こころの大掃除 ― 高野陽太郎『「集団主義」という錯覚』

鏡

「集団主義」という錯覚 日本人論の思い違いとその由来

著者:高野陽太郎
発行:新曜社 二〇〇八年



著者が十一件の調査研究と、八件の実験結果を検証したところ、
「日本人は集団主義的、アメリカ人は個人主義的」という通説に反し、
十三件の研究は、両国民のあいだに明確な差をしめさない。
五件は、「アメリカ人のほうが集団主義的」という結果に。
通説に一致するのは一件のみ。
結論。
日本人は、たとえばアメリカ人などとくらべても、
個人より集団を優先しない。
それはそうだ。
このくには、わがままなひとで一杯だもの。
きょうも電車のなかで、背広のおとこが携帯電話片手に、
おおごえの関西弁をわめいていた。
でもみかたをかえれば、関西弁男は、
会社という「集団」のために行動していたかもしれない。
かるくにらむくらいで、注意をしなかったとなりのオレは、
車内の秩序をまもる義務をはたさない「個人主義者」だ、ともいえる。
こころのなかは、あべこべの世界。



東京大学の心理学の教授である著者は、
よせばよいのに専門分野以外の俗説もゆさぶる。
たとえば、「いじめ」は実はアメリカの学校のほうがおおい。
日本企業は、欧米とことなる集団主義的な経営をするといわれるが、
「年功賃金」や「終身雇用」は、
統計においてもわがくにに特有の制度ではない。
などなど。
ではなぜ、「日本人は集団主義的だ」という説が、
圧倒的に支持されるのか。
著者はその発端を、第二次世界大戦中の軍国主義にみる。
強大な敵と対峙しつづけるために、
日本は国内の結束をたかめる必要があった。
それは単に歴史状況が要請したもので、
国民の本質を反映するわけではない。
ふむふむ。
理解はできるが、説得されるほどではないかな。
歴史のどの時代においても、
各地域の最強国以外は、よりつよい相手との競争にたたされる。
そういうすったもんだのなかでの、日本の特殊性があるかもしれない。
よい本だとおもうが、話題のひろげすぎはこまる。
余計なおしゃべりに耳をかすには、
こころに余裕がたりない年の瀬なのです。



このブログでは、すでに二十五本のサッカーに関する記事をかいたが、
いつもいらいらさせられる通説がある。
「日本人は個人技でおとるから、組織力で勝負するべき!」
本書は、こんな大雑把なものいいをするひとに、
効率よく反駁するための参考文献につかえそう。
肩肘はった連中はいつも、「甲は乙だから、丙するべき」とほえる。
そして、われわれは議論のなかで、
乙と丙の関係にきをとられがちで、
前半の前提をなんのきなしにうけいれる。
だが、急所はしばしば甲と乙のあいだにあるのだ。
たとえば、「日本人」というくくりはゆるすぎる。
あなたは、一億二千七百万人のなにをしっているの?
平気な顔で、他人に否定的な札をはるひとには、
遠慮せず「あんた何様?」とたしなめよう。
われわれの発言の九割九分はしったかぶり。
大学の先生ほどひまではないから、
あらゆる論文に目をとおすことはできない。
もちろん、東大教授ですら本をかけば、
ききかじりでものをいって恥をさらす。
大掃除をする時間も気力もないけれど、
せめて、こころの鏡を綺麗にみがき、
偏見をひとつでもへらしたいとねがう、師走の暮れ。



「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来
(2008/06/25)
高野 陽太郎

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真実はけむりのなか ― 『ワールド・オブ・ライズ』

レオ

ワールド・オブ・ライズ
Body of Lies

出演者:レオナルド・ディカプリオ ラッセル・クロウ マーク・ストロング
監督:リドリー・スコット
制作:アメリカ 二〇〇八年
[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]



