猛獣は野にはなったまま、
阿部、増川、吉田、竹内からなる水平な網をしかけて。
重圧にまけたひとりが虎の牙の犠牲になるが、
てばやい修繕によって大惨事はまぬがれる。
美意識の勝利。


一点差でのこり二十分。
攻撃サッカーが自慢で、
相手はすべての希望をうしなった最下位チームでも、
専守防衛になるのはさけられない。
後半四十分にヨンセンにかえて米山篤志を投入、
中盤の守備をかたくする。
戦術的にまちがったところはないが、特に機能しない。
サッカーでは、「戦術」が意味をなさない時間帯がある。
駒の配置が完璧でも、失点のおそれがかれらの足をとめる。
うつ手はなく、フィールドには偶然という名の暴力がうずまく。
ロスタイム、札幌陣内でえたフリーキック。
米山がゴールをねらう。



観客が撮影した映像。
無回転のボールは壁をかすめたあと急降下し、
ゴールをまもる佐藤優也のわきをぬける。
なんという弾道なのか。
パスを外側にころがして、ボールを保持する選択肢もある。
そうすればすくなくとも一分かせげるが、
直接ねらって枠をはずせば、十秒で相手の攻撃に。
確率をかんがえれば前者が正解かもしれない。
そしておどろかされたのは、かれはこの試合当日の午前中に、
クラブからあらたな契約をむすばない方針をつたえられた、というなりゆき。
いわゆる「ゼロ円提示」だ。
昨季、テスト生の身分から入団した米山としては、
当然これからの選手生活への懸念があるし、
自分をすてたクラブのために素直にはたらけるものでもない。
すべての逡巡をたちきる、ひとけり。
オレの価値は、「ゼロ円」じゃない。


決戦は土曜日。
男たちの真価をとう最終節を、しっかりみとどけよう。
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