映画の後半。
CIA工作員に扮するレオナルドは、荒唐無稽な罠をしかける。
標的をおびきよせるために、架空のテロ組織をでっちあげ、
トルコの米軍基地で自作自演の爆破テロをおこす。
満洲事変みたい。
昭和三年、関東軍は張作霖がのる列車を爆破し、
その罪を国民党になすりつけて満洲支配にふみきる。
むかしのはなしだって?
いや、ちがうね。
航空幕僚長だった田母神俊雄の、世の批判をあびた、
「日本は侵略国家であったのか」なる論文をおもいだそう。
現物をよんだことはないが、張作霖爆殺はコミンテルンのしわざで、
第二次世界大戦がはじまったのは、
ルーズベルトとスターリンの陰謀だ、とかいたとか。
こんな脳のゆるい陰謀説マニアに、
航空自衛隊の軍政をまかせていたことに苦笑を禁じえない。
古今東西、軍や情報機関の人間のあたまは、
たしかでない情報と誇大妄想にくるわされ、
国民の生命と財産を危険にさらす。
映画をある種の教科書としてみるひとは、『ワールド・オブ・ライズ』を、
暴力にみちた現代世界の写し絵とみなすだろう。
でも、あさい見かたじゃないかな。
きょうのニュース、あなたはどういう根拠で信じたの?
全部、うそだったら?



本作は、リドリー・スコットの手によるものだから、
生命、もしくはそれと同等のおもさのなにかをかけるおとこのものがたり。
レオはさほどすきな役者ではないが、その能力はみとめる。
役を咀嚼する消化器官のつよさを感じる。
童顔なのに髭をはやす無茶はゆるしてあげよう。
銃のあつかいも、目をみはるほどうつくしい。
現地の協力者が拉致されそうになるとき、
アサルトライフルでまよわず、かれのあたまをうちぬく。
情報漏洩をふせぐため。
リドリーの弟トニーの『スパイ・ゲーム』では、
ブラッド・ピットは協力者をたすけるべきか、いなか、煩悶する。
少女漫画じみた可憐さ。
トニー。
スコット家のおとこがスパイ映画をつくるなら、
これくらいやらないとだめだぜ。
そんな兄貴の自負心がつたわる。

ラッセル

ラッセル・クロウは、レオを支援する中近東局主任。
ふたりの共演は一九九五年の『クイック&デッド』以来。
十歳ちがいだが、どちらも子役あがりのせいか気があうらしい。
性質はかなりことなるが。
ラッセルは、レオのようながむしゃらさがない。
心臓がぶよぶよした脂肪でおおわれている感じ。
自分本来の人格と、役が、いつのまに同化。
名優とはおそろしいいきものとおもわずにいられないが、
実際このひとは暴力事件をおこしてばかりの問題児だ。
「演技力と人間性は反比例する」という、
オレが提唱する定理にぴたりとはまる。
とっくにカリフォルニアからほされておかしくないが、
リドリー兄貴にかわいがられ失業をまぬがれる。
これがリドリー作品の四作目。

ハニ

CIAを手だすけするヨルダンの情報機関の長、
ハニ・サラームにふれないわけにいかない。
演じるのはマーク・ストロング。
『リボルバー』での、すごうでの殺し屋が記憶にあたらしい。
完璧にしたてたスーツをきこなしつつ、
アメリカとテロ組織の両者を手玉にとる。
確信した。
コイツはものすごい役者だ。
ラッセルとマークが対面して交渉する場面が、全編の山場か。
アメリカの傲慢とアラブの矜持が、しずかにはげしく火花をちらす。
演じるのは、ニュージーランド人とイギリス人だけど。
映画っておもしろいね!



サー・リドリーは二〇〇一年の『ブラックホーク・ダウン』で、
戦争映画の近代化に貢献したが、本作も同等の評価をあたえるべきだ。
上空三千メートルのヘリコプターからHDカメラで撮影し、
現代の情報戦をなまなましく銀幕にうつす。
CIA本部のモニターにうつる砂漠にうごめくちいさな影と、
そのわきの"asset"の文字。
「資産」、すなわちCIA局員であるレオのことをさすが、
工作員などいつでも処分できる「商品」だ、という皮肉にみえる。
終盤、テロリストがレオを隠れ家に連行するとき、
メリーゴーラウンドのように車で砂漠をまわって砂ぼこりをたてて、
空からの監視をまぎらわす。

砂漠

原作にはない、監督自身の発案だそうな。
現在テロリスト業をいとなむみなさまがみたら、
「この手があったか!」とおそれいるのでは。
そしてスモークといえば、『エイリアン』や『ブレードランナー』でみせた、
リドリー兄貴の絵柄の象徴。
ときとして、映画は真実をえぐる。
暗示的に。
七十一歳、おいてますますさかんな、
兄さんへの尊敬の念はたかまるばかり。
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むっつのひとみ ― 『Perfume Portfolio』

Perfume Portfolio

撮影:関和亮
発行:ワニブックス 二〇〇八年



パフューム、ポートフォリオ。
かろやかに韻がステップをふむ題名同様に交錯する、
三人の視線のプリズムをみるのがたのしい。



あー

撮影は関和亮、衣装は内沢研。
Perfume一家による写真集で、
いつもどおりあ~ちゃんはよい表情をする。
力みがない。
これがベストショットというわけではないが、
カメラのむこうの人間の期待を察する、するどい嗅覚がある。



あーとゆか

かしゆかにバトンをわたす。
「アイドル写真集」のなにがきらいって、スタイリストががんばりすぎること。
チンドン屋じみた服をきせられて、
背景からぶざまに浮遊するおんなのこにふきだす。
でも、あ~ちゃんのきくずしの技術をみてほしい。
このまま大学にゆける。
かの女は歌手を廃業しても、
スタイリストになれば食いはぐれない。
まあ、となりのひとのきせかえ人形ぶりも、またよいのだが。



修道女

修道女みたい。
関和亮は、ゆかがすきなのだろう。
だれでもとれる一枚ではない。
うつむくよこ顔に、ゆれるこころの影がさす。



格闘

でものっちは、はじける律動がなりをひそめる。
こんなにおもしろい被写体はないのに。
PerfumeのPVをみて感心したことは一度もないけれど、
関が、のっちをつかまえられないことが原因か。
うえのカンフーガールはよいが、ほかは平凡。
オレにとらせてくれないかな。



目

それはともかく、いや綺麗だこと。
くびとほおのほくろと、うるむ両の黒目が星座をなす。
はなとあごの直線のうつくしさ。
天国へつづく山脈。
このひとの目は、ひかりをうける器官というより、
ゆたかに水をたたえ、てりはえるみずうみ。



ゆか

くらべると、ゆかのひとみの色のにぶさがきわだつ。
身勝手なくらい、自己主張がない。
巻末のインタビューも散々で、自殺者の遺書のようにまっくら。

どこか……自分は必要とされないと思ってるんですよね。
自分にないものを2人が持ってるから、自信を持てないんです。
それが嫌だとか、逃げ出したいとかでもないんですけど、
2人がいると自分の自信のなさを実感するから……
自分が今、ここで3人でいる意味はないんじゃないかってよく思うんです。


ええと。
うれしはずかし初写真集ですよね?
この本は、たしか。
武道館に二万人をあつめておいて、
必要とされてないとか、居場所がないとか、たちがわるい冗談。
それでも、かの女なりの真実。
なのかな?



鏡

鏡のなかで。

おくゆかしく
かしこまり、

さかしら
こあくま、

かしゆか。



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ユニフォームの魔法

サッカーのユニフォームをきると、おんなの魅力は倍になる。
なぜなのだろう?


[事例一:白石美帆]

白石

一九七八年うまれ。
一九九八年からTBS系列のサッカー情報番組、
『スーパーサッカー』に出演して評判になる。
おりよく、二〇〇二年のワールドカップ開催によるサッカー人気に便乗。
「日本サッカーの女神」とかよばれてたな。
いまおもえば女神だなんてはずかしいが、
オレも結構首ったけだったような。
茨城の短大をでたばかりのはたちのむすめが、
サッカーの番組にでるだけで神のなかまいり。
特別に美人でも、専門的能力があるわけでもない。
むしろ無能といってよい。
二〇〇二年がかの女の人気の絶頂で、
深夜の帯番組『Pooh!』の単独司会をつとめ、
テレビにでない日はないほどのいきおいに。
その後はドラマに軸をうつし、二〇〇五年の『電車男』では、
「ザテレビジョン ドラマアカデミー賞」の最優秀助演女優賞を獲得。
栄養士の資格しかとりえがないのに。
ユニフォームの魔力を実証する、格好の例。
これは神話だ。


[事例二:キーラ・ナイトレイ]

すわるキーラ

一九八五年、イギリスにうまれる。
父は舞台俳優で、母は劇作家だとか。
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』での、
ナタリー・ポートマンの影武者など、つまらない役をこなすなか、
二〇〇三年に、サッカー選手を演じたイギリス映画、
『ベッカムに恋して』がアメリカで大あたり。
同年『パイレーツ・オブ・カリビアン』のヒロインに抜擢され、
ハリウッドスターの称号を手にいれる。
二〇〇五年には、『プライドと偏見』での熱演がみとめられ、
弱冠はたちでアカデミー主演女優賞の候補に。
容貌と演技の両面で賞賛される、かずすくない女優だ。
ただのやせっぽちのイギリスおんななのだけど。

たつキーラ

現在のキーラに対する評価の原点は、
『ベッカムに恋して』でみせたユニフォームすがた、
ならびにスポーツブラすがたにある、という説をここで表明する。
つり目で攻撃的な顔だち、おんならしいふくよかさがとぼしい体つきは、
ユニフォームをまとうことで肯定される。
性の足かせをこえ、そして伝説へ。


[事例三:ダコタ・ファニング]

ダコタ

一九九四年うまれ、アメリカの(子役)俳優。
二〇〇一年、七歳のときに『アイ・アム・サム』でショー・ペンと共演。
知的障害者のペンのむすめを演じ、真にせまる演技が絶賛される。
その才能はアメリカの映画人からみとめられ、
デンゼル・ワシントンは、「僕が会った役者の中で本当に優れているのは
ジーン・ハックマンとダコタ・ファニングだけだ」
とかたったとか。
一応ことわっておきますが、当時はまだランドセルをせおう年です。
『ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ』では、
ロバート・デ・ニーロ(!)と丁々発止の演技合戦。
あの陰鬱な『宇宙戦争』は、スティーヴン・スピルバーグ監督と、
主演のトム・クルーズの評判をすくなからずさげたが、
宇宙人にいじめられるダコタは共感をあつめた。
ええ、そうなんです。
実はかの女も、その出世作でサッカーをしている!
この愛らしいユニフォームすがた!
『トロピック・サンダー』でロバート・ダウニー・Jrは、
「ショーン・ペンは『アイ・アム・サム』で本物のバカを演じたから、
オスカーをのがしたんだ」と、名言をはく。

ペン

むすめの試合で審判をつとめるショーン・ペン。
「バカ」になりきっています。
おなじ映画でユニフォームをきたのに、明暗わかれました。


『ベルサイユのばら』ではないが、
「男装の麗人」はわれわれの美意識をここちよくくすぐる。
きびしい服装コードを逸脱する心意気が、うつくしさを底あげ。
ただむつかしいのは、「男装」に説得力をもたせるには、
フランス革命なみの社会的混乱がもとめられること。
賢明なる読者は、オレの見解をもうさとったろう。
そう、サッカーのユニフォームはおんなのひとにとって、
「無理がない男装」なのだ。
わかいむすめがサッカーをすることは不自然ではないが、
そのよそおいは、つよく「男物」であると感じさせる。
この矛盾が、いくつかの奇跡をもたらした。
現代の服飾にひそむ奥義をとりいれることで、
あなたもキーラ・ナイトレイに!
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ロンドンですれちがい ― 『バンク・ジョブ』

バンク

バンク・ジョブ
The Bank Job

出演者:ジェイソン・ステイサム サフロン・バロウズ リチャード・リンターン
監督:ロジャー・ドナルドソン
制作:イギリス 二〇〇八年
[シネマライズで鑑賞]


冒頭、中古車をうるジェイソン・ステイサムの店に、
やくざが借金をとりたてにくる。
レンチで車を破壊。
主人公は、眉ひとつうごかさない。
「売りものをこわされたら、金をかえせないだろ」
オレもこんなタフガイになりたかったが、もうおそいなあ。
たとえば、せまい道でひととすれちがうとき、みなさんどうします?
オレが道をゆずると、相手もおなじ方向にスライド。
さらにまごまご反復よことびをして、自己嫌悪におちいる。
ジェイソンならちがうね。
あるく速度はおとさず、いつもきまった方向にすこしずれる。
対面者はけおされて逆に。
たまに肩がぶつかるが、やつにケンカをうる馬鹿はいない。
『マトリックス』以降、アクションスターの市場は開放された。
まともにメシもくっていなそうな、ほそみのむすめがなぐりあう超現実。
そんな逆境のなかでも、男一匹、ステイサム氏は元気です。


真相はともかく、題材となる事件はイギリスで有名らしい。
わがくにの「三億円事件」みたいなものか。
宣伝では、九割が実話にもとづくというが、
かりに半分が事実だとしても、まるで信じがたい!
首がまわらないジェイソンは、しりあいのおんながもちかけた、
銀行の貸金庫をおそう計画にくわわる。
ところがそのはなしの裏で、英国政府が糸をひく。
ある悪党が脅迫の材料につかう、
マーガレット王女の乱交場面をおさめる写真を、
強盗にみせかけて極秘裏にうばわせる魂胆。
わるだくみは成功するが、貸金庫にはやばい荷物が満載で、
警察とマフィアの癒着の証拠までながれて、
国家をゆるがす不祥事に発展する。
「ホントかよ」と口をあんぐりあけたまま、
はなしをおうだけでたのしい犯罪映画の秀作だ。
監督のロジャー・ドナルドソンは、
キューバ危機をあつかう『13デイズ』がよかった記憶があるが、
実話を料理するのが得意なのだろうか。


おそろしい権力をもつ政府筋の人間のまえでも、
われらがジェイソンはおちつきはらう。
虚勢をはる相手のよわみをしめあげ、金と自由を要求。
相手がジェイソンだと、情報機関もおじけづく。
配役も気がきいてよくできた映画なのだが、
恋愛ばなしは、とってつけたちぐはぐさが。
犯罪にさそうおんなと、ジェイソンの妻が、嫉妬の火花をちらす。
警察と情報機関とマフィアにおわれるのに、
普通、三角関係で右往左往するひまはないよね。
まあ、きょうもロンドンに雨がふるように、
映画にはロマンスがつきものかもしれない。
敵対するおとこはにげだし、綺麗なおんなはむらがる。
まったくうらやましい境遇としか。
『デス・レース』につづき、ジェイソン・ステイサム絶好調だ。

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水はうそをつく ― たかみち『LO画集 TAKAMICHI LOVE WORKS』

LO画集 TAKAMICHI LOVE WORKS

作者:たかみち
発行:茜新社 二〇〇八年



漫画雑誌『COMIC LO』の表紙イラストをあつめた画集。
おりおりの四季の風景、とくに水景色が、
はかなげにたたずむおとめをひきたてる。
倖田來未がことしのはじめ、
「三十五歳をすぎると羊水がくさる」と無神経にいったのをおもいだす。
オレはあたまのよわい歌手の発言に興味はないが、
あれほどのいかりをかったのは、
わかいむすめは、「綺麗な水」を連想させるからとかんがえる。
少女と、水。



海
「二〇〇六年九月号」

絵の趣味はないからあくまで想像だが、
水ほどかきづらい対象はないだろう。
みえないものを、どう平面にあらわせばよいのか。
たかみちのかく水はセロファンのよう。
いまにもやぶれそうな、うすい膜。
致死毒をつつむオブラート。
唾液にすぐとけて。
舞台は石垣島だそうだが、南国のきついひかりはなく、
ふたりが風邪をひかないか不安になる。



雨
「二〇〇五年 第二十一号」

荷物がないことから、学校から一旦家にかえり、
近所にかいものにでたと推測。
電線に鳥がいるし、雨はあがったようだ。
でもスカートのすそがはためき、てまえのむすめの前髪もそよいで、
風雨のなごりがこい。
手をつなぐくらいだから、ぬれて足場はわるい。
のしかかるあまぐも。
水は一滴もかかれないが、あふれそうなほど湿気がたちこめる。



雪
「二〇〇六年四月号」

山形の銀山温泉らしい。
イラストとはおもえない、そっけなさ。
おくのむすめにいたっては、そっぽをむくありさま。
望遠レンズの圧縮効果で、人物が温泉場の背景にのまれる。
デジタルカメラでとった素材に、おんなのこをのせ、
五日かけてG4CUBEで色味を微調整。
いまの時代ならではの、なまなましさがある。



京都
「二〇〇四年 第十一号」

清水寺か。
論評不要のたのしさ。
美術館にゆくと、よく、
「まるで写真みたい!」とよろこぶオバチャンに苦笑するが、
この絵はどう評価するかな。
「写真をとる」という行為そのものをとじこめる。



島
「二〇〇七年十月号」

いやらしいほど構図がきまる。
これじゃあ風景画だ。
部屋着然とした、くたびれたTシャツとスパッツ。
離島のうみべでくつろぐ。
ただ、こちらにむけるまなざしに、特別な期待がかすかにこもる。
ゆるく足をくみ、右手をまたにはさむ姿勢に、性的な緊張が。
うしろのペットボトルには、七分ほど水がある。
エビアンのラベルをはがして、自宅でくんだ水をいれたのか。
きどらない生活感に、すこしなごむ。



風呂
かきおろし

湯にはいるまえなのか、のぼせたからだをさますのか、
判断をつけられない。
まったく上気していないが、からだをあたためたいようにもみえない。
重心は前後の均衡をたもつ。
せなかにあたるひかりのまぶしさ!
温泉より、自然光に熱を感じる矛盾。
おとめの肢体をまっぷたつにわる対照。
実にうそくさい。
それゆえ、ありえないほどうつくしい。



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「水の王国 ― たかみち『ゆるゆる』」

LO画集 TAKAMICHI LOVE WORKS (FLOW COMICS)LO画集 TAKAMICHI LOVE WORKS (FLOW COMICS)
(2008/09/30)
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ユニフォームをぬいで ― 『ジョージアの日記』

ジョージア

ジョージアの日記 ゆーうつでキラキラな毎日
Angus, Thongs and Perfect Snogging

出演者:ジョージア・グルーム アーロン・ジョンソン カレン・テイラー
監督:グリンダ・チャーダ
制作:イギリス 二〇〇八年
[恵比寿ガーデンシネマで鑑賞]


六年まえの『ベッカムに恋して』をつくったグリンダ・チャーダの新作。
インド系のイギリス人で、おんなのひと。
日本映画史上十指にはいるほどはずかしい邦題はともかく、
『ベッカム』はみずみずしい魅力あふれる喜劇だったので、
きょうも従業員のしろい目を気にせずひとりででかけた。
『ベッカム』は、保守的なインド系家庭にうまれたむすめが、
両親にさからってサッカーにうちこむという題材がよい。
インドの文化をイギリス社会のなかでまもろうとする、
移民社会のドタバタが皮肉な視点でえがかれて、おもしろい。
そしてなんといっても、キーラ・ナイトレイの出世作。
サッカーファンは綺麗な女の子のユニフォームすがたに、
ことのほかよわい。
本作では、右はじのやせっぽちのジャスが、
「キーラみたいにみえる?」とかいうので、こちらはニヤリ。


イギリス人はフェアプレーをこのむ。
サッカーは束縛がすくなく流動性がたかい種目で、
審判の目をぬすんでわるさをはたらくことは容易だが、
女王陛下の臣民はいさぎよしとしない。
恋愛というスポーツでも事情はおなじ。
容貌に劣等感をもつ十四歳のジョージアが、
「校内一のビッチ」、金髪美人リンジーと男をとりあうが、
最初はたがいに反則わざをつかう。
ジョージアはほかの男といちゃついて気をひき、
リンジーはパットをつめて胸をおおきくする。
恋には審判もルールブックもない。
ただ経験不足のジョージアの悪だくみはすぐに露呈し、
素直にあやまることで逆におもいがつたわって、めでたしめでたし。
まあ他愛ないけれど、主人公が十四歳なら、
さわやかなはなしのほうがよい。
これがどこかの国のケータイ小説だったら、
強姦、妊娠、中絶、自殺未遂、不治の病と、
不幸の大盤ぶるまいになるところ。
また、チャーダは本作でも家族関係をえがくのがうまい。
むすめのまえでしょっちゅうキスする、なかむつまじい両親。
自分を猫だとおもいこむ妹リビーもかわいい!
「移民社会の実情を描写する」みたいな社会学的主題はないが、
海辺の行楽地イーストボーンがいきいきとうつされるので満足。


あえて故障をいれるなら、恋がたきのリンジーがうすっぺらで、
三角関係がきわだたないこと。
いくら美人でも、こんな性悪をえらぶ男ならはなしにならないよ、
とハッピーエンドを確信する観客。
まあ、対抗馬が脚光をあびる直前のキーラ・ナイトレイだった、
『ベッカム』と比較したら気の毒かもしれない。

ベッカム
『ベッカムに恋して』のキーラ。

興奮するとスポーツブラまるだしで、
ユニフォームをふりまわしながらとびはねる。
もう、まぶしくてまぶしくて。
どうみても反則。
実際、試合中にユニフォームをぬげば警告の対象だ。
そう、口ではフェアプレーをとなえながら、やることはやるのがイギリス人。
本作のジョージアも、こっそりと決定的な反則をおかしている。
父がニュージーランドに転勤を命じられたことに納得できず、
ひとりで職場にゆき、上司に命令を撤回するようもとめる。
いちいち子どもの意見をきくほどサラリーマンも暢気ではないが、
家族をおもうがゆえの要求は理解され、
そこからゆきづまった事態が好転しはじめる。
フェアプレーだけじゃ、恋はかてないってことです。
競争相手がキーラ・ナイトレイじゃなくても。
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ジャンル : 映画

星をみるひと ― 『よつばと!』綾瀬恵那コレクション

よつばと!

作者:あずまきよひこ
掲載誌:月刊コミック電撃大王(二〇〇三年三月~)


はっぴ

主人公、小岩井よつばのおとなりさん。
三人姉妹の一番した。
小学四年生。
ある意味、よつばより変な子。
末っ子なのに決してひとにあまえず、
言動も服装も模範的。
まつりの日にはすこしうかれて駄洒落をいうが、
てれて「いまのうそ!」と、すぐにとりけす。
おもしろいのに。
服のえらびかたも小綺麗で、ハッピまでよくにあう。


自転車

清潔感ただよう、チュニックのきこなし。
こんな十歳はいません。
いるなら、コメント欄でおしえてください。
取材しにゆきます。
よつばの父から、自転車にのりはじめたばかりのむすめを、
「教官」としてきびしく指導するようもとめられる。
綾瀬恵那、本領発揮。


教官

かわいい。
年下のよつばに対し、保護者めいた態度をしめす。
やさしい子だ。
ちょっと表現がおかしいだけで。


貝

海岸にて。
猫目に変貌し、貝殻のかたちを厳正に批評。
暴れん坊のよつばも、恵那のいうことは素直にきく。
信頼しているらしい。
本作ではおよぎにゆく場面が二度あるが、
恵那だけがことなる水着をきる。
このフレアつきが二着目。
作者のおきにいりなのか。


ケーキ

ケーキ屋で。
このするどい視線が、綾瀬家三女最大の個性。
「かぼちゃのモンブラン」をえらぶが、
よつばには「ドロみたい」といわれる。
しかし「かぼちゃのモンブラン」、三百八十円。
しぶい趣味だ。


絵

夏やすみの宿題の写生をしに、公園へ。
勉強も得意だが、それ以上に美的感性においてすぐれる。
親友のみうらに絵をほめられ、うれしそう。
かの女は猫の目で、美をみいだす。


カエル

恵那がなによりも愛するのが、自然。
よつばがたんぼでひろった巨大な蛙をみて、おおよろこび。
キレイキレイなカワイイものだけをこのむ子ではない。
さすがは(父以外)くせものぞろいの綾瀬家、
ときに常識はずれの顔をみせる。


みなきゃ

夏やすみの宿題の範囲について、みうらと議論。
恵那にとって、「みてみましょう」=「みなきゃ」。
理知的なみうらは、提出義務がない課題は無視。
恵那はかしこいけれど、計算だかくない。
かくして双眼鏡をもち、車で山のうえの自然公園に出発。


ちきゅう

夜の自然公園。
恵那以外の一行、つまりよつば、とーちゃん、ジャンボ、風香、みうらは、
キャンプ気分でカップラーメンをたべる。
でも恵那は天体に夢中。
宇宙人みたいなよつばでさえ、
「やっぱしちきゅうがいちばんだな!」と述懐するかたわら、
双眼鏡をはなさない。
皮肉のきいた、実にうつくしいひとコマ。
恵那、きみのひとみには、なにがうつっているの?


よつばと! (1)よつばと! (1)
(2003/08/27)
あずま きよひこ

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まよいおおき二十分 ― 米山篤志をたたえて

J1 第三十三節 名古屋 対 札幌

結果:3-1 (2-0 1-1)
得点者
[名古屋] 小川佳純(前半六分) 杉本恵太(前半十二分)
       米山篤志(後半四十四分)
[札幌] ダヴィ(後半二十五分)
会場:名古屋市瑞穂陸上競技場
(テレビ観戦)


ドラガン・ストイコビッチの精神の機能に、「まよい」はあるのか。
あるにしても一瞬だろう。
最終節に、首位の鹿島をおいこすには勝ち点三がいる名古屋だが、
後半二十五分、増川隆洋がペナルティエリアまえで無様にころび、
それをダヴィがきめて一点差。
絶対にゆるされない失策。
ゆえにストイコビッチ監督は、
はやくも一分後に、増川にかえてバヤリッツァをおくる。

Q:増川選手を交代させたのは、
失点シーンでミスがあったのと関係がありますか?
「交代したのはミスが原因ではありません。
ミスというのはゲームの中で起こりうる事故だと思っています。
あの時点で、増川のプレスが
100%フィットしていないのではないかという印象を受けました。(後略)

『J's GOAL』ストイコビッチ監督(名古屋)記者会見コメント

もちろん外交辞令だ。
「おまえはそこにいる資格がない」という意思表示は、
だれにとっても明白すぎるほど。
百九十一センチメートルの巨体をおりまげ、
あおざめた顔で退場する増川があわれだった。
それにこの用兵は、かならずしも最善手とはいえない。
トロフィーをめぐる重圧がかかるとはいえ、
増川はJ1で八十六試合、J2で五十四試合の出場記録をもつ二十九歳。
動揺からたちなおる地力はあるだろう。
また、センターバックの交代は連携面の危険がおおきく、
バヤリッツァがすぐ適応するとはかぎらない。
選手交代の段どりもくるう。
だがくりかえすが、失点の一分後に「懲罰」を断行。
「あと五分だけ様子をみよう」は、ない。
それが妖精ストイコビッチだ。


増川の不覚を擁護するつもりはないが、この試合で、
かれに戦術上の負担がかかっていたのはたしか。
札幌の攻撃で、期待できる場面はほぼすべて、
元気もののダヴィによるもの。
劣勢のなか名古屋守備陣をおいまわし、
無理矢理ボールをうばってシュートにもちこむ。
パスの供給源であるクライトンがいないため、ひとりでサッカーをした。



これは、ダヴィがJ2の徳島ヴォルティス戦でみせたゴール。
闘争心は賞賛にあたいするが、逆にいえば、
屈強なディフェンダーをかれに九十分間密着させれば、
決して札幌に得点機はおとずれない。
たがいうまでもなく、妖精はつねに理想をおう。
猛獣は野にはなったまま、
阿部、増川、吉田、竹内からなる水平な網をしかけて。
重圧にまけたひとりが虎の牙の犠牲になるが、
てばやい修繕によって大惨事はまぬがれる。
美意識の勝利。


一点差でのこり二十分。
攻撃サッカーが自慢で、
相手はすべての希望をうしなった最下位チームでも、
専守防衛になるのはさけられない。
後半四十分にヨンセンにかえて米山篤志を投入、
中盤の守備をかたくする。
戦術的にまちがったところはないが、特に機能しない。
サッカーでは、「戦術」が意味をなさない時間帯がある。
駒の配置が完璧でも、失点のおそれがかれらの足をとめる。
うつ手はなく、フィールドには偶然という名の暴力がうずまく。
ロスタイム、札幌陣内でえたフリーキック。
米山がゴールをねらう。



観客が撮影した映像。
無回転のボールは壁をかすめたあと急降下し、
ゴールをまもる佐藤優也のわきをぬける。
なんという弾道なのか。
パスを外側にころがして、ボールを保持する選択肢もある。
そうすればすくなくとも一分かせげるが、
直接ねらって枠をはずせば、十秒で相手の攻撃に。
確率をかんがえれば前者が正解かもしれない。
そしておどろかされたのは、かれはこの試合当日の午前中に、
クラブからあらたな契約をむすばない方針をつたえられた、というなりゆき。
いわゆる「ゼロ円提示」だ。
昨季、テスト生の身分から入団した米山としては、
当然これからの選手生活への懸念があるし、
自分をすてたクラブのために素直にはたらけるものでもない。
すべての逡巡をたちきる、ひとけり。
オレの価値は、「ゼロ円」じゃない。


決戦は土曜日。
男たちの真価をとう最終節を、しっかりみとどけよう。
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苑田 健

